ホームページ★峠と旅  

極楽峠  崖崩れ、落ちれば地獄の極楽峠


極楽峠
極楽峠 奥が下條村

 未だに1988年発行のツーリングマップを使っているので、実状と食い違う事がままある。また新しく出来た峠道を見逃している可能性も高く、ちょっと考えものだ。そこで案内図等があれば必ず見るようにしている。この時もそうだった。
 長野県下條村の国道151号を南下している折り、「信濃路下條」という道の駅を見つけた。既にこの「道の駅」の存在すらマップには記されていない。昼時なので食事をしに入った。しかしそこにあるレストランが目的ではない。コンビニで買っておいた弁当を安心して食べられる場所を探していただけだ。

 最近増えてきたこうした道の駅は便利である。手や顔を洗ったり、洗い物をしたり、ポリタンクに水を補給したり、トイレを使ったり、駐車場の隅で即席ラーメンを作って食べたりと、無料である。道の駅はその無料が気に入っているのだから、お金を使うことは滅多にしない。

 弁当が済み、トイレも済ませ、その側に立っていた案内板を眺める。南信州開発推進協会による阿南町、泰阜村、下條村に関するPR看板である。まつりや温泉などには興味がない。ただそこに描かれた案内図にあった極楽峠という文字だけが目に付いた。「極楽」などという峠の名前はいかにもありそうでいて、今まで聞いたことがない。車からマップを取ってきて見比べるが無駄である。マップには極楽峠の文字が記されているあたりに道はない。

 案内図によると極楽峠は下條村とその西に接する浪合村との村境の峠である。険しい県境などの1級の峠(何が1級だか知らないが)とはいかないだろうが、行きがけの駄賃としては面白そうである。案内図をしっかり見て覚え、峠に向けて出発した。

 国道を道の駅より更に1.5km程南下して、阿智村に抜ける県道64号天竜公園阿智線に右折する。この県道の2〜3km先のどこかで左折すればよいのだが、その分岐が見つかるかが問題である。過去にも分かり難い峠道を探して、あやしい分岐を見つけては出たり入ったりと随分苦労した覚えがある。今回も迷うのだろうかと慎重に車を進めているとあっけなく「←極楽峠」の標識が出ていた。交差点には「←おおぐて湖」、「←盲老人ホーム」、「←ユース・ホステル」の矢印標識もある。

下條村分岐
県道から峠道への分岐 ←親田、極楽峠

おおぐて湖
おおぐて湖

 分岐した道はほぼ一直線に伸びる。緩い上りになり、周りには果樹園が広がりだす。さらい進むとT字路にぶつかった。標識は右が峠だと示している。左はおおぐて湖/しらさぎ荘1.5kmと大きな看板が出ていた。ついでのついででその湖も見に行く事にした。

 道の要所要所に看板があり、やや複雑な所にあるけれども迷わず湖に着いた。「おおぐて」とは「大湫」と書く。水田用水の為の溜池としてほとんど人力で作られたものだそうだ。木々に囲まれ周りからは眺める事が出来ない。岸辺まで来てやっと湖面が望める。湖には数本の木が立っている小さな半島が突き出ていて、ちょっとした日本庭園の中にある池の様な趣があった。

 道を戻り、先に進む。森の中の狭苦しい道となる。直ぐに「極楽三十三観音道中略図」という案内図が出てきた。それによると、この先の峠を越える車道は極楽林道と呼ぶ。林道が出来る前から三十三の観音が峠に至る山道に点在している。残念ながら山道と現在の林道とはややコースが異なる為、林道からは観音を見る事は出来ない。まあ少し山道を歩けばよいのだが、ついでに通る林道なので今回は観音を拝むのはやめる。

 道はまたT字路に突き当たる。右は阿智村に通じる。左が峠だが、左折した途端、毎度のことながら通行止の看板が現われてがっくりする。復旧治山事業工事でこの先にある極楽パノラマパークから峠までの途中が通行止とある。ダメモトで、行くだけ行ってみる。その極楽パノラマパークとやらを見て来るだけでもよいとする。

 標高994mの高台にそのパークはあった。パークといっても東屋とトイレがあるだけの小さな広場である。しかしパノラマと謳うだけあって、極楽かどうかは知らないが、いい眺めが広がっていた。麓の下條や阿智の村々から、遠く目をやれば南アルプスの山々まで、180度の展望があった。28mmの広角レンズのカメラでも1枚のフィルムには納まらない景色で、残念ながらここには載せることは出来ない。見たい方は自分で行くこと。

パノラマパーク
極楽パノラマパーク

展望台からの眺め
極楽パノラマパークより峠方面を望む

 展望とは反対の峠方面に恨めしく目をやる。極楽の展望だけではやはり諦めきれない。どうにか極楽の峠を越えたいものだ。パーク下の道路脇には駐車場がある。その先にまたもや通行止の看板が道にはみ出て立っている。気後れしながらもその結界を越える。

 大した峠道ではないと思っていたが、どうしてどうしてこの極楽林道、険しい山岳道路の片鱗も見せてくれる。谷を深く見下ろし、車を運転する身も引き締まる。

 その険しさがあだになり、遂に崖崩れによる通行止箇所に出くわした。復旧工事は進行中であるが、丁度作業は行われておらず、誰もいない。車を降りて下見する。崖を見上げると、今にでもまた崩れ落ちて来るのではないかと、恐いくらいである。幸いに車一台が通れる道幅は残っていた。一気に走り過ぎたい気持ちを押さえて、慎重にゆっくり通過する。谷に落ちれば極楽峠に着く前に地獄行きだ。

 こんな時、余計な事を考えてしまう。崖崩れ箇所はここ一個所だけではなく、更にこの先にもあるのではないかと。そして結局引き返さざるをえず、戻ってみると、さきの崖崩れ箇所でまた新たな崖崩れが発生して、この山の中に閉じ込められてしまうのではないかと。全くの小心者である。

崖崩れ
崖崩れ箇所

峠の石柱
峠の石柱

 あらぬ妄想にも関わらず、無事に峠に着いた。峠からは下條側の展望がよく広がる。「昭和六十二年 極楽峠 長野の自然百選入選」と書かれた石柱が立っている。標高一二二〇米ともある。林道標識もあり、峠前後は林道極楽線、12,446mである事も分かった。
 ここにも三十三観音の案内板あり、この車道の峠より伸びた山道を行けば、三十三番目の最後の観音があるのだが、暫く考えてやっぱり歩くのはよした。最近足腰に自信がない。

 峠を浪合村側に下る。ほとんど展望がなく、下條側に比べるとあまり面白い道ではない。直ぐにロッジが数件現われた。その後、半堀集落まで特に見るべき物は何もない。

 着いた集落の中はひっそりしていた。私も静かに走る。

下半堀
半堀集落に着く

浪合村分岐
県道に出る

 集落の狭い道を抜けると県道243号深沢阿南線に出た。県道から峠への分岐には丸い時計が立っていて、それが目印になる。また近くの県道脇に「半堀案内図」なるものが出ていた。それによると分岐より峠までは3.8kmとある。距離が短く、それほど険しい道ではないので浪合村側は峠まであっと言う間だ。


 峠道状況(1997年9月)
 極楽林道といっても全線舗装済みである。下條側のパノラマパークと峠の間の通行止さえなければ、普通乗用車で何ら問題なし。工事看板によると工事期間は平成9年7月14日〜平成9年10月15日とあった。


峠と旅        峠リスト