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温迫峠  ぬくみさこ とうげ
峠からの景色と長い未舗装林道が魅力の峠道


<初掲載 2000. 9. 3>
 
温迫峠
温迫峠 (撮影 1999. 5. 6)
奥が熊本県上村の市街地方面へ、手前が宮崎県のえびの市へ続く
峠は上村内にあり、県境ではない
 
えびの市側林道入り口
えびの市側の林道入り口 (撮影 1994. 5.27)
この時は通行止の標識にしぶしぶ断念
看板にはクルソン林道ではなく、「大川筋林道」とある
 九州で走ってみたいと思っていた林道がある。地図には「白髪狗留孫(クルソン)林道」とある。熊本県上村と宮崎県えびの市を繋いだ県境を跨ぐ道だ。九州で長い未舗装林道といえば椎矢峠の道を思い出すが、このクルソン林道も延長「約28.5kmのダート」とある。そうなれば行かない訳にはいかない。
 1994年の5月にえびの市側からアクセスする機会があったが、林道入り口には大きな通行止の看板が立っていた。通行止の理由は何も書かれていない。常時通行止なのだろうか。また、地図には「私有地林道」ともある。何となく入りにくい道だと思った。
 同じ県境で、もう少し西側に堀切峠というのがある。そちらも越えてみたかったので、この時はクルソン林道はしぶしぶ断念した。(向かった堀切峠はほとんど廃道状態だったが、どうにか車で越えることができた)
 九州は遠い。その後、クルソン林道もその先にある温迫(ぬくみさこ)峠も訪れる機会が全然巡って来なかった。なかなか休みのとれないサラリーマンでは仕方がない。やっと温迫峠が越えられたのは、それから5年後のことだった。
 
 1999年の5月に熊本県の多良木町方面から小白髪岳峰越林道で上村に入った。小白髪岳峰越林道は未舗装のくせに普通乗用車の通行が多く、タクシーも通っていたのには驚いた。
 上村の温迫峠の北側一帯はちょっとした林道の宝庫である。どの林道を使って峠に向かおうかと迷ってしまう。峠道の本線は榎田大川筋林道らしいが、なるべく長く林道を走ろうと、県道43号から薬師谷線なる林道を探す。ところが薄ぐらい山の中で行き止まりになる道やら、人家の軒先でUターンしなければ帰って来れない道などに入り込んで散々迷ってしまった。どこをどう通ったか分からないが、結局宮川内公園に出た。ついでなのでその公園で水道を借り、顔を洗ったりして一息入れ、また仕切りなおしである。
 公園から先の宮川内林道をちょっと進むと、右に掲載したような「林道案内」が立っていた。その後も林道の分岐などの要所要所にあり、なかなか便利である。ツーリングマップルの記載と異なり、宮川内線は薬師谷線に合流し、炭山線へとつながっていた。当初の思惑通り、長い林道走行が楽しめることになった。
林道案内
上村の林道案内
これは温迫峠にあったもので
赤丸で示す現在地は峠を指している
同じものが随所にあって林道走行には便利だ

林道案内の詳細画像 上の画像の詳細です。
ある程度地図が読めますが、238KBと大きいので注意

 
榎田林道
榎田大川筋林道
左より炭山林道が合流している
右端の看板には「白髪岳5km 榎田林道」とある
 途中のんびり10時のおやつ休憩などしながら、炭山線から本線の榎田大川筋線に入った。

 榎田林道とは、上村にあるこの附近の山地の最高峰である白髪岳(しらがたけ)への登山道でもあり、上村には榎田の地名もあることから、上村側の林道名称のようである。一方、えびの市側の林道入り口にある看板には「大川筋林道」の文字が見られる。よって榎田大川筋林道とは温迫峠を越えた林道全線を示していると考えられる。するとツーリングマップにいある「白髪狗留孫林道」とは何なんだろうか。先の林道案内に「白髪狗留孫」の名称はない。多分、白髪岳や名勝狗留孫峡を表した俗称なのかもしれない。如何にも正式名称らしい榎田大川筋線より、やはり私にとっては「クルソン林道」の呼び名の方がいい。

 
 道は終始未舗装だが、林道の案内看板があるくらいなので、路面もよく整備され、非常に走り易い。支線林道も含め、上村の林道は立派なのである。

 本線以外の林道からも、時折うかがえたが、山裾に広がる盆地の景色がなかなかいい。峠に近付くにつれて、益々遠望もきくようになる。

 今日は天候も上々で、旅日より、峠越え日よりである。はたして温迫峠はどんな峠だろうか。その先のクルソン林道は通れるだろうか。峠を目前に期待と不安でいっぱいである。

景色
林道途中から眺められる山裾に広がる景色
  
温迫峠
温迫峠(車道からちょっと高台に登る)
前方の道が上村市街へ、右はえびの市方面へ
左に林道(段塔八十支線)が分岐している
自転車ツーリングの男女2人が休んでいた
 山裾を右手にしながら峠に着いた。峠からは一本の林道(段塔林道80支線)が分岐していた。峠の形態としてはあまり好まない。峠道は分岐のない一本道であってほしい。峠も深い切り通しの方が、味わいがあるというものだ。

 代わりに温迫峠からの眺望は抜群である。「温迫峠」と書かれた看板と一緒に「展望所」の看板もあるくらいだ。峠からも景色はいいが、車道からちょっと高台に登れば、眼下には山裾に広がった市街地の景色が眺められる。

 「温迫」の読み方にはちょっと迷うが、峠の看板にはふりがながふってあり、これで今後間違わずにすむ。

 
 峠にはちょうど、自転車ツーリングでやって来たらしい若い男女2人が腰をおろし、雄大な景色を前に休憩していた。2人とも本格的なツーリングウエアを着ていて、健康的にスポーツをしているといった感じである。車なら訳ない峠道だが、自転車となればこの峠まで登るのは大変なことだったろう。峠に到着した達成感で、思わず景色に見とれているのかと思った。
 ところが高台へ上がる時に2人の脇を通ると、何やら世間話で盛り上がっていた。どうも下世話な話題のようだ。時折女性の大きな笑い声も上がる。こんないい景色を前に、もっと崇高な話題はないものかとも思ったが、男女の仲はそんなものだろう。

 暫し、峠でうろうろ写真を撮ったりした後、いよいよクルソン林道に向けて出発することにした。振り返ると例の2人は相変わらず会話に余念がなく、いつ出発するともしれなかった。

峠の看板
峠の看板
峠名にふりがながふってあるのは有り難い
  
峠からの景色
峠(車道より上った高台)からの景色
山肌にクネクネと林道が通っているのが見える
  
私有林の看板
私有林の看板
 峠を宮崎県えびの市方面へ向けて下る。
 左の看板にもあるように、一帯は私有地で入山は禁止のようだ。入山する積もりはないが、林道は走りたい。こうした私有地の中にある林道は自由に通行していいものなのだろうか。林道は私有ではないのだろうか。5年前に来た時は、そこのあたりが気になり、また通行止の看板も出ていたこともあって、あっさり諦めたクルソン林道であった。

 しかし今回、温迫峠側より下って来ても、通行止やら進入禁止の標識は全く見かけない。無事に先に進めるのであった。

 
 林道周辺は深い山で、峠の反対側(上村市街側)のような展望はない。それでもまだ峠近くは時折景色があるが、見渡す限り山また山である。峠をあらかた下ってしまうと、もう完全に林に囲まれてしまう。見るものもなく道もいいので、長い林道もどんどん進んでしまう。
周囲は山また山
周囲は山また山
  
鳥獣の看板
林道脇にあった鳥獣の看板
 ツーリングマップ(ル)(昭文社)には「ブナの南限地帯」とか「動物とのであいも」との記述がある。林道を走る旅を長年やっていてるが、草木や動物といった自然に関する知識は全く持ち合わせてない。ブナといえば青森・秋田の県境の白神山地が、ブナの原生林で有名だ、くらいのことは知っているが、ブナの木を見分けられるかといったら自信がない。たしかコケむした木肌をしているそうだが、どちらにしろ関心はない。
 林道途中に左に掲載した鳥獣保護区の看板があったが、こちらを試す様に鳥獣のシルエットだけで、名前が書いてないのだ。半分以上分からない。でもクマが居ないことだけははっきり確認した。九州にはもうクマは棲息していないそうなのだ。野宿する者にとっては安心していられるのだが。
 景色はない、自然にも関心がないで、道は益々進む。
 
 あっと言う間に狗留孫神社分岐まで来てしまった。神社への道は木立に挟まれた狭い林道であった。神社仏閣にも関心がないので先に進む。
 しかしその先、分岐する林道は通行禁止で、本線を走ること以外何もすることがない。こんなことなら神社に寄っておけばよかったと後で悔やんだ。

 クルソン林道(正式には榎田大川筋林道)は熊本県と宮崎県の県境を越える林道である。残念ながら温迫峠は県境ではなく、県境は林道途中の平坦地にある。単なる市町村の境ではなく、かりにも県境なのだから何かしらの標識があっていいはずだ。地図によれば狗留孫神社と狗留孫峡の間に県境がある。しかし、見事に通り過ぎてしまった。はたして県境を示す標識は存在したのだろうか。

狗留孫神社への分岐
狗留孫神社への分岐
狭い林道
  
狗留孫峡
林道上に狗留孫峡の看板(峠方向に見る)
「ここから狗留孫峡」
「キャンプ場2.5K 狗留孫神社5.5K」
 キャンプ場を過ぎ、狗留孫峡までやって来た。名勝とまでうたう峡谷だが、それ程険しくは見えない。深く切れ込んだ谷なのだろうが、林道が谷底近くを通っている為だろう。狗留孫峡と呼ばれる川内(せんだい)川の流れも、見たところ穏やかであった。
 ところで「狗留孫」とはなんであろうか。「クルソン」と片仮名で書けば、どこかの外国人の名前のようでもある。「クルソンが発見した峡谷」とでも看板にあれば納得してしまいそうだ。また、この谷には天狗の伝説があるそうだ。「狗」の字が共通しているが、何か関係があるのだろうか。

 この附近の林道は川内川の間近に沿った道で、比較的まっすぐ走っている。道幅は走行するには十分だが、気兼ねなく路肩に駐車するほどのスペースはあまりない。分岐する林道もゲートでふさがれていて、なかなか休む場所も見つけられない。名勝狗留孫峡を写真に納めるのも、車の駐車にひと苦労である。

 
狗留孫峡
名勝狗留孫峡
 
 駐車スペースもないので、更に道ははかどる。
 舗装が切れ、その直ぐ先で林道終点に到着した。そこは5年前に見覚えがある場所である。以前とあまり変わりはないようで、舗装化の危惧もないのがいい。

 長距離ダートのはずだが、走ってみるとあっけないクルソン林道であった。できたらえびの市側から峠を越えられたらよかったと思う。そうすれば、長い林道を抜けて峠に着き、その先でパッと広がるあの景色が、より感動的に眺められたろうに。

えびの市側林道入り口
えびの市側林道入り口 (撮影 1999. 5. 6)
 
林道入口の看板
えびの市側林道入り口にある看板
大川筋林道はえびの市の管轄のようだ
以前には「管理責任者 えびの市」の後に「森林組合長」とあったが、今はその文字が消されている
「名勝狗留孫峡入口」の看板も若干傷みが増したようだ
しかし5年の歳月にしては、概ね変わりがないのであった
 

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