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有間峠  (仮称)

ありま とうげ


 初掲載 < 1999.10.14 > 秩父の山奥の集落、浦山へ続く峠

 
有間峠
有間峠
右奥が名栗村、左へ秩父市、手前は林道日向沢線

 埼玉県の秩父地方(ほぼ秩父郡の地域を指している積もり)は峠も多く、日帰りで出掛けたり旅の行き帰りに通過したりと、随分お世話になっている。ところが東京方面からだと、正丸トンネルを抜ける国道299号の他に、うまい経路がなかなか見付からない。国道299号の沿線は自然が多く、走っていて楽しいのだが、それも何度も走ると面白くなくなる。それに休日の秩父市の国道140号から国道299号へと乗り継ぐ道は、行楽帰りの車で大渋滞を起こす。日帰りドライブで疲れた後に、その大渋滞に巻き込まれるとウンザリする。日は暮れるし、車の列はなかなか進まないし、お腹は減るし、トイレには行きたくなるし、家まではまだまだ遠いいし、と泣きたくなる思いを何度かした。
 そこで地図をよくよく眺めて見た。秩父市の北側を流れる浦山川、現在は浦山ダムが出来上がったが、その上流より隣の名栗(なぐり)村へ道が通じていれば好都合である。名栗村からは県道53号青梅秩父線(成木街道)で青梅を通り、何の渋滞もなく帰れるというものだ。そんな道があるか分からないが、いろいろ調べてみたることにしたのだった。そして見付けたのがこの峠道である。今なら広河原逆川林道として道路地図にも載っている。峠道は秩父市と名栗村の境にそびえる有間山(1213.5m)の南側の近くを越えている。峠の名前はないようなので、ここでは有間峠と呼ぶことにする。


 
有間湖
有間湖  埼玉県名栗村
湖を挟んで中央の山並の頂上に峠が望める
 埼玉県名栗村より峠を目指すとする。
 県道53号青梅秩父線より有間ダムへの道に分岐する。最近は「さわらびの湯」と呼ぶ温泉施設もできて、信号機もある県道からの分岐に迷うことはない。左手に温泉を見て、右手にコンクリート壁に描かれた派手なペイントを眺め、名栗川の支流有間川を、ロックフィル方式で堰き止めて造られた有間ダムに到着する。
 ダムからは湖を挟んで山並が望める。よく見るとその山肌に道筋が通っている。そして峠があるのが分かる。目の良くない人なら双眼鏡を使うといい。そこをこれから越えるのだ。
 湖の上流に向かうには、左岸の道とダムの堰堤を渡って右岸の道がある。左岸が時々通行止になるが、右岸を行けば湖の直ぐ上流で道は合流している。

 湖には釣人がよく見られ、また湖から更に有間川を上流に遡れば「有間渓谷観光釣場」があり、その附近は休日には思いの外多い人で賑わっている。むさ苦しい男ばかりでなく、若い女性もちらほら見られる。観光釣場を過ぎると右に「広河原逆川林道」が分岐する。直進は有間川に沿う有間林道で、行ってみたことがあるが行止りであった。
 峠にはこの逆川沢(谷)に沿う広河原逆川林道に入る。秩父側が広河原谷に沿う道なので、林道の名前がそうなっているようだ。まだ峠が繋がっていない頃には「逆川林道」と呼んだ。観光釣場の駐車場などを過ぎて逆川沢沿いを登って行く。峠は西の方にあるのだが、道は方向違いの北へ向かう。林道といっても名栗側は一応全線舗装なのではあるが、コンクリートの路面は古く、剥がれて穴が空いている個所も多くて非常に走りにくい。
 脇を流れる沢は狭く急流で、それに沿う道も薄暗く、狭く曲りくねっている。ここまで来ると釣を目当ての観光客はなく、当然若い女性を見掛けることもなく、全く寂しい道なのである。林道入り口には林道標識は立つが、秩父まで抜けられるとははっきり明示されていない。通り抜けができる道と知る者は少ないのかもしれない。ときたま沢でキャンプしている者もいるが、狭い沢に野宿をしたいと思う絶好のキャンプ地は少ない。

 
 標高が上がると沢を離れ、視界も開ける。途中、左に未舗装の林道大名栗線が分岐する。気になっていたので一度だけ入り込んだが、雪で終点まで行かず引き返してきたことがある。多分どこにも通じていないと思う。
 逆川林道は一旦蕨(わらび)山と橋小屋ノ頭との稜線近くに出る。そこに何の標識もないが逆Yの字に右に狭い急坂の道が分岐する。ウッカリ見過ごしてしまいそうな道だ。そこを上がると直ぐに山小屋と展望台がある。そこは蕨山からほぼ真西に延びる稜線の鞍部に位置し、登山道の一部にでもなっているようだ。展望台からは稜線を越えて北側の山並が望める。
 景色を見ながらふと考えてみると、こんな所まで車で簡単に来れてしまうのは、いいような悪いような気がする。
やっぱり自分の足で汗をかいて辿り着くのが本当であろう。しかしサラリーマンでは十分な時間と、それになにしろ十分な体力がないのである。
展望台
名栗村側の展望台
蕨山と橋小屋ノ頭との鞍部にある

 

稜線近くの道
稜線近くの道
大きな岩がそびえ立つ
 峠道はほぼ登り詰めると、今度は南の方に進路を反転し、秩父市との境を成す稜線近くを進む。こうした稜線沿いの道は空が開けていて気持ちがいい。加えてアスファルト路面の状態も良くなる。僅かなアップダウンを繰り返し、大きな岩を右に左にすり抜けて行く道だ。
 初めてこの峠道を越えた時は、秩父市の方から登ってきた。道が通じているかも分からず、途中工事箇所もあり、峠に着いて有馬湖が見えた時は一安心した。あの湖までどうにか道が通じていてくれと願った。ところが、峠からは湖とは全く違う方向に進んでいくし、湖は二度と姿を現わさないし、道はアップ・ダウンを繰り返してなかなか下らないしで、最後まで不安な思いをさせられた。折角眺めがいい稜線近くの道なのに、景色を堪能する余裕などなかったものだ。

 

 どこがその山だか分からないが、有間山を右手にして通り過ぎ、不意に峠に着く。峠からは名栗村側の有間湖を中心にした景色が絶品である。ダムから眺めた峠だったが、今度は峠からダムを眺めることになる。
 峠からは未舗装林道が一本、南の方に向かって分岐している。日向沢(ひなたざわ)林道と呼ぶ。最近では簡単なチェーンで通行止になっているようだ。一度チェーンがない時に途中まで入れたが、直ぐに仮説ゲートが出てきて、終点までは行ったことがない。看板には「この先行き止まり」とあるが、気になるものだ。ここは東京都との境から北へ数Kmのところに位置する。東京都の方からも都県境に向かっていく本かの林道が登ってきている。それらの林道のどれかと繋がっていたら、非常に面白いと思うのである。
峠から有間湖の眺め
峠より有間湖を眺める

 

秩父市側の景色
秩父市側の景色
去年の3月初旬、雪が残る
険しい山岳林道の様相だ
 峠から秩父市側は直ぐに未舗装になる。険しい山岳林道の様相を呈し、この峠道の難所と言っていい。裏を返せばとても楽しい区間なのである。車のギヤを四輪駆動に入れる。ちょっとした緊張感が出てくる。谷を見渡す眺望はよく、それが険しさを感じさせる。
 ところが最近は下からの舗装がどんどん延びてきている。もう2、3Km程度しか残っていないんじゃないだろうか。オンロードバイクが登って来ることさえもあるのである。完全舗装の日は近い。
 でも冬期は通行不能である。去年の3月初旬に秩父市より恐る恐る登ってきた。概ね除雪されていて、この分なら越えられるかと思ったら、峠を目前にして我がジムニーでも進めなくなったのだった。

 

 険しい山岳道路区間を過ぎると、広河原谷(川)沿いの落ち着いた道になる。左にキャンプ場「秩父 彩の国キャンプ村」を分岐し、さらにいつもチェーンで通行止の林業用作業道を右に見て、最後に冠岩橋を渡って県道73号秩父名栗線に合流する。この場所は「冠岩入口」と呼ぶらしい。
 秩父側から来ると、この場所で悩むことになる。県道名は如何にも名栗村に通じていそうな名前なのだが、その県道は左に曲がって行く。そして残念ながら「上名栗への車両通行不能」と出ている。実際に行ってみたが、確かに1Km足らずで車道は途切れていた。その先、冠岩からの登山道は、鳥首峠を経て名栗村の白岩に至るようだ。ちなみに名栗村側より白岩まで車で入ったこともあるが、採石工場に突き当たって行き詰まった。
広河原逆川林道終点
前方に広河原逆川林道が始まる分岐点
手前方向は県道73号を浦山ダムへ
左は県道73号の続き

 正解は勿論、林道標識のある広河原逆川林道を進めば、峠を越えて名栗村に出られるのだが、林道入り口に何だかんだと看板が多い。「落石有り 車の運転に注意して下さい 彩の国(キャンプ場のこと)まで通れます この先2km」とか、「この先落石危険につき林業関係者以外の通行はご遠慮下さい」とか、「お知らせ 有間ダム近辺 夜九時より朝六時まで通行止です」とか、「道路情報 がけ崩れのおそれ」とかである。なかなか気安く入れさせてはくれないのだ。その点、名栗村からは何の警告看板もないので、入り易くていい。
 ただ、崩落事故が起きたりした時は、「全面通行止」などの看板が出ていて、その時は本当に通れないので、引き返すしかない。また冬期には「この先凍結 スリップ注意」とか、「この先降雨・積雪時には通行不能の場合があります」とか出ている。この時は行ってみないと分からないが、通れないのを覚悟しておかなければならない。
 何にしろ、危険な道であることに変わりはなく、それを十分に認識した上で、入れさせてもらうことにする。

 
秩父市浦山の集落
秩父市浦山の集落
この峠道一番の難所?
 県道に入ると左に浦山大日堂を見て、間もなく秩父市浦山の川俣という集落に入る。実は有間峠越えの一番の難所は、名栗側のアスファルトが剥がれた坂道でもなければ、秩父側の未舗装林道区間でもない。この集落の中を通る道が非常に狭いくてすごい難所なのである。
 広河原逆川林道はさすがに通る車は極少だが、川俣集落以降は意外に交通量がある。それにどういう訳かこの小さな集落の中で対向車に出くわす確立が高いのだ。バイクとすれ違うのも大変な道で、車同士がすれ違える訳がない。どちらかが引き返すことになる。こちらは軽自動車だし、またよそ者という弱みもあるので、いつもおとなしく引き返すことにしている。でも、一度引き返して進もうとすると、また次が来て、それをやり過ごしたら、また次が来たりした日にゃ、いいかげん頭にきてしまう。道が狭い上に曲がっているので、見通しが極めて悪いのだ。
 また退避場所にも苦労する。人家の庭先へ入れさせてもらうのが常套手段だが、もともと斜面に造られた集落だから、山側の人家へは急な登り、川側へは急な下りになっている。対向車が行き過ぎるまで、その急坂の途中でブレーキをふんばっていなければならないのだ。まさしく難所なのである。

 

 集落の附近より左に天目山林道が分岐する。地図を見ると東京都との境界近くまで延びている。もうあとちょっとで境を越え、鍾乳洞で知られる東京都奥多摩町の日原まで通じそうな勢いだ。一度この林道に入り込んだが、直ぐにゲートで行止りで、その実態は不明である。
 県道は浦山川沿いを進み、途中左折して(直進は大神楽へ)浦山ダムに向かう。

 浦山とは武甲山の「裏」という意味があるとも聞く。但しこちら側からは、山が迫っているので、武甲山は望めない。私が初めて訪れた時は、既にこの浦山で大規模なダムの工事が始まっていた。ダムの堰堤はほぼ完成し、湖底となる谷は赤茶けた土を露出し、そこを建設機械がうごめいていた。勿論旧道の跡形も無く、ダム湖を取り囲む様に谷の上部に新しい立派な道が通っていた。
 しかし、ダム湖の上流部からは川俣などの集落に続く旧道が、まだそのまま使われていた。谷の底を通る薄暗く細い道で、その先に集落があったのには驚いた。
 当然ながら裏山ダムが出来る以前から集落はあり、そこまで続く道が存在たのは当たり前だ。ダムの完成は、そこに住む人たちにとっては大きな変わりようだったに違いない。

浦山ダムの上流
浦山ダムの上流
谷底に見えるのは旧道の名残だろうか

 今では谷の上の新道が集落近くまで築かれていて、あの時の旧道の痕跡を確認することもできない。集落付近も何やら工事が進んでおり、ますます道は良くなっていくようだ。峠道の難所がまたひとつ姿を消すのかもしれない。集落の住民にとっては便利なことだろうが、何だか寂しい気がする。

 
建設中の浦山ダム
建設中の浦山ダム
水をたたえた浦山ダム
水をたたえた浦山ダム

 秩父に通じるいい峠道を見付けた訳だが、いわゆる「抜け道」などには到底ならない。渋滞する国道を走った方がよっぽど時間が掛からないのである。でも時間が許す限りは、ついつい足が向いてしまう峠道なのであった。


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