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津別峠  展望台からの眺めは幻想的


<掲載 1998/11/21> 今月の峠 1998年11月

津別峠
津別峠展望台より屈斜路湖の眺め 幻想的であった
画像では見えないが手前の柱に「津別峠展望所」と書かれている

 津別峠は北海道の津別町と弟子屈町の境にある峠で、これまでに一度だけ越えたことがある。随分昔のことの様な気がしていたが、調べてみるとたかだか6年ほど前のことであった。考えてみればオートバイや車でこんな旅を始めてからも10年をすこし回った程度だから、そんなに古くから峠の旅をしてきている訳ではないのだ。まあ10年ひと昔と言うから、それなりに昔なのだろうが、アルバムを眺めたりしていると、自分としてはもう取り返しのつかないほど遠い過去のことの様な気がする。

津別町で昼食 津別の町に入り遅い昼食とする
洒落た建物のレストハウス

 それは何度目かの北海道の旅で、その日も相変わらず辺ぴな道を求め、林道やら峠道やらを幾つか走り抜け、訓子府町の方から津別の町中に入ってきた。林道などを走っていると昼食をとるタイミングを逸してしまいやすく、もう昼時をかなり過ぎていて腹ぺこである。いつもはホカ弁かコンビニなどで弁当を買い、見晴らしのいいところでも見つけて景色でも眺めながら食べるか、弁当を売っている様な町に行きつかなかった場合は、車に積んでいる即席ラーメンやレトルトのカレーなどで済ませることも多い。でも今回は津別町という立派な町に出くわしたのだから、たまには奮発してちゃんとしたレストランででも食事にしようと思った。

 直ぐに見つけた広い駐車場に乗り入れ、その脇に建つ洒落た建物の店の看板を見る。「ユーコーヒー ウエシマ レストハウス つべつ」とある。コーヒーがあるのは分かるが、どんな食事ができるのだろうか。レストハウスというのはレストランとどう違うのだろうか。普段あまりこの類の店に入り馴れていないもので気後れがする。場違いなところに入って恥をかきたくはないし、どうしよう。しかし空腹にはかなわない。意を決して店の中に踏み込んだ。きれいで明るい店内に野宿旅を続ける薄汚れた身なりは明らかに不似合いだった。時間が遅いので食事客はあまりいない。なるべく隅の方に席を取る。注文をした後、食事が出てくるまでの間、連れでもいれば話しなどするが、一人だと手持ちぶさたで仕方がない。ただでさえ不審者と思われるのではないかと恐れているので、あまり店内をきょろきょろ見回したりもできない。そこでこんな時の為にと地図を車から持ってきていた。地図で調べものをするなら、怪しまれることもないし、間が持つというものだ。テーブルに広げた地図に目を落とす。店内は静かな午後の時間がゆっくり過ぎてゆく。さてこれからどこに行こうか。この津別峠とやらを越えて屈斜路湖へ出てみるか。

津別側入口
津別側のゲート 「津別峠 11Km」
右端の木の標識に「上里本流林道 津別営林署」

 津別町の市街を通る国道240号より分かれて、津別川に沿った道に入る。この道をそのまま行けば津別峠に通じるはずで、迷わなくていい。何の変哲もない舗装路を暫く行くと、ゲートがあり路面もダートとなった。「津別峠 11Km」の看板も大きく出ていて、間違いようがない。木の標識に「上里本流林道 津別営林署」とある。ダートなど期待していなかったのでちょっと嬉しい。地図によると峠近くに展望台があり、観光地化されたところかとも思っていたので、安心した。でも一方ではこうした未舗装路の峠道を越える時のいつもの不安が付きまとう。観光地化もいやだが、あまり険しいのも怖くていやなのだ。少し緊張気味で登り坂となったダートを行く。

 峠までの11Kmは未舗装ながら走り易い道のお陰で、ほとんどストレスもなく走れた。着いた峠からは展望がない。左に展望台へ通じる道が分岐している。どんな景色か知らないが、わざわざ行くほどのものだろうか。そろそろ日も傾いてきたので、早く屈斜路湖畔にでも野宿地を探して落ち着きたいとも思う。ちょっと迷ったが、寄り道は私の旅の信条である。展望台への道は相変わらずの未舗装路で、勾配もきつかった。一台のかわいらしい軽乗用車が下りてきて、中には似つかわしい女の子が数人乗っていた。しかし道は不似合いなほど荒れたでこぼこ道で、車はオモチャの様にぐらぐらゆれながら下って行った。

 行き着いたところには車が数台停められる空地と片隅に展望所があった。バイクが1台と他に車が2、3台置かれ、それらの乗員と思しき者達が展望所で一方向に向いて突っ立っていた。さてどんな眺めだろうかと、私もずかずかとその中に加わった。それまでも日本の各地でいろいろな景色を見てきたが、そこから眺められた景色はまた格別であった。眼下に広がる屈斜路湖が幻想的である。人間の住まない別世界を覗き見ているようだ。高台から見下ろしているのに、すぐ手の届くところにすばらしい絵画が置かれている様にも感じた。やはり寄り道はいいのである。

弟子屈側入口
弟子屈町側 長い直線路を抜けて舗装路となった この後すぐに国道に出る

 肝心な峠の写真も撮るのを忘れて、弟子屈町へと下った。こちらも走り易いダートで、最後に長い直線路を抜けると2車線の舗装路となり、この後すぐに国道243号に突き当たる。この国道243号にも美幌峠と言う屈斜路湖を眺められる場所がある。しかしこちらはどうも観光地化されている様で行く気はしない。国道を右に折れ、湖畔沿いを行く。津別峠展望所より見た屈斜路湖は幻想的であったが、着いて間近に見る屈斜路湖は、キャンプ場に夜中までカラオケが響き渡り、極めて人間臭い俗界であった。

 津別峠展望所からの眺めは強く印象に残ったはずだが、それでも遠い遠い昔のことの様で、だんだんおぼろげになってきた。しかも最近は1週間前のことも遠い昔のようで、なかなか思い出せずにいる。物事があまり印象に残らなくなった。何か生活が同じ事の繰り返しの様な気がする。いよいよ取り返しのつかない事態である。


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