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安藤峠  長い林道の峠道
あんどうとうげ


<掲載 1999/ 2/28>

安藤峠
安藤峠

 安藤峠はなかなかハードだ。未舗装の林道が長いのである。峠の場所は福島県の会津若松市と天栄(てんえい)村との境にある。猪苗代湖の東南の地域一帯にはやたらと峠が多い。国道49号の中山峠に始まり、御霊櫃(ごれいびつ)峠、三森(さんもり)峠、諏訪(すわ)峠、勢至堂(せいしどう)峠、馬入(ばにゅう)峠と、それにこの安藤峠がある。どの峠もほぼ湖の周辺より湖に向かって集中する道にある峠だ。地形的にそのように峠が形成されやすかったのだろう。なかなか読みにくい名前の峠が多く、御霊櫃峠などは読みにくい上に、峠には幽霊でも出そうなイメージを受ける。実際御霊櫃峠やその他の峠の幾つかは、峠道の一部に未舗装路を残し、気楽に通れる道ではない。そこを福島県人は普通乗用車で事も無げに走っている。ところが安藤峠は誰でも読めて親しみやすい名を持つが、オフロード車でないとなかなか走りづらく、福島県人もほとんど通らない最もハードな峠なのだ。

東山温泉
東山温泉入り口 車を止めて深呼吸

 峠には会津若松の方からアプローチした。そのハードな峠道に入る前にひとつの難関がある。市の中心に近い繁華街や東山温泉を通らなければならないことである。険しい峠道を通るより、車や人が多い所を走る方がもっと苦手なのである。ましてや初めて通る所ではよく迷子になるのだ。しかし地図をどう見ても他に手がない。仕方がないから恐る恐る接近していく。信号機で止まるたびに地図を確認し、次の分岐までどのくらいかチェックする。まったく街中の道は気疲れする。でもどうにか目的の県道325号湯川(ゆがわ)大町線に無事に入った。後は一本道である。次なる難関は東山温泉だ。有名な温泉でも、温泉街の中の道は大抵狭く、人や車が多くて危なっかしい。温泉街に入る前に一度車を止めて呼吸を整え、決死の覚悟で温泉街に突き進む。

 案の定、道は狭くクネクネ曲がり、その上途中で道がY字に分かれて惑わされ、どうも余計に狭い道を選んで通ってしまったようだ。それでも最後にグランドホテルとでも呼ばれる様な立派なコンクリート製の旅館を過ぎて、どうにか東山温泉街をクリアした。道は狭いながらも人通りのない峠道となり、「湯川大町線 二幣地(にへいじ)14Km」と標識に出てきた。ここまで来ればこっちのものだ。私の独壇場である。

 後は東山ダムやら屏風岩やらをのんびり見学する余裕を持ちながら、標識にあった二幣地を目指す。そこで県道が途切れ、未舗装の林道が現れるはずだ。

県道湯川大町線
県道湯川大町線 無事東山温泉街を抜けた
標識に「湯川大町線 二幣地14Km」とある

東山ダム
東山ダムと湯の入り湖
時々止まっては景色を眺め、のんびり旅を進める

屏風岩
屏風岩 

安藤峠
会津若松市側 県道325号 この先で未舗装路となる

 東山温泉を過ぎた後は人家は少なく、集落らしい集落はほとんどない。それでも道の舗装はきれいにされていて、緑が生い茂る中を道がゆったり曲がりながら続いている様子は、童話の世界の様である。

 二幣地なる集落はどこかと思いながら走っていると、道は未舗装に変わってしまった。しかしその付近に人家の集まった集落などはどこにも見られなかった。

 未舗装になってから峠まで、これがまた長い長い。一向に高度を上げる様子もなく、やたらと水平移動が続く。あまり峠道といった風情はない。まだ梅雨が明けきらない時期で、草木は道に覆い被さるように茂る一方、雨粒が時折落ちてくる天候では、暗い感じの林道走行を余儀なくされる。二幣地から峠までは湯川安藤峠林道と呼び、距離は6Km程度らしが、実際はもっと長く感じる道だ。それでもその内やっと本格的な上りが始まり、峠に近づいているなと安心する。長く感じはするが、路面の荒れはさほどでもなく、未舗装としては走りやすいほうだ。やはり道幅を狭くしている草木や、芳しくない天候が気持ちを左右しているのだろう。またあまり展望も開けないのが残念だ。景色が見渡せるところがあれば、それで少しは気分も晴れるのだが。

 やっと標高1027mの安藤峠に着いた。「天栄村」と書かれた標識が立っていて、峠より天栄村側の眺めがいい。ここまで来れば一安心。ちょうど昼時なので、コンビニで買ってあったジャム・マーガリンなるパン一個と飲み残しのレモネードで昼食とする。粗食少食を旨とするといっても、随分わびしい食事だが、ちょうど手持ちの食料がこれしかないから仕方がない。ほかの食料を手に入れようとしたら、峠を下りきらなければならない。こんな山の中ばかり走っている峠の旅では、思うような食事はとれないのだ。

安藤峠
峠に続く林道

安藤峠
安藤峠 手前が会津若松市 奥が天栄村
「天栄村」と標識が立っている

 この峠道は寛政二年に会津藩が開いたものだそうだ。峠は藩境に当たる爲、口留番所が設けられ、代々安藤氏が関守の役を継いだ。それで峠にこの名が付いたものだ。どうも人の名前のようだと思った。ただし当時の峠は現在のものとは異なるらしく、名前だけ今に引き継いでいる。

 峠から天栄村側は黒沢林道と呼ぶらしく、天栄村の黒沢なる集落まで、さらに未舗装の林道が続く。距離は会津若松側より長いが、南斜面に面しており、全般的に展望もよく、開けた感じがするので、あまり長いとは感じない。人間の気持ちなどは、いい加減なものである。

 道が水平になり、周囲の景色も山岳の険しさから、穏やかな山里になった。峠道も険しいばかりでは面白くない。こんな心がなごむ様な道もいいものである。

 畑なども見られるようになったなと思ったら、人家が一軒現れた。まだ道は未舗装のままである。黒沢集落だろうか。 よく見るともう一軒ある。しかし草木に覆われて、明らかに廃屋であった。どんどん人は離れていってしまうようだ。逆に私はこの様な所に住んでみたいと思うのだが、実際に住んだ者でなければ、ほんとの気持ちは判るまい。

安藤峠
天栄村側の道 間もなく黒沢集落

安藤峠
黒沢集落にある廃屋

 廃屋を眺めていると一台の乗用車が、泥道にできた水溜りの水を跳ねながら、とろとろやって来た。こんな所に車が来るとは思っていなかったので、私の車は道に堂々と止めていた。慌てて車に戻り、端に避ける。見ているとその車は私の脇まで来て止まり、中から男性が降りてきた。こちらはみすぼらしい服装に、頭髪バサバサ髭ボウボウで、しかもこんな所で廃屋など眺めているのだから、不審者と思われたんじゃないかと、一瞬どきりとする。しかし出てきた男性は柔和な顔をした初老の方で、長靴を履いている。そしてこちらに近づいて来て、なんとか言う滝をご存知ないかと聞く。どうも峠の先の湯川にある滝のことを言っているようだ。その滝のことはよく知らないが、未舗装の林道だから峠を越えるのは大変だというようなことを言って別れた。

 話からすると各地の滝をいろいろ訪れるのがご趣味のようで、それで長靴を履いていたらしい。誰も訪れない様な小さな滝を、わざわざ探して行くのかと思うが、あまり人のことはとやかく言えない・・・。

 廃屋の直ぐ先の橋を渡ると舗装は途切れ、立派な2車線の道となった。人家の手前で舗装が終わるとは、随分皮肉な話である。その舗装路沿いには、ついに一軒の人家も見られなかった。

 地図では道はそのまま国道118号に出ることになっていたのだが、突き当たった道を左折すると、どうも国道にしては様子がおかしい。一つの集落を過ぎた後、何とまたもや未舗装路が現れた。引き返して集落付近をうろうろして、やっと草に半分埋もれた道路標識を見つけた。そこには「県道羽鳥福良線」とある。馬入峠を経て猪苗代湖に出る道だ。安藤峠からの道は、新しくこの県道に合流するようになったらしい。ちょうど馬入峠を訪れる予定だったので都合がいいが、ちょっと面食らった。馬入峠についてはまた別の機会に。

安藤峠
未舗装が終わり、立派な舗装路となる
しかしこの少し手前には廃屋が建っていた

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