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山中峠  「今月の峠」1998/ 5/10 掲載


山中峠
山中峠
未舗装  この先で大きく眺めが広がった

 岐阜県北部にある白川村から国道156号を南下してくると、途中御母衣湖を過ぎた先で分岐する国道158号は東に進み、国道156号は西に進路を取ってしまう。明宝村や八幡町へ抜けたいと思っても、素直に南下させてはくれない。鷲ケ岳付近の山々が行く手を阻むのだ。しかしただ一つ、山中峠を越えるという手段がある。まあ、一般向きな道ではないから、誰にでも勧められる訳ではないのだが。

 荘川村の国道158号の黒谷より峠への道が分岐している。狭い道で、なんか怪しいなと思っていると、案の定途中から未舗装になった。ほんとは元々それを期待していたのである。別に近道したいなどと鼻から思ってたのではない。あまり景色が広がるわけではないが、ダート走行を楽しめるのはいい。それとこんな道なら誰も来るわけはない。人が来ない道を走る、人とは違うことをする、というのが私には快感なのだ。

 さほどの距離もなく山中峠は現れた。荘川営林所の看板などが立ち並ぶ。

明宝村側の眺め
明宝村側の眺め  峠を少し下った所より

 この先どんな道が待ち受けているだろうかと思いつつ、峠を明宝村(旧明方村)側に下る。すると目の前に大きな視界が開けた。何やら緩斜面に広がった牧場といった雰囲気だ。その中を道が幾筋か下っている。眺めはいいのだが、こんな明け透けの道を走るのは、ちょっと気恥ずかしく興ざめでもある。私には荘川村側の林道の様な、ひと気がなく暗く寂しいくらいの道が似合っている。人目を忍んだ淫靡な楽しみを好むのである。

 峠直下より景色を眺めた時に感じた一種の違和感は間違いではなかった。斜面をくねくね這いずる道をおどおどと下って来ると、私には到底縁のなさそうな洒落た建物が目に入ってきた。周囲ではいろいろ造成工事も進行中である。牧場かと思ったのはどうもスキー場であったらしい。その時持ち合わせていた地図には何も記されていなかったので、建設中かあるいは出来立てだったのだろう。後に調べてみると、「めいほうスキー場」と言うことが分かった。

 場違いな所に出てしまったと悔みつつ先を急ぐ。道はまたしばらくの間狭くなり、国道472号の飛騨美濃有料道路を跨ぎ越して、料金所の先で国道に合流した。山中峠を越えて来たお陰で、こんな有料道路を使わずに明宝村に出られたことだけは満足と思う。料金所を一瞥して、料金所とは反対方向に車を走らせた。

 明宝村側は今ではりっぱなスキー場ができて、道も良くなっているのだろう。もう私にはおっかなくて山中峠には行かれない。それは荘川村側の未舗装の寂しい道が怖いのではなく、人が多く集まる華やいだ場所が苦手だからだ。


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