サラリーマン野宿旅
生理現象
 
野外での正しい
 
済ませ方
<初掲載 2002. 7.24>
 
はじめに
 
 個人的な習慣なのだが、普段の暮らしでは朝食を食べ、歯磨きをし、その後に続いてトイレに行くことになっている。何も考えず便器にしゃがめば(自宅は和式)、ほとんど条件反射的に出る仕掛けとなっているのだ。朝に一度トイレを済ませれば、それでもう翌日の朝まで、大の方でトイレを必要とすることはない。それがもう長年の体のリズムとして定着している。
 
 この習性を野宿旅の最中も崩したくはないのだ。ただでさえ胃腸に関しては全く自信がない。旅先では尚更環境がガラッと変わり、何かと体調を崩しやすいものだ。少しでも体に負担の掛からない様にと、旅先といえども普段の生活リズムを守りたいのである。
 
 その為には、たとえ野宿をした朝で近くに正規のトイレがなくとも、済ませるものは断固としてその場で済まさなければならないのだ。それを我慢して、どこかにトイレがあるだろうなどと安易な気持ちで野宿地を出発してしまうと、結局どこにも見つからず、大事なタイミングを逸することともなる。そうするともうダメである。後になってトイレに行っても、出るべきものが出ない。それまで正しくリズムをとっていた体が、途端に変調をきたす。いつもの朝にはどうしても出てくれなくなり、思わぬ時に急にトイレに行きたくなったりするのだ。一日に何度もトイレに行く羽目にもなり、旅先での厄介さが増してしまう。
 
 急な腹痛などの緊急事態で、止むに止まれず本来のトイレ以外の場所で用を済ますことはあるが、それに限らず、野宿旅では済ますべき時は積極的にトイレ以外の野外で済ませようと思うのである。
 
 それではどの様にして済ませたらいいのか。あまり一般的なことではないので、ご存知ない方も多いことと思う。そこで、ここでは拙い経験談をお話しすることで、少しでもお役に立てればと思うのであった。(誰か役に立つ人が居るのか?)
 
1.場所
 
 一番重要なのが、済ませる場所である。人目に付かぬ様に藪などで囲まれていて、且つ出した物で後で他人に迷惑がかからないことが重要である。そういう場所が近くにある所で野宿すればいい。そうすれば野宿の朝に心置きなく済ませることができる。
 
 しかし、野宿地探しはただでさえ大変な作業である。用足しのことまで考えて野宿地を選り好みしている余裕など全くない。どうにか一張りのテントが張れる僅かなスペースを見つけ出し、何事もなく一晩無事に過ごせれば御の字なのだ。
 
 よって、偶然見つけた野宿地の周囲で、どうにか工夫して済ますしかない。テントを張り、寝床の準備をし、これで今夜もどうにか夜を迎えられるという頃になって、やっと翌朝の用足しはどこら辺りでしようかと、野宿地の周囲を眺めるのである。
 
 そこが浜辺だとこれは難しい。隠れる場所がない。人が訪れることも多いので、落ち着いてしゃがんでいられないのだ。一方、山の中なら大抵の場合どうにかなる。車道から離れた山の中へ少し入ればいい。それに、早朝ならまだ人もあまりやって来ない。場所に関しては、どうにかしてどうにかなるものではないので、偶然めぐり会った野宿地で、工夫するしかないのである。
 
2.時間
 
 上述の様に、個人的な習性として用足しの時間は朝と決まっている。それも、野宿地を出発する直前にしている。朝食を済ませ、テントなどの野宿道具も全部撤収し、後は車のエンジンをかけるばかりになってからおもむろに行うのだ。特に理由はないが、やはり外で行うということは、我々文明人にとって非日常的であり、少なからず抵抗がある行為である。他の全ての用事を済ませ、雑念を除いた上て臨みたいものである。それと、何となく用足しした後は、早くその場を立ち去りたい気持ちに襲われる。別に悪いことをしたという気はないのだが、自分の体内から出たいまいましい物と、早く縁を切りたいような気がするのだ。
 
 基本的に野宿の朝は早い。旅館やホテルのチェックアウトじゃないんだから、9時過ぎ頃まで野宿地にうだうだしていることなどない。早い時には6時前にはもう出発するくらいの意気込みが必要である。この、朝早いということは、用足しにとっても有利である。遅くなればなるほど、人がやって来る可能性が高くなるからだ。人の目から完全に隠れるような山奥にまで入り込むより、人が来る前に済ましてしまう方が得策である。とにかく「野宿の朝は早起き」が鉄則と心得るべし。
 
3.道具
 
 道具といってもそれ程大それた物が必要な訳ではない。当然ながらまずトイレットペーパーが必要である。だれでも自分の車の中にボックスティッシュの1箱くらいは入れてあるだろう。最近は随分安く売っているし何かと便利である。それを用足しにも使えないことはないが、あんな大きな箱を持っていそいそと山の中へ出掛けるのも考え物だ。地面に置くので汚れてしまうのも困る。それに、野宿で鍋やコップ、箸などを拭くのに使っているボックスティッシュを、用足しにも使うというのは何となく避けたいではないか。

 やはりトイレ用のロールペーパーがいい。しかし、新品のあの大きなロールを丸ごと持って行ったのでは持ち運びに不便だ。野外の用足し以外にも一般のトイレでも使うが、あんな物を持って歩いていては目立ってしょうがない。それに野宿での使用量は高が知れたもの。なかなかロールの径は小さくなってくれない。
 そこで、自宅のトイレである程度使って小さくなったものを野宿用とするのがお勧めだ。雨や露に濡れたり、土で汚れたりしないように、一つずつビニール袋に包んでおくといい。私はそうした小さいロールペーパーを幾つも用意して持っている。一つは野宿バックの中、また一つは車のグローブボックス。荷室に積んだ野宿道具箱には2、3個入っている。他にもそうしたロールペーパーをいろいろな箇所に仕掛けてあり、咄嗟の緊急事態には手近にあるのを掴み取って駆け出せるようにしてあるのだ。
 
 トイレットペーパー以外にもう一つ、なくてはならない必需品がシャベルである。まさか地面の上に生みっぱなしといのでは極めて迷惑な話しである。野宿旅などする者は非常に稀だろうが、自分以外に全く居ない訳ではないのだ。時分が今夜泊まる野宿地に他人のそんな物があったら不愉快極まりないではないか。野宿地にゴミを捨てないのと同様、出した物は持ち帰る・・・、という訳にはいかないので、せめて土の中に埋め、早く自然に帰れと祈るのである。全国の野宿愛好家の為にも、野宿地は常に気持ちのいい場所にしておきたいものだ。
 
 使うシャベルの大きさとしては、大きい方が穴は直ぐに掘れるが、車に積んで置くにも手で持って運ぶにも不便である。かといって移植ゴテの様な小さな物では、花壇でおままごとのような土いじりをする訳じゃあるまいし、石が混じり草の根が張った固い自然の地面などなかなか掘れたものではない。
 そこで私は全長が60センチくらいの中型のシャベルを野宿旅専用にと購入した。先の部分が尖った金属で柄は木製の比較的しっかりした造りである。1,000円前後だったように記憶する。
 
 最初はそのシャベルを車がぬかるみにスタックした時や、行く手を阻む崩れた土砂をどけるのに使う気でいたのだ。しかし、そんなシャベルなどで簡単に車はスタックから抜け出せはしないし、路上にうずたかく堆積した土砂を目の前にして、人力でそれをどけようなどと考えるのは無謀であることを知った。結局そのシャベルは用足しの穴を掘ることに活躍の場を見つけるに至ったのだ。はからずしもその用途には最適なシャベルであった。
 
 用足し以外には焚き火の穴を掘ったり、焚き火後にその穴を埋め戻したりと、まあまあ使っている。野宿用にと買い求めたいろいろな道具があるが、その中でもシャベルは正解の方である。同時期に買ったナタなどは、ほとんど使っていない。これから野宿旅を始めようと思うなら、シャベルだったら買って損はないと思う。

 
4.方法
 
 野宿道具を残らず全部車に積み込み、忘れ物がないことも確認し、出発の準備万端が整ったところで、右手にシャベル、左手にトイレットペーパーを持つ。車のカギは掛けないでいいだろう。それ程車から離れている訳ではないし、人など滅多に来ないし、第一カギをなくした場合の方が面倒である。
 
 そして、ほぼ目星をつけた場所へと歩いて行く。当然道ではない所も進んで行く。ある程度の藪漕ぎや段差の上り下りも覚悟しなければ、安心して用が足せる安住の地には行き着かないと心すべしである。時には刺がある潅木をかき分け、両手を使って崖をよじ登ることもあろう。念の為、軍手を着けておくといい。前項の「道具」にはわざわざ挙げなかったが、野宿旅をするのに軍手を持って行くのは当たり前の話しである。
 
 普段の生活では人間が歩くべくして作られた所を歩いている。それが、ちょっと自然の中に足を踏み込むと、こうも歩きづらいものかと実感する。思わぬ転倒などの事態も考えられよう。また、蚊に刺されるくらいならまだいいが、マムシに噛まれたりスズメバチに刺されたりしたのでは冗談では済まされない。まさかクマが出て来るケースは少ないとは思うが、こうした恐ろしい動物や昆虫が世の中には存在するということも忘れてはならない。「野宿旅」などとふざけているが、なかなかあなどれないのであった。
 
 迷子になるほど山の中に入り込むこともないだろうが、一応帰りの経路は見失わないように気をつけて進む。適度に周囲から身を隠せて、それでいて土の地面が露出した場所を選ぶ。草地はしゃがんだ時に、お尻に草が触れてとても気持ち悪い。また、石の混じった固く締まった地面はなかなか穴が掘れない。
 
 場所が決まれば、適度な穴を掘る。穴から掻き揚げた土は、後で穴を埋め戻すのに必要なので、穴の周囲に集めておく。実は穴という空間がどれだけ大きいかというより、出した物に被せる土がどれだけあるかの方が重要なのである。如何に穴が掘りやすい状況かどうかより、近くに盛り土でもあった方がよっぽど好都合なのである。
 
 穴堀りというのは几帳面にやっているといくらでも時間が掛かるので、適当に打ち切り、後はしゃがんでその穴めがけて産み落とせばいい。個人的には和式トイレに慣れているので、しゃがんだ姿勢は苦にならないが、洋式しか使わない人には、ちょっと大変かもしれない。西洋人などが野外でする場合、どうするのだろうと思う。
 
 しゃがんだ周りには壁などはなく、これほど換気のいいトイレは他にない。駅や公園などにある臭く汚く暗く狭い公衆トイレにしゃがんでいるよりよっぽどいいのだ。上を見上げれば緑の山に青い空。どこぞの有名ホテルにある豪華な大理石のトイレ(入ったことはないが)だって、この景色には勝てまい。
 
5.トラブル
 
 しかし、あまり悠長に構えてもいられない。その最中はじっと聞き耳を立てている。まさかこんな山奥に歩いて来る者はいない。大抵、車である。よって人が近付いてくるかどうかは車の音で分かるのだ。
 
 経験則によると、十中八・九、人などやって来ない。野宿を始めたばかりの頃は、車が通り掛かっては大変と、山の奥まで入り込むこともあった。しかし、回を重ねるに従い、そんな心配は要らないと分かってくる。段々面倒になって、車道から目と鼻の先で済ますこともある。
 
 だが油断していると、たま〜に来るのだ。こんな朝っぱらから山仕事か山菜取りか。はたまた物好きな釣り人だろうか。全く迷惑な話しである。車が近付いて来るのが分かったとしても、一度始めてしまったものはそう簡単には中断できないのである。何てタイミングが悪いんだと思いながらも、面倒だからそのまま継続する。相手の車もよそ見などせず行き過ぎてくれれば、それで何の問題もない筈である。
 
 ところが中には、わざわざ立ち止まる奴が居る。多分、向こうとしても、こんな朝からこんな所にジムニーなど停まっていて、一体何なんだろうかと怪しむのかもしれない。車の中から辺りを見回しているうちに、草陰にしゃがんでいるのを発見される。もうこっちとしても、居直るしかない。知らん振りしている。暫くして、相手はやっと事態が飲み込めたらしく、車を再び走らせて行ってしまう。こんな時は、「勝った」と思う。(何が勝ったんだ?)
 
6.後始末
 
 亊が済めば、持参したトイレットペーパーの出番である。野宿ではシャワートイレという訳にはいかず、この点は都会のトイレにはかなわない。ペーパーは下手に直接地面に置くと朝露で濡れて使い物にならなくなるので注意のこと。
 
 後は土を被せ、地面をならして終りである。この時慌ててシャベルを汚さぬように。勿論、土で汚れるのは仕方ない。
 
 安全に気を付けて歩いて車まで引き返す。途中で近くに川や沢でも流れていれば、手が洗えて好都合なのだが、そううまくはいかない。
 
 シャベルとペーパーを車にしまえば、これですっきりした気分で旅が始められる。
 
おわりに
 
 最初は抵抗もあろうが、慣れてしまえば大したことではない。誰にでもある生理現象と思えば、気も楽である。
 でも、藪をかき分け、穴掘りで大汗をかき、お尻を蚊に刺され、散々苦労して済ませた挙句、野宿地を出発した直後、近くで立派な水洗の公衆トイレなど見つけた日には頭にくる。あるならあると最初に言ってくれなければ困るじゃないか。
 
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