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安倍峠 Part2(近況) (峠と旅 No.001-2)
(掲載 1998. 6.27)
![]() 安倍峠 道路の左手に林道開通記念碑 舗装のつなぎ目が分かる |
久し振りに安倍峠を越える。身延より梅ヶ島温泉に出て、さらに富士見峠を越え、私の旅ではお馴染みの井川辺りで一泊するちょい旅に出ようと思う。その行きがけの駄賃である。 国道52号から「大城(おおじろ)」の標識に従って県道大城小田船原線に入る。山梨県側最終の集落大城を過ぎ、そろそろ豊岡梅ヶ島林道かと思いきや、どこまで行っても県道である。予想はしていたものの、やはり舗装化は進んでいる。以前は林道入口近くに崖にへばりついた狭い道の箇所があり、善良な一般市民なら恐れをなして、そこから引き返していったはずなのである。 |
![]() 昔の豊岡梅ケ島林道大城側入口 以前はここよりダートが始まっていた |
![]() 昔の林道豊岡梅線 木の柱の林道標識が立つ 崖に作られた狭い道で、スリル満点だった |
まあ慌てることはない。その内ダートが現れることだろう。丁度昼時なので大城川の河原に降り、にぎり飯の昼食とする。大きな治山ダムの直ぐ上流のところで、広々とした石の河原である。 以前にも一度ここで即席ラーメンを作って食べたことを思い出した。 大きな石に腰掛け、川の景色を眺めながらおにぎりを頬張っていると、背後でオートバイの音がする。振り向くとオフロードバイクが道を下って行く。未舗装の林道を求めてやってきたのだろう。 安倍峠の道はそうした道なのである。ところがまた暫くしてバイクの音に振り向くと、今度はオンロードバイクの二人連れである。あんなバイクでこの道を走ってきたのだろうか。すると間もなく車の音がすると思ったら、なんと普通乗用車がひょこひょこ登って行くではないか。 結局昼食を取っている短い時間にも、バイクや車が数台通過して行った。何かおかしい。以前、のんびりとラーメンを食べた時は、一台のバイクも車も通らなかった。治山ダムから流れ落ちる川の音以外は静かなものだった。 代わりに時折野犬の遠吠えが広い河原に響き渡り、怖いくらい寂しい思いをした。
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不安を胸に河原を出発した。やはりいつまで経っても舗装は途切れない。それでもやっとダートが現れたかと思うと、それも束の間。また真新しい舗装路に戻る。その後ももう一度ダート区間があったが、どちらも予算の関係か何かで、舗装できない区間が少し残ってしまったといった感じである。もう林道とは呼べない道だ。峠への途中にアスファルト敷きの駐車場がある。入ってみたがそこからの眺めはない。一台の乗用車が木陰に停めてあり、中で男が一人昼寝をしていた。のどかなものである。 |
![]() 「広域基幹林道豊岡梅ケ島線 開通記念」の碑 |
![]() 静岡と山梨の県境を示す看板 林道開通記念碑の反対側 |
2個所の未舗装区間を過ぎて峠に着いた。以前は峠の県境できっちりと山梨県側はダートになっており、はっきりそこが県境であることは誰でも気付かされることになっていた。注意して見ていれば今でも舗装の継ぎ目がある。しかし安倍峠は普通の峠の様に県境が道の最高所にはなっていない。山梨県側から来ると、県境はまだ登り坂の途中で、最高所はもう少し静岡県側に入った所にある。舗装の継ぎ目以外にも、道路の左手にある林道開通記念碑が目印になるし、またそこが県境であることは、その記念碑の反対側にある小さな看板が教えてくれる。しかし普通乗用車やオンロードバイクで走り抜ける者達が果たして気付くだろうか。道幅だけは昔と同じく狭く、峠近くに車を停めるスペースもない所など、誰しもそこが峠とは知らずに、ただ何となく通り過ぎてしまうのではないだろうか。 |
峠より梅ヶ島温泉に下る。温泉まではすぐだと思っていたら、案外距離があった。道の長さはそこを走った時の気分で長くも短くもなる。山梨県側をすんなり走れた為に、相対的に静岡県側が長く感じるのかも知れない。静岡市営の共同浴場「梅ヶ島温泉浴場」は以前と同じく、言っては悪いが相変わらずちょっとみすぼらしい外観である。 山梨県側の道は、もうあの昔の険しい道ではなくなってしまったが、そこから眺められる景色に変わりはない。いい道になったお陰で、その景色をより多くの人が眺められる訳だ。代わりに県境の峠はその存在の影が薄くなってしまった。林道開通記念碑が夏草にでも覆われれば、ほとんど気付かれない。傍らを過ぎる車は多くなった一方、尚更寂しい峠になった様に思えて仕方がない。 |
![]() 梅ヶ島温泉浴場 |
峠道状況(1998年5月) |