ホームページ★峠と旅  

国見峠  峠を越えて九州の秘境椎葉村へ


国見峠
国見峠  奥が椎葉村
左側の看板に「上椎葉まで約40分」とある
 九州には山深さを感じさせてくれる味わいのある峠道はあまり多くない。山深い所はあるにはあるが、味わい深い峠道が通っていないのだ。そんな訳でこれまでこのホームページには九州の峠道をあまり掲載していなかった。これでは「峠リスト」の名がすたる。何かなかったかと思い巡らし、九州地方の地図帳を繰っていた時に、ふと思い出したのがこの国見峠である。 

 旅を始めた当初、どこでもいいから辺ぴな所はないかと、日本中の地図を眺めてはいろいろ物色していた。そして九州地方では早くから「椎葉村」に特に目を付けていた。それは地図や観光ガイドを見ると、「秘境」の文字が「椎葉村」と対を成して現れてきていたからだ。その当時、会社の同僚で椎葉という名字の者が居たこともあり、椎葉(しいば)という文字と、その音の響きが私の脳に刻まれることになった。 

 九州にはいろいろな観光地がある。長崎や阿蘇、桜島などは誰でも知っているだろうし、私も人並みにそうした所を旅行したことがある。それらのそうそうたる有名な観光地と肩を並べて、私には「椎葉」は九州地方において見逃せない魅力的な場所となっている。その憧れの椎葉を最初に訪れた時に、この国見峠を越えて行ったのだった。 

 宮崎県の五ヶ瀬町から椎葉村に通じる国道265号は、現在は国見トンネルでその町村境を難無く越えてしまっている。しかし私が訪れた時はまだトンネルの影も形もなかった。今では旧国道となってしまった国見峠を越える道を、その時のツーリングマップでは「酷道」と称していた。 

眺め
五ヶ瀬町側の峠道からの眺め  なんと山深いこと
 期待と不安で五ヶ瀬町側より登り始めた峠道だが、「酷道」の文字に嘘はなかった。やたらに狭い。また枯れ葉がアスファルト路面まで溢れ出し、あの廃道の雰囲気に似ているではないか。路傍にぽつんと立つあの青いおにぎり型の国道標識が、何かの間違いではないかとさえ思われ始末だ。途中で車を止め、暫し様子を窺う。通る車は勿論なく、辺りはしんと静まり返っている。何だか怖くなる程で、急き立てられる様にまた車を走らせる。 
峠と五ヶ瀬村側の眺め
五ヶ瀬町より峠に着いた  右が峠、左に広がるのが五ヶ瀬町側の谷間の眺め 
椎葉へようこそ
峠にある「秘境椎葉へようこそ!」の看板
 峠付近は、途中までの暗い道とは打って変って明るく開け、眺めがすこぶる良い。特に五ヶ瀬町側は道が谷間を大きく蛇行して来ている為、着いた峠からそれまでの道筋が谷底遥かに見下ろせて、それは壮観である。国見峠の道はその周囲の山深さと共に、この登って下るという峠の味わいが魅力的なのだ。 

 峠には「秘境椎葉へようこそ!」と書かれた看板が立っている。秘境、秘境と連発しては地元の方に悪いかも知れないが、こうして看板にもあるなら許してもらえるだろう。これと全く同じ看板をあの椎矢峠でさえも見掛けた。峠に着き、これで念願の「伝説とひえつき節の里」へ一歩踏み込んだのである。 

 峠は稜線に対して直角ではなく、かなり斜めに横切っている。ほとんど稜線に沿っていると言ってよく、よって峠は切り通しの形とはならず、空が大きく広がった明るい峠である。峠には石碑と「火の用心」と大書された看板などが立っていたが、石碑に何と刻まれていたかは全く記憶がない。 

 峠直前では左手に五ヶ瀬町側の谷間が見えていたのが、峠を境に今度は右手にいよいよ椎葉村側の谷間が広がりだす。「上椎葉まで約40分」とある看板に、まだそんなにあるのかと思いつつ峠を下り始める。 

峠からの眺め
峠からの眺め
下椎葉
椎葉村の十根川に降り立った
 椎葉村側の道も、負けじと大きく蛇行して、いろいろ変化を見せてくれる。のんびり行きたいところだが、今日の日も既に西に傾きかけてきたので、やや先を急ぐ。道は木浦谷から十根川に沿う道と変わった。このあたりからは道幅も十分あり、走り易くなる。しかしまだまだ寂しい道で、目指す上椎葉まではかなりの距離を残している。今日のねぐらも決まっていない身の上では、寂しさも倍増である。 

 下椎葉で国道327号を合わせて、国道265号は今度は耳川沿いを上椎葉ダムの方へ遡る。 

 しばらくして国道脇に並ぶ上椎葉の集落を通過する。車を止める代わりにのんびり流しながら見物する。やや観光地化された雰囲気はあるが、まあガイドブックに載っている日本の秘境とはこんなものだろう。何処かの宿にでも泊ろうかと思ったが、秘境らしい秘境で野宿をするのもいいかと、さらに先に進む。 

 上椎葉ダムを過ぎた先で国道を離れ、ダム湖の右岸の山腹を通る林道に入り込む。日はいよいよ西の山陰に隠れてしまい、野宿地探しを急かせてくる。そしてやっとの思いで設営した秘境での野宿は、深夜の強風にテントを飛ばされ、初めての椎葉での一夜は手厳しい歓迎を受けることとなった。 

 上椎葉ダム
上椎葉ダム


 峠道状況(1992年4月)

 酷道とは言え、全線舗装だから心配はいらない。しかし国見トンネルが出来てからの最近のことは分かりませんので悪しからず。 


国見峠Part2

峠と旅        峠リスト