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鵜峠  旧道の小さな峠道


鵜峠
鵜峠 先が土成町側

 鵜峠は「うのたお」と読む。香川県白鳥(しろとり)町と徳島県土成(どなり)町とを結ぶ国道318号の旧道の峠である。現在の国道は鵜の田尾(たお)トンネル1769mが通じている。田尾とは峠を意味するそうだ。

 旧道は丁度トンネルの区間を約6Km程の山越えの道として残されているものだ。新道を行けば2分と掛からないところをわざわざ2〜3十分掛ける。でも静かな小さな峠道の旅である。

 香川県の白鳥町側から峠を目指す。国道318号は2車線の走り良い道路だ。平地ではほぼ直線的に南下する。夏の暑さも過ぎ、秋晴れの清々しい日である。窓を全開にし車内に入れた風が心地よい。

 前方から山並みが近づく。谷に入ってからやや進路を西にとる。道は相変わらず快適でそのままトンネルに繋がっていた。

国道318
国道318号を南下

鵜の田尾トンネル
左に旧道、上は鵜の田尾トンネル

 トンネルの僅か手前左に駐車場がある。旧道はその駐車場の直前を左に分岐し、駐車場横の下を通っていく。駐車場には電話ボックスと道路案内があった。それによるとトンネル火災発生時の迂回路として旧道を使えとのこと。

 鵜の田尾トンネルは1986年3月に新国道として生まれた。その時以来旧道と呼ばれる様になった道に入る。直ぐに「大型車通行規制」の道標がある。8mを越えるトレーラは不可とあるが、8m未満でも通るのは厄介ではないのか。

 道は駐車場の先で橋を渡り、新道のトンネルとは反対の、あらぬ方向に向けて上り始めた。

 旧道というのは独特の雰囲気がある。
 険しい山岳道路でもそれがその場所での主要道であれば、それなりに道として整備がされている。未舗装の林道だとしてもそうだ。定期的に整備が行われていれば、ダートでも道としての体裁が保たれているのを感じる。ところが旧道となると利用価値が極端に落ち、人の手が入らなくなり、整備も行われない。するとそれがかつては8m近いトレーラも通ったであろう国道でも見る影もない哀れな道となる。
 しかしそんな旧道の雰囲気を楽しむのも峠旅だ。

旧道の様子
旧道の哀れな様子

旧道の看板
旧道の道標

 白鳥町側の道はあまり展望がない。それでも閉ざされたトンネルをくぐるよりよっぽどましである。少し高度を上げればすこし見晴らしもきく。

 道端には昔の道路標識がそのままになっている。錆びつき、朽ちかけ、壊れた姿を徐々に草木が覆い隠していく。もう誰もかえりみない道標など、この道が役に立っていた頃の名残をひとつひとつ眺めながらゆっくり上っても、峠まではさほどの時間も掛からない。

 白鳥町から上って来ると峠の先がぱっと明るい(一番上の写真)。

 峠には国道標識「318」が傾いて立っている。これが元国道であった証拠である。道を挟んで国道標識の反対側には今では懐かしい「飲んだら乗るな乗るなら飲むな」の木の柱の看板がやはり傾いて立っている。

峠
峠 奥が白鳥町

峠からの眺め
峠からの眺め

 峠より土成町側は大きく展望が広がる。白鳥町から来て峠の先が明るかったのはそのせいである。

 トンネルができる前は誰しもが眺めた景色だろう。旧道となる前からほとんど変わらない山々の姿である。しかし今はわざわざさびれた峠道を越えてくる変わり者の為の眺めとなった。新道を通ってはこの景色は得られないと思うと、ちょっとした優越感を覚える。

 土成町側を下る。明るく空が開け、晴れ晴れする。途中振り返ると峠が望めた。

 車が一台道端に止めてあった。その近くを老夫婦が散策している。山菜か木の実でも探しているのだろう。現役の国道だった頃にはそんなのんびりしたことはできなかった。旧道となり、通る車などほとんどなくなった今では、安心して散策もできるという訳だ。

峠を望む
峠を望む 中央の窪んだ所

新道を望む
新道を見下ろす

 谷を回り込み、西に進路が向くと左手下に道筋が見えた。トンネルを抜け出た新道である。旧道はトンネル出口近くまでそのまま下って新道に合流する。そして新道を今度は東に向かって走り出すことになる。

 旧道はものの見事にトンネル区間だけをバイパスしている。効率だけ考えれば旧道は全く非効率的である。その非効率が峠旅の信条だ。


 峠道状況(1997年9月)
 旧道としての荒れはあるが元は国道、普通の乗用車でも何ら問題なし。


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