サラリーマンのちょっと一言
 
鬼おんな
 
 
 
 
 
 最近、幼い子供が被害を受けるという、何ともやるせない悲惨な事件の報道が続いている。その中の一つで、山形県の男の子が絞殺された件に関する容疑者の女性が連行され、その様子がテレビ画面に映し出された。たまたまそれを見ていて思わず「鬼おんなだ」と思った。その女性が如何にも凶悪そうな顔をしていたからだ。
 
 勿論それはテレビカメラが一瞬を捕らえた映像であり、その女性が常にそのような顔つきをしている訳ではなく、ほんの一瞬見せた表情なのかもしれない。それにしても、子殺しをするような女性とはこんな顔なのだと、思わず納得してしまいそうな形相であった。
 
 まだ事件の真相は明らかになっていないが、その女性の一人娘が1ヶ月前に水死していた。それが事故か事件か定かでないが、どうもその女性に絡んだ裏の複雑な事情がありそうだと想像させられる。
 
 
   ところで、「鬼おんな」などと古風な言葉が思い浮かんだのには理由があった。以前、「まんが日本昔ばなし」というアニメ番組があり、最近その再放送を時々夕方の時間帯でやっている。子供から大人まで楽しめる内容で、ほのぼのとした絵と声優がよかった。HDレコーダーを買ったので、この頃何でもかんでも録画してあり、つい最近録画した中に「鬼子母神(きしもじん)」と言う話があり、そこに「鬼おんな」が登場したのだった。
 
 話の大まかな内容は、村の子供たちを次々とさらっていた鬼おんなに困り果てた村人がお釈迦様に相談した。お釈迦様は一万人もいる鬼おんな自身の子供の中のたった一人を、少しの間隠してしまった。驚き悲しんだ鬼おんなは、必死になって我が子を探し回った。それを見てお釈迦様は、お前と同じ様に子供をさらわれた村人は悲しんでいるのだと鬼おんなを諭し、子供を返した。鬼おんなはこれに悔いて村人に子供たちを返し、やがて鬼子母神になったという話である(仏教の鬼子母神の話と少し異なるのは、漫画風にアレンジしてある為か?)。
 
 鬼おんなは悪人ながら子供を持つ母親の慈悲をも併せ持っていたという性(さが)が、何とも哀れで悲しげである。これは勿論作り話ではあるが、どことなく人間臭い面もうかがわれる。実際、この鬼おんなのような女性やそうした出来事があり、それが物語となって脚色され、語り継がれてきたのではないだろうかと思わせる。
 
 まんがの昔ばなしは最後に鬼おんなは子育ての神・鬼子母神となり、ハッピーエンドで終っている。しかし、今回山形県で起こった現実の事件には救いがない。自分の一人娘を亡くした哀れな母親が、一転他人の子供の首を絞めて殺すという凶悪な鬼おんなになってしまった。  
 
   容疑者の女性の顔がテレビ画面に映し出される頻度が多くなってきている。見る積りがなくてもテレビをつけていると否応なしに目に入ってくる。いろいろ問題を抱えた女性のようだが、平時には自分の子供を思う母親の顔を見せることもあるようだ。果たして自分の罪を悔い改め、鬼子母神とまではいかなくても、一人の母親としての人間性を取り戻せる日が来るのであろうか。
 
<2006. 6. 9>
 
 
 
 
 
サラリーマンのちょっと一言