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温見峠  地図で見ると全く殺風景な峠道
 
ぬくみとうげ (峠と旅 No.006)
(掲載 1997. 6.20)
 
新しいページ → 温見峠(再訪) (掲載 2014.12.30)


温見峠
温見峠 奥が岐阜県側
5月でも雪が残っている(道路の右端)

  もう随分前のことになるが、オートバイの免許を取りツーリングを始めると同時に、昭文社のツーリングマップを北海道編から九州編まで全国7編全てを買い揃 えた。ツーリングライダーならこの昭文社のツーリングマップのお世話になっている者は多いと思う。そしてその地図を眺めてはここに行ってみよう、そこに 行ってみようと旅心がそそられた。それは下手な観光ガイドブックなどを読むよりずっと楽しいことだった。

 そんな折り中部編をパラパラめくっていると、やたらと殺風景なペー ジがあった。山を示す等高線と川ばかり書かれていて、集落などほとんどない。その中を細々と道が通っている。一応赤色の線で描かれているから国道ではある のだが、如何にも険しい山岳道路といった感じだ。峠には「温見」という文字が記されている。どう読むのか分からない。「おんみとうげ」だろうか「あつみと うげ」だろうか。峠の名前を確認する為にも是非訪れたいと思ったことを覚えている。

 温見峠は福井県大野市と岐阜県根尾村との県境にあり、道は国道157号である。峠の標高は1040mで非常に山奥深く、福井県側からも岐阜県側からもアプローチは非常に長くなるのを覚悟しなければならない。

 福井県側からは大野市から157号を途中麻那姫湖を左に見ながらの一本道である。もう一つ岐阜県白鳥町方面から158号で来て、九頭竜湖の南岸から伊勢峠を越え、麻那姫湖上流で157号に合流するルートもある。伊勢峠越えは寂しい道でこれまた非常によい。

 麻那姫湖少年旅行村を左に見て過ぎると、電光掲示板に「中島〜温見落石通行注意」と大きく掲げられている。「大型車通行不能」の看板も見える。ここからがいよいよ本格的な峠道の始まりである。この先峠を越えて岐阜県側に下るまで迂回路などない。

峠道起点
福井県側の峠道起点 中島付近
上に「中島〜温見落石通行注意」の電光掲示板
左に「大型車通行不能」の看板
左に麻那姫湖少年旅行村を分岐する

国道旧道
さびれていく古い道 雲川ダム近く

 福井県側の峠までの道は改修工事でよくなりつつある。特に最近雲川ダム付近では大きくルートが変更される工事が行われていた。道が良くなり走り易くなるのはいい事なのだろうが、以前通った古い道が片隅に追いやられて廃道になっていくのを目にするのは寂しい。

 古い道は傾いた国道標識にロープを結び通行止にされていた。車を降りて少し歩いてみる。道幅は車が通るにしては驚くほど狭く路面も荒れている。初めてこの峠道を訪れた時はこの道を不安な面持ちで走り抜けたのだ。

国道
雲川ダムを過ぎた後 開放的な谷間が続く

国道
峠へ向かって徐々に上り始める

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「ぬくみ」と読む  

   雲川ダムを過ぎた後は開けた谷間に出て、道をほぼ直線的に進む。明るい感じで眺めも気分も良い。その後は脇を流れる温見川の右岸に沿うようになり、徐々 に登り坂がきつくなる。国道標識といっしょに「大野市温見」の地名が出ている。それで「ぬくみ」と読むのが正しいことも分かる。以前は温見という集落があ り、峠の名前の由来もそれによるものらしい。

 谷が深くなり道は断崖にへばりつき、川は覗き込んだ下の方を流れる ようになる。初めて通った時のこの付近の道の険しさが今でも印象に残っている。その時も既に舗装路となってはいたが、簡易的なコンクリート舗装のようで、 しかもところどころ崩れかけ、ほんとに道が通じているのか心配になったくらいだった。

 温見川の河原に下りる砂利道が付いていて、オフロード車なら車ごと行ける。河原は広くてキャンプにもよさそうだ。水遊びをしたりちょっと一休みするのにもいい。

 最後に峠直下の急坂、急カーブを上りきると峠だ。

温見峠
福井県側から峠に着いた
「岐阜県方面大型車通行不能」とある

 峠からはその前後の視界が開けているので、天候さえよければゆっくり景色を眺めるといい。峠からは能郷白山(1617m)への登山道が続いていて、それを示す白い柱が傾いて立っている。1台の乗用車が駐車してあったが、登山客のものかもしれない。

 峠の岐阜県方向に向かって右側に大きく「岐阜県方面大型車通行不能」と看板がある。その通り岐阜県側に下ると途端に道幅が狭くなり、ほとんど林道状態だ。薄暗い道で眺めもあまり得られない。ただただ走りに専念することとなる。まあそれも楽しいのではあるが。

 

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福井県側は谷間に広がる眺めがいい。温見川の右岸沿いに道が通るのが見える。

 

 岐阜県側からのアプローチは、岐阜市の辺りからだと直接157号をひたすら北西に向かって走る。また関市からだと418号を北西に進み、根尾村で157号に合流する。

  初めて訪れた時は後者のコースを取った。長い道程だった。ツーリングマップには峠の岐阜県側に「不通」の文字があり、峠を越えられるかも知らずに進んだ。 根尾村で寄ったガソリンスタンドで尋ねてもはっきりしない。またそこの主人は峠を「おんみ」と読んでいたので、しばらく私も間違って読んでいた。それでも どうにか通行止に遭うこともなく峠に着いたが、辺りは霧に包まれ何の視界もない。ただただ狭く薄気味悪い峠だと感じた。後に再び訪れたときには、こんなに 景色がよく、開けた峠であったことに驚いた。

霧の中の峠
霧の中の峠 奥が福井県側
 

国道
岐阜県側に下りたところ
沢水が道路に溢れ出している

  オートバイによるロングツーリングから車による野宿旅に旅の形が変わってからも、同じツールリングマップを使い続けた。最近さすがに外見も内容も古くな り、新しいものを購入して併用しているが、もう地図を眺めてもあまり楽しいと思わなくなった。めぼしい道、特に険しい峠道はあらかた訪れてしまったので、 もう行ってみたいと思うところが見つからないのだ。少しは新しい林道が開通したりして興味を引くケースもあるが、それも僅かなものである。そこで1度行っ たことがあるところを再訪することが多くなるのだが、やはり初めて訪れたときの方が印象に強く残っている。

 この温見峠の場合もそうだ。仮に天候が悪く、霧で景色が見られな かったとしても、初めて訪れた時の不安や期待に勝るものは2度目にはない。また峠道も時の流れと共に改修工事が進み以前の険しさは影をひそめ、大人しい穏 やかさを見せるばかりとなっていく。それが再訪したときの落胆につながる。

 昔が懐かしいと思う。昔の峠道が懐かしいだけではなく、その峠道を 旅した当時の自分自身が懐かしく思われる。そして峠道がもう以前の姿に戻れない様に、自分も戻れないことが無性に寂しく、時間の流れが切ない。雲川ダムの 近くにあった通行止にされた古い道の残骸は、そこを走った当時の自分の残骸でもある様な気がした。


 峠道状況(1995年5月)

 1995年5月現在、雲川ダム近辺で工事中であったが通行に支障はなかった。峠道全線舗装済みで、確かに道は狭いが普通乗用車で何ら問題ない。ただアプローチが長いので時間の余裕を持ちたい。
 
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