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中山峠   峠の茶屋跡は広場を残すだけ


<掲載 1998/ 8/23>

峠
中山峠  田島町より見る
右にカーブして舘岩村に下る
車の背後が昔茶屋があったと思われる広場

 中山峠の道は寂しさを感じさせる。
 世の中にはもっと長く、もっと高く、もっと険しく、もっとひと気のない峠道は他にいくらでもある。標高の高い峰を越える山岳道路などでは、初めから越える者などほとんどなく、人を寄せ付けないくらい厳しい自然の中にあり、怖く寂しい峠道がある。しかし中山峠の道はそうした意味の寂しい峠道とは違う。元は国道であり、道は狭いながらも完全舗装で、距離もそう長くはない。しかも昔は峠に茶屋まであったそうだ。それなのに今はなぜか寂しい峠道なのである。
 ここで言う寂しい中山峠とは福島県の舘岩村と田島町との境の旧国道352号の峠である。中山と呼ばれる峠は沢山あるが、この中山峠より寂しい中山峠はそうないのである(あったらメールを下さい。確かめに行きます)。

 道は舘岩村からは現国道352号の八総という集落より分岐していることになる。しかし国道の分岐には「会津高原リゾート」と大きな看板が立ち、確かにそのまま分岐した幅の広い道をうっかり真っ直ぐに行ってしまうと、峠の旅人としては場違いな所に出てしまうのだ。このあたりはゴルフ場やらスキー場やらリゾートホテルやらキャンプ場やらと、観光開発が進んでいる。
 1度田島町から峠を越えて来たことがあったので、2度目に来た時はまさか道に迷うなどとは思わず極めて楽観していた。それが悪かった。まず国道からの分岐をあっさり間違え、会津高原たかつえカントリークラブを一周見学してしまった。一度国道に戻ればいいものを何とか賢く軌道修正しようと勘を頼りに脇道に入ったら、スキー場からリゾートホテル、キャンプ場と全く利用する積もりのない観光施設を片っ端から見て回ってしまった。それでもまだ目的の峠道が見つからない。キツネにつままれたと言うやつだ。峠道の入口は忽然と消え失せてしまった。

舘岩村側の国道からの分岐
国道352号福島県舘岩村八総
左に旧道が分岐  「会津高原リゾート」の看板が立つ
この分岐の少し手前に「会津高原たかつえ
カントリークラブ」の分岐があるので、お間違いなく

旧道への分岐
右に峠道が分岐  何の標識もない
直進はスキー場や高原ホテルへ

 仕方ないので一旦国道からの分岐の八総まで引き返し、そこからじっくり道を探す。そしてやっと見つけた。峠道の入口は広い高原観光地の片隅に、ぽっかり口を開けていた。そこはさっき一度通過した所だが、何の道路標識もなく、何処かに通じていそうな道の分岐には到底見えなかったのだ。「会津高原リゾート」への快適な直線道路から右に下る狭い道で、注意していないと分岐の存在すら気付かない。仮にも元は国道だというのに、後からできた観光地へ続く立派な道路の為に、肩身の狭い思いを強いられている。そのあたりも中山峠の道が寂しく思える理由の一つである。道には樹木が覆い被さって暗いトンネル状となり、周りの華やいだ観光地とは対照的な異次元の世界へでも通じているかの様だ。

 入口から少し入った所に道路情報案内が立つ。そこに「村道 中山線」とあり、この道が行き止りなどではなく、中山峠を越える峠道であるらしいことが、やっと判明することになる。
 道は終始一貫、幅1.5車線の昔からの舗装路。それでも対向車が全くないので、私の軽自動車1台が走るには余裕である。昔もこれで十分だったのであろう。路面は古く、補修が行き届かないのでやや荒れ気味で、アスファルトがはがれている箇所も多い。
 峠までの道筋にこれといった人工物はなく、新道に取って代わられ峠道としての役割も担わなくなった今では、利用する人もほとんどいない道なのだろう。

道路情報案内
入口から少し入った所
道路情報案内に「村道 中山線」とある

峠ノ沢林道の分岐
正面が峠ノ沢林道  右が峠方面
この林道終点で野宿した翌朝

 それでも途中で林道が2本ほど分岐している。一つは峠ノ沢林道で、その行き止りより登山道が始まっている。「峠ノ沢」と言う名からして、どこかの峠を越えているのだろうか。以前その林道終点の僅かな広場で野宿したことがあった。
 もう一つは確か手取林道と言い、これは峠ノ沢線より短く、やはり野宿地を求めて入り込んだことがあるが、薄暗い林道で、野宿などしたいと思える場所などなかった。
 どちらにしろ、よっぽどの理由がなければ、入り込みたいとは思えない林道だ。そこに入り、野宿までしたのだから、その時はよっぽどせっぱ詰まっていたことになる。

 中山峠を越えるなら、断然舘岩村からのほうがいい。舘岩村側は走っていても景色が広がらず、道に変化もないので、あまり楽しめることがない。ただただ観光地から別世界へ逃れてきた寂しさを淡々と噛み締めるのみである。それが最後に木々が被さった暗い道を抜けて峠に到着すると、目の前がぱっと明るく開け、大きな展望が広がる。そこには峠に着いたという実感がある。そして田島町側の下りは空が開けて気分がいい走りができる。
 それが逆に田島町側から登って来ると、おいしいところを先取りしてしまうかっこうになる。楽しみは後にとって置く方がいいものだ。肝心な峠も景色に見とれてうっかりすると通り過ぎてしまい、急に暗い下り坂になって初めてさっきのが峠だったなどと気が付くことになる。それでは峠の有り難味がない。そして遂には、訳も分からない広い道路に突然放り出され、折角寂しさに浸っていたのに無理矢理現実世界に引き戻されるのだ。後味が悪くてかなわない。

峠
舘岩村側より峠を見る
峠の先がぱっと明るい

峠からの展望
  峠より田島町側を望む
生憎の天気でいい写真は撮れなかった

 峠では田島町側に広がる景色を眺め、よほど急いだ用事でもなければ休まない訳にはいかない。まあ、ここを急ぎの用がある者が通るとは思えないが。

 この中山峠の南約4Kmには新中山峠(中山トンネル)がある。旧道と新道とは北と南に大きくコースを違えていて、よくある、旧道の下を新道がトンネルで開通したケースではない。どちらも同時に国道352号として認定されたと聞くが、旧道沿いに国道であった証を何ら見つけることはできなかった。しかも今では名前も「村道 中山線」である。道の実態はその名が示す通りである。

 峠は道がくの字にカーブし、その道の外側に膨らむように広場がある。そこに車を止める。雨が降っているのであまり外を歩き回らず、車の中で休む。昔は峠の茶屋があったそうだが、その広場に建っていたのだろうか。静かな車内から息で曇る窓越しに眺めると、そういえば単なる空地とは思えない。今は跡形もないが、確かに以前はそこに何かがあった様な気を起こさせる。雑草が生えたさら地より、無残でもいいから茶店の廃屋が残っていればよかったのにと思う。少なくともそこに茶店があり、この峠道を往来し、そこで休んだ人たちがいたという証になったと思う。ただの空地を眺めて思いに更けるだけでは、また寂しい峠である。

峠の広場
峠の広場
昔、峠の茶屋があった場所だろうか
今は跡形もない

弘法ノ泉
伝説 弘法ノ泉
一体何のこと???

 田島町側は、道幅は相変わらず狭いが、路面状況は心持ちいいようだ。途中「伝説 弘法ノ泉」と看板に出ているので、周囲を覗き込んだが、小さな水溜まりがあるだけで、何のことだか分からない。その先では「会津高原リゾート中山入口」と書かれた看板が立つ林道が分岐している。こんな所にもリゾートが進出してきているのか。道は紛れも無い林道なのだが、こんな恥ずかしい看板が立っていると、かえって入り込めないものだ。そのすぐ隣には広域基幹林道七ケ岳線が道路標識を高く掲げて分岐している。この道は国道121号まで舗装路で抜けられ、また国道282号の方へ長いダートの七ケ岳林道が通じている。残りの中山峠の道を行くよりも全く楽しい道なのだが、峠道ではないのでここで紹介する訳にはいかない。

リゾート中山
会津高原リゾート中山入口
道は紛れも無い未舗装の林道

七ケ岳林道
左に広域基幹林道七ケ岳線が分岐
この道はいろいろな所に抜けられる

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