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大河原峠  信州のとても高い峠
おおがわら(おおかわら)とうげ


<掲載 1999/ 1/ 2>

大河原峠
八ヶ岳中信高原国定公園
大河原峠
長野県  望月町


 信州(長野県)には呆れるほど沢山の峠がある。道路地図を開いてみても判るが、そこら中、峠だらけだ。それだけ信州が山深いという証拠である。その割にはこの「峠と旅」のホームページに登場した峠で、信州にあるものは少ない様に思う。どうも信州の峠は印象に残っていないらしい。地図で示されれば、そう言えば行ったことがあるなと思い出すのだが、ホームページに載せたい峠として思い浮かべると、どうしても飛騨地方(岐阜県)や四国の峠などになってしまうのだ。

 理由は峠道の形態による。信州は峠がありすぎて、一つの峠を越えるとまた次の峠が現れる。道がいろいろ分岐していて、どの道を行っても峠に出くわす始末で、目移りして仕方がない。峠自体を訪れることが目的ならそれもよい。でも峠そのものより峠道の行程を楽しみたいのだ。基本は旅をすることである。峠道はある地点から単純に登って、次の地点に単純に下ってほしい。そしてできればなるべく長い一本道であってほしい。するとそこに小さいながらも一つの完結した旅が感じられる。そうした峠道が信州には少ないのだ。

 とは言え峠の宝庫の信州である。有数の山岳地帯だから峠の標高も並ではない。車で越えられる峠で、標高が2000mを越えるものがあるのだ。渋峠や麦草峠は国道でありながらも2、100m以上。そんな所を車で越えられるのも信州ならではである。そしてこの大河原峠もなんと2、093m。東京都の最高峰、雲取山の山頂2、018mより高い(あまり意味のない比較だが)。その大河原峠を初冬の天気がいい日に訪れてみた。


夢の平林道
林道夢の平線利用券  区間 蓼科牧場-赤谷
普通車・軽自動車 片道¥300なり

 長野県立科町の白樺高原はスキー場やキャンプ場、女神湖などの観光スポット、それに如何にも高そうなホテルが建ち並ぶ一大レジャー観光地。こんなところは一生縁がないなと横目で見つつ、「蓼科牧場」なる交差点より夢の平林道に入る。林道とは言っても舗装された有料道路である。大した金額ではないのだが、お金を払うことにはどうも生理的な嫌悪感が湧いてくるのだ。有料道路とか有料駐車場とか、「有料」の文字を見ると途端に逃げ出したくなる。しかし峠の為なら仕方がない。

 程なくして料金所に着く。ところが看板に、峠の先で望月町市街に抜ける鹿曲川林道が、土砂崩れで通行止とある(1998年11月現在)。ただ、佐久には出られるとの料金所係りの談。地図を調べると大河原林道なる道が佐久市街へ通じている。この道のことを言っている様だ。こんな時、一本道の分岐のない峠道では、一箇所通行止めでも引き返せざるを得ないのだが、この様に別ルートがあれば、一応峠越えが完結できるのは利点である。

 料金所を抜け暫し先に進むと御泉水自然園なる所を通る。有料の夢の平林道は、この御泉水自然園を目的にしたと思われる往復料金の設定もある。そこを過ぎると通る車もなく、ひと気はぱったり途絶え、有料道路らしさもなくなっていい気分である。道は立科町から望月町に入り、直ぐに左より鋭角に道が一本合流する。その道も望月町の中心地に繋がっているらしい。

 地図(昭文社ツーリングマップル)では望月町側の峠までの登りは未舗装と記されているが、道は既に完全舗装路となっていた。今回は訳あっていつものジムニーではなく、普通乗用車でやってきた。4輪駆動ではないし、最低地上高も小さい。舗装路と判り安心した一方、やっぱり少し残念だ。北斜面に作られた日陰の道となる。もう11月半ばで標高も高い為、晴れた日の午後だというのに、まだ路面のところどころに白い物が残っている。滑らない様に運転が慎重になる。やっぱりこんな時ジムニーなら頼りになるのだが。

 尾根を南の方角に回り込む。日当たりがよくなり、また新しい視界が大きく広がる。右カーブの左の道路脇に「トキンの岩」と書かれた看板が立っている。何のことかと見上げると、ちょっとした岩山がそびえていた。道の左手には大きく谷間が広がり、それを挟んで遠くにくすんだ赤い屋根が見える。峠にある大河原ヒュッテだ。道は如何にも壮観な山岳道路を感じさせ、峠道のクライマックスといったところである。これで石ころゴロゴロの険しい未舗装林道なら、もっと気分がでるのだが、今は舗装された道路を普通乗用車でおとなしく走る。

西側途中の景色
峠を前にして左手に谷間が広がる。
切り立った岩肌が目を引く。
谷底の方には道路が見える。鹿曲川林道らしい。

峠からの景色
峠からの眺め。眼下に佐久平が広がる。

 到着した大河原峠は普通の峠とはどうも違う。一般に峠は峰を越えるので、峠地点は最高所であり、山を少し切り崩した切り通しなどになっている。当然、峠の前後で眺めも変わる。ところが大河原峠は最高所ではあるが、峠の北側は常に同じ谷が広がり、峠を通過する最中にも眺めが変わらないのだ。峠から先の道を見ても、登りと同じ谷に沿って下っている。進む方向が違ううのではないか。これは一体どうしたことか。

 本来この大河原峠は諏訪と佐久を結ぶ峠として、旧道は茅野市蓼科高原の親湯より蓼科山の南麓、横岳との間を抜けて通じていたそうだ。現在の白樺高原より登り、蓼科山の北麓を通る車道は、昭和40年になって作られたものだ。その為車で走っている限りは、望月町から登り望月町に下るという、極めて変則的な峠となっている。車道の峠はどこの境にもなっていない。本来は茅野市と望月町、または佐久市との境の峠なのだ。ヒュッテの裏側、南の茅野市方面を眺めれば、如何にもそちらが峠道として進むべき方向なのである。もしそこが通れたら、大河原峠はもっと素晴らしい峠であったろう。これほど雄大な峠は他に見たことがない。

ヒュッテ
峠にあるヒュッテ
登ってくる途中から赤い屋根が見えていた

案内図
峠にあった案内図

峠の読み方
案内図の拡大
「おおかわら」と読み仮名がつている
でもやはり「おおがわら」の方が呼び易い

峠の看板
標高は2、093m
蓼科スカイライン

 峠についての情報は地図や文献などで調べることがあるが、しばしば食い違っていて、とまどわされる。峠の標高なども微妙に数値が異なったりする。できれば現地で確認するのが一番いい。大河原峠には案内図などの看板が多くある。それらによると標高は2、093mである。峠の読み方については「おおかわら」とあったが、それについてはやはり「おおがわら」と読んだ方が個人的には好きである。峠は八ヶ岳中信高原国定公園内にあり、峠周辺は高山植物の群落が見られるようだ。蓼科山などへの登山道が伸びていて、歩くのであれば、茅野市の蓼科高原にも下りられそうだ。

 標高が高いだけあって、車の外に出ると、肌を刺す風が痛い程に冷たい。防寒をしっかりしていないと、長くは野外に居られない。ヒュッテの扉は固く閉じられ、もう今年の営業は終了した様だ。もうすぐこの峠も白一色となるのだろう。

 峠前後の道を蓼科スカイラインと呼ぶようだが、唐沢林道という標識もある。峠から今来た道を下り、さらに立科町の手前を望月町の中心地に分かれる林道をそう呼ぶらしい。

 峠より佐久市寄りに下ると、間もなく右に石川林道が分岐する。雨池経由で八千穂村の国道299号に通じる道だが、残念ながら車両通行止である。さらに下ると建築物の集合体が現れる。これがしばしば現れる看板に出ていた「蓼科仙境都市」らしい。コンクリート製の立派な建物や、沢山の小さなバンガロー等が建ち並ぶ。しかし全くひと気がない。もう季節外れだからだろうが、まるでゴーストタウンだ。バブルが弾け、かつてない経済不況に陥った今では、こんなところに都市を築く計画は、頓挫したのではないだろうかと心配になる。仙境都市から左に有料の鹿曲川林道が望月町の中心街に向かって分岐している。今回は土砂崩れで通行止である。右の道を行く。振り向くと山の斜面に仙境都市のバンガローが寒々しく点在していた。

峠
峠より佐久市方面を見る
右手に「林道唐沢線終点」の標識
左手の看板の「蓼科仙境都市」とは何か

林道看板
休憩所にある県単林道大河原線の看板
道の反対側には蓼科スカイラインの標識

 古い地図ではこの佐久市に通じる道は記されていない。最近の地図では未舗装の大河原林道として載っている。普通乗用車なのでひどいダートなら困るなと心配していたが、今では立派な舗装路で、蓼科スカイラインの名がふさわしい道であった。

 峠から11km下った所に路線案内図が大きく掲げられ、看板の裏手に広い休憩所がある。標高1360mのその地点から、標高約700mに広がる佐久平のパノラマが眺められる。日も大きく傾いた初冬の山肌は、赤く染まっていた。

 望月町の市街地に出る予定が、あまりいい道が続いていたので、気が付いたら佐久市で国道141号に入る羽目になっていた。蓼科スカイラインはただただ道なりにボケっと走っていると、いつの間にやら県道150号百沢臼田線に乗り、国号141号臼田バイパスに突き当たる仕組みの様だ。途中に道路標識もなく、とんだ大回りをさせられてしまった。

 大河原峠は幾本かの道筋をもちながら、本来の峠越えの車道がないのは残念である。しかし同じ2000mを越える渋峠や麦草峠に比べても、より山岳道路らしい峠道であった。

蓼科スカイライン
休憩所のある地点より佐久平を眺める
山肌が赤い

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