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十石峠
 
じっこく とうげ
 
国道らしくなりつつある峠道

 
十石峠 (撮影 1999. 7.24)
手前が長野県佐久町大日向(おおひなた)、奥が群馬県上野村
道は国道299号(群馬県側は黒川林道)
空が広い峠だ
 
 長野県の東側に接する群馬県や埼玉県の県境付近の峠道は、どれもなかなか長く険しく、すなわち楽しいものが多い。既に「峠と旅」で掲載してある三国峠(埼玉県・長野県)が何と言っても一番だが、その次に挙げるとすればこの十石峠となる。
 何が順番を決める判断基準かと言うと、やっぱり道の未舗装さ加減である。舗装されているかそうでないかで、通る車の質や量が違ってくる。ガタガタの砂利道を好んで走ろうという人間は、限られてくるという次第だ。
 その点で、先の三国峠は埼玉県側の中津川林道が未舗装のまま健在であり、全く文句のつけようがない。また、十石峠の道は国道299号ということになっているのだが、峠前後は国道とは名ばかりの狭い道である。特に群馬県側は国道が未開通で、その区間を未舗装林道黒川線が繋いでいるという格好だ。

 ところがその十石峠、最近がおかしいのだ。1999年の7月に黒川林道を通ると、ほとんど舗装化されてしまっていた。それに峠には何やら派手な塔が立っていた。危うし十石峠。

 

国道299号が急に狭くなる
左が橋を渡ってぶどう峠へ
直進が十石峠、塩ノ沢峠へ
 群馬県の上野村へは、東の都会の方からだと国道462号、299号と走り繋いで行くことになる。私の場合は大抵、埼玉県の秩父の方からずっと国道299号で、志賀坂峠を越えて群馬県に入り、中里村で国道462に合流し、更に上野村へと西へ進むこととなる。

 最近「道の駅上野」などができ、志賀坂峠付近などと比べると、上野村の国道は非常に立派になった。幅広の2車線路に生まれ変わり、谷があろうが山があろうが、橋やトンネルを使ってとにかく真っ直ぐ突っ切っている。道の左右は山だらけで、ちょっと不似合な感じだ。交通量も少なく、快適そのものである。

 しかし、調子に乗って走って来ると、道が急に狭くなり、前方にも山が立ちはだかる。そこはもう上野村のドン詰まりといった感じの所に出る。始めて訪れると、この先、道がなくなっているんじゃないかと不安になる。それがどっこい、1本どころか何本かの峠道が山を越えて続いている。

 
 まず最初に左手へぶどう峠の道が分岐する。十石峠と同じく長野県との県境を越え、北相木村・小海町へと通じる道だ。

 最近、日航機事故の「御巣鷹の尾根」へ行く道としてか、国道からの分岐が立派に付け替えられた。元々は右の写真の小さな橋を渡っていく道である。橋を渡った先も狭い道で、この先大丈夫だろうかと心細くなることしきりであった。

 現在はその少し手前を、神流川の右岸に沿って登って行く道が整えられた。道はその先、暫くはいいのだが、御巣鷹山への分岐が過ぎると、以前の細い峠道のままである。


以前のぶどう峠への入り口
今は「白井、三岐、浜平、中ノ沢方面」とあり、
「ぶどう峠」の文字はない
 

直進が「十石峠 佐久市
右は「下仁田町 国民宿舎やまびこ荘
 国道299号の続きと思われる方向を、道が狭くなるのを我慢して更に進むと、直ぐに今度は右手に分岐が現れる。直進が十石峠で、右の道は塩ノ沢峠を経て南牧村・下仁田町へと通じる。

 十石峠やぶどう峠、塩ノ沢峠といろいろ道があって、上野村はドン詰まりではないことが分かる。しかし、どの峠もなかなか険しい。峠を探訪しようという余裕の気持ちで訪れるならいいが、ただ移動するためだけにこれらの道を通ると、全くうんざりさせられる。
 長い旅の帰路で、日も暮れてからこれらの峠を越えて戻ってきたことがある。いつまで経っても峠が現れず、無限に道が続いているように感じた。それでもやっとの思いで峠を越え、この上野村に下りて来て一安心。しかし、これから先、秩父や青梅を通って自宅に帰り着くには、志賀坂峠や山伏峠が待ち構えている。それを思うと、もうほとんど気を失いそうであった。

 

迂回路案内
但し1999年(平成11年)の7月1日〜8月31日は
時間帯通行止で、無事に通過
 さて、塩ノ沢峠への分岐を横に見て天王橋という橋をを渡り、これからがいよいよ十石峠への峠道である。ここは国道の未開通区間を林道が結ぶ、この峠道最大の難所と言える。
 ぶどう峠や塩ノ沢峠と比べて、十石峠の方が格が上だと思えるのは、国道となりうる幹線路であると同時に、この群馬県側に未舗装区間を長く残していたからだ。入り組んだ暗い沢沿いの、どこかじめじめした感じを受ける林道であった。通る者などほとんど見掛けたためしがない。

 ところが、1999年の7月にそこを通ろうとすると、時間帯通行止が行われていた。朝8時から昼の12時までと、12時50分から夕方5時まで通行止。これではほとんど通れやしない。しかし時計を見ると、ちょうど12時半で、急げば通過できる。とにかく上って行くことにした。
 道は見通しが利かない上に、やたらと細かくクネクネ曲がり、なかなか方向感覚が掴めない。自分がどちらの方向に向かって進んでいるのか、さっぱり見当がつかない道である。

 先の通行止の看板に「国道299号線 舗装工事の為」とあったのだが、その通りに未舗装はほとんど消えうせていた。舗装工事はほぼ完成しているように見受けられた。ただ、道幅などは以前とあまり変わりがなさそうなのだが。

 矢弓沢林道が分岐するちょっと手前で、工事個所が現れた。ちょうど昼休みとあって、工事関係者が路上に座り込んで休んでいた。その脇をゆっくり通り抜けた。

 

最近の黒川林道
国道標識も立っている

まだ未舗装の頃の黒川林道 (撮影 1995. 4.29)
やっぱりこっちの方がいい
 

左に矢弓沢林道が分岐する
終点
林道
矢弓沢線
管理者
上野村
 矢弓沢線というのは、今回のこの工事で迂回路として工事看板に掲載されている。下の国道299号からぶどう峠への道が分岐するが、そこから直ぐにこの林道が分岐し、黒川林道と尾根一つ隔てた南側をほぼ平行に走る道のようだ。
 最近のツーリングマップル(昭文社 関東編 1997年3月発行)にはこの林道の記載がなく、今回始めて知って驚いた。こんなところに車が通れる道があったとは。古いツーリングマップ(1989年1月発行)では、そのあたりに点線でしっかり道が記されている。ほぼそれが車道として開通され、矢弓沢線となったものらしい。
 マップを全体的に眺めると、黒川林道が大きく北側を迂回しているのに対し、矢弓沢林道はほぼ直線的に峠に向かっている。矢弓沢林道の方が十石峠の峠道としてふさわしい経路をたどっているのだ。車道としての峠道となる以前は、こちらが本来の十石峠の峠道だったように推測される。

 ところで、道はどんどん新しくなるので、ツーリングマップルも買い換えていかなければならないが、どうも最近のツーリングマップルには気に入らないところがある。今回の矢弓沢林道の元となる点線が、省略されていたりすることだ。小さな集落の地名なども消されていることがままある。以前はこまごまとして、見難いこともあったが、じっくり読むと面白いマップであったのに。

 
 運良く黒川林道の工事区間を通過することができ、いよいよ峠も近い。しかし、相変わらず峠の所在はさっぱり見当がつかない。それに、単純に登りきるとそこが峠という訳にはいかないのだ。峠を直前に若干のアップダウンがあり、一体峠はどこなんだと思っていると、ひょっこり峠に着くという仕掛けだ。

 それまでの道の様子と違って、峠は比較的空が広く、開けた感じがする。しかし、残念ながら展望が少ない。上ってきた群馬県側は勿論のこと、長野県側もそれほど遠望がきく訳ではない。峠から北側に向けて歩道が伸びていて、そこを少し上ると少々山並みが望める。

 今回その場所に展望台が立っていた。青空に映える色をした塔だ。内部に鉄製の階段が設けられ、まるで灯台にでも登るように登ると、それまで邪魔をしていた木々を越えて、グッと眺望が広がる。

 車道を挟んで展望塔の反対側には、アスファルト敷きの駐車スペースと、その一角にトイレが新しくできていた。峠全体として、生まれ変わったと言う程でもないが、少なからずの変貌である。
 でも、よく見れば、峠の標柱やら看板など、古くからあるものが、そのまま残っていることも多い。展望台の右に並んで立つ新しい祠の中にも、古そうな地蔵が納まっていた。


妙義荒船佐久高原国定公園
十石峠展望台
高原と花の里
 
 展望台からの眺め
 

最近の峠 (撮影 1999. 7.24)
新しくアスファルト敷きの駐車場ができている

以前の峠の様子 (撮影 1992. 9. 5)
 

峠の標柱

峠の看板
標高1356mとある
 

展望台に並んで立つ地蔵
 峠では、土曜日の休みということもあり、オンロードバイクでツーリングに来た者たちを見かけた。真新しいアスファルトの駐車場にバイクを停め、一息つこうとしているのだが、さっきからこの付近に大きな蜂が飛び回っていて、危なくてしょうがない。車なら中に逃げ込めるが、バイクではそれもかなわない。蜂に閉口して、遂に展望台にも上らず、さっさと峠を下って行ってしまう者もいた。
 以前にも登山者のものらしい車が、峠に停められていたりしたが、こうしてドライブやツーリングでこの峠を訪れるものは、少なかったように思える。

 十石峠の「十石」とは、信州の佐久平より上州側に、一日に十石の米が運ばれたことによるとされる。一石が約180リットルだから、十石は1,800リットルである。1.5リットルのペットボトルにして1,200本だ。これが水だと1.8トン。2トン車なら一回で間に合う量だ。あれこれ計算しても、昔の大変さは測りかねる。
 

 峠を長野県側に下る道は、細いながらも昔から舗装済みである。それで長野県側は以前から「国道」ということになっている。比較的大きな谷に沿った明るい道で、どんどん下っていく。
 上野村のドン詰まりのような所から、こうしてちゃんと長野県へ出られる。何となく不思議な気がする。峠道というのは面白いものだと改めて思う。

 
 以前、この十石峠の道沿いで野宿する積りで来たことがある。群馬県側にはいいところは全くなく、長野県側に下り始めても、なかなかテントが張れそうな場所が見付からない。「乙女の森」と書かれた看板が立つ付近や、更に下にある古谷ダム湖の左岸の道に入ったりしたが、全然ダメである。

 峠道を右往左往してほとほと困り、遂に道路から川一つ隔てた植林したての場所に、テントを張ったのだった。道路から丸見えで、何となく気が引けたがしょうがない。それに夢見が悪かった。クマに襲われたり、テントごと車に引かれて、押しつぶされる夢だった。散々の野宿だった。


長野県側の下り (撮影 1992. 9. 6)
野宿地から車道を眺める
 

乙女の森の看板
 乙女の森の近くには、「乙女の滝」がある。車道の直ぐ近くで、確か見物したこともある筈なのだが、写真もなく全く覚えがない。大した滝ではなかったようだ。

 更に下流には古谷ダムに堰き止められてできた湖が姿を現す。ここまで来ると、もう峠道の趣はない。道もよくなり、ただの国道である。それが面白くないなら、ダムを過ぎた直ぐ先で右に分岐する、大上峠の道に入るといい。

 
 十石峠の群馬県側は、1999年以後も通行止が続いているとのこと。迂回路として矢弓沢林道やぶどう峠の道が指示されているらしい。通った者の話では、矢弓沢林道は全面舗装の1〜1.5車線の道とのこと。通行量もままあるようだ。

 何やら気になる通行止である。土砂崩れかなにかならまだいいが、拡幅工事でも行われてやしまいか。まさかぶどう峠や塩ノ沢峠より、格下の峠道になってしまうのだろうか。これ以上変わって欲しくない十石峠である。
 

<制作 2001. 6.12>

古谷ダムより下流を望む (撮影 1992. 9. 6)
 

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