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清内路峠  山頭火が越えた峠
せいないじとうげ


<掲載 1999/ 2/27> 今月の峠 1999年 2月

清内路峠
清内路峠  南木曽町側より見る 峠はスノーシェードで抜けている

清内路峠 「清内路村」と標識がでているこちら側が南木曽町

 清内路峠は下伊那と木曽を結ぶ重要路、現在の国道256号の峠である。長野県下伊那郡清内路村と木曽郡南木曽(なぎそ)町の境にある。峠はスノーシェードで抜けている。ここは、かの種田山頭火(たねださんとうか)も越えた峠だ。 

飯田から来て左に中央自動車道園原ICへの分岐 県道分岐

 前日飯田市の小さなホテルに宿をとり、今日は朝早くから国道153号を一路南下する。目的は清内路峠である。この付近の伊那と木曽を繋ぐ飯田峠と大平峠、あるいはちょっとハードな神坂峠は越えたことがあるのだが、この清内路峠はまだ未経験なのだ。国道の峠とあって、これまであまり触手を動かされなかった。しかし今回はあと数日で今年も暮れるという冬の季節で、険しい峠では通行できるか判ったものじゃない。この時期は国道の峠くらいの方がちょうどいいだろう。

 国道153号から256号への分岐がちょっと複雑で、軌道修正を余儀なくされた後、今度はほぼ北へ向かって進むこととなる。間もなく左に中央自動車道園原ICへの分岐が現れる。高速道路の恵那山トンネルをくぐれば、木曽に出るのに訳はない。しかしお金がかかるのは困ったものだ。以前中津川市より神坂峠を越えて来た時は、まだ園原ICはなかった。このICは後になって新しくできたもののようで、「清内路峠など苦労して越えずに、こちらの方が楽ですよ」と誘っているのだ。その手には乗るものか。

日差し まだ朝早い太陽の日が山肌を照らす

 まだ朝早いので、谷間の底を走っていると太陽が差し込まず、やや薄暗さを感じて気が滅入る。でも少し上って来ると、まだ赤みを帯びた太陽の日差しが山肌を照らし、朝のすがすがしさが味わえる。道は阿智村から清内路村に入り、国道に面して点在する幾つかの集落を過ぎて行く。日曜日の朝とあってか、まだ人影は見られない。集落らしい集落である上清内路を過ぎると、人家はぱったり途切れる。あとは峠の先まで分岐のない一本道である。

何やらトンネル工事中 トンネル工事

 人気のない峠道になった頃、ふと傍らの崖下を見ると何やら工事をやっている。あっと思って車を止め、歩いて引き返して見下ろすと、やはりトンネル工事であった。黒くぽっかり開いた坑口が見える。よく調べなかったが、やはりこの清内路峠を抜けるトンネルと考える方が妥当だろうか。現在の峠道でも概ね2車線の幅がある立派な国道で、私にとって走りにくさなど微塵も感じない。もっとも私の感覚はちょっと人とは違うかも知れないが・・・。

 確かにトンネルで直線的に抜ければ大変な時間短縮になる。また冬期の積雪や凍結に対しても有効だろう。今の峠にあるスノーシェードだけではこの峠越えは心許ないのは判る。それがトンネルなら心強い。でも日本の各地で見られる様に、この峠道の現役引退もそう遠いことではないのかも知れない。

清内路側 清内路村側より峠に着いた
「南木曽町」の標識と、スノーシェード近くに「清内路峠 1192m」の標識あり

 道幅が十分あり、何のストレスもなく峠に着いた。路面の凍結などを少し心配していたが、それについても何の問題もなかった。峠には短い距離のスノーシェードが設けられている。一般に峠の切り通しには、しばしば雪が積もっていたり、凍結していたりする場合がままある。峠までの道をなんとか走っ来られても、肝心の峠の部分だけ積雪があり、車ではどうしても通れない。歩けばさした苦労もない僅か数十mの距離に積もった雪が、車だとどうしても越えられないのだ。仕方なく涙を飲んで引き返しとあいなる。切り通しの両側の斜面に積もった雪が、道になだれ落ちて来るのだろうか。また峠は風が通り抜けやすく気温が下がり、川に架かった橋の上がよく凍結している様に、峠の部分の路面も凍りやすく、積もった雪も溶けにくいのではないかと思う。清内路峠にあるスノーシェードも、あれでなかなか役に立つのかも知れない。

峠からの景色
峠より清内路村側を望む

 峠からは清内路村側に展望がある。南向きで日当たりも良く晴れ晴れする。逆に南木曽町側は見渡せる景色もなく、北側なので暗いイメージを持つのは仕方ない。峠で5〜10分程うろうろしている間に、峠を越えて清内路村から南木曽町へ2台の乗用車が通過した。その時以外は全く静かな峠である。真冬の寒さがしんとしみる。

 この峠を越えて、あの種田山頭火も旅をしたようである。山頭火についてはあまり詳しく知らないのだが、何か引かれるものがある。数年前だったか、こういう人間が昔居たんだと初めて知り、気にかかっていた時にちょうどテレビで山頭火を取り上げた番組をやった。それで山頭火の一生をかいつまんで知ることとなった。俳句は判らないし、あまり興味もない。山頭火の俳句も2、3句、何となく好きなものがあるだけで、俳人山頭火として引かれるのではない。その人の生き様に引かれるのだ。そして共通項はやはり旅である。

 真っ当な生活ができず、妻子を残して旅に逃避する不心得者。友人に金の無心をし、酒に溺れる弱い人間。山頭火は托鉢をしながら続ける旅で、泊まった宿の宿賃をこまめに手帳につけている。また宿の程度の良さを三段階程でランク付けなどしている。非常にこまかい小心者である。そう言えば、私も宿泊したホテルや旅館の料金をこまめに書き残しているではないか。どこの宿が安いか、駐車場は広いか、駐車料金を別に取られないか、部屋に備え付けのテレビはエッチビデオを見るのでなければ無料か、近くに安い弁当が買えるコンビニやストアーがあるか、などなどいろいろ気にかかり、地図にメモをとってあったりする。同じくこまかい人間なのだ。

南木曽町への下り 2車線路 南木曽町側

 南木曽町への下りの道も、登りとさして変わらない幅の広い2車線路で、私にとっては物足りない。ただきついカーブが多く、水平方向にあまり進まない内にどんどん高度を下げていく。峠のこちら側は北斜面となり、朝のうちは十分に日が射し込まない。暗く湿った道である。これから国道をそのまま妻籠宿まで走り、旧中仙道で馬籠峠を越える予定だ。その後も西へ西へと車を走らせ、いつもの年末年始一人旅である。さて今回はどこの空の下で大晦日を迎えることになるのだろうか。山頭火ではないが、私も実生活を捨てて、このまま旅暮らしが続けられたらと思う。しかし休暇が終われば、またいつものサラリーマン生活に戻るしか能がない。全く山頭火より意気地がないのだ。せめて私も俳句でもやってみようか。

年暮れて 峠に一人 清内路        お粗末!!!


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