サラリーマン野宿旅
 
野宿実例集 No.07  便利だがうるさい国道脇で野宿
 

 
 普段の野宿では車に積んだ20リットルのポリタンクに詰めた水を使う。それで食事を作り、手や顔を洗い、歯磨きもする。野宿地の近くに奇麗な沢水でも流れていれば別だが、今の日本で安心して口に入れられる水がそう簡単に流れてはいない。またいつ次の補給ができるか分からないので、20リットルの水もけちけちして使う。
 水以外にもトイレの問題や夜間の明かりなど、野宿は不便を強いられる。そうした心配がなく、ついでに近くにコンビニがあって、それでいて自分以外に誰もいない野宿地が見つかれば最高である。
 
国道脇の野宿 テントの目の前に水道あり
 
 9月24日、徳島県土成(どなり)町内の国道318号を土成町の中心地へ向けて流していた。香川県との県境の旧道の峠、鵜峠(うのたお)を越えてきたところだ。もう夕方の5時をまわり、野宿地探しに専念しなければならない。このまま国道を行けばますます町中に近づき、野宿地など見つかる訳がない。どこか脇道に入ろうときょろきょろしているうちに、開けた所に出てしまった。左脇に駐車スペースがあるので車を止めて辺りの様子を窺う。国道脇より下を見渡すと小さなダム湖とその岸辺に公園がある。案内板によると宮川内ダム湖畔に作られた宮川内公園である。
 
 昭和61年3月竣工とあるその看板は、錆びて古ぼけ、またゲートボール場にバレーコート、テニスコート、ローラースケート場と盛りだくさんのはずが、実際には散策路が広がるばかりで、実状に全くそぐわない。私にはそんな物は何の関わり合いもないので、どうでもよいのだが、その中でただ一つ「キャンプ場」の文字が目についた。ゲートボールやバレーボールはそれなりに整った敷地が必要だが、ことキャンプに関してはこの芝生がキャンプ場ですよと言われれば、たちまちそこがキャンプ場なのだ。ほとんど無効になった案内看板の「キャンプ場」の項目だけについては現在も有効と解釈させてもらった。目の前に広がる芝生の散策路は全てキャンプ場なのだ。
  
洒落た作りの道の駅 並びには御所温泉 道の駅
 
 一方国道を挟んで公園とは反対側には道の駅があった。ここ数年洒落た造りの道の駅があちこちに建てられている。ここもできたばかりらしく、小規模ながら面白い形の建物である。あまり凝っているのでトイレに入る時、どこが入口か迷ってしまった。

 公園からは土手の階段を上って道路を横断すれば直ぐである。テントから歩いて行ける所に新しい水洗トイレ、しかもトイレットペーパーがちゃんとあり、夜間照明完備だ。また散策路の中央付近には水道がある。その目の前にテントを張れば水の心配も要らない。それに散策などしている者など誰もいない。ましてやここでキャンプしようとする者など他にいる訳がない。国道脇の開けっぴろげな場所なのがやや気になるが、とにかく今日の野宿地の第一候補が決まった。ほっとする。

 まだ日が暮れるまでに時間があるので、もう少し国道を先に進み、もっと野宿旅にふさわしい場所を探してみた。寂しい道、細い道へと入り込み、あちらこちらと1時間近く走り回ったが、もう住宅地に近付き過ぎていて野宿などできる場所はなく、諦めた。

 ついでだからもう少し市街地の方へ進み、スーパーを見つけて買い物をする。旅に出発する前にインスタント食品やレトルト食品、常温で保存がきくソーセージなどの食料は、自宅近くの安い店で大量に買い込んで車に積んである。だから何日も買い物をせずに旅を続けられるのだが、そんな物ばかり食べていると飽きがくる。それに野菜や果物などのビタミン不足にもなる。スーパーではトマト2個のパックとパイナップルの切り身5個のパック、それにサンタローザジュースなるものを買い込んだ。ここ数日即席食品かコンビニやほか弁の弁当、ドライブインの定食などといったものばかり食べていた。スーパーの駐車場に戻ると思わずパイナップルのパックを破り、人目も気にせず2、3切れ食べた。非常に美味しい。体が果物を欲していたのだ。人心地ついて今日の野宿地に帰る。

 
案内看板 公園の案内看板 「キャンプ場」の文字が目に付いた
 
 公園の端にある駐車場には数台の車が止めてあったが人影はない。駐車場より、狭いがアスファルト舗装された散策路に車を乗り入れる。軽自動車でなければできない芸当だ。側溝があるので落ちない様に気を付ける。目星を付けておいた水道の前に車を止めてテントの設営である。その最中散策する者などいないと思っていたのに、男ばかりの3人連れがやってきた。実は道の駅の左の並びに鉱泉の一件宿、御所温泉がある。どうもそこの泊まり客らしい。散歩がてらにやって来たのだろう。一回りして何も無いのを確認してまた宿の方へ向かった。

 道の駅も夕方になり店員が電気を消して帰って行った。またその右隣りの青果店のやたらと吠える犬や、その犬に負けないくらい大きな声で訪ねて来た客と長話をしていた店のおかみさんもやっと大人しくなった。辺りは道の駅にあるオレンジ色の街灯に照らされて明るい。

 夜間照明付きで水道もあり、近くにトイレもあるといった非常に文化水準が高い野宿となった。早速買って来たトマトを目の前の水道で洗う。しかし水辺が近いせいかさっきから蚊に刺されて煩わしい。テントに逃げ込み、直ちに蚊取線香を焚く。私は繊細でデリケートな体質で蚊が一匹いただけでも眠れないのだ。蚊取線香を焚いても防虫ネットのお陰で換気は十分、テント内は快適である。夕食の前に洗ったトマトや残りのパイナップルを食し、サンタローザを飲む。ところがそれだけでお腹はいっぱいとなった。私は繊細でデリケートで小食なのだ。甚だアウトドアなどには不似合いな体質である。

 蚊のお陰で外に出られないからテントの中で地図を眺めたり、ローソクの明かりで影絵をやったりして暇をつぶしていると、人の足音が近付いて来た。日もとっくに暮れている公園に何の用だろうかと聞き耳を立てていると、テントの側を通り過ぎてそのまま去っていった。暫くしてまた通り過ぎる者がいる。テントの中はローソクの炎で明るく、外からは防虫ネットを通して中が丸見えである。しかしその反対にテントからは防虫ネットが白く浮き立ち、外は全く見えない。嫌な感じだ。

 しかし一番問題だったのは青果店の犬やその飼い主のおばちゃん、側を通る得体の知れない人物ではなく、車の騒音であった。こんな辺ぴな所の国道など交通量は少なく、夜中になれば車など全く通らないのではないかと高をくくっていた。ところが通る通る。しかも大型車が多い。野宿はエアマットなどをひいてはいるが、地面に直接寝ている様なものだ。車が通ると空気を伝播する騒音だけではなく、地面を伝わる振動の様な響きが安眠を妨げる。文化水準は高いのだが、騒音も都会並であった。

 
 宮川内公園 向こうには宮川内ダム 宮川内公園
 
 その晩そこに泊まった者は私一人ではなかった。例の公園案内板がある駐車場にトレーラが一台昨夜停止したのを見掛けていた。今朝になってもそのトレーラはそこにあった。車内で泊まったのだろう。

 温泉客が朝の散歩にでも出て来る前にと、そそくさとテントを撤収し、簡単な朝食を済ませ、歯も磨き、最後にトイレへと向かった。いつの間にか例のトレーラは道の駅の駐車場に場所を移しており、トイレには先客がいた。空いている隣りの個室に入り済ませて出てくると、先に済んだトレーラの運転手と思しき小太りの中年男が、ジャージ姿に首にタオルといったいでたちで、手洗い場で顔を洗っている。こちらは遊びでこんな野宿をしているが、仕事の関係上で車内に寝て、こんな所で朝を迎えなければならないのはご苦労なことだ。

 外に出ると何かの工事作業の関係か、ワゴン車で来た十名近い作業服を着た人達がラジオ体操をやっている。今日は平日でこれから一日の仕事が始まるのだ。私も今日一日の旅を始めることとする。
 

<修正 2002. 1.30>
 
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