サラリーマン野宿旅

旅の食事  旅ではどんな物を食べるのか


朝食

 旅の一日のリズムを作る上にも、朝食はなるべくきちんと取る様にしている。かといって手間暇かけて食事を作り、またその後片付けに時間を費やしているほど、野宿の朝は暇ではないのだ。さっさとテントを畳んで、早くその日の旅を始めたい。それに世の中の人間が家々から出てきてやって来る前に、この場を早く立ち去りたい。別に悪いことをしている積もりはないのだが、人目に付くのは御免である。そこで最近はもっぱらその手軽さ故に、即席ラーメンばかり食べている。

 朝、テントの中で目が覚める。晩秋や初春の頃はまだ寒く、シュラフの温もりが心地よい。なかなか起き出すことができず、暫くまどろんでから意を決してシュラフより抜け出す。ジャンバーを着込んでテントの外に立ち、辺りの様子を窺う。別に異常無し。小用を済ませてから、野宿の片付けを開始する。体が十分に目覚めなければ、食欲が出てこない。朝飯前にシュラフを丸めたり、テントを畳んだりと体を積極的に動かす。野宿道具を全部車に積み込んで、車のウインドウに付いた朝露も拭き取り、いつでも出立できる状態にする。そしておもむろにラーメンを作り出すのだ。

 ラーメンは煮込んで作る即席ラーメンである。熱湯を掛けるだけのカップラーメンはカップが付いている分だけ値段が高くてだめだ。面倒でも愛用のアルミ製のラーメン鍋で煮込んで作る。もちろん出来上がったら鍋のままで頂く。ラーメン以外におかずはない。ときたま一袋5本入りの魚肉ソーセージを二袋で350円くらいで近くのスーパーで安売りしているのを持っていった時には、それを1、2本、ラーメンと一緒に鍋へほうり込めば贅沢な方である。人は朝からラーメンかと馬鹿にするかも知れないが、寒い野宿の朝にラーメンは非常に暖まるのだ。麺だけではなく、暖かいスープが同時に出来るのがメリットだ。勿論スープは一滴残らず飲み干す。

 ラーメンは5個入りパックを安売りしている時に買っておく。旅先で一つ二つ買ったのでは高くつく。種類も醤油、味噌、塩、とんこつといろいろそろえておく。そして旅には少しずつ沢山の種類を持って出る。朝、ラーメンを作る時にどれにしようかと選べるのが、せめてもの贅沢である。

 数ある即席ラーメンの中では、何と言っても日清食品のチキンラーメンがシンプルでベストである。余計なスープやかやくなど全くなく、味が染み込んだ麺が入っているだけである。よって一個丸ごとでなく、好きな分だけ割って作ればいい。しかもお湯で煮込めば1分で、熱湯を掛けただけでも3分でできる。遠い昔の記憶だが、子供の頃に食べた覚えがある。今の包装紙の表には「The Original Of Instant Ramen Since 1958」とある。私の生まれた年とほとんど同じなのが、また親近感を覚えさせる。

 即席ラーメンの朝食の後片付けは、これまた非常に簡単なのがいい。スープを飲み干した鍋がまだ暖かい内に、ティッシュペーパー一枚で内側に付いた油分を丹念に拭き取る。その後、数十CCの水を入れてゆすぎ、さらにもう一枚のティッシュペーパーで拭き上げれば終わりである。これで案外奇麗になる。下手に洗剤などを使うと沢山の水を必要とするし、そのくせなかなか油が落ちない。私は20ccの水と2枚のティッシュペーパーで済ませる。どうせ次に鍋を使う時は、またお湯を沸騰させるのだから、衛生上何も問題ないのである。使った2枚のティッシュペーパーは乾くまでごみ袋に入れて車に放り込んでおき、次の野宿地で他のごみと一緒に燃やしてしまう。なんと省資源な旅であろうか。

 即席ラーメンの朝食は環境にやさしく、いいこと尽くめの様だが、やはり油を使った即席食品だけあって、あまり消化にはよくない。ましてや普段より消化器系には自信がない方なので、野宿地を出発して暫く経った後に、下痢に襲われることもしばしばあるのが難点である。


昼食

 朝食や夕食は野宿地でもっぱら即席やレトルト食品を食べているので、昼食はまともな食事を取るように努めている。コンビニや弁当屋で暖かい弁当を買い、何処か景色のいいところを見つけて食べるか、食堂に入ることにしている。食堂といっても流行のファミレスは苦手だ。あのあか抜けた明るい店内に、私のみすぼらしさは不似合いである。周りの客層とも合わないので、どうも落ち着かない。またドライブインも観光客目当ての店はやはりだめだ。同じドライブインでもトラック運転手などがやってくる店ならいい。

 一番いいのは田舎の、ほんとに食堂と言う名が相応しい様な店だ。昼時以外は営業しているのかどうなのか、静まり返っていて分からない。それが昼になると何処からともなく車で客が乗りつけてくる。車といってもトラックやバンである。近くの作業現場からやって来るのだ。狭い駐車場はあっと言う間に溢れて、道にはみ出してしまう。しかし元々交通量はほとんど無い道であり、何ら問題ない。私のジムニーもトラックに並べて駐車する。汚れかたでは工事用トラックに引けを取らない。店に入ると真夏の炎天下だというのに店内にクーラーなどなく、片隅で古びた扇風機が弱々しく回っている。しかし開け放れた入口や窓を通って店の中を吹き抜ける風が心地よく、風鈴の涼しげな音色も聞こえる。相変わらず体から汗は噴き出てきても、店の中はまるで木陰の様な気持ちよさがある。片隅のテーブルに陣取る。手書きのメニューを見て日替わり定食をたのむ。また埃っぽい作業服を着た男達が数名入ってきた。これで狭い店内はいっぱいになり、遠慮の無い男達の少しなまった話し声で賑やかである。暫くして太った女将さんが運んできた焼き魚定食には、どんぶりに山盛りのご飯が盛られていた。普段、茶碗に一杯のご飯しか食べないが、周りの男達の食べっぷり誘われて私もたいらげてしまう。風が運んでくる木々や草の匂いが食欲を増してくれるようだ。


夕食

 私は旅に限らず普段からあまり食事に興味はない。寿司やステーキやその他高級料理などを自分から食べようなどと思うことは滅多にない(ただのケチ?)。おなかが空いていれば、単なる塩むすびだけでも十分おいしい。じっくり噛み締めた時のお米のうまさは、つくづく日本人に生まれて良かったと思える。問題なのは食欲である。体を動かし、その結果、体が食物を必要とすることが重要である。よくキャンプなどして野外で食べる食事はおいしいと言われる。それは空気のせいだとか、仲間と一緒に食べるからおいしんだとか言う。それもあるだろうが、普段は家に閉じこもっていて、あまり体を使わない者が、たまに外に出て体を使えば、いつもより食欲が増し、おいしく思えるのは当然だろう。私はおいしい食物より、健康的は食欲が欲しいと思うのだ。しかし目の前に塩むすびと寿司の中トロを置かれて、どちらでもいいから片方を食べてよいと言われたら、間違いなく中トロを取るのも確かである。

 食事と同じく、食事を作ることにも全く関心がない。よく一般のキャンプではバーベキューをしたり、カレーだ鍋物だといろいろ料理に凝ったりする場合もあるようだが、私の野宿は基本的に旅に於ける宿泊の手段である。また野宿地に着いてから日が暮れるまであまり時間がないことも多く、野宿の夕食の為に料理をしようなどと考えたことがないのだ。いちいち肉やジャガイモ、にんじんといった食材を用意したり、皮を剥いたり、切ったり、刻んだり、煮込んだり、味付けしたりと面倒極まりない。一度だけならキャンプの前に下ごしらえをしておくという手もあるだろうが、毎日のこととなるとそうはいかない。考えることは如何に簡単に済ませるかである。

 今は便利なもので、調理済みのレトルト食品が数多く売られている。カレーは言うに及ばず、野宿旅を始めてからスーパーで物色してみると、牛丼や親子丼、中華丼などといったものまで、お湯で4、5分温めれば食べられるようになっている。また電子レンジで2分と言う謳い文句のご飯も、12分から15分お湯で温めれば食べられる。当然のこと、味噌汁やスープの類はお湯を注ぐだけOKである。これら全て、お湯が沸かせれば出来てしまうのである。何と便利なことか。

 そういう訳で、旅に出る前にレトルト食品やインスタント食品をごっそり買って車に積み込む。野宿での夕食の仕度は、専らお湯を沸かし、その中にレトルト食品を突っ込み、後は少し待ってから封を切ることである。野宿地探しに手間取って、テントを設営し終わった時はもうとっぷり日が暮れてしまったなどという時も、暗闇の中で手早く簡単に夕食にありつけるのだ。レトルト食品は量が少な目だが、小食の私にはちょうどよく、中身を残さずに済む。よくキャンプで豪勢な料理をしたのはいいが、食材のカスや作り過ぎて余った残飯を水場などに汚く捨てて帰るキャンパーがいる。レトルトやインスタントの食事も、その包装紙がどうしてもごみとして残る。しかし食器は使わず、レトルト食品のパックやトレイをそのまま使えば、1度の食事でせいぜい3、4個のごみで済み、それ以外にはお湯が余る程度だ。洗わなければならない包丁などの調理器具や食器もない。燃える物はその場で燃やし、プラスチックやビニールなど燃えない物は集めておいて、後で然るべき所で処分する。食事に掛かる手間から材料まで、極めて省資源だと思う。車が少ないガソリンで長い距離を走ってくれると嬉しい様に、自分の体もこんな簡単な食事で1日ちゃんと動いてくれるのかと思うと嬉しくなる。しかし毎日食べているとさすがに飽きが来る。昨日はカレーで今日は牛丼、明日は親子丼と変えてはみても、やっぱりレトルトの味には変わりはないのが悲しい。


その他の食べ物

 普段から小食なので、間食などすると本来の食事の時にしっかり食べることができない。それで旅にもお菓子など持って行くことはない。子供の頃の遠足や修学旅行、家族旅行となると、先ず持っていくお菓子の準備が大変だった。特に学校で行く旅行では、持って行ってもよいお菓子の金額が決められていて、その金額の範囲内で何を持っていこうかと、店の陳列棚の前で悩んだものだ。大人になった今ではそうした楽しみはない。持っていこうと思えば自分のお金で好きなだけ持って行ける。かえって自由だと詰まらない。それに昔の様にお菓子をおいしい物だと思えない年になってしまったのは寂しい。

 それでも食事の為以外の食べ物を少しは旅に持って行く。ひとつは例の魚肉ソーセージである。日本水産のもので、一袋5本入りのを二袋で約350円とは安い。能書には「おいしく、ヘルシー」とか「カルシウムたっぷり」とか「DHA入り」とかあるが、私はそのボリュームが気に入っている。また常温で3ヶ月もつというのも旅にはもってこいである。食事の時におかずががなくて寂しい時や、量が不足してもう少し何か食べたいと思った時にも使うが、専ら非常食的に食べることを目的にしている。昼食には食堂や弁当屋を探すのだが、昼時にちょうどよくそうした店に出くわすわけではない。どちらかというと辺ぴなところを旅しているので、毎回店を見つけ出すのが大変である。12時などとっくに過ぎて2時、3時となっても食事にありつけないこともある。そんな時の繋ぎとしてこの魚肉ソーセージを食べるのである。車を運転しながら1本また1本と食べる。なかなか食堂が見つからず、結局4、5本も食べてしまうともうお腹がいっぱいで、それで昼食を済ませてしまうこともままある。こんな目的なら、別にお煎餅などでもいいのだろうが、なぜか肉類にこだわっている。カウボーイは干した牛肉を持って西部を旅する。それを真似てビーフジャーキーとかサラミを持って行きたいのだが、それらはとにかく値段が高い。ソーセージの元は白身魚だが、魚肉とはいえ肉にかわりはない。ソーセージを食べながら気持ちは西部の荒野で過酷な旅を続けるカーボーイである。しかしソーセージを噛み締めても、干肉のあの深い味わいは出てこない。それをいくらお腹が空いたからといって、4、5本も食べればさすがにウンザリしてしまう。

 他にはチョコレートをよく持って行く。よく山で遭難した時にチョコレートが役立ったなどと聞く。だから登山者は必ずチョコレートを持って行くものだと、まことしやかに言う人がいる。私の旅も場合によっては遭難するかもしれない。崖から車ごと転落した時に、無事生還するのに役立つかも知れない。などと思って沢山チョコレートを持って行くが、やっぱりただの甘党なだけである。アルコールもたばこも全くやらない私は食事の後に甘いものが欲しくなる。食後の一服ではなく、食後の一なめだ。焚き火をしながらアルコールをたしなむ代わりに、チョコレートをぽつぽつ食べるのである。全く絵にならない。


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