![]() |
尾平越は九州の大分県と宮崎県の境の峠だ。県境にあるだけあって、なかなか険しい。ただ峠はトンネルになっているのがちょっと残念ではある。
しかし、大分県側の緒方町より県道7号緒方高千穂線を長々とやってきて、峠で照明設備も無い真っ暗な尾平越トンネルを抜け、宮崎県高千穂町側に出たとたん、視界が大きく広がる。山また山の風景。人の気配が全くない。怖いほどの寂しさ、孤独を感じる。こんな演出をしてくれるなら、トンネルもまたいいものである。 |
尾平越を訪れる前日は、四国の愛媛県大洲町に泊っていた。当日は早朝より、九州に向かって細長く伸びた佐田岬半島の三崎港より、フェリーで大分県の佐賀関港に渡る。
空はどんより曇り、時折小雨がぱらつく生憎の天気だ。いつもの行き先知れずの旅で、あちこち迷走する内に、国道502号(ツーリングマップでは、その時まだ県道表記だった)で大分県緒方町に入り、県道・緒方高千穂線に折れた。 ツーリングマップ(九州、発行1988年7月)で見ると、その県道を北に真っ直ぐ向かうと、県境を越えて宮崎県の高千穂町に続いていた。途中、県境の尾平越というトンネル先では、県道が一部途切れているところがあった。その間を未舗装の林道・中の内線(仲の内線?)が繋いでいた。数Kmとそれ程長い区間ではないが、緒方高千穂線は未完成の県道なのだった。 また、峠からはもう一本、土呂久林道というのが分岐し、やはり高千穂町方面に抜けられる。こちらは長くて、なかなか険しそうな林道である。今回の九州上陸後、まだ一度も林道を走っていない。そこで、それらの林道走行を楽しむことにした。 |
![]() 原尻の滝 緒方町の県道沿いにある 「豊後のナイアガラ?」と呼ばれるそうな |
しかし、慌てず騒がず、のんびり寄り道するのが信条の旅である。険しい峠道や未舗装林道ばかり、がむしゃらに走っているだけが能じゃない。
まず、県道に入って直ぐの「原尻の滝」に寄る。ツーリングマップに「豊後のナイアガラが別称の雄大な滝」とあった。観光名所などほとんど関心がないが、別に拒絶することもない。まして、通り道の直ぐ脇にあるなら、ちょっと覗いてみてもいい。
|
緒方高千穂線は、縦に長い緒方町のほぼ真ん中を南北に貫いている。峠まではかなりの距離がある。また、当然のこと、峠の直前はクネクネの山道で、登っても登ってもなかなか峠が現れてくれない。
これまたいつものことで、今日の宿泊のめどは立っていないのだ。時々雨が落ちてくるこの状況では、できれば野宿は遠慮させていただきたい。高千穂町かどこかで、適当な安宿を探すことになるだろう。しかし、宿の予約をするにも、峠を越えて高千穂町に下りるまでは、公衆電話などありはしない。こころなしか、辺りが暗くなってきた。調子に乗って滝など見物して時間を使ったのが、少々悔まれる。 |
やっとトンネルが現れた。尾平越隧道と書かれたそのトンネルは、電灯もなく真っ暗だ。僅かに反対側の出口の明かりが見える。その小さな光に向かって一目散に走る。トンネルを出て、その光は大きく広がった。トンネル出口には広場があり、その先に大きな展望が待っていた。峠に着いた安堵感とその展望に、車を降りて暫くボーッとする。
峠の標高は977.7m。トンネルでない山道の本来の峠は、標高約1,170mあたりにあるそうだ。大分県緒方町尾平(字コシキ)と宮崎県高千穂町上岩戸(字常光寺坂)との境の峠である。峠の名前は緒方町の尾平によるものと思われる。峠直下には、尾平鉱山があったそうな。
|
![]() 高千穂町側トンネル出口 土の広場と大きな眺め (やや景色は雨にかすんでしまってた) |
![]() 峠の緒方町側 |
原尻の滝などよりは、やっとたどり着いたこうした峠で、本来はのんびり過ごす筈なのである。ところが、どんより雨雲が垂れ込め、ますます空は暗くなってゆく。
車の外に出ていると雨に濡れるし、今宵のねぐらも心配で、ゆっくりしている気にはなれない。かえって目の前に広がる景色は、あまりのひと気のなさに、怖いくらいに思われてくる。 早く出発したい気持ちを抑えて、峠を写真に収めておくことだけは忘れなかった。緒方町側を撮ってなかったので、わざわざトンネルを引き返して写した。雨に霞んで景色があまりはっきりしないのが残念だ。
|
しかし、こちらの林道も赤土が露出した道で、大きな轍が掘れて荒れていた。途中、道路工事現場に出くわす。人を見掛けることができて、何となく安心する。
未舗装はさほどの距離もなくアスファルト路面へと変わり、無事高千穂町に着いた。さっそく公衆電話を見つけて、宿泊ガイドで適当に選んだ旅館に電話する。こちらの心配をよそに、予約は一発で取れた。泊った高千穂旅館は五ヶ瀬町にあった。行ってみると、丁度改築直後とあって建物は新しく、気持ちよく一夜を過ごせた。昨日は何かの撮影の為にNHKの方達が沢山来て宿泊していったと、宿の女将は熱心に話してくれるが、その日の宿泊客は私ひとりだけ。新築の建物の中は閑散とし、こうした旅館も私のお手のものである。 |
峠道状況(1994年5月)
訪れた当時、峠の高千穂町側は荒れた未舗装の林道であったが、最近のツーリングマップルを見ると、一本の主要地方道と化している。多分、私が見掛けた改修工事が完了して、既に全線舗装路となっていることと思われる。 <制作
1998. 6.14> <修正 2001. 2.11>
|
1999年5月にまた尾平峠を訪れようとしたが、緒方町で全面通行止の看板にでくわし、あっさり諦めた。険しい峠道はこれがあるから、困ったものだ。九州まで行って越えられないのは、さすがにがっかりである。今考えると、もう少し先まで行って、通れるか粘ってみればよかった。 電子メールで頂いた話では、1999年の8月には越えられたとのこと。やはり今は全線舗装となっているらしい。でも、高千穂町側は緒方町に比べても道幅はまだ狭いままだとのこと。
<追加
2001. 2.11>
|
![]() 主要地方道7号・緒方高千穂線 (撮影 1999. 5. 3) 道路情報 全面通行止(落石) 区間:緒方高千穂線 尾平鉱山 期間:当分の間 |