サラリーマン野宿旅
野宿地探しは、キャンプをするべくして存在するキャンプ場などを探すのとは訳が違って、いろいろ苦労させられるのだ。
当然のことながら、「ここで野宿していいですよ」などと野宿の旅人にとってやさしい看板が出ていることなど、今の日本にはないのである。
旅人はおずおずと周辺を見回し、ここにテントを張っても怒られないかな〜と考えて、こわごわテントを張り、小さな物音にもびくつきながら一夜を過ごすのである。
それどころか「キャンプ禁止」、「立入禁止」と無情な看板に、哀れな旅人が追い立てられることもしばしばである。
しかし時と場合によってはそれらの看板を無視せざるを得ないこともある。例えば突然の病に襲われた旅人は、意に反して法を犯さなければならない場合もあるのである。 |
ちょっと前まで国道の同じ所を行ったり来たりして、目的の峠道の入口がなかなか見つからないことにいらいらしていた。
その国道は交通量は少ないかわりに飛ばす車が多く、のんびり走りながら道の分岐を探すことができない。
それで諦めかけていたころになって、やっとその道を発見した。もう4回くらいそこを通った後だった。 |
ここは岐阜県清見村内の国道257号より分岐し、赤谷に沿って進む道で、名もない峠を越えて宮村に抜ける林道である。
国道よりかなり低いところに架かる橋で馬瀬川を渡る。橋は国道からは見え難く、橋を目印に分岐を探していたのも、なかなか分岐を見つけられなかった原因の一つである。
すぐに未舗装となり、追い立てられる後続車も全く無いのどかな峠道に、苛立って興奮気味だった気分もどうやら落ち着きを取り戻してきた。 |
いよいよ楽しい峠越えだ。道は赤っぽい土の路面で、何となくふんわりした感じの優しい道が続く。
今日の日暮れも近いので、この林道沿いで野宿地を探そうと思うのである。いい野宿地が見つかるといいのだが。 |
ところがである。しばらく走っていると、何だか体の具合が悪くなってきた。一難去ってまた一難である。今回の旅も家を出発してからもう6日目になる。
そろそろ旅の疲れが溜まってきたのかもしれない。頭痛と軽い吐き気がする。熱も出てきたようだ。風邪でもひいたのだろうか。
おまけに天候が崩れそうである。今夜は雨になるだろう。こんな時は野宿は諦めてホテルや旅館に泊った方が無難なんだが、もう林道に入り込んでしまった後だ。
林道を抜けた先でホテルや旅館がある一番近いところは飛騨高山市である。しかし今日は5月4日、ゴールデンウィークの真っ只中だ。
こんな時期にたった一人の泊まり客をすんなり泊めてくれるほど、観光地の旅館というのは甘くはないのだ。
以前にも何度と電話をしてもなかなか予約が取れず、苦い思いした記憶がある。そんな無慈悲な旅館など当てにはできぬ。
ここはなんとしても野宿地を探さなければならない。体を休める為にも、早く見つけ出さなければ。 |
しかし気は焦っても全く野宿地を見出せぬまま、遂に峠まで着いてしまった。峠から枝林道が分岐していたが、ゲートがかかり入り込めず、やはり本線沿いで探す他に手はない。
ところが峠から宮村側は舗装路が始まっていた。道が良くなれば通行量が多くなり、ますます野宿地探しが困難になる。落胆した気持ちで峠を下り始めた。 |
しかし一つ望みがあった。宮村に下る途中、宮川防災ダムと地図に記されて、小さな貯水池があることになっている。そこでならどうにか野宿ができるのではないか。 |
そして計算通り、着いた貯水池の周辺には野宿ができそうな湖畔があった。釣り人がちらほら見掛けられたが、場所を選べばあまり目立たない様にテントは張れる。
それではと車道より湖畔に降りようとしたその瞬間、無情な看板が行く手に立ちはだかった。
立入禁止!!。 |
随分長く横たわっていた。お陰で再びテントの中が明るくなり始めた頃には苦痛もかなりひいていた。もそもそテントの外に出てみる。
昨夜の雨でテントの周囲はかなりぬかるんでいる。それに霧雨がまだ少し降っている。本当はもっとのんびりしたいのだが、何しろ「立入禁止!!」である。
泥で汚れたテントを丸め込んで、そそくさと出発とあいなった。 |