出港
旅の出発の形はいろいろある。列車やバス、車、飛行機とそれぞれでだ。しかし何といっても船の出港が一番だ。とにかく時間が掛かるのである。乗船して荷物を置いてからデッキに出る。それからが長い長い。いつまで経ってもトレーラの積み込み作業などの出港準備をやっている。やっと終わって綱を解き、巻き取り、固定してやっと離岸を開始する。側面の推進力で大きな船体がゆっくり横滑りする。ある程度岸から離れると今度は180度方向転回を始める。離岸後10分経ってもまだ岸はそこにあるのだ。
オーシャン東九フェリー
出港準備
1992年5月5日徳島港(おーしゃん いーすと)
夜の出港
1997年5月2日新門司港(おーしゃん うえすと)
見送りする者はいつまで経っても港を後にすることができない。船上で見送られる方も相手に悪い気がする。最初はお互いに手を振ったりするが、いつまで振ってもなかなか船が遠ざからない。だんだん気まずくなってくる。そこがいい。
船以外の例えば列車でも、発射のベルがなったら後はあっさりしたものだ。飛行機などは飛び立つずっと以前に空港ロビーでお別れである。船ではいつまでも遠ざかる相手が見えるのだ。私はひとり旅で見送られることはない。しかし出航のときはいつまでも甲板の上にいる。
1997年5月2日新門司港よりオーシャン東九フェリー(おーしゃん うえすと)で東京に帰る。夜7時の出港でもともと見送り客は少ない。船が離岸後やっと船首を港の出口に向けて進みだした。もう辺りは暗く岸辺の人の顔など判別できない。それでも護岸に二つの人影が並んでいつまでもあった(写真の中に居る)。 |