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美杉峠  こじんまりした優等生の峠道


美杉峠
美杉峠  奥が上勝町

 またしても四国の峠である。四国には毎年の様に行っているので四国の峠道を取り上げることが多くなるのは仕方がない。

 徳島県の那賀郡相生町内山と勝浦郡上勝町福原とを結ぶ林道杉地臼ヶ谷線の町境の峠は名を美杉と言う。美しい杉の峠とはあまりにも優等生的な命名である。この道は比較的新しく作られたもので、昭和59年(1984年)11月の開通だそうだ。それまで両町の間には内山越や蟹ヶ峠を徒歩で越える交通手段しかなかったのが、この林道の開通で車での往来が可能になったものだ。古いツーリングマップでは深ジャリの未舗装とあるが、今は既に完全舗装となっている。

 相生町で那賀川と並んで走る国道195号を行くと、真っ赤なアーチ型の鉄骨が目に引く紅葉(もみじ)橋を渡る。那賀川に注ぐ紅葉川に架かる橋で、その橋の袂より県道292号西納大久保線が始まっている。短い県道で紅葉川沿いの狭く薄暗い中を行くと、6Km程で右より来た県道291号竹ヶ谷鷲敷線に乗り継ぐ。県道沿線にはポツリポツリと僅かな戸数の集落があるばかりで、人影は紅葉橋近くで釣り糸を垂れていた釣り人ひとりを見ただけである。

国道195からの分岐
相生町側 国道195号から県道292号が分岐

杉地臼ヶ谷線分岐
県道291号線上で道標が出ている
直進は竹ヶ谷、右折は上勝、杉地臼ヶ谷線

杉地臼ヶ谷線分岐
右に杉地臼ヶ谷線を分岐する
月ヶ谷温泉まで13.5Kmの看板

 目指す美杉峠への道は県道の途中で右に分岐していることになっている。分岐を見落とさまいと注意していたが、今までずっと紅葉川の左岸を通ってきた県道が右岸に渡って間もない所で分かり易い道標が出ていた。道標には県道直進は竹ヶ谷(たけがたに)、右折が上勝、杉地臼ヶ谷線とある。県道の方は竹ヶ谷集落で道が終わっているが、林道の方は隣町に抜けているのだ。その意味でこの林道の分岐は重要であり、それまでろくな道標が無かった県道に、デカデカとこの分岐の道標が出ていたのだろう。分岐の付近は集落で製材所があり、積まれた木材の間を抜けて林道が分岐していた。

杉地臼ヶ谷線分岐
杉地臼ヶ谷線分岐  製材所の木材の間を通る

峠の石柱
峠の石柱  約3mの高さがある

 淡い期待を持っていたがやはり林道はどこまで行っても舗装路のままだ。路面のアスファルトが艶っぽく、白線の白さが眩しい、やけに真新しい道だと思っていると、前方を1台の舗装工事の車両が走っていた。ほんとに出来立てのホヤホヤである。途中未舗装林道の分岐があるが、これなら道を間違う事はない。それにこの峠道の入口にもあった「月ヶ谷温泉まで何々Km]という看板が道の随所に出てくる。月ヶ谷温泉は峠道を抜けた先にあり、この看板が道案内役でもある。

 上りにかかると薄暗い谷から開放されて晴れ晴れしてくる。しかし杉木立によって視界が遮られ、あまり展望がきかないのが残念だ。

 峠に近づいてやや展望が良くなるが、それでも写真に納める様な景色は路上からは望めない。邪魔な木を避けるために崖にでも少しよじ登ればよいのだろうが、崖も簡単には登れそうにない。

 峠直前に1台の車が停めてあった。その近くを老夫婦が散策している。峠道の旅では人を見掛けることが少ない。それでも美杉峠の様な、さして険しくない峠道ではこうした微笑ましい光景に出会うことがままある。さらに険しい峠道になると、景色も見ないで疾走する数台のオートバイや我物顔で走る大型の4輪駆動車に出会う程度だ。中にはたったひとりでやってくる薄気味悪い男が居たりもする(俺のことか)。ただ峠旅で間違ってもキャピキャピのギャル(もう死語?)に巡り合うことは絶対に無いのである。

峠
峠  奥が相生町  石柱が見える

上勝町側の眺め
峠近くより上勝町側を眺める

 老夫婦に要らぬ不安を覚えさせない様に少し離れて車を停める。峠には「ハイ峠ですよ」と言わんばかりに峠の名前を標した石柱や林道標識が並んでいた。美杉峠はその名が示す様に一帯を奇麗に杉が植林され、峠には峠名の標識があり、標高も680mとさして高くもなく、のんびり老夫婦が散策に訪れる完全舗装の全く優等生の峠道である。ただ峠の石柱の高さが約3mと高いのが、唯一の自己顕示であった。

 峠で西に一本林道が分岐していた。上勝町側に少し下ると展望が開ける場所がある。やっと景色を収めた写真が撮れた。

 上勝町側は東西に走る峰の北側にあり、相生町側に比べるとやや暗い感じを受ける道となる。谷に下れば尚更だ。ただただもくもくと走る。距離も短いので遂に途中で車を停めるきっかけもないまま、集落が前方に見える所まで来てしまった。右に流れる川に「天泊り渕」という看板が小さく出ている。試しに覗き込んでも何のこともない。

 持っていた地図が古くて、県道に出る所で迷ってしまった。道は直接県道に出るのではなく、勝浦川の右岸に出来た道に突き当たる。そこを県道と勘違いして暫く右往左往してしまった。それでもどうにか次なる目的の剣山スーパー林道に入り込むことができた。

上勝町側の集落近く
上勝町側の集落が見えてきた  右に天泊り渕


 峠道状況(1997年9月)

 峠道はもう手後れの完全舗装である。快適2車線路とはいかないまでも、道幅が十分あり窮屈な思いをすることもない。相生町側の県道からして既に交通量激減の道で、のんびり流すとよい。


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