サラリーマンのちょっと一言
 
100円ショップ症候群
 
 
 
 
 
 私はケチである。旅をしても野宿をするか、さもなければその町で一番安い旅館やホテルを探して泊まるし、食事もカセットコンロでお湯を沸かし、ラーメンやうどん、やきそばといった即席物で済ませてしまう。それならLPガス代も含めて1食100円以下である。
 
 会社でも飲み物の自販機は絶対に使わない。1リットルの紙パック入りコーヒー牛乳を88円などという特価で数本まとめて買っておき、それを毎日500ミリリットルの水筒に詰め、会社に持っていってちびちび飲む。そうすれば1日50円もかからない。自販機を1日に2度も3度も使う事に比べたら格段にローコストである。
 
 
   私はケチといっても、闇雲にお金を使うのが嫌だというのではない。同じ程度の効果を得るのに、なるべくお金を使わずに済ませたいと考えているのだ。野宿でシュラフの中で寝るのと、ホテルでベッドの上に寝るのとでは、それはかなり効果の違いはあるかもしれないが、寝る事には変わりないのである。
 
 ホテルならいくら安くても1泊5,000円はくだらない。野宿なら安物のテントやシュラフを何度も使い回しているので、1回あたりのコストなど数100円である。野宿はちょっと体にこたえるが、1回につき数千円から1万円近くも倹約できたと思うと、それだけで十分満足である。
 
 そこで最近100円ショップの利用が多くなってきている。普段の生活で何か必要に迫られると、まず100円ショップでどうにか間に合わせられないかと考えるのである。パソコン雑誌などについてくる付録のCD−ROMがたまってきたので整理したいと思えば、100円ショップに行ってCDケースを買って来る。棚を吊りたいが木ネジが必要だとなれば、また出掛けて行ってついでに工具なども調達してくる。パソコンに埃が掛かるのが気になればカバーを探す。小物を整理したければ、各種のケースが選り取りみどりだ。他にも電池だ電球だ、接着剤にテープ、クリアファイル、画用紙、潤滑剤、ハンドクリーム、クーラーカバー、数え上げたらきりがない。  
 
 
 
 100円ショップの品は、特にコストパフォーマンスが高いのが気に入っている。同じクリアファイルでもポケット数が10くらいなら一般の店でも時折安売りするが、100円ショップなら48ポケットでも100円のままだ。これは安いと思う。そんなにポケット数がいらなくても、ついつい一番多いポケットのクリアファイルを探して買ってきてしまう。100円ショップは何でも安い訳ではないが、選べばお値打ち品が多いのである。
 
 店の数が増えてきたのも便利である。自宅から歩いて5分の所に比較的大きな100円ショップが1軒できた。他にも会社の帰り道に車でちょっと立ち寄れば、更に数軒は店が選べる状態にある。同じ系列の100円ショップでも店によって品揃えが違うので、1軒目で間に合わなければ、また別の店へとハシゴする事もままである。
 
 また、私は整理マニアである。ビデオテープだとかカセットテープだとか、写真アルバム、CD、工具、ネジやボルト、趣味の電子部品、その他生活雑貨などをこまめに整理したがるのだ。それには100円ショップで売っている各種のプラスチックケースが最適である。これまでは菓子の空き箱などを使っていたが、もうそんな貧乏くさい真似はしなくていい。気のきいたケースがいくらでも選べるのだ。私には店にうずたかく積まれたケースが宝の山のように思え、ついつい沢山買ってきてしまう。  
 
 
 
 100円ショップは品数が豊富だが、残念ながらいい品は直ぐに品切れになる傾向がある。1つ買ってみたらなかなか具合がいいので、また暫くして行ってみると、もう1つもないという事態が度々重なった。店員に聞いてもいつまた出てくるか分からないと言う。そこでそれからは、いいなと思った物は必要個数の倍を買う事にした。
 
 私の節約のモットーは、「必要な時に買うのではなく、安い時に買う」である。必要に迫られれば、高い物でも買わざるを得ない。安い時に余分に買っておけば、その内必要になった時に安上がりで済む。トイレットペーパーなどなら誰でもそうするだろう。私はいろいろな物に対してそれを実践しているのだ。旅で食べる即席物も同様で、次の旅の予定もないのに、多くのストックを抱えている。
 
 ところが、もう2度と出てこないと思っていた品が、再び棚に並んでいるのを見かけると、必要もないのにまた買ってしまうという悪い癖がついてしまった。今度こそ最後だろう、今買っておかなければもう手に入らない、という強迫観念にせかされるのだ。また、以前買った物よりもっといい品が後から売り出されると、悔しくてそれも買ってしまう。
 
 面白そうな物、ちょっと変わった物を見かければ、それにもついつい手が出てしまう。例えばプラスチック製のノギスとか吸盤式バイス(万力)とかだ。これらは本式の物だと数千円はする。それが安っぽいプラスチックとはいえ100円とは安いではないか。
 
 何だか、まんまと店の策略に乗せられている気もするが、とにかく楽しいから仕方がない。あのこまごまとした品物が並んでいる狭い棚の間を、いろいろ物色しながら見て歩くのは、さながら宝捜しである。
 
 
 
 
 会社の出張などで珍しく町中などに出掛けると、偶然100円ショップを見かける機会も多くなった。そんな時は時間が許す限り立ち寄る事にしている。いつもと違う品揃えが楽しめる。また、旅先でも時折見つけるが、さすがにそんな時まで100円ショップに時間を費やすのは無駄だと自分を制し、横目で見ながら通り過ぎるのであった。
 
 
 
 
 こうして100円ショップから買い求めた品は、既に100点は超えるであろう。これはもうほとんど病気である。「100円ショップ症候群」にかかってしまったのだ。最近は100円程度で買える物はほぼ買い尽してしまい、なかなか100円ショップに行く用事がない。すると今度は家の中を探し回り、何か必要な物はないかと、100円ショップに行く口実を見つけ出す始末である。あるいは店でいい物を見つけると、何とかそれを買いたくてしょうがない。そこで無理やり用途を見つけ出して買って来るのである。これはまるで麻薬中毒のようだ。
 
 実は、いろいろ買った物の中には一度も使う出番の無い物も数多くある。ケースやクリアファイルなどは最たる物で、しまって置く場所にも困る程である。整理する目的で買った物を整理しなければならないとは皮肉である。プラスチック製ノギスは測定精度が悪くて使い物にならないし、吸盤式バイスの活躍場など普段の生活には全く見つからない。
 
 
   しかし、仮に100円ショップの品を100個買ってそれが全部無駄になったとしても、金銭的には高々1万円であり、100円ショップ症候群の実害は軽微なのである。ブランド品の服や装飾品を買い集めるのに夢中になる事に比べたら、全くかわいいものだ。しかも、旅用に買った食料は時々賞味期限を過ぎて無駄にしてしまうが、プラスチックケースや吸盤式バイスに使用期限はない。
 
 旅先で、ちょっと疲れていたり小雨が降っているので、今夜は野宿をやめてどこぞの旅館に泊まり、のんびり露店風呂に入り豪華な夕食もしたいなと思う時がある。そのところをグッとこらえ、テントでカップラーメンをすすれば、それ1回で1万円なんて簡単に節約できる。100円ショップの費用を捻出するのなんて、ちょろいものなのである。
 
 それに、時には100円ショップを常用している事でいい面もある。普通のディスカウントショップなどで買い物をする時に、500円、1,000円といった金額が、大金に思えてくるのだ。これだけ持って100円ショップに行けば、5個も10個も買い物が楽しめるではないか。先日も、タオル掛けが欲しくて自宅からちょっと離れたDIYショップに出掛けた。ネジ止め式のステンレス製でバスタオルも掛けられる長いものが800円以上する。以前ならその程度の金額であれば何の疑問も持たずに買っていたが、今はそうはいかない。暫くタオル掛けを手にぶらさげて店内をうろついたが、結局何も買わずに帰ってきた。勿論後日、100円ショップで両面テープ止めの短いプラスチック製を買って我慢したのは言うまでもない。
 
 100円ショップ症候群にかかると、100円より高い物に拒否反応を示す体質になるのだ。そこに無駄遣いを減らす効果がある。ただ最近、旅先での食事が即席物ばかりになっている。レストランに入ったりコンビニ弁当を買う事さえ極めて稀になってきた。1食当たり100円以上使うのがもったいないのである。これも100円ショップ症候群の効果、あるいは副作用かもしれない。
 
 
   このところ、棚を吊ったり小物入れを掛けたりと、家の中のプチ模様替えに凝っている。勿論材料はほとんど100円ショップから調達している。100円ショップに行きたいから模様替えを始めたようなものだ。さて、これが終わったら次はどうしよう。禁断症状が出る前に次の手を考えなければならない。当分、100円ショップ症候群の病状が回復する見込みはない。
 <2003.01.29>
 
 
 
 
 
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