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小島峠  ちょっと寄り道した四国の峠


<掲載 1998/10/19> 今月の峠 1998年10月

小島峠
小島峠  切り通しの奥が一宇村 手前が東祖谷山村
車の後ろに地蔵が一体
写真には見えないが、切り通しの先の右側に何やら家を建築中
舗装路の左側が広場になっていて、社が一軒

 今年は仕事が忙しい忙しいとばかり言っていて、ホームページの更新ができない言い訳にもしている。でもほんとに大変で、その証拠に峠にもほとんど出掛けていない。仕方がないから去年の今頃に行った小島峠のことでも思い出す。

 四国は峠のオンパレード。地図を眺めていても目移りしてしまう。中でも国道439号は次々大きな峠が現れる。その日も徳島の方から高知に向けて439号を走り、見ノ越しまでやって来た。

R438からの分岐
国道438号より左に小島峠への道が分岐
一宇村伊良原

 見ノ越は剣山への登山口になっていて、リフトが発着している。しかしリフトで頂上まで行ける程あまくはない。リフト終点より更にかなり歩いて登らなければならないとのことだ。山登りに来たわけではないので、急に剣山まで行きたいと思っても、山登りの装備はないし、何といっても体が言うことを聞かないというもの。その代わりに少し寄り道でもしようかと考えた。地図を眺めて峠を物色する。国道をそのまま行けば、次にはあの京柱峠が控えている。その前に、国道438号で一度一宇村に抜け、小島峠という峠でまた国道439号に戻って来る手がある。早速東祖谷山村に下り、直ぐに現れる国道438号の分岐を右に入って、一路一宇村に向かう。

 438号や439号は、国道国道と言ってもこのあたりでは全然国道らしくないのがいい。山深く、狭く曲りくねっていて、ほとんど車が通らない。やや天気が悪いが、途中剣山を眺めたりしながらゆったり走る。その内やっと左に菅生(すげおい)と書かれた道標が現れた。県道261号菅生伊良原線が左に分岐しているのである。ここが小島峠への入口だ。

明渡橋
分岐の角に店屋 その一画にバス停の看板
分岐の先に明渡橋(バス停の名前にもなっている)

県道標識
県道261号の標識
工事看板に「山腹崩壊の恐れ」と、何やら物騒だ

 分岐すると直ぐに一宇川を明渡橋で渡る。分岐した途端前方より道幅一杯のトラックが走ってきた。トラックが大きいというより道幅が狭いのだが、当方軽自動車といえど到底すれ違えたものではない。国道までバックして道を譲る。トラックは手をあげて挨拶し、国道を貞光町の方に走っていった。しかしこの国道も県道とさして道幅に変わりがないのである。

 橋の上に車を止めて暫くあたりを見回る。分岐の角は何かの店屋で、その一画に掛かっているバス停の看板に「明渡橋」とある。なんとこの国道をバスまで走るのか。トラックやバスの運転手も仕事のこととて大変であろうが、それとすれ違う車の方も随分迷惑な話しである。明渡橋を渡った所に県道標識があり、そこに工事看板がくくり付けられている。見ると「山腹崩壊の恐れ」云々。しかし工事期間などは空白になっているので、通行に問題はあるまい。それにあまりそこらをうろついて、写真を撮ったりしてたものだから、店屋の人が中からこちらをうかがっている。不審人物と間違われる前に、とっとと出発しなければならない。

明谷への分岐
右に明谷への分岐 村道明谷線

林道標識
林道標識

 県道を1、2Km行くと、右に明谷(みょうだに)への分岐が現れる。道標には村道明谷線、英語で Myodani Forest Road とある。Forest Road とはいい。林道のことを言っているものと思う。本線は左に橋を渡る。その本線の方も途中で林道標識が出てくる。白井線とある。古い道路地図を見ると一宇村側が白井林道、東祖谷山村側が塔の丸林道とある。現在では全線を県道と言うのか、それともまだ一部を林道と言い習わしているのかは分からない。不確かだが一宇村側にはまだ未舗装が残っていた様な気がする。東祖谷山村側は完璧な舗装路である。

峠からの眺め
峠からの眺め 生憎の天気で視界不良

 峠に近づくにつれて、天候が悪化してきた。雨で煙り、視界も悪く、フォグライトを点ける程である。そして峠に着いた時にはもうどしゃ降り状態となっていた。車からちょっと出ただけでも、全身ずぶ濡れになる有様である。当然眺めるべき景色もない。車の中から峠の様子をうかがう。一宇村側より登ってきた上がり口に家を一軒建築中である。一見普通の民家の様に見えるが、まさかこんな寂しい所に人が住む訳ではあるまい。それでは何の為の家なのだろうかと、不思議に思える家である。

 また、峠の広場の一画に、社がある。失礼して中を開けるとがらんとしている。丁度昼時なのでここで食事を頂くとする。レトルトのカレーとご飯が暖まるまでの十数分の間、鍋から上がる水蒸気と激しく降る雨をただボーッと眺める。

 小島峠からは登山道が始まっている。峠にある登山案内板を見ると、一宇村の西側の峰を行く縦走路が示してある。その縦走路上に旧小島峠1379mという記述がある。現在の車道の小島峠は約1320mだから、ここより60mほど高い所ということになる。小島峠も車道が通じる前に、こうした登山道の峠道があったのだ。現在の車道の一部が旧道と重なっている可能性も高い。最初から山を切り崩して車道を通した峠道より、このような人が歩いて越えたことがある、歴史を重ねてきた峠道の方が重みがある。こうして車で便利に越えてしまってはいるが、それでも峠に対する思いが違ってくる。 

登山案内
峠にある登山案内

国道439
国道439号に出たところ
橋を渡って右に行けば京柱峠に通じる

県道261号終点
県道261号終点
車の右横の小さな道標に「小島峠」と記されている

 カレーを食べてしまえばもうすることはない。さっさと片付けをする。車に乗り込み峠を出発しようとすると、どこからともなく2匹の野良犬が現れた。野犬の多い四国である。雨の中をその2匹は暫く峠の広場をうろついていた。何か食べ物でもやろうかと車の中を捜している内に、また何処かへいなくなってしまった。私も峠を立ち去ることにする。

 舗装の県道を下る。登りは峠に着くという目的があるが、下りは張り合いがない。道の途中に何か寄り道する場所はないかと思って見てはいたが何もなく、まったく寂しい道である。その内に狭い道に突き当たった。何の分岐だろうかと思ったが、なんのことはない、国道439号に出たのだ。国道も県道に負けず劣らず狭く寂しいのである。その後国道を京柱峠に向けて進んで行った。

 1年以上前の小島峠のことを写真など見ながらぽつぽつ思い出してみた。特にこれといって印象深い峠ではなかったが、それでも私が自分で越えた大事な峠の一つであり、大事な記憶の一部である。ただこうして思い出すだけよりは、実際にどこかの峠に出掛かられた方がよっぽどいいに決っている。休みが欲しいものだ。


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