ホームページ★峠と旅
舟ヶ鼻峠
ふねがはな とうげ
 
名前も実体も複雑な峠道

<初掲載 2000.11.26>
  
舟ヶ鼻峠
舟ヶ鼻峠 (撮影 1997. 8.14)
正確にはここは舟ヶ鼻峠ではなく、国道400号から県道346号の分岐点
でもここが道の最高所であった
手前が国道で福島県昭和村へ、直進が県道で下郷町へ、右は国道が舟ヶ鼻峠を経て田島町へ続く
  

下郷町市街より県道を峠に向けて走る
途中、県道131号は右に折れた(道路標識では大内)
峠へは直進の県道346号を行く(道路標識では昭和)
 この峠の名前には、いろいろな書き方や呼び方があって、憶えにくくて厄介である。書き方では「舟ヶ鼻」とか「舟鼻」、「船ヶ鼻」、「船鼻」。呼び方も「ふねなは」とか「ふなはな」、「ふねがはな」、「ふながはな」。どれを使ったらいいか、分からなくなってしまう。ここでは独断的に「舟ヶ鼻峠」(ふねがはなとうげ)とさせていただく。

 舟ヶ鼻峠は福島県の昭和村と下郷町の境にある、国道400号の峠である。福島県のこの附近には峠が多く、道を走っているとどこかしらの峠を越えることになる。舟ヶ鼻峠もそんな峠の中の一つで、随分前に越えた時は、特別印象に残る峠ではなかった。それなりに山深く、標高も1000mくらいあるが、国道の峠でもあり、他にいくらでも険しい峠があるので、写真を撮ることもなく、ただ通り過ぎてしまっていた。

 それが、3年ほど前に訪れてみると、様子が変わっていた。舟ヶ鼻峠は、名前だけでなく峠道の実体も複雑でまごつく存在になっていたのだった。
 この時、峠へは本来の峠道である国道ではなく、下郷町から県道131号、346号と走り繋ぐことにした。峠に行きたいというより、この県道をまだ走ったことがない、というのが旅の理由である。

 
 下郷町の市街地から県道に入り、間もなく道路標識に、直進「昭和」、右「大内」と出てきた。どちらも細い道である。
 「大内」は下郷町にあり、往時は日光街道の宿場町として栄えた。現在はその大内宿の町並みを再現してあり、訪れる観光客も多いようだ。知らずにその町並みの中に車ごと入り込み、人垣を掻き分けて引き返すのに苦労した覚えがある。

 大内への分岐を過ぎると、県道は346号・舟ヶ鼻(funegahana)下郷(shimogo)線となった。県道の名前に「舟ヶ鼻」と出てきたので、峠のことも「舟ヶ鼻峠」と呼ぶことにしたのである。
 下郷町の市街を離れてからずっと、この県道沿いには大きな集落らしきものが見当たらなかった。人家はポツポツあったのだろうが、ほとんど記憶にない。峠を越える道ではあるが、勾配もなだらかで雰囲気も穏やかそのものだ。少なくとも険しいと言うほどの道ではない。
 しかし、こうした道の方が、かえって寂しさを感じる。険しい山岳道路ならいざしらず、これだけの道が通じていて、人の気配があまり感じられないことが寂しいのだ。全く私好みである。
 道は峠が近付くにつれて、その寂しさに拍車が掛かり、この道を選んだのは正解だったと思った。


県道346号
舟ヶ鼻(funegahana)下郷線(shimogo)線
国道400まで6.5km 下郷町戸赤
  

右に「田島」への分岐
いつの間にやら道は国道400号になっていた

田島への分岐を反対側より見る
直進が「下郷」
こちら側の道路標識には国道400号の表記はない
 
舟鼻トンネル
舟鼻トンネルの下郷町側
ここが新しい舟ヶ鼻峠である
 地図を見る限りでは、県道はこのまま峠付近で国道に突き当たる筈だったが、途中で訳の分からない道路標識が現れた。直進が「金山、昭和」で、右に分岐して「田島」とあり、見ると如何にも細い道が登っている。田島町は進行方向の左手方面にある筈なのに、どういうことか・・・。
 しかも、直進する方の道の表記は国道の400となっている。気が付くと、さっきまで私好みの道だったのに、今はセンターラインのある、比較的新しい立派な道になっていた。

 とにかく前進すると、今度はトンネルが現れた。舟鼻(funehana)トンネルとある。峠道に新しくトンネルが開通することは、よくあることだが、この場合はおかしい。トンネルの先は昭和村だろうが、それなら田島町から下郷町を通って登ってくる筈の国道がないではないか。国道は一体どこへ行った?

  
 舟鼻トンネルを抜けると、道は平然と下っていく。どうなってしまうのかと思っていると、また大きな道路標識が出てきた。国道400号を走っている筈が、また、T字で国道400号に突き当たるというものだ。左が金山・昭和で、右が田島とある。だんだん読めてきた。

 突き当たったのは以前通ったことのある元々の国道である。右に折れると間もなく一番上に載せた写真の峠に行き着いた。国道に県道が合流する地点である。普通なら、本来の峠道である国道に対してトンネルが造られる。しかし、舟ヶ鼻峠の場合、頂上で合流する県道の方に先にトンネルが造られたのだ。
 この状態を言葉で説明するのは難しい。結果的には1本の国道から1本の県道が分岐しているだけなのだが、それが峠で立体交差などするもんだから、頭の中が混乱するのである。平面的な道でも迷子になるのに、それが3次元となると、もう手に負えない。


舟鼻トンネルの昭和町側
  

舟鼻トンネルを抜けると、本来の国道に突き当たった
道路標識は左:金山・昭和、右:田島
だんだん事情が飲み込めてきた
 後日、最近のツーリングマップルを買って調べてみると、きっちり舟鼻トンネルが書かれていた。最初にこれを見ていれば、そう戸惑うことなどなかった。
 それに、県道がトンネル手前より国道表記になっていた謎も解けた。マップルには点線で国道の改修予定が描かれていたのだ。それによると、国道は舟ヶ鼻峠の下郷町側の手前で大きくコースを変え、先ほどの県道に合流する形でトンネルに入るらしい。そうなれば非常にスッキリする。道の改修が中途半端な状態だから、こんなにも複雑だったのだ。

 折角トンネルができても、国道で峠を越えようとすると、これまで通り狭い峠道で越えなければならない。県道が分岐する地点などは、新しくできたトンネル附近の2車線路とは別世界の感がある。

 これも後で気付いたことだが、県道が分岐する地点は、船ヶ鼻峠ではなさそうなのだ。地図をよく見ると、国道は分岐を過ぎてから尚も昭和村側を少し走り、それから下郷町に入っている。そこが舟ヶ鼻峠らしいのだ。
 県道分岐点は最高所のようだったし、県道からしてみれば、確かに峠ではある。しかし、舟ヶ鼻峠ではない。本当の舟ヶ鼻峠は、何となくあそこだったのかと、ぼんやり記憶にはあるが、残念ながら写真には撮ってない。全く舟ヶ鼻峠は、どこまでも厄介な峠である。

 
 この峠の名前の由来は、峠より西に延びる稜線上にある、舟ヶ鼻山(こちらも船鼻山とかいろいろ)によるものだ。山の形が、舟を逆さに腹を上にして干したように見えるので、舟ヶ鼻となったそうである。
 峠を通る国道400号の前身は、県道田島金山線で、峠はその県道一番の難所であった。

 頂上の県道分岐点からは、昭和村側に下らずに、国道400で田島町へ出ることにした。途中、下郷町側に大きく視界が開けた所があったと記憶するが、多分そこが峠だったのだろう。
 国道は下郷町を少し走ると、直ぐに田島町に入る。しかし、どこが町境だったのか気付かなかった。道の雰囲気は県道舟ヶ鼻下郷線に比べると、ずっと峠道らしい。深い谷間に吸い込まれるように、どんどん下って行く。


田島町へ向けて峠を下る
県道に比べると、ずっと峠道らしい
  

田島ダム近辺の様子
 峠道の気分を楽しんだ後は、田島ダムの工事現場が左手に現れた。ちょっと立ち寄ってみると、鉄筋もあらわに、建設真っ最中である。ツーリングマップルにあった国道の改修予定も、このダム建設と大いに関わっているのだろう。

 

 早いもので、あれからもう3年前も経つ。まだダムや国道改修は完成していないと思うが、もし完成すれば、舟ヶ鼻峠は寂しい峠になることだろう。その頃また訪れて、今度こそしっかり峠を見てきたい。
 

おわり 
 

田島ダム建設中

田島ダム建設中(正面)
 
峠と旅