サラリーマン野宿旅

野宿実例集 No.09  河原の野宿


 河原での野宿はこれまでの野宿実例と比べても最もありそうなケースと思われるかもしれない。近所の川に架かる橋の下に住んでいる方のことは「ちょっと一言」(11月10日)でも触れた。この場合河原ではないが、一般に河川に関わった場所をねぐらにするのは容易であり、野宿旅においても河原などはポピュラーな野宿地なのだと考えがちである。確かに河原で野宿した回数だけはさすがに多い気がする。しかし最初から河原野宿を目論んでもなかなかうまくは行かない。いろいろ探したが結局河原になったというケースも多い。


実例9の1 やっと静かな河原が見つかった
7月24日 北海道新十津川町 幌加徳富川にて

 その日、北海道は当別町の当別川を溯り、青山ダムに向かっていた。日はまだ高いが、気持ちは既に野宿地探しに傾いていた。ほぼ当別川に沿う道道28号を北上する。道々いい野宿地はないかときょろきょろする。もうそれ以前に道道から分岐する一番川沿いの道の終点にある、道民の森オートキャンプ場を偵察済みだ。そこは北海道にしてはあまりにも整い過ぎたキャンプ場で、しかも料金が1、500円と聞いて引き返してきたところだ。やはりオートキャンプ場なんかに野宿地を求める事はできないのだ。余計な道草を食って時間をつぶしてしまった。

 

実例9の1 道民の森一番川オートキャンプ場
テント持ち込み1張り1、500円なり(冗談じゃない)


 青山ダムに到着し、その付近をうろうろ走り回る。どこかに野宿できるところはないか。テントが張れて人目に付かず、静かなところ。条件を落とせば野宿できそうなところはある。極端な話し、道路脇の駐車場かなんかに車を止めて、車内泊してもいいわけだ。しかしそう簡単に妥協はできない。なるべく健やかな夜を過ごしたいではないか。

 尚も車を先に進める。途中目に付いた分岐はこまめに入ってみる。しかし個人の農場に出てしまったり、直ぐに行き止まりになったりと思わしくない。もう10回以上もそうした出入りを繰り返している。そのうち遂に国道451号に突き当たってしまった。

 国道を滝川市方面に右折する。もうその頃には市内の安いビジネスホテルでも見つけて泊ってしまおうかと、野宿旅においてはあるまじき堕落した気持ちが沸き起こっていた。しかし最後の手段として、どうにかテントが張れる河原を探す努力をし、それがだめなら宿泊の予約をする為に公衆電話に駆け込むこととする。

 国道の側には幌加徳富川が流れているのがマップを見て分かる。しかし道から川は望めない。少し離れているのだ。今度は河原を求めて枝道の出入りを繰り返さなければならない。こうした枝道はマップには載っていない。感だけが頼りである。


実例9の2 テントサイトの川とは反対側は林が人目を遮ってくれている

 注意して走行していると右後方に落ち込んでいく細い砂利道を見つけた。普通に飛ばしていたら見落としてしまう程か細い道だ。思いきりハンドル切り、入ってみる。200m程水田の脇を進む。全く地元の人しか使わない道であろう。水田の後は薄暗い林を恐る恐る抜ける。しかしその先でパッと視界が広がった。川に出たのだ。

 そこは川が左に大きくカーブしている所で、水面から1段高くなった空き地からは川全体と対岸の林がパノラマの様に見渡せる。比較的町に近いわりには建物などの人工物は視界に入って来ない。やっとの事で今日の野宿地が見つかったという安堵感から、川原の石の上にペッタリと座り込み、しばらく川の景色をぼんやり眺めた。

 残念なことに流木はなく、焚き火はおわずけであった。しかし国道から少し離れているのが幸いし、またさっき抜けた林も背後からの人目を遮ってくれる役目を果たしてくれて、静かで落ち着いた夜が過ごせそうである。それに町にこれだけ近いと、北海道ではいつも気になるヒグマの心配もいらないのが嬉しい。


 余談だが、テントも張り終わり喉が渇いたので自販機でもないかと国道に戻ってしばらく走ると、吉野公園というのがあった。小さな公園に水道やトイレがある。同じ夜、そこに一人の若者が車の中で泊った。どうやらそうして車内泊を繰り返しながらの一人旅のようだ。なかなかいい。共感するところがある。しかし君、国道脇の公園では人目に付くし、なんといっても車の騒音がうるさいではないか。私の様にちょっと努力してこうした河原を見つければ、惨めな思いをせず、逆にいい景色を楽しみながら、いい夜が送れるのに。そこはやはりベテランの貫禄の違いというものか。

 しかしやっと見つけた自販機でジュースを買って戻ろうとしたら、例の細い砂利道の分岐を見失い、ひどい目に遭った。

実例9の3 7月25日早朝 昨夜は熟睡できた


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