サラリーマン野宿旅
その日、北海道は当別町の当別川を溯り、青山ダムに向かっていた。日はまだ高いが、気持ちは既に野宿地探しに傾いていた。ほぼ当別川に沿う道道28号を北上する。道々いい野宿地はないかときょろきょろする。もうそれ以前に道道から分岐する一番川沿いの道の終点にある、道民の森オートキャンプ場を偵察済みだ。そこは北海道にしてはあまりにも整い過ぎたキャンプ場で、しかも料金が1、500円と聞いて引き返してきたところだ。やはりオートキャンプ場なんかに野宿地を求める事はできないのだ。余計な道草を食って時間をつぶしてしまった。
青山ダムに到着し、その付近をうろうろ走り回る。どこかに野宿できるところはないか。テントが張れて人目に付かず、静かなところ。条件を落とせば野宿できそうなところはある。極端な話し、道路脇の駐車場かなんかに車を止めて、車内泊してもいいわけだ。しかしそう簡単に妥協はできない。なるべく健やかな夜を過ごしたいではないか。
尚も車を先に進める。途中目に付いた分岐はこまめに入ってみる。しかし個人の農場に出てしまったり、直ぐに行き止まりになったりと思わしくない。もう10回以上もそうした出入りを繰り返している。そのうち遂に国道451号に突き当たってしまった。
国道を滝川市方面に右折する。もうその頃には市内の安いビジネスホテルでも見つけて泊ってしまおうかと、野宿旅においてはあるまじき堕落した気持ちが沸き起こっていた。しかし最後の手段として、どうにかテントが張れる河原を探す努力をし、それがだめなら宿泊の予約をする為に公衆電話に駆け込むこととする。
国道の側には幌加徳富川が流れているのがマップを見て分かる。しかし道から川は望めない。少し離れているのだ。今度は河原を求めて枝道の出入りを繰り返さなければならない。こうした枝道はマップには載っていない。感だけが頼りである。
注意して走行していると右後方に落ち込んでいく細い砂利道を見つけた。普通に飛ばしていたら見落としてしまう程か細い道だ。思いきりハンドル切り、入ってみる。200m程水田の脇を進む。全く地元の人しか使わない道であろう。水田の後は薄暗い林を恐る恐る抜ける。しかしその先でパッと視界が広がった。川に出たのだ。
そこは川が左に大きくカーブしている所で、水面から1段高くなった空き地からは川全体と対岸の林がパノラマの様に見渡せる。比較的町に近いわりには建物などの人工物は視界に入って来ない。やっとの事で今日の野宿地が見つかったという安堵感から、川原の石の上にペッタリと座り込み、しばらく川の景色をぼんやり眺めた。
残念なことに流木はなく、焚き火はおわずけであった。しかし国道から少し離れているのが幸いし、またさっき抜けた林も背後からの人目を遮ってくれる役目を果たしてくれて、静かで落ち着いた夜が過ごせそうである。それに町にこれだけ近いと、北海道ではいつも気になるヒグマの心配もいらないのが嬉しい。
しかしやっと見つけた自販機でジュースを買って戻ろうとしたら、例の細い砂利道の分岐を見失い、ひどい目に遭った。