サラリーマン野宿旅
旅の小道具 Part2

 初掲載 1999/8/24 旅の小道具 の続きです。思いつくままいろいろ取り上げます。
 
耳 栓
 野宿の夜を少しでも快適にしたいなら、耳栓はなかなか効果があるのだ。
 普段の生活と環境が全く違った自然の中では、聞き慣れないさまざまなな音が聞こえてくる。それが涼しげな鳥のさえずりならいいのだが、都会生活に慣れた者にとっては安眠を妨げる音となるものが多いのである。
 雨で増水し土色の濁流が激しく流れる川なら勿論のこと、昼間だとほとんど気にならない小さな沢を流れる水の音も、静まり返った夜には思いの他耳障りである。海辺の近くで野宿した時は、寄せては返す波の音がうるさい。何という名だか知らないが、夜中に「ギャーギャー」と大きな薄気味悪い鳴き声をたてる鳥がいる。他にも獣の足音や鳴き声など、自然に慣れ親しんだ者なら何ら気にすることもない音が、サラリーマン生活の合間に野宿旅をする者にとっては、飛び起きる程怖いものである。
 また悪天候の時はこれまた凄まじい。しとしと降る雨はテントの中でも聞き取れないものだが、大粒の雨がテントを叩くと想像以上の音がする。「バチバチ」という音がテントの中に反響し、とても寝られたものではない。それに強風が加われば尚更である。山の中だと木々を揺らす風の音は恐ろしいほどだ。谷を渡って「ゴオー」という音が巨大な怪物の様に襲いかかってくる。更に雷に加勢されたら、もう生きた心地がしない。地面を揺らすような轟音が音響効果が効いた大ホールの中の様に鳴り渡るのだ。
 音の正体やその音が意味することが分かっていないので、音に対して必要以上に敏感になっているとも思える。本来ならその音に耳を傾け、経験を積むことで、それが何らかの警戒音なのか、何ら気にするほどのものではないのかを聞き分けられるようになるのがベストである。気にする必要もないと理解できれば、サラリーマンにとって通勤電車の騒音も子守唄となる様に、自然が出す音にも無闇に過剰反応しなくてすむ筈だ。
 しかし、なかなかそうもいかない。十分な経験を積むまでには幾夜もの睡眠不足を重ねることになる。サラリーマンの貴重な休暇をそんなことで無駄にはできない。そこで明日の野宿旅も元気に続けられるように、耳栓をして睡眠、休養を優先するのだ。そして後は運を天に任せる。まあそこまで覚悟する必要があるケースも稀だろうから、邪魔とはならない小さな耳栓を、野宿の小道具として携帯してもいいと思う。

  

ポリタンク
 整備の整ったキャンプ場でキャンプをすることが少ない野宿旅では、水の確保は死活問題である。いくら即席やレトルトの食品を潤沢に持っていても、お湯が沸かせなければ食べられないのである。きれいな沢水が流れる出る水場などの近くに野宿できればいいのだが、現実の野宿地探しでそんな贅沢な要求を満たすのは、如何に大変であるかは実践者なら分かるはずである。
 それに今はどんな山奥にも人が入り込み、川の上流に田畑があれば農薬、家畜が居ればし尿、キャンパーがキャンプしていれば何が川を流れてくるか分かったものではない。一見きれいに見える川の水でも、手や顔を洗うのならまだしも、口に入れるとなると特に胃腸の弱い者なら躊躇して当然である。われわれ都会人には、塩素がたっぷり入りカルキ臭のぷんぷんするいつもの水道水が体に一番あっているのだ。
 そこでポリタンクに水道水を詰めて旅に出掛けるのだ。旅の出発の朝にしなければならない重労働の一つが、このポリタンクに水を入れ車に積み込むことである。使っているのは20リッターのアウトドア用品としてもよく売っているタンクで、満タンにすると約20Kgとかなり重い。でも野宿では食事以外に、手や顔を石鹸で洗ったり、歯を磨いたりと、水は豊富にあってほしいものだ。水が十分にあると思うと、野宿地探しにつけても心配事が一つ減り、気が楽になるのである。
 野宿地が決まり、テントの設営などする時に満々とタンクに満たされた水を見ると安心感が湧いてくる。それが野宿を重ねることで残りが減ってくると逆に心細い気持ちになる。20リッターもあれと節約すれば何泊でも野宿できるが、でも水はあまりケチらないことにしている。ケチって結局沢山余らしてしまったことも過去に多いからだ。
 それに旅の途中での水の補給は以外と容易である。最近よく見掛ける道の駅でもいいし、ちょっとした公園にも水道はある。自分では使わないキャンプ場にお邪魔して、水だけただでもらってくることもある。名水と呼ばれる水場に偶然出くわすこともある。わざわざ近隣の人が汲みに来るほどの名水なら、わざわざ自宅より持ってきたポリタンクの中の水道水を全部捨ててまで入れ換えてもいい。
 ポリタンクはその容量と蛇口部分の構造に注意して選ぶとよい。特に蛇口のコックが直ぐに壊れてしまうものがあるので注意だ。また車から離れてキャンプしなければならない場合などのために、別に1リッター程度の水筒などの容器を用意するといい。私は1リッターのやはりポリタンクを持って行き、時々それに水を継ぎ足して使っている。

 

方位磁石
高度計
 なくても別段困らないが、あればそれなりに利用する機会もある。
 磁石は吸盤付きのタイプを車のフロントガラスに取り付けてある。普段見ることはないが、どうも道に迷ったなと思った時に覗きこむ。太陽が出ていれば日差しの具合で方角の見当がつくが、曇りなどでは磁石の力を借りることになる。自分が今進んでいる方向を知ることで、少しでも迷子から抜け出す判断材料にしようと思うのだ。特に手持ちの地図に載ってない道に迷い込んだ場合は、その道が延びている方向を調べて進むべきか戻るべきか判断する。北上したいのに、いつの間にやら180度反対に南下していたのに気付いたなんてこともままあるのだ。
 高度計はただ見ていて楽しいのだ。使っているのは車用アクセサリーとして売っていたもので、針が約1回転で最高3000mまで測定でき、それをインパネの上に両面テープで固定してある。登山用などに使う標高5000mまで測れる高度計はだめだ。日本国内で車で行けるのはせいぜい2500mの高さであり、いくら登ってもあまり針が動かないから面白くないのである。
 高度計を使えば訪れた峠の標高を測ったり、逆に峠の標高が分かっている時は、峠道をどの程度まで登ってきたかが分かる訳だ。しかしあまり実用性はない。また気圧の変動に対して補正しなければ正確な標高は分からない。天気の日と雨の日ではかなり針の指し示す高度は違ってくる。標高が分かっている所でいちいち高度計を調整するのは面倒なことである。

 

双眼鏡
 バードウォッチングの趣味はない。時々景色を見たりはする。フェリーに乗った時など暇なので、双眼鏡を首にぶら下げ甲板を散策し、遠くを通りかかるタンカーを監視したりする。100円硬貨を入れて覗く望遠鏡がある展望台などでは、双眼鏡を持っていると得した気分になる。
 双眼鏡が役に立つのは道路標識を見る時である。目があまり良くないこともあり、標識を十分確認できずに通り過ぎてしまうことがある。ほとんど車の通行のない田舎道なら、標識の手前に止まってじっくり考えられるのだが、国道やそれなりの県道では後続車への迷惑になる。特に道の分岐手前に設けられ、聞いたこともない地名が羅列された道路標識は、車で通過するだけでは何のことやらさっぱり分からず、ただただ混乱させられるだけである。そこで標識が現れたら早めに安全な路側に車を止めて、双眼鏡を使って標識をのぞくのである。そして地図などとも照らし合わせ、ゆっくり確認を取る。これでうっかり分岐を見逃すことも少なくなるのだ。

 

パンク修理道具
 旅の重要な足である車が壊れることを想像すると、いろいろ準備したくなるものである。特にだれも通らないような辺ぴで険しい道ばかり走っているので、自力で脱出し、生還しなければと思うのである。
 よくあるのがパンクで、その為にパンク修理工具とホルツ製の瞬間パンク修理材を用意した。ところが鋭利に砕けた石がごろごろする林道で起きるパンクは、釘が刺さったなどと言う生易しいものではなく、タイヤが大きく裂けてしまう。こうなったら瞬間パンク修理材など全く役に立たず、スペアタイヤに交換する以外に手だてはない。
 だが稀に瞬間パンク修理材が効くパンクもあるので、それなりには役に立つ。しかしそうして修理したタイヤのままで高速道路まで走るのは考えものだ。瞬間パンク修理材はジャッキアップする必要もないので、あくまで緊急脱出用と考えるのがいい。ちゃんとした修理工場へ辿りつくまでとか、安全にスペアタイヤに交換できる場所まで移動するとかの目的に使うのがいい。
 長い旅だと一度スペアタイヤを交換してしまうと、後がないので不安になる。ジムニーは変わったサイズのタイヤを使っているので、一般のガソリンスタンドは勿論のこと、修理工場にも使えるタイヤのストックがない場合がある。そこで中古だがまだ使えるタイヤをホイールなしで荷台に積んでみた。しかしこれは邪魔でしょうがないので、すぐにやめることにした。

 

牽引ロープ
ブースターケーブル
 単独走行が主であるが、通りがかった車に助けてもらう積もりで、牽引ロープとブースターケーブルを積んでおり、どちらも一度だけ見事に役立った。
 ある山岳道路で景色のいい場所を見付け、写真でも撮ろうと車を止めた。こんな道は滅多に車は通らないとは思ったが、邪魔にならないようにと車を道の端に寄せると、まんまと側溝にはまってしまった。側溝のほとんどは蓋がついていたのだが、一部に蓋が無いのに気付かなかったのだ。やってしまったと思っても後の祭。こんな所はだれも来ないだろうと悲嘆に暮れていると、一台のトラックがやって来た。慌てて手を振り事情を話すと、とにかくひっぱってみようと言ってくれた。そこで新品の牽引ロープを取り出し、2台の車を繋ぎ、トラックで引くと、あっけなく溝から脱出できた。遠くのJAFより近くの他人である。
 ある湖畔の駐車場に車を停めると、何やら騒がしい。一人の男が近付いてきてブースターケーブルはないかと聞く。一瞬何のことか分からなかったが、確かバッテリーを充電する時に使うケーブルで、特価で売っていた時にひとつ買って持っているのを思い出した。男の話では駐車場に車を停めて一晩山歩きに行って帰ってみると、バッテリーが上がってしまって車が動かないとのこと。周りに居合わせた者は、人力で車を押してエンジンを押しがけしたらどうかなどと話していた。ブースターケーブルを取り出し、車のボンネットどうしを近付けるように車を移動する。初めての作業なので慎重にケーブルを繋げる。下手をすればこちらのバッテリーもダメにしてしまうからだ。作業は成功し見事に相手の車のエンジンはかかった。最後にその男はそっと千円札2枚を差し出した。勿論受け取りはしない。お互い様ですよとひとこと言って、きれいに分かれたのであった。

 

ガソリン携行缶
 ガス欠は常に付きまとう不安である。人間なら1、2食抜いても我慢すればいいが、車はガソリンを与えないと全く動かなくなるので厄介だ。
 そこで安心の為にガソリン携行缶を使うのだ。大きいと邪魔になるので4.5リッターの携行缶にガソリンを満タンに詰めて常に車に積んでいる。ただしこれまでそれが役だったことは一度もないのが自慢だ。

 

車のスペアパーツ
工具
 車のことを知れば知るほど、かえっていろいろ不安にいなることがある。例えばボンネットを開けてみると、訳の分からない物が所狭しと並んでいる。これのどれ一つでも壊れたら車は正常に機能しなくなると思うと、心配になってくるのだ。
 素人でも分かるのはファンベルトである。このゴムが切れたら冷却ファンが回らなかったり、オルタネータが止まったりしてしまうのだ。そこでベルトだけを購入して持っている。それとお決りの車載工具ではベルト交換などできないだろうから、工具セットもついでに車に積んでいる。車のメンテナンスマニュアルもある。しかしいざという時にベルト交換できるか全く自信はないのである。
 素人でも簡単に交換できるのは電球だ。切れた時に買って余った物を家に置くのではなく、車の中にしまっている。ウインカーランプなどは切れるとすぐに困るものだ。その場で交換できるのはいいことである。

 


旅の小道具 Part3 へつづく

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