「中央構造線上の野宿」。と言っても、別に大それたことをした訳ではないのだ。いつもよくある様に、野宿地探しにアタフタし、やっと野宿できた所が中央構造線上にあったというだけのことである。
「中央構造線」とは・・・、面倒なので省略する。 ただ、それが最も顕著に表れているのが、長野県の諏訪の方から静岡県の佐久間町近辺まで、ほぼ南北に直線的に走る断層地帯である。その周辺には分杭峠や地蔵峠、青崩峠など、峠としても面白いものが多い。分杭峠からの眺めなどは、あまりにも不自然なほど直線的に谷間が伸びていて、これはただ事ではないと感じるのである。 |
2000年のゴールデンウィークは、比較的近場をのんびり旅することにしたのだった。1週間から10日間といった、サラリーマンにとっては非常に長くとても得難い休暇は、どうしても遠くへ出掛けたくなる。そこをグッと抑え、山梨、長野、静岡といった、都心からもそう遠くない所を丹念に廻ることにした。概ね、南アルプスの西側をぐるっと回遊してくる積もりである。
旅も半ばの4日目。前日は雨模様だったので、今回の旅では唯一のホテル泊を、伊那市内に求めた。今日は天候も回復し、長野と静岡の県境にある青崩峠を越えようと思う。
|
しかし、こちらは人間の中でも特に時間がない日本のサラリーマンである。そうそうゆっくりはしていられない。露頭を見つつ地蔵峠を越え、しらびそ峠を巡るうちには、もう早午後の4時となった。野宿地求めて地蔵峠の上村側、国道152号の行き止まりへと進んで行った。
そこでは折りしも大島河原公園なるを建設中。誰も居なければ広々としていい野宿地なのだが、工事関係者がちらほら見受けられる。人目があっては野宿は出来ぬ。すごすご引き返し。
|
もうとっくに諦めている青崩峠越えだが、他に進む当てもないので、国道152号を峠に向けて南下する。青崩峠は国道が通じていない。峠手前で行き止まりとなる狭い道へと入って行く。この先で野宿地が見付からないと、いよいよ困ったことになる。
もう夕方6時を前に、中央構造線に沿う深い谷間は暗く寂しい。途中、「民宿島畑」と書かれた分岐が現れた。こんな所ではたして営業しているのだろうか。やっているなら飛び込みで泊めてもらおうかなどと、弱気も出てくる。そこをこらえて、尚も車を進める。 間もなく同じ様な分岐が河原へ向かって下りていた。慌てず慎重に下ってみる。谷底が現れてくると同時に車とテントがちらりと見えた。先客がいるようだ。あまり接近遭遇したくない。 下に到達したら、先客とは反対の上流側へ進んでみた。直ぐに砂防ダムで行き止まりとなり、こちらには誰も居ない。砂防ダム手前には車を停めてテントを張る十分なスペースがあった。 今日もタッチの差で、詰まらぬ車内泊とならずに済んだ。しかも、周囲を見渡せば焚き火ができる枯枝が転がっている。そこはまたとない野宿地なのだった。 |
早速テントを張り、エアーマットを膨らませ、シュラフを敷いて今夜の寝床を確保。次は薪を集めに廻る。細い枯枝ばかりしかなかったが、量さえ集めれば、かえって燃え易くていい。それに、それ程盛大に焚き火をする積もりはないのだ。山火事の心配もある。細々と炎が上がれば、それで充分楽しめるのである。
ひと抱えくらいの薪が集まれば、次はかまどを設える。かまどと言っても、これも大掛かりな土木工事はせず、非常に簡単な物である。小型のシャベルで地面の土を少し窪む程度にのけて、その周りに手近にある石を並べるだけである。少し大きな岩があれば、それを椅子代わりや、テーブル代わりに、かまどの側に置く。最近は、食料を入れるのにクーラーボックスを使い、それを椅子代わりにすることが多い。 そしていよいよ点火である。旅の途中で出た燃えるゴミを使って、細い枝から燃やしていく。枯枝がしけっていたり、まだ生木であったりすると難しいが、大抵の場合どうにか立派な焚き火に成長してくれる。その成長過程が一番面白い。 焚き火に手が掛からなくなれば、次は夕食の支度である。折角焚き火があるのだから、その火力を使えばいいと思うのだが、ついつい面倒でポケットコンロを使ってしまう。 ポリタンクの水を鍋に注ぎ、コンロの火にかける。クーラーボックスからレトルト食品を気分で選んで鍋の水に沈める。後は温まるのをのんびり待つ。 旅で出た燃えるゴミを、焚き火で綺麗さっぱり燃やしてしまえば、後はほとんどすることはない。地図を眺めたり、時折消えかける焚き火に薪をくべたり、手帳にちょっと旅のメモを書き込んだりするだけだ。
夕食を済ませ、食後にココアなどすすれば、もうポケットコンロなどの野宿道具はさっさと片付けてしまう。いつでもテントにもぐって寝られる体制を整えた上で、焚き火の炎でも眺めている。
|
野宿の夜は、必ず何度か目が覚める。朝まで熟睡することは滅多にない。今回も、寝付きは良かったのだが、夜中になって数回目が覚めた。しかも、首筋が痛かったり、頭痛がしたり、寒気に襲われたりである。ちょっと様子がおかしい。心配しながらも、今は何も取る手立てはない。シュラフを手繰り寄せ体に密着させ、体を丸くしてただじっと眠ることに専念した。 |
翌朝は5時前に起きた。シュラフに横になりながらテントの床を触ると、水をこぼした様に濡れている。凄い露である。これほどまでのはなかなか経験がない。慌てて床に置いてあった地図を持ち上げてみたが、既に遅く、水がしみてふやけていた。エアマットの下面やその他床に置いてあった物すべてがびっしょりだ。テントのフライシートにも、さぞかし大きな露の玉が並んでいることだろう。今朝の野宿撤収は、いつもより手間取りそうである。
テントの外に出てみると、少し寒さを感じる。それを言い訳に、また焚き火をすることにした。露で湿った薪ではあったが、それ程苦もなく火が起きた。
テントを撤収する。
|