サラリーマン野宿旅

車のトラブル


 野宿旅の足はもっぱら車である。ほんとはまさしく自分の足で旅ができればよいのだが、忙しいサラリーマン、そんなにのんびりしたことは許されない。そこで問題になるのは車のトラブルだ。

 車の故障や事故は旅に大きく影響する。普段より安全運転に心掛けている(時もある)し、車のメンテナンスは自分でこまめにしている(積りになっている)ものの、トラブルはどうしても避けられない。ここでは旅で遭遇した車のトラブルを幾つか抜粋する。


車のトラブル 目次

○畑を荒らす
○側溝に脱輪
○アイスバーンは恐い
○路肩に注意


畑を荒らす

 以前日本列島輪郭旅というのをやっていた。とにかく輪郭をなぞる様に最も海岸沿いの道を走るのだ。ただ海岸線は入り組んでおり、あまり忠実に走っているといつまで掛かるか分からないので、そこは適当にやる。北海道は二度の旅で右回りでなぞり終えた。九州も二度に分けてやはり右回りだった。本州は関東地方や東北方面、中部や関西の太平洋沿岸が済んでいた。そこで次に年末年始の休みを使って中国地方の瀬戸内海沿いに挑むこととした。

畑に落ちる なにも遊んでいる訳ではない。畑に落ちてもがいているのだ。

 12月31日、岡山県は牛窓町の海岸沿いを岡山市方面に向けて走行していた。それまでは適当に走っていたのに、どういう訳か牛窓町で正真正銘の海岸沿いの道を走ろうと県道を外れ、細い道に入って行った。ところが間もなく工事で通行止となった。それでもなるべく海岸に近い道を通ろうと、地図にない更に細い脇道に進んで行った。道は未舗装となり、まずいと思った時はもう遅く、行き止まりである。狭くてUターンなどできたものではない。気が焦り直ちにバック。そこで後輪から順に左両輪が脇の畑に滑り落ちてしまった。

 車体は大きく傾いたが、横転直前で止まった。しかし下手に動かす訳にはいかない。横転してしまったら処置なしである。荷物を持って慎重に車から出る。この大晦日に面倒なことになったものだ。助けを呼びに行くにも人家は近くにない。しばし呆然とする。

 落ち着いてから車の状態をよく見た。確かにこのまま無理に道に上ろうとすれば横転の危険がある。しかし一旦全輪を畑の中に入れてしまい、畑の中で方向転回し、道との段差がなるべく少ない所からなるべく道に直角に上ればよい。問題は畑が耕運機で掘り返されていて、ふかふかで歩くのもままならない。いくら4WDでもこの畑の中で動き回れるかどうかだ。しかし他に手はなさそうだ。いちかばちかやってみることにする。

 恐る恐る車に乗り込み、横転しないよう徐々に徐々に前進で畑に車体を入れる。無事に畑の中に入ったところで一安心。気持ちの余裕も出て来て記念写真を一枚。

 さすがは4WDである。心配した畑中走行もうまくいき、後は難なく道に戻れた。これが普通の乗用車では絶対に脱出できなかっただろう。しかし畑には何も栽培されていなかったとはいえ、畑荒らしをしてしまった。


側溝に脱輪

 よくあるトラブルに側溝への脱輪がある。特に野宿旅ではやたらと狭い道を走る。脱輪の危険は大きい。自分が脱輪しても困るが、他人が脱輪しても困る。狭い道が塞がってこちらも通れなくなる。
 また脱輪の後の処理も厄介だ。辺ぴな所では簡単にはレッカー車やクレーン車を呼ぶ訳にはいかない。

脱輪 他人の脱輪も厄介もの。皆で力ずくで引き上げる。

 8月16日、国道421号の滋賀県と三重県の県境、石榑(いしぐれ)峠より三重県大安町側へ下り始めた。この辺りは国道と言えども何年か前までは未舗装区間を残す険しい山道である。今は完全舗装となってはいるが相変わらず道幅は狭く、好んで通る。

 少し下ったところで渋滞が起きていた。見に行くと落ちている。それも両輪だ。その後ろにはもう数台の車がつっかえている。直ぐに私の後ろにも一台車が詰まった。ほっとけば全員身動きできなくなる。普段はそんなに交通量が多いはずはないのに、夏休みの行楽客と思われる。峠を越えた滋賀県側に大きなキャンプ場があるのだ。普段立派な国道を走っている者が、たまの休みにこんな所を走るものだから、こうなるのである。

 わいわいやっている中に一人仕切っているのがいる。そいつの指揮のもと居合わせた男たちで引き上げることになった。手伝おうかと思ったが、非力な私は写真班にまわった。

 人も集まれば大きな力が出る。何度かやっている内に車一台引きずり出した。その後も仕切屋が落ちたドライバにくどくど注意している。そのドライバは終始すまながっていた。


アイスバーンは恐い

 野宿旅は困難を求める。雪道なども望むところ。わざわざ冬に東北地方へ出掛ける。すると時々落ちている。滑って溝にまるのだ。他人事なら気楽である。あーあやっちゃったと思っていればよい。

溝にはまる これが他人の車なら何でもないのだが。

 年もツンツンに押し迫った12月30日、猪苗代湖畔の道を走行中、後方から地元車がかなりのスピードで追い付いた。道を譲り先に行かせる。雪道であんなスピードで走るのもありか。こちらも負けてはいられない。後ろにくっ付いて走ろうとスピードを上げた。その途端道路はスケートリンクになった。右に左にと良く滑る。そのままずっと滑っていてくれば、こちらとしても構わないのだが、道からそれて堀を跨ぎ越した。跨いだだけならそれでもまだいい。しかし堀があと数mで終わるといったところで遂にはまった。

 体はなんともない。窓を開けて路上に這い出す。丁度通りかかった車がレッカーを呼んでやると言ってくれた。有り難い。寒いので近くの農機具置場に入って待つ。かなり経ってクレーンが来た。随分乱暴な方法で引き上げる。後から考えても堀にはまったダメージより吊り上げた時のダメージの方が大きいように思う。車は動くがドアが開かない。工場まで行って応急処置をする。その後の旅はそのまま続けられた。

 帰ってからかなり苦労して修理し、車検も通っている。しかし現在もボディーはあちこち傷だらけで、窓からは雨風が吹き込む。荷室のドアは私以外は開け閉めできない。


路肩に注意

 狭い林道も自分一人で走っているなら問題ない。単独走行で事故るのでは同情の余地がない。しかし他人の車と関わる時に事故は起き易い。

クレーン ここまで漕ぎ着けるのに大変だった。

 8月17日、長野県は長谷村の黒川内林道を入笠山方面に向かって上っていた。経験のある林道でそれほど険しい訳でもない。林道中間地点で一台の対向車が来た。私が壁側で相手が崖側である。道幅はやや狭い気はしたもののすれ違えると思った。相手もそう考えたのかお互い徐行しつつも止まることなく接近した。側溝がないのでミラーが擦るほど壁に寄せる。予想通りうまくすれ違えたと思った。しかしふとドアミラーを見ると、まるでスローモーションの様に今すれ違った車が左にゆっくり傾き、崖の下に消えていった。

 崖底まではかなりの高さがある。へたをすれば命がない。直ぐ先の待避所に車を停めると慌てて走って戻ってきた。下を覗くと車はそこにあった。谷底までにはすこし段差があり、また木がストッパになって途中で止まったのだ。

 ドライバが一人現われ道まで這い上がってきた。鳶をしていると言っていた彼は回転する車の中で二十日ねずみの様に回ったそうだ。擦り傷程度で大した怪我はなくよかった。

事故車 彼はこの車で家に帰って行った。

 問題は車をどう引き上げるかだ。それからが大変だった。彼を乗せて長谷村の町中まで行き、クレーン車を呼んでまた狭い林道をクレーン車を誘導して現場まで戻る。途中の対向車とすれ違うのが一苦労である。

 引き上げている最中にまた事件が起こった。林道のさらに上流で自転車を避けようとした一台の車が崖に突っ込みドライバが怪我をしたと一人の男が走り込んで来た。救急車を呼びに行くので通して欲しいと言う。ドライバの怪我はひどいらしい。急いで反対側で通行止を食っていた車に頼んで代わりに行ってもらる。

 引き上げた車は動いた。取り敢えず近くの川原までいっしょに行って一息付くことにする。私の先導で林道を下っているとサイレンが聞こえてきた。待避所で待つ。救急車がやって来ので慌てて手を横に振り我々ではないと合図した。

 その日の黒川内林道はクレーン車が通ったり、救急車やパトカーが通ったりと大忙しであった。夜になってフロントガラスのない車で彼は帰って行った。

 後日記念写真を送ったが該当住所なしで戻って来た。これを見て身に覚えのあるTさん、連絡下さい。


☆車のトラブル つづき 

☆サラリーマン野宿旅 (トップページへ)