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 加須美峠   北海道の林道を走る


加須美峠
加須美峠
手前が美深、奥が歌登、左が函岳への分岐

 加須美(かすみ)峠は北海道の美深町と歌登町を繋ぐスーパー林道美深歌登線の町境にある峠だ。標高は700m前後で峠の西方に加須美岳(914m)がある。
 美深町から歌登町へ通じる道としては美深町より道道49号で仁宇布に出て、更に道道120号で町境を越え、大曲経由で歌登町に至るコースがある。以前そこを通った時、大曲で林道標識を見掛けた。どうも美深と大曲が林道で繋がっているらしい。しかし手持ちの1989年出版のツーリングマップにはその様な林道の記載がなかった。半信半疑でいる折り、偶然手にしたZigZagという情報誌に載っている地図にその道が描かれているのを見付つけた。

 ZigZagとはホクレン加盟のガソリンスタンドで無料、または100円以上のチャリティで配布している道南・道央と道北、道東の3編構成になっている北海道観光の情報誌である。それぞれの地域についてのエリアマップと観光スポットやキャンプ場、温泉などの情報が記載せられている。普通の観光地には目もくれず、寂しい道を選んでは好んで走り、泊まる所は安いビジネスホテルか、キャンプをしてもガヤガヤうるさいキャンプ場ではなく、人気の無い河原などで野宿する変人(私の様な人)にはあまり有用な代物ではない。しかしそうは言っても最新の25、000分の1の道路地図がただで手に入るのは魅力である。何年も前のツーリングマップを実際と違うではないかと頭にきながら相変わらず新しい地図を買うのがもったいないと思っていた者にとってはなおさらである。ZigZagを知ってからは北海道に行くたびにもらうことにしている。しかしもらえる時期が限られているのが難点だ。ちなみに1996年は7/4〜7/14は道南・道央編(100円以上のチャリティ)、7/19〜7/28は道北編(無料)、8/2〜8/11が道東編(ただ)となっていた。
 ZigZagでその存在が明確になった林道。長距離の未舗装路走行が楽しめそうである。行かないわけにはいかない。


 美深町側からは道道680号を班渓(パンケ)の標識に従って進む。その先は右の沢、中の沢、左の沢の3つの沢に沿って3本の道が分かれている。目的の道は中の沢に沿った道である。道道680号を道なりに行くと右の沢の道に入ってしまい、何の標識も無く未舗装路が始まる。右の沢の道も左の沢の道も行き止まりである。目指す道は右の写真の様にゲートがあり、しっかりと標識も出ていて、そこから林道が始まっている。標識には「歌登62Km、函岳27Km、加須美峠17Km」とある。
 ゲートは開かれ、あの忌々しい「通行止」の標識もない。どうぞ走って下さいと言わんばかりである。距離もたっぷりある。では北海道の林道走行の開始だ。

美深町側起点
美深町側の林道起点

 道の名前はスーパー林道美深歌登線。砂利が敷き詰められ、整備が行き届いていて走り易い。なだらかな登りに適度なカーブが続く。本来スピードを出して走る旅はするつもりはないのだが、自然と速度が上がってしまう。こきみ良く体に伝わるダートの振動がよい。深い谷底がある訳でも無く、カーブでの対向車に気を付けていれば危険を感じない。それが後で恐い思いをすることとなった。


峠の看板
峠の案内板

 そんな訳で峠まではあっという間に着いてしまった。峠はちょっとした開けた高原のよう。あまり峠らしさを感じない。峠からは北西方向に函岳への登山道(函岳レーダー道路?)が分岐していて、側に小さな小屋が建っている。峠の標識には「歌登45Km、美深26Km、函岳10Km」とある。
 道の脇にちょっとした広場があり、左の写真に示す遭難予防案内板なる物が立っている。避難路が示されているが、一体何から避難するのかよく分からない。


 歌登町側の林道はこれまた走り易い。写真の様に何処までも真っ直ぐな道が続いていたりする。本州などでは見られない北海道ならではの林道だ。このスーパー林道は全般的に高低差がなく、また木々に囲われて視界が広がらず、あまり景色を楽しむことは出来ない。また本州の峠道の様な味わいも感じられない。代わりに長距離の林道走行を楽しむには打ってつけのようだ。
 歌登町側の林道後半は1996年7月現在道路工事の真っ最中であった。地図に無い分岐も幾つかあったようだが、道が入り乱れ何処をどう走ったかよく分からない。丁度雨が降っており、土が露出した工事中の道では車は泥だらけになってしまった。

歌登町側の林道
歌登町側の林道

歌登町側の分岐
歌登町側にある分岐

 適当に走っていたがそれでも写真の分岐に出た。道路標識には「↑歌登28Km、27Km仁宇布→」とある。昔の仁宇布から歌登への道道(1017号だと思う)はここを通っていた。右から来てここを右折して行くのだ。ご覧の通りの未舗装路で、以前走った事が懐かしい。現在の道道120号はここをバイパスするトンネルを抜けるコースが完成し、全線舗装の道となっている。
 直進すれば程なく道道120号に出る。なるべく長く未舗装路を走りたければ右折して仁宇布方面に向かえば、やはり道道120号へ出るまでのしばらくの間ダート走行が楽しめる。しかし1996年7月現在途中道路が半分決壊していた。調子に乗ってスピードを出して走っていた私は危うく転落しかけた。


 気付いた時はもう遅く、道が半分なくなり、崖が大きく口を開いていた。その手前では到底止まれそうにない。ハンドル操作で辛うじて通過した。車を停め、降りて戻って見て、足が震えた。崩れ落ちずに残っていた道幅は軽自動車がやっと通れる幅しかなかった。それもいつ崩れてもおかしくない状況である。もし安全に決壊箇所手前で停止していたら、間違い無く通過は諦めて引き返していた。こんな辺ぴなところで事故を起こしたら誰も助けには来てくれない。

道路決壊
道路決壊箇所

 のんびりゆっくり噛み締める様に走るんだといつも自分に言い聞かせていたつもりが、なんて馬鹿な事をしたかと自分に腹が立った。旅で最も重要な事は無事に旅を終わらせる事。無事でいればまた旅ができ、通れなかった道もいつかは通れる様になる。無理はせず、気長な旅人生を続けたい。


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