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辰巳峠  中国地方の雪の峠

辰巳峠(再訪) <初掲載 2018. 2. 3>


辰巳峠
辰巳峠 先が岡山県

 中国地方にはあまり印象に残った峠がない。瀬戸内海を隔ててお隣りの四国は峠の宝庫なのだが、中国地方はなだらかな地形が多く、険しい峠があまり存在しないのだ。

 それでも幾つか記憶に残る峠がある。そのひとつがこの辰巳(たつみ)峠である。鳥取県八頭郡佐治村栃原と岡山県苫田群上斎原村宮ケ谷とを結ぶ標高786mの県境の峠である。以前は主要地方道江府中和用瀬線の峠であったが、現在は国道482号線となっている。

 辰巳峠は暮れも押し迫った12月31日に通過した。雪であった。

 年末年始を利用しての中国地方の旅の途中であった。国道53号を用瀬(もちがせ)町市街より佐治川沿いの国道482号に折れる。道は直ぐに佐治村に入った。天候は悪く今にも雪がちらついてきそうである。この先峠が越せられるかやや心配だ。

 峠道としては佐治村側の方が楽しい。すなわち険しいのである。進むにつれて集落がまばらになる。数戸の家がかたまった小さな集落をひとつ過ぎると次の集落までしばらく人家が全く途絶える寂しい道だ。道路脇にもちらほら雪が目立って来た。

佐治川ダム
佐治川ダム 手前が峠方向

 小さなトンネルを抜けると右手にダム湖があった。佐治川ダムである。路面にはまだ雪はなかったが、運転がやや緊張気味で疲れた。気持ちをほぐす為にも少し休むとする。ダム湖脇の駐車場に車を停めた。エンジンは切る。物音ひとつしない。暖気を逃がさない為にもあまり外には出ず、車内でじっと湖面を見つめる。エアコンを止めたので吐く息で窓ガラスが曇っていく。大晦日にたったひとり、こんな辺ぴなところで車の中に閉じこもり、自分は一体何をやっているのかと思う。

峠の看板
峠の句碑と案内図

 佐治川ダムを過ぎ、人家も途絶えると雪道となった。4輪駆動に切り替え尚も慎重に運転する。雪道では以前痛い目に合っている。

 急坂や急カーブをひとつずつ丁寧にこなす。目の前の道を乗り切ることだけに集中していると時間を忘れる。気が付くと峠に着いていた。

 峠の鳥取側には句碑や佐治村の観光ルート案内図がある。「和紙と民話・なしとやる気の里」佐治村とある。案内図に並んで人形峠の宣伝がある。例の原発関係だ。

 他にも峠には「辰巳峠」の石柱とその隣りに小さな地蔵が雪の中に立っていた。古くは田住(たすみ)峠とか田角(たつの)峠とも言われていたそうだ。それを現在は辰巳の字をあてている。第2次対戦前は畦道の様な峠道だったのを、昭和36年に佐治林道として車が通れるようになり、主要地方道を経て現在の国道に至っている。今の峠は予想以上に広かった。

 峠を岡山県側に下る。道は鳥取側に比べるとなだらかで、間もなく路面の雪も消え失せ走り易くなる。そしてそれだけ記憶にも残らない。後は今夜の宿泊を予約している松江までまだ長い道程が残っていた。

峠の石柱
峠の石柱と小さな地蔵


 峠道状況(1994年12月)
 12月の峠前後は雪だったが、しっかり雪の装備をしていけば越えられる。雪がなければちょっと険しいただの国道である。


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