サラリーマン野宿旅

野宿実例集 No.01  峠の野宿


 正直言ってキャンプする場所を探すのは大変なことである。ホテルや旅館なら電話帳などの各種の情報源がいくらでもある。また正規のキャンプ場やオートキャンプ場ならアウトドア流行の昨今、本屋に行けばガイドブックが沢山出されているし、旅をしているとキャンプ場の案内看板をよく目にする。

 しかし野宿旅でするキャンプの場所は何の案内も期待できないし、誰も教えてはくれない。自分で探すしかないのだ。初めて訪れ、地理にも不案内な場所でのキャンプ地探しは極めて心細い話である。

 ところが案外すんなり見つかることもある。旅をしている道端がそのままキャンプ地となるケースだ。例えば峠道を旅していたとする。野宿旅では峠道を旅するのが定番なのだ。うらぶれた峠道だと通行する者はほとんど居ない。そこで道端にキャンプしてしまうのだ。

 なお峠についてはこのホームページの姉妹ページである「峠と旅」をご覧願いたい。


峠のキャンプ地 峠の道の脇でキャンプ。ほとんど道にテントを張っている。

 福島県の国道401号が通る伊南村多々石から田島町の国道289号に越える峠道がある。道の名は多々石林道、峠の名は戸板峠。距離はそれ程長くなく、こじんまりした峠道だ。

 8月12日、多々石側から入り込んだ。伊南村側最後の人家を過ぎると道は荒れた。林道標識が立っているのを見つけて、道の名を知る。峠への急な上りになると道は狭く、夏草が生い茂って道を覆い隠す程である。こんな所で対向車が来ると困るなと思っていた矢先、バイクが2台急に現われ慌てた。しかしバイクは難なく車の脇をすり抜けて行ってしまい、後はまた静かな峠道となった。

林道標識 林道標識。基幹林道多々石線起点、開設年度昭和47年4月とある。

 左に戸板線という林道を分岐した先が峠だった。峠の標識が壊れて地面に置いてある。その前に車を停めて記念写真(峠に来たという証拠写真)を撮る。

 峠部分は道幅が僅かに広くなっているが、キャンプするにはちょっと不十分だ。林道を少し先まで行ってみる。しかし道の両脇は草がすごくてテントを張れる場所などありそうもない。まだ日は高いが林道を抜けるには路面状況が悪く、どのくらい時間が掛かるか分からない。また林道を抜けて国道に出てしまえば、またキャンプ地を求めて脇道でも探さなければならない。峠に戻り、今夜は峠で野宿とする。

峠 戸板峠での証拠写真。奥が伊南村側。


 テントを配置するのにやや戸惑ってしまう。なるべく車が通過し易い様に道幅を残したいが、さりとてあまりテントを草むら近くに張りたくない。私は虫が大嫌いなのだ。組み立てたテントを持って、道の方に配置したり、草むら側にすこしずらしてみたりと、しばし悩んでしまった。結局こんな所を通る車などそんなにないだろうと、かなり堂々とテントを配置した。それでも万が一、夜中に車が通り、テントごと引かれたのではかなわない。自分の車をテントの脇に止めて盾の代わりにした。

林道 草に覆われた林道。虫が飛びまわっていた。

 やはりその夜、この峠を通る者は誰一人いなかった。

 翌日峠を田島町へ下る。道は予想以上にひどく、やはり時間が掛かった。でこぼこの砂利道が国道へ出るまで続いていた。路面のひどさもさることながら、道の両脇から伸び放題に伸びた草が道を覆い、そこを無数の得体の知れない虫が飛び回っている。ここで車がエンコしたら、この中を歩く羽目になるのだ。それを想像しただけで身の毛がよだった。

 気疲れで林道終点の国道に出た時はぐったりしてしまった。野宿の旅人として虫嫌いは大きな弱点である。リクライニングシートを倒してしばらく林道入口で休む。

 その間も傍らを過ぎる者はいない。静かだ。2日間に渡って越えた峠道だが、出会ったのは昨日のバイク2台だけである。


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