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 甲子峠  未開通国道の峠を林道で行く
<更新 1998/ 4/22 頂いたメールを掲載>


甲子峠
甲子峠  奥が下郷町

 国道289号、福島県南会津群下郷町と西白河群西郷村の境、甲子峠。「かしとうげ」または「かっしとうげ」と読むそうだ。私はかっしとうげと呼んでいる。何となくその方が響きがいい。
 この峠は以前から気になっていた。峠より西郷村側が未開通になっている。国道289号は福島県のいわき市から新潟県の吉田町(燕市の隣り)まで、ほぼ列島を東西に結んでいる。ところが2個所いまだに未開通だ。

 片方の未開通区間は福島と新潟の県境で全く道が無く、初めから問題外だが、甲子峠の方は未開通区間を別ルートで林道が繋いでいる。ただし地図に林道が書いてあるからといっても、実際に行ってみると通行止だったということがよくある。通り抜けられない峠道ではつまらない。地図を睨みながら行くべきか行かざるべきか悩んでしまう。ただ下郷町側は国道を示す赤い線が峠まで達している。悪くしても峠の上に立つ事はできるだろう。とにかく行ってみる事とした。

 まず無難に下郷町側からアプローチする。早速「白河方面甲子峠 通行不能」と出てきた。「通行止」ではなく「通行不能」である。「通行止」では諦めるよりないが、「通行不能」なら無理をすれば通れるのではないかという期待がある。かえって闘志が湧くというものだ。
 進むにつれ道幅は徐々に狭くなり、山は迫り谷は深くなる。最後の集落を過ぎた後は路面のアスファルトがあちこち剥がれ、未舗装路と見間違う程だ。いよいよ本格的な峠道だと浮かれていたその時、「通行止」の赤い文字。「3Km先工事中の為車輌の通行はできません」と書かれた看板と柵で道が塞がれていた(1997年8月現在)。工事期間は示されていないが、一過性のものだろうか。運が悪い。手で簡単にどけれそうな柵だし、脇ががら空きでバイクなら難なく通り抜けられる。しかしあまり強引な事はしたくない。潔く諦めようと思う。しかし柵の手前は車がUターンするだけの十分なスペースがない。何度も切り返しをしている内に頭にきた。もう二度と来るものか。

通行不能
通行不能の標識  下郷町
この先が峠
しかし通行止だった

 ところが時間が過ぎるとまた気になってくる。性懲りも無く後日西郷村側よりアプローチ。
 白河市街よりほぼ西に真っ直ぐ延びる国道289号を進む。こちらにも「田島方面通行不能」の道標が出ている。しかし行けども行けども2車線のありふれた道路で、侘びしい峠道の雰囲気は出てこない。左に那須甲子有料道路への道を分ける。大きな野外レジャー施設がある。遂には道幅の広い立派なトンネルが幾つか現われた。どうなる事かと思っていると最後のトンネルを抜けるとその先は深い谷が広がっていた。直進する道はまだ出来ていない。崖にへばり付いた取って付けた様な狭い超急坂、急カーブの道が阿武隈川の川岸近くまで降りていて、そのまま川岸沿いを狭い道が下って行く。逆方向である。結局元の国道に出てしまった。そこの分岐には「奥甲子」とある。戻ってきた細い道が奥甲子への旧道で、トンネルを抜ける道路が建設予定の新道の一部だった。しかしあのトンネルの先に横たわる深い谷を渡って新道を延ばし、さらに甲子峠の下を長いトンネルで抜ける計画なのであろうか。人間とは大それた事を考えるものだ。

行止り
国道289号 西郷村側の行止り
この先は甲子山登山道

 残った疑問は国道の終点らしきものが無いことだ。また新道と旧道による細長いループを1周した。良く分からない。怪しいのは旧道途中にある元湯甲子温泉旅館だ。引き返し旅館の敷地内に車をおずおず乗り入れる。旅館の母屋を過ぎるとベンチで行く手を塞がれた。その先まだ道がある様だ。車を降りて歩く。細い砂利道が川の方へ下っている。すると国道標識が現われた。「甲子山登山道」とあり、その先は木の橋を渡って山道と続いている。間違いなく国道の終点、未開通区間の始まりである。遂に見付けた。
 さて次の目標は果して峠に立てるかだ。

 峠に続く林道へは白河市街から国道を来る途中、右への「雪割橋」の分岐に入る。阿武隈川に掛かる雪割橋を渡り尚も進む。ただしあまり真っ直ぐ進むと行止りになる。適当に勘を働かせて右折する。うまくいくと目的の林道に乗る。失敗すると何度も行止りに合う。私も迷ったので人には詳しく教えないのだ。
 最初は農耕地の広々とした中を通る。行く手に山並みがそびえる。気分が良い。

農耕地
西郷村側林道途中 広々とした農耕地

 山に取り付くと林道らしい林道になる。やや荒れも目立つ。道は二股に分かれ、右は羽鳥湖に抜ける。左が峠に続くが、本来そこにはチェーンが掛かり通行禁止らしい。今はチェーンが外されている。進入させてもらう。
 ここらの林道名はよく分からない。二股の分岐には「西部林道終点」とある。その先峠に至る途中にゲート箇所(チェーンのゲートは外されている)があり、そこには「甲子林道終点」、「林道甲子線起点」。峠には「林道甲子線終点」。また下郷町側の通行止ゲート箇所には「林道甲子線起点」とある。甲子林道と林道甲子線は別物か?。いろいろの変遷があり、古い林道標識がそのまま残っていたりして、混乱をきたしているのかもしれない。二股の分岐から峠前後を漠然と甲子林道と呼ばせてもらうことにする。

超悪路
甲子林道  超悪路

 この甲子林道、本来通行禁止だけあって荒れている。悪路の上に超を付けてもよいくらいだ。実はこの悪路をよりによって2回往復する羽目になった。途中のゲート箇所から先は少し登った後、はっきりした峠も無く下りはじめる。しばらく下ったが峠らしい箇所に出ない。ゲート箇所が峠なのだろうか。日も暮れかかってきた。諦めて引き返す。ところがバイクの2人連れが後から下りて来たので尋ねてみると、もっと先に峠があるのだそうだ。その日は白河市街に宿泊し、次の日またでこぼこ道を飛び跳ねる結果となった。
 2往復してはっきり分かったが、上りの方が路面状況が悪く見える。上りの時は路面の凹凸が強調されるようだ。同じところを走っても、上りは超悪路だが、下りは悪路で済む。

 峠は昨日引き返した所から1Kmも行かない所にあった。峠でゲートにより通行止、下郷町には行かれない。逆に過日下郷町側よりアプローチした時、途中の通行止が無くても峠から先、西郷村側には下りられなかったのである。ただしオートバイは別。ゲートの脇はここでもあまい。
 車を降りて峠に立つ。3度もアプローチしたので、やっと辿り着いたという感じ。なんだか嬉しい。誰も居ない峠でひとり写真を撮り、景色に見入る。
 下郷町から上ってきた道は峠でぷっつり切れる。これが国道のもう片方の終点である。峠からは右に甲子山への登山道が延び、左には稜線沿いに今来た林道が上って行く。

峠のゲート
峠のゲート  この先が白河へ続く林道
手前が峠の広場

 峠からは下郷町方面の眺めがいい。谷間を下って行く林道の道筋が見える。欲を言えばそこも走りたかった。そう何度も訪れる機会がある訳ではない。次はいつ来る事が出来るだろうか。次回はもう新道が完成したずっと後かも知れない。立ち去りがたい気持ちでまた悪路に揺られる事とした。

峠からの眺め
峠から下郷町方面を望む

 メールを頂きましたので以下に一部を掲載させて頂きます。

 初めまして、たくさんの峠越え、オンラインで読ませてもらいました(全部ではないですが)。しかしこれほどまで良くも行かれたものと感心しています。特に、甲子峠。私も昨年の五月中旬に越えたので、大変興味深く見させていただきました。福島県側から峠を目指す時、不安を抱えながら走っていたら、鹿を見ました。林道を一人オートバイで(KLX250SR)走りながら、この先熊が出るかな?崖が崩れているかな、とおびえていると、目の前に大きな鹿が、・・・一瞬の事ながら私も、鹿もびっくり。

 空が開けて来て、峠が近づき、しかし深い霧の中。峠についても景色は見えず、一瞬の切れ間から今まで来た道が見えた時のうれしさ、下りの握り拳大の砂利道、やっと越えたら今度は雨、そしてその晩泊まった「北温泉」の変わった雰囲気。なんと100年も建っている温泉宿です。一人旅で辛かったけど、今では印象深いものです。蓑上様も峠を越える前の不安、そして峠に立った時の満足感、多分同じ気持ちで峠を越えているのでしょうか。

 

 甲子峠は私も特に印象に残っている峠のひとつです。「握り拳大の砂利道」も目に浮かんでくるようです。鹿に会ったのは幸運でしたね。クマでなくってよかった(^_^)。バイク旅で降られる雨は、私もいやと言うほど経験しているので、その悲惨さは身に染みて分かります。

 一人旅は不安なものですが、それだからこそ心の奥底に刻み込まれる濃厚な旅ができます。仲間や家族と行く旅行も楽しくていいのですが、一人旅の味わいには替えられないものがあると思います。仮に峠がガスっていて何も見えなくても、一瞬の晴れ間に見えた景色が脳裏に焼き付き、忘れられない。それが一人旅じゃないでしょうかね。

 「北温泉」というのを私は知らないのですが、そうした古い温泉宿に一人で泊るというのも、私は大好きです。旅情がありますよね。この話しを聞いただけで、私も何処か山間の寂れた一軒宿にでも行きたくなりました。

 M.Aさんメール有り難う御座いました。


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