ホームページ★峠と旅
尾平越(隧道)
 
おびら ごえ
 
暗いトンネルの先に大きな展望が待っていた

 
尾平越
尾平越 (撮影 1994. 5.25)
見えているのは大分県緒方町側のトンネル坑口、反対側は宮崎県高千穂町
標高は約980m、道は県道7号・緒方高千穂線
トンネルの標識には、「尾平越隧道」と記されている
 
 尾平越は九州の大分県と宮崎県の境の峠だ。県境にあるだけあって、なかなか険しい。ただ峠はトンネルになっているのがちょっと残念ではある。

 しかし、大分県側の緒方町より県道7号緒方高千穂線を長々とやってきて、峠で照明設備も無い真っ暗な尾平越トンネルを抜け、宮崎県高千穂町側に出たとたん、視界が大きく広がる。山また山の風景。人の気配が全くない。怖いほどの寂しさ、孤独を感じる。こんな演出をしてくれるなら、トンネルもまたいいものである。

 
 尾平越を訪れる前日は、四国の愛媛県大洲町に泊っていた。当日は早朝より、九州に向かって細長く伸びた佐田岬半島の三崎港より、フェリーで大分県の佐賀関港に渡る。
 空はどんより曇り、時折小雨がぱらつく生憎の天気だ。いつもの行き先知れずの旅で、あちこち迷走する内に、国道502号(ツーリングマップでは、その時まだ県道表記だった)で大分県緒方町に入り、県道・緒方高千穂線に折れた。
 ツーリングマップ(九州、発行1988年7月)で見ると、その県道を北に真っ直ぐ向かうと、県境を越えて宮崎県の高千穂町に続いていた。途中、県境の尾平越というトンネル先では、県道が一部途切れているところがあった。その間を未舗装の林道・中の内線(仲の内線?)が繋いでいた。数Kmとそれ程長い区間ではないが、緒方高千穂線は未完成の県道なのだった。
 また、峠からはもう一本、土呂久林道というのが分岐し、やはり高千穂町方面に抜けられる。こちらは長くて、なかなか険しそうな林道である。今回の九州上陸後、まだ一度も林道を走っていない。そこで、それらの林道走行を楽しむことにした。
 
原尻の滝
原尻の滝
緒方町の県道沿いにある
豊後のナイアガラ?」と呼ばれるそうな
 しかし、慌てず騒がず、のんびり寄り道するのが信条の旅である。険しい峠道や未舗装林道ばかり、がむしゃらに走っているだけが能じゃない。

 まず、県道に入って直ぐの「原尻の滝」に寄る。ツーリングマップに「豊後のナイアガラが別称の雄大な滝」とあった。観光名所などほとんど関心がないが、別に拒絶することもない。まして、通り道の直ぐ脇にあるなら、ちょっと覗いてみてもいい。
 滝の見学者は、私の他に数名がぶらぶら散歩していた程度である。しかしこうした閑散とした観光地は、かえってお手のものなのだ。駐車料金は取られないし、車をどこに止めても文句を言われそうにない。勝手にあちこち歩き回っても、監視人の目が光っている訳でもない。
 ちょっとした散策路があるので、滝の周囲をうろうろ歩き回る。「たきみばし」という吊り橋があれば、子供のように喜んで渡る。
 肝心な滝のほうは、別称にちょっと誇張があるんじゃないかと思わずにはいられない。でも、十分堪能できたし、ドライブ疲れを癒すにも、ちょうどよかった。
 リフレッシュしたところで、また旅の続きに戻る。

 
 緒方高千穂線は、縦に長い緒方町のほぼ真ん中を南北に貫いている。峠まではかなりの距離がある。また、当然のこと、峠の直前はクネクネの山道で、登っても登ってもなかなか峠が現れてくれない。
 これまたいつものことで、今日の宿泊のめどは立っていないのだ。時々雨が落ちてくるこの状況では、できれば野宿は遠慮させていただきたい。高千穂町かどこかで、適当な安宿を探すことになるだろう。しかし、宿の予約をするにも、峠を越えて高千穂町に下りるまでは、公衆電話などありはしない。こころなしか、辺りが暗くなってきた。調子に乗って滝など見物して時間を使ったのが、少々悔まれる。
 
 やっとトンネルが現れた。尾平越隧道と書かれたそのトンネルは、電灯もなく真っ暗だ。僅かに反対側の出口の明かりが見える。その小さな光に向かって一目散に走る。トンネルを出て、その光は大きく広がった。トンネル出口には広場があり、その先に大きな展望が待っていた。峠に着いた安堵感とその展望に、車を降りて暫くボーッとする。

 峠の標高は977.7m。トンネルでない山道の本来の峠は、標高約1,170mあたりにあるそうだ。大分県緒方町尾平(字コシキ)と宮崎県高千穂町上岩戸(字常光寺坂)との境の峠である。峠の名前は緒方町の尾平によるものと思われる。峠直下には、尾平鉱山があったそうな。
 尾平越隧道はトンネル全長578m、幅員6.6m、高さ4.5m。昭和37年1月着工で、昭和41年2月竣工だそうだ。トンネルとしては宮崎県内で一番標高が高いらしい(古い資料だから今はどうだか?)。照明や非常用施設もない狭いトンネルである。高千穂町側の上岩戸仲の内地区からトンネルの坑口までは、中の内林道が繋いでいる。


高千穂町側トンネル出口
土の広場と大きな眺め
(やや景色は雨にかすんでしまってた)
 

峠の緒方町側
 原尻の滝などよりは、やっとたどり着いたこうした峠で、本来はのんびり過ごす筈なのである。ところが、どんより雨雲が垂れ込め、ますます空は暗くなってゆく。
 車の外に出ていると雨に濡れるし、今宵のねぐらも心配で、ゆっくりしている気にはなれない。かえって目の前に広がる景色は、あまりのひと気のなさに、怖いくらいに思われてくる。

 早く出発したい気持ちを抑えて、峠を写真に収めておくことだけは忘れなかった。緒方町側を撮ってなかったので、わざわざトンネルを引き返して写した。雨に霞んで景色があまりはっきりしないのが残念だ。
 
 気が付くと、もう林道走行など楽しむゆとりなど持ち合わせていない。早く高千穂町に降り立ちたい。険しく長そうな土呂久林道は避けて、県道の続きに繋がる中の内林道へと進む。

 
 しかし、こちらの林道も赤土が露出した道で、大きな轍が掘れて荒れていた。途中、道路工事現場に出くわす。人を見掛けることができて、何となく安心する。

 未舗装はさほどの距離もなくアスファルト路面へと変わり、無事高千穂町に着いた。さっそく公衆電話を見つけて、宿泊ガイドで適当に選んだ旅館に電話する。こちらの心配をよそに、予約は一発で取れた。泊った高千穂旅館は五ヶ瀬町にあった。行ってみると、丁度改築直後とあって建物は新しく、気持ちよく一夜を過ごせた。昨日は何かの撮影の為にNHKの方達が沢山来て宿泊していったと、宿の女将は熱心に話してくれるが、その日の宿泊客は私ひとりだけ。新築の建物の中は閑散とし、こうした旅館も私のお手のものである。

  
 峠道状況(1994年5月)
 
 訪れた当時、峠の高千穂町側は荒れた未舗装の林道であったが、最近のツーリングマップルを見ると、一本の主要地方道と化している。多分、私が見掛けた改修工事が完了して、既に全線舗装路となっていることと思われる。
<制作 1998. 6.14> <修正 2001. 2.11>
 

 

 1999年5月にまた尾平峠を訪れようとしたが、緒方町で全面通行止の看板にでくわし、あっさり諦めた。険しい峠道はこれがあるから、困ったものだ。九州まで行って越えられないのは、さすがにがっかりである。今考えると、もう少し先まで行って、通れるか粘ってみればよかった。

 電子メールで頂いた話では、1999年の8月には越えられたとのこと。やはり今は全線舗装となっているらしい。でも、高千穂町側は緒方町に比べても道幅はまだ狭いままだとのこと。
 また、「原尻の滝」には「道の駅」も併設され、賑わっているらしい。峠といっしょに早くまた訪れてみたいものだ。
 

<追加 2001. 2.11>

主要地方道7号・緒方高千穂線 (撮影 1999. 5. 3)
 
道路情報
全面通行止(落石)
区間:緒方高千穂線 尾平鉱山
期間:当分の間
 
尾平越 第2話
 
峠と旅