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川井峠(隧道)
 
かわい とうげ
 
四国徳島県の山深さの入口

 
川井峠(隧道) (撮影 1997. 9.25)
徳島県木屋平(こやだいら)村側坑口、隧道の反対側は同県神山町
道は国道439号(438号との併用区間)
 

現在は隧道だが、ちゃんと「川井峠」の看板もある
 四国の旅の始まりは、大抵徳島からであった。
 今でこそ瀬戸大橋や西瀬戸自動車道、明石大橋などができ、オートバイや車で四国に入るのもたやすく、コースもいろいろ選べるようになったが、以前はまずフェリーで海を渡らなければならなかった。
 フェリーの乗船は面倒だし、時間もお金も掛かる。そこで、関東方面からやって来た時に、なるべく短い航路を選ぶとなると、明石かまたは和歌山から一旦淡路島に渡り、鳴門大橋で四国に入るのが無難なコースとなっていた。それで必然的に徳島が四国の入り口であった。
 
 徳島県に上陸し、鳴門市から国道28、11と走ってくると徳島市街に出る。徳島市は大都会だ。慣れない土地で、片側3車線もある様な大きな道路などを走るのは気疲れしてたまらない。ジムニーにとっても不似合いである。一刻も早く山奥に逃げ込みたくなってくる。
 
 そこで登場するのが、国道439号である。この国道は徳島市の中心も中心、JR徳島駅の直ぐ前から始まり、ずっと西に向かって伸びている。今は国道438号との併用区間が長いが、元からあったのは番号の大きい国道439号の方である。
 道路地図を見ると分かるが、この国道は徳島市を起点とし、遥か西の高知県中村市まで通じている。四国の山岳地帯を貫通する背骨のような存在だ。とっても山深いのである。
 途中には見ノ越やあの京柱峠などの素晴らしい峠が控えている。峠の旅が好きな者にとっても、たまらない道である。早く四国の山の中に逃げ込みたいなら、これ以上うってつけの国道はないのだ。
 
 徳島市を出た国道439号は、佐那河内(さなごうち)村を抜け、次に神山町に入る。そして最初に越える峠らしい峠が、この川井峠なのだ。
 残念ながら現在の車道の峠は切通しではなく、川井隧道という短いトンネルになっている。しかし、神山町から木屋平村へトンネルを抜けて出ると、その少し先でぱっと広がる景色は、まさしく峠道ならではのものがある。

峠より川井方向を見る
道路情報
通行注意
落石のおそれ
川井峠〜見ノ越
 

峠にあった古い木屋平村案内図
そこには、「国道」の文字はなく、
代わりに「徳島−剣山線」とあった
県道時代の案内図だろうか?
 川井峠は神山町上分の府殿(ふどの)と木屋平村川井との境の峠である。峠名は小屋平村の川井の地名からきている。古くから川井を経て祖谷(いや)谷へ通じる道として使われてきた。現在の隧道のほぼ真上には、古来の駄馬道があったそうだ。
 それも、昭和41年に川井隧道が開通したことで、県道徳島剣山線に取って代わられた。そして、現在の国道へと昇格していく。
 峠の神山町側の少し手前に、県立青少年野外活動センターがあるが、その近くに川井峠開削期成同盟会が建立した石碑が立っているそうだ。「見よ、旅人よ、ここは川井峠である」に始まる碑文が刻まれているとのこと。
 
 川井隧道の木屋平側の出口近くに、小さいながらも「川井峠」と書かれた看板があるのを見付けた。本来の峠はこの上にあるのだろうが、トンネルで抜ける国道のこの場所も、川井峠と呼んでよさそうだ。やはり、「隧道」よりも「峠」の文字があったのが嬉しい。
 同じく木屋平側の出口近くの道路脇に、如何にも古そうな「木屋平村案内図」というのが残っていた。次の峠である見の越までの様子が描かれている。川井は村の中心地であるらしく、役場のマーク◎があった。峠から役場まで6Kmとのこと。
 
 峠を少し川井方面に進むと、そこで目の前に広がる景色がなかなかいい。遠く剣山までの木屋平村全体が見渡せる。幾重にも重なる山並の間に、見え隠れする道や集落。ただただ険しいだけの山奥というのではなく、人の暮らしがある山里の風景でもある。それがかえって、四国の山深さを実感させられる。これこそが四国の山深さの真髄である。徳島市街から約40Kmの道程で、あの喧騒とは全く無縁の別世界だ。

 道は峠から川井に向けて一気に下っている。深い山懐に吸い込まれていく。国道と言えども道幅は狭く、きついカーブも多い。しかし、川井峠は国道439号の、まだまだ序の口なのである。峠から見た山並みの向こうには、更に気の遠くなるような長く険しい峠越えが続いている。まったく四国の旅は奥深い。

 
峠を少し川井側に下りたところより、木屋平村を望む
幾重にも重なる山並、谷間には集落がぽつりぽつりと点在する
この景色は峠道ならではのもの
<制作 2001. 2. 4>

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