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売木峠
     うるぎとうげ   (峠と旅 No.223)  
  矢作川の源流を辿る峠道
  (掲載 2014. 6.18  最終峠走行 2013.11.11)
   
   
   
売木峠 (撮影 2013.11.11)
手前は長野県(下伊那郡)根羽村(ねばむら)小戸名(おどな)
奥は同県(下伊那郡)売木村(うるぎむら)軒川(のきがわ)
道は県道(主要地方道)46号・阿南根羽線
標高は1150m (峠にある看板より)
   
   
<所在>
 南北に細長い木曽山脈(中央アルプス)の南端に日本100名山ともなる恵那山(えなさん、2191m)がある。 恵那山から更に南へと稜線は続き、長野・愛知の県境にそびえる茶臼山(ちゃうすやま、1415m)へと至る。茶臼山は三河高原に属するようだ。
 
 恵那山から茶臼山までへの稜線上には幾つかの峠が通じていて、北から挙げるとほぼ次のようになる。
・治部坂峠:標高1187m(1163mとも)、国道153号・三州街道(飯田街道)
・五座小屋峠:標高1240m、林道売木うつぼ線
・平谷峠:標高1164m(1160mとも)、国道418号
・売木峠:標高1150m(峠に立つ看板より)、県道46号
 どれも1100mを越える高さだが、峰はそれ程急峻ではないので、どの峠もそれ程険しい峠道ではなさそうだ。
 
 本来なら、標高で一番高く、しかも細い林道の峠である五座小屋峠を取り上げたいところなのだが、訪れた時は林道が通行止で越えられなかった。 その代わりといっては何だが、売木峠を掲載することとした。
 
 売木峠は東側の長野県売木村(うるぎむら)と、西側の同県根羽村(ねばむら)との境となる。 恵那山から茶臼山までの稜線は、県境や昔の国境となってよさそうなものだが、茶臼山から北に続く稜線のほとんどは長野県に属す。 長野県の根羽村とその北隣の平谷村(ひらやむら)とが、稜線を越えて西側に侵食したような形となっている。 さすがに恵那山近くの稜線では長野・岐阜の県境ではあるが。
 
 案の定、文献には根羽村などは一時期、三河国(現愛知県)に属していたとあった。 地形的にはそれが自然である。 それがどういう経緯か、現在の愛知県は茶臼山から北に延びる稜線より西側に追いやられてしまって、稜線に接していない。 一方、長野県の根羽村は、大きな面積を持つ長野県に属しながら、その最も南西の端っこにポツリと取り残されたような感じである。
 
<二つの売木峠>
 ところで、売木峠は二つある。 売木村と東隣の阿南町(あなんちょう)との境に同名の峠が存在する。 そちらは国道418号の峠で、道としては格上である。 また村内を通る道としても、そちらの方が重要度が高そうだ。 どちらかと言うと、その国道の売木峠の方に目が行き易く、この2つの売木峠は紛らわしい。 ただ、今回の売木峠は茶臼山から北へ伸びる主脈を越えているので、その分、峠道としての面白みは多い。 地図でこの峠を見付けるには、まず長野と愛知の県境上に茶臼山を探し、その直ぐ北側を見ればよい。
 
<峠名>
 由来はやはり「売木」という地名からきているのは間違いないだろう。 江戸期から明治8年に掛けて売木という村が存在した。 現在の売木村よりもその村域は狭い。地名としての「売木」は、「山林資源によると思われるが不詳」と文献にある。 木材を切り出しそれを売ることを生業としてきた土地なのであろうか。
   
<特徴>
 売木峠は茶臼山とその周辺に広がる茶臼山高原へのアクセス路の一つである。 茶臼山高原には観光用の宿泊施設や牧場、公園、池、スキー場などが整い、如何にも観光地といった雰囲気に包まれている。 それと、売木峠は矢作川(やはぎがわ)の源流に位置する峠ということも特徴の一つだろうか。
 
<矢作川>
 恵那山から茶臼山に至る稜線からは、東と西のそれぞれに幾筋もの川が流れ下る。 東側に下った川はいずれは全て天竜川に注ぐ天竜川水系である。 一方、西側(恵那山近くの一部を除く)は矢作川(やはぎがわ)水系だ。 矢作川は茶臼山の北東麓に源を発し、岡崎平野を潤し、最終的には三河湾に注ぐ。 その矢作川の源流部に売木峠があり、根羽村側の峠道は矢作川に沿って下る。 広い矢作川水系の大元に位置する峠と言える。
 
 ところが、文献には矢作川は大川入山(1908m)に発するとある。 大川入山は恵那山に近い稜線上だ。地図で見る限りでは、大川入山の西麓から柳川が流れ下り、平谷川、上村川と続いて矢作川へ注ぐ。 一方、売木峠の方からは直ぐにも矢作川が下り、茶臼山の北東麓に矢作川源流の石碑も立っている。 ただ、川の名前としては、矢作川上流部を根羽川とか小戸名川(おどながわ)などとも呼ぶ場合もあるようだ。 また、山の標高としては大川入山の方が上なので、矢作川の源流がどこかということには、やや疑問は残る。
   
矢作川の河口付近 (撮影 2013.11.12)
三河湾方向に見る
この矢作川とは別に矢作古川がここより東の方で三河湾に注ぐ
(売木峠を訪れた翌日にわざわざ河口に立寄った)
   
阿南町から県道46号を行く
   
<東側の峠道>
 売木峠から東側の天竜川水系には、まず軒川が流れ下り、売木川に合し、更に和知野川(わちのがわ)となって、最後に天竜川に注ぐ。 売木川は和知野川の支流、軒川は売木川の支流である。
 
 ところで、売木川の本流の上流部は南の国道151号の新野峠近くであり、支流の軒川上流部にある売木峠ではない。 本来なら軒川沿いの部分だけが売木峠の峠道となるかもしれないが、折角売木峠という名の峠なので、売木川沿いまでを売木峠の峠道と考えたい。
 
 地図を見ると、売木川が和知野川に合流する部分は和知野ダムになっていて、ちょうどその脇から県道(主要地方道)46号が始まり、売木川から軒川へと伝って売木峠を越えている。 県道46号がそのまま売木峠の峠道と考えられ、これまた都合が良い。
   

国道151号が和知野川を渡る手前 (撮影 2013.11.10)
右に県道46号が分岐
落合大橋の先には帯川トンネル
国道の愛称は「祭り街道」
<県道46号の起点>
 県道46号は国道151号・遠州街道より分岐して始まる。 阿南町(あなんちょう)和合(わごう)巾川の地で国道が落合大橋で和知野川を渡る手前を右に分岐するのがその県道だ。 橋の先を見ると帯川トンネルの坑口が見える。
 
 落合大橋も帯川トンネルも比較的新しい物で、私の持っている地図にはどれにも載っていない。 これには戸惑った。 看板などを頼りにどうにか県道に入り込む。 元はその県道方向が国道の続きであった。 大きな橋とトンネルで国道にバイパス路ができていたのである。
   
 うまく県道が見付かったかと思ったのも束の間、県道入口に通行止の看板が出ていた(下の写真)。 阿南町と売木村との境付近で崩落があり、売木村には通り抜けできないとのこと。 それでも五座小屋峠への道へ出られないかと、そのまま県道を進む。
 
 県道の名は阿南根羽線。 ここより阿南町の和合を横断し、売木村に入り、峠を越えて根羽村の市街地に達する。 主要地方道である。

阿南町新野の大村湖にあった看板 (撮影 2013.11.10)
国道151号や県道46号の道筋が分かる
この地図にはまだ国道に帯川トンネルなどは描かれていない
(上の画像をクリックすると拡大画像が表示されます)
   

県道通行止の看板 (撮影 2013.11.10)
トンネルは国道の帯川トンネル
(上の画像をクリックすると拡大画像が表示されます)

県道46号通行止の看板 (撮影 2013.11.10)
   
県道46号の旧起点
   
<県道の旧起点>
 国道から分かれて少し和知野川の左岸沿いを遡ると、落合橋で右岸に渡る。その先で右手に下る細い道がある(下の写真)。そこが県道46号の元の分岐点 だ。直進が旧国道151号で、帯川トンネルの西側で新道に合流している。
 県道分岐を示す青色看板には、次のようにある。
 この先 売木方面
 大型車両(ホイルベース5m以上)
 通り抜けできません
   
県道の旧分岐点 (撮影 2013.11.10)
左が旧国道、右が県道
   
 この分岐の少し手前に掛かる看板には、県道46号方向に「浪合」とある。 本来は「売木」だと思うのだが。 浪合は県道46号から更に分かれる県道243号の行先である。
   

県道に下りた所 (撮影 2013.11.10)
左上に通るのが旧国道151号
 旧国道区間が終わり、本来の県道46号線に入ると、これでも主要地方道かと疑われるような寂しい道となる。 振り返ると青い看板が掲げられている(下の写真)。 県道46の番号は、新しい国道の落合大橋の方を指し示してる。
   

県道側から旧分岐を見る (撮影 2013.11.10)

分岐手前の看板 (撮影 2013.11.10)
   
<売木川を渡る>
 道は直ぐに売木川を渡る。 売木川はこの直ぐ下流で和知野川に注いでいるので、ほぼここが売木川の終点である。 この売木川から更に軒川と遡ればそこに売木峠がある訳である。
 
 対岸に人家が点在する。 多分「巾川」と呼ばれる集落だろう。 生憎の雨空で、山腹にガスが立ち込めている。 静かで素朴な佇まいだ。

売木川を渡る (撮影 2013.11.10)
   
橋上より売木川上流方向を望む (撮影 2013.11.10)
   

人家の軒先を進む (撮影 2013.11.10)
 実は、売木峠の道で一番好きなのは、ここから暫く売木川沿いを行く区間である。 町村境が通行止で売木村には抜けられなかったが、細い道が川沿いに通じていて、時折小さな集落を見掛ける。 何とも寂しい感じがとても気に入ってしまった。
 
 一方、売木村市街から先、峠を越えて根羽村市街までの区間は、ほとんどが快適な二車線路で、あまり道としての面白みを感じない。 県道46号は、阿南町と売木村との境前後で売木川沿いを行く部分が、一番魅力がありそうだ。
   
県道243号の分岐点
   
<県道243号分岐>
 道は一旦売木川の下流方向に進む。すると直進方向に県道243号・深沢阿南線が始まっている。 県道46号はと言うと、逆Y字に左へと分岐している。 まるで県道243号の方が本線の道のようである。 行き先は「浪合」(なみあい)とある。
   

県道分岐手前の看板 (撮影 2013.11.10)

分岐手前の看板 (撮影 2013.11.10)
   
 ところで、県道243号方向にも通行止の看板があった。迂回路はあるようだが、この付近の道は通行止が多そうだ。
   
県道243号の入口 (撮影 2013.11.10)
県道46号はこの左手前に分岐
   
 県道243号は、和知野川の本流沿いを遡り、浪合村へと通じている。 一部分を走ったが、こちらも寂しくて楽しい道である。
 
 それにしても県道243号の分岐点での県道46号の曲がり方は酷い。 急カーブの急坂である。何かの間違いではないかと思わせる。 狭い脇道の様にしか見えず、これでも主要地方道の続きだろうか。 ますます気に入ってしまった。

県道243号側から見る分岐 (撮影 2013.11.10)
右が県道を売木村方向へ
   

県道243号側にある看板 (撮影 2013.11.10)
県道46号は急カーブしている

看板の拡大 (撮影 2013.11.10)
   
売木川沿いを遡る
   

売木川右岸の道 (撮影 2013.11.10)
<売木川右岸>
 県道243号を分けた後、道はやっと売木川右岸を峠方向に遡り始める。 しばらくは巾川の集落だと思われる人家が沿道に見られる。 道幅は狭い。「「この先10kmの区間、落石注」意の看板が立つ。
   
集落付近を通る (撮影 2013.11.10)
   
 売木川は大きく蛇行している。 道は川に近付いたり離れたりを繰り返す。折しも雨模様で水かさが増しているのか、売木川の流れは荒々しいように眺められた。
 
 右手の山の崖はそそり立ち、左手の川は直ぐ目の前を轟々と流ている。 その間に挟まれて狭い道が続く。 なかなか険しい雰囲気である。

道の様子 (撮影 2013.11.10)
   
売木川の様子 (撮影 2013.11.10)
   
売木川の様子 (撮影 2013.11.10)
   

対岸に人家が見える (撮影 2013.11.10)
<沿道の集落>
 沿道から望める集落は「巾川」が最大であったが、地図には他に帯川、逆木、下日影といった集落名が沿線に見られる。 多くは売木川の左岸側に人家が点在するようで、時折木々の間から人家が見えたりする。
   

道の様子 (撮影 2013.11.10)
狭い箇所を過ぎる

道の様子 (撮影 2013.11.10)
   
売木川の眺め (撮影 2013.11.10)
   
売木うつぼ線通行止
   
<鈴ヶ沢川>
 売木村に抜けられない県道をわざわざやって来たのには訳があった。 五座小屋峠を越えたかったのだ。 県道46号が売木川の支流・鈴ヶ沢川を渡る手前で、鈴ヶ沢川沿いへと道が分岐する。 五座小屋峠はその鈴ヶ沢川の上流に位置する。
 
 比較的大きな橋が現れた。 逆木橋という名のようだ。 支流沿いに道が分岐する。 道は和合7号線となっていた。

県道が鈴ヶ沢を渡る手前 (撮影 2013.11.10)
   
県道46号が鈴ヶ沢川を渡る手前 (撮影 2013.11.10)
 
鈴ヶ沢川沿いに進む道 (撮影 2013.11.10)
   
 分岐に工事看板があり、道の繋がり具合が分った(下の写真)。 県道46号から一旦は和合7号線という道になる。 その道は県道243号の深沢阿南線へと峠越えしているようだ。 五座小屋峠を越える林道の売木うつぼ線は、その和合7号線より更に分岐する格好になっていた。
   

分岐に立つ看板 (撮影 2013.11.10)

看板の地図 (撮影 2013.11.10)
阿南根羽線は県道46号
深沢阿南線は県道243号
   
 それにしてもこの近辺はあちこち通行止が多いなと思ったら、結局売木うつぼ線にも通行止の看板が立っていたのだった。 ここまでやって来たが、五座小屋峠は諦め、結局国道151号に引き返したのだった。
   
売木村市街の県道46号
   

国道418号から阿南町方面への分岐 (撮影 2013.11.10)
 阿南町と売木村との県境付近は通れなかったので、売木村市街から仕切り直しである。
 
 売木村では県道46号は寸断されていて、その間を国道418号が繋いでいる。 左と下の写真は、阿南町方面への県道46号の分岐点を示す。
   

道路看板 (撮影 2013.11.10)

阿南町方面への県道入口 (撮影 2013.11.10)
「塩吹館へは通行できます」とある
   
<売木の交差点>
 下の写真は国道418号の「売木」の交差点。 直進方向は県道46号を売木峠方面へ。 手前は国道418号の売木峠バイパス。 交差するのは元からの国道418号。「売木」という名が付いた交差点だけあって、この近辺が売木村の中心地であろう。
   
売木の交差点 (撮影 2013.11.10)
   
<売木峠バイパス>
 売木村の市街地内では、県道46号はセンターラインもある立派な道になっている。 あの売木川沿いの険しい道が嘘のようである。 かえって元からの幹線路である国道418号の方が道幅が狭かったりする。
 
 そこに「売木峠バイパス」と名乗って、国道418号が付け替えられた。 この「売木峠」とは、県道46号の売木峠ではない。 国道418号にあるもう一つの売木峠のことである。
   
売木村市街から峠へ
   
<売木村市街から県道46号を進む>
 雨は止まず、日は暮れる。 希望通りの道も走れなかった。 後は今宵の宿の休暇村・茶臼山高原へと急ぐばかりである。
 
 道はこんな場合には都合良く、快適な二車線路である。 出て来た県道看板には「売木村二俣瀬」と地名があった。

県道46号を峠方向へ (撮影 2013.11.10)
   
県道の様子 (撮影 2013.11.10)
   

県道の様子 (撮影 2013.11.10)
<軒川沿い>
 売木市街を発った県道46号は、売木川の支流・軒川(のきがわ)沿いとなる。 ただ、ツーリングマップルなどでは「軒山川」となっている。 ここでは軒川としておく。
 
 道は最初軒川の左岸、二俣瀬付近で右岸に渡り、後はそのまま峠に到達する。 しかし、道からはあまり川は望めない。 道は快適だが、沿道に人家は少ない。

   
<うるぎ星の森>
 途中、右へ案内看板がある道が分岐する。 「南信州広域公園 うるぎ星の森 オートキャンプ場」へと至る道だ。 この付近はもう人家がない代わりに、観光道路の意味合いが強い。 これから登る茶臼山高原がその最大の観光地である。
   

南信州広域公園の看板が出て来た (撮影 2013.11.11)

右手に公園への道が分岐 (撮影 2013.11.11)
   
 峠への坂道はとても緩やかで、グイグイ登って行くという感じは微塵もない。 道は終始明るい雰囲気だが、楽しめる眺望はない。

快適な道が続く (撮影 2013.11.10)
   

峠直前 (撮影 2013.11.10)
峠の手前を左に茶臼山高原への道が分岐する
 難なく峠に着いたが、峠に関してはまた明日として、今日は宿へと急ぐ。 峠の直前に分岐があり、そちらへ進むと茶臼山南麓に広がる茶臼山高原へ出る。 宿はそこにある。
   
宿の窓より(余談)
   
 その日は休暇村・茶臼山高原に泊まった。 翌日こそはと晴天を期待したが、翌朝、部屋の窓から望むと、頭上の空には一面の薄雲が広がっていた。 ただ、東の空の山の稜線近くは雲がなく、朝日が昇る様子が眺められた。 低く垂れ込めた雲が朝焼けに赤く染まっていく様子は荘厳であった。 部屋の窓辺に立ち、日が昇る様子を飽かずに眺めた。
   
朝日 (撮影 2013.11.11)
   
 日が昇って雲に隠れると、今度はモノトーンの景色が広がった。 幾重にも重なる山の稜線が、まるで墨絵の様であった。
   
日が昇った後の眺め (撮影 2013.11.11)
   
 茶臼山高原は、1992年頃に一度訪れたことがあった。 どんな所だろうかとちょっと寄り道するくらいの積りでやって来た。 すると全くの観光地で、何の興味も湧かない。 ほとんどどこにも立寄らず、茶臼山の周囲を一周する道を走っただけで、直ぐに立ち去ってしまった。 今となっては訪れた日付も定かでなく、1枚の写真も見付からない。 せめて売木峠だけでも撮っておけば良かったと思う。
 
 あれから20年以上も経つと、旅をする気分も随分変わった。 わざわざ宿に泊まり、朝からは昇り行く朝日を眺め、朝食前には宿の周囲の散策路を歩いて見て回り、記念写真も沢山撮った。
 
 以前は、観光然とした所で、如何にも観光客の様に振舞うのが、気恥ずかしい感じがしてならなかった。 険しい道や寂しい所ばかりを旅していたので、ひょんなことで茶臼山高原の様な観光地に出てしまうと、もうどうしていいか分らない。 そそくさと逃げるように立ち去るだけである。
 
 それが最近では、恥かしげもなく、どっぷりと観光している。 歳を重ね、あまり物事を気にしなくて済む様になったこともある。 しかし、野宿旅のみすぼらしい服装で人目を気にしつつ、鋭い目つきをしながら薄汚れたジムニーを走らせていたあの頃の旅も、悪くはなかったと思う。
   
   
売木峠 (撮影 2013.11.11)
手前は売木村、奥は根羽村
道の左手に「根羽村」の看板
   
<峠の様子>
 売木峠は稜線の浅い鞍部を越えている。 センターラインもある巾の広い二車線路が穏やかに通じている。 空が開けた明るい峠であるが、周辺の木々で遠望はさえぎられている。
   
売木峠 (撮影 2013.11.11)
   
峠の売木村側 (撮影 2013.11.10)
右に茶臼山高原への道が分岐する
   
<峠の売木村側>
 南へと道が分岐する。 道路看板の行き先は「茶臼山高原」とある。 休暇村などがある中心地まではここから2km程だ。 この道は、県道などを繋いで、茶臼山の周囲を一周できる周遊道路になっている。 売木峠の根羽村側でまた県道46号に戻って来れる。 一周約7kmとのこと。
 
<看板類>
 この分岐は観光地茶臼山高原への入口ともなるので、付近にはいろいろな案内看板が立つ。 売木村方向や根羽村方向にも観光案内がある。
 
<道路名>
 その中に「42」と番号がある青い四角い看板があって、最初はカーブ番号だろうかと思ったが、数字の下に「アテビ島線」とある。 茶臼山高原へと分岐する道は、売木村の村道42号・アテビ島線と呼ぶようだ。

道路看板 (撮影 2013.11.10)
   

分岐に立つ案内看板 (撮影 2013.11.10)

道路名の看板 (撮影 2013.11.10)
「42 アテビ島線」とある
   
<道路案内マップ>
 看板の中で役に立つのは「茶臼山高原 道路案内マップ」である(下の写真)。 ただ、峠にある物はやや古く、壊れかけていたので、休暇村の近くにあった同様の物も掲載しておく。 愛知県最高峰と謳われる茶臼山の南麓に、一大観光地が広がる。
 
 昔はこうした観光の看板などほとんど見向きもしなかったが、最近は何があるのかとしげしげと見入ってしまう。 休暇村に泊まった翌朝も、付近にある矢筈池などの方までいろいろ歩き回った。 できれば茶臼山にも登ってみたいのだが、そこまでは最近の体調が許さない。
   

茶臼山高原の道路案内マップ (撮影 2013.11.10)
峠に立つ物はやや古ぼけていた
別の所にあった同様のマップ (撮影 2013.11.11)
地図は上がほぼ南
(上の画像をクリックすると拡大画像が表示されます)
   
<峠の標高>
 峠からはちょっと離れ、茶臼山高原への道を分けて少し売木村へと行った所に峠の看板が立つ。 売木村にある「塩吹館」の案内看板の左隣である。 看板には「売木峠」とあり、「1150m」と標高が示されている。 根羽村との村界となる峠の位置にはなく、少し売木村側に寄って立つのは、「売木」という名前の為、根羽村に少し遠慮したのかと思ったりする。
 
 現在の地形図では、村境は1560mと1570mの等高線の間にある。 平谷峠(1164mまたは1160m)との標高差は微妙である。 茶臼山から恵那山へ掛けて並ぶ峠は、標高が揃っている。
   

峠より売木村方向への道を見る (撮影 2013.11.11)

峠の看板 (撮影 2013.11.11)
   
峠の根羽村側
   
<峠の様子>
 売木村側に比べ、根羽村側はさっぱりしている。 根羽村側から峠を見ると、売木村方向に向かって右側に村界を示す「売木村」と、ポツンと一つ看板があるだけだ。 他に何の案内看板も見当たらない。道だけが坦々と峠に通じている。
   
根羽村側より峠を見る (撮影 2013.11.11)
   
売木峠 (撮影 2013.11.11)
奥が売木村、手前が根羽村
右に茶臼山高原への道が分岐
   

峠より根羽村側に下る道 (撮影 2013.11.11)
<分岐の看板>
 峠から根羽村側に下りだすと、直ぐに道路看板が出て来る。 分岐する道の行き先は「茶臼山」とある。 周遊道路の根羽村側の入口を示している。 峠を挟んで双方の近くに分岐があるのも珍しい。 しかも茶臼山の周囲を一回りして戻って来られるので、寄り道には最適である。
   

道路看板が出て来る (撮影 2013.11.11)

道路看板 (撮影 2013.11.11)
周遊道路の分岐を示す
   
<峠の感想>
 こうして売木峠を見てみると、単なる幅の広い快適な二車線路が通じているだけで、あまり面白みはない。 峠前後で楽しめる眺望もない。 ただ、茶臼山南麓に広がる茶臼山高原の観光の中心地とは、北に大きく外れた所にあるので、喧騒はなく、車の通行量も少ない。
 
 20年程前に一度は訪れた筈の峠ではあるが、こんな峠だったのかと、思い出すことは何もない。 これまでの間に、少しは道路の改修なども行われたかもしれないが、峠の写真一枚見付からないのが残念だ。

根羽村側から峠方向を見る (撮影 2013.11.11)
   
峠より根羽村側に下る
   
<周遊道路分岐>
 峠を根羽村側に100mちょっと下ると、右のヘアピンカーブがあり、カーブが終り掛けた辺りで、左に周遊道路が分岐する。
   

峠を下るとヘアピンカーブがある (撮影 2013.11.11)

カーブの先で左に周遊道路が分岐 (撮影 2013.11.11)
   
<周遊道路入口>
 周遊道路の入口には、「根羽村茶臼山高原 1km先」などと看板がある。 しかし、茶臼山高原の休暇村などがある中心地は、この道の先で県境を越えた愛知側に位置する。 ここでは、わざわざ「根羽村」と断り、県境を越える前の、根羽村側に点在する観光施設を案内している。
   
周遊道路入口 (撮影 2013.11.11)
   

周遊道路側から県道を見る (撮影 2013.11.11)
<村道茶臼山線>
 この道は、多分根羽村の「村道茶臼山線」(1-2号線)と呼ばれるものと思う。 県境を越えて愛知県の豊根村に入ると、県道507号・茶臼山高原道路に接続する。 (既にその県道の一部になっているかもしれないが)
 
 周遊道路の根羽村側の村道区間は冬期通行止になるようだ。 よって、冬期は茶臼山の周りを一周できない。 それもあってか、根羽村側にある観光施設は、やや寂れた感がある。 しかし、道からの眺めは良い。 それに、その道の途中には売木峠と深く関わる矢作川(やはぎがわ)の源流の地があるのだ。
   

県道へと接続する看板 (撮影 2013.11.11)

前方が県道 (撮影 2013.11.11)
   
矢作川源流へ(寄り道)
   
<源流の地へ>
 売木峠の峠道からは外れるが、矢作川の源流を訪ねる。 県道46号から分かれ村道茶臼山線を行くと、1km足らずで小さな茶臼山湖が道路脇に見えてくる。 この湖が矢作川の本流筋に当たるかどうかは分らないが、源流の一部ではあろう。 湖の付近はキャンプ場やカエル館(ワンと鳴くカエルが居るとか)などといった根羽村側の観光施設が集中する。
 
 湖を過ぎると間もなく駐車場が出てきて、道路に近い所に「矢作川源流 左100m」と刻まれた石碑が立っている。 駐車場の置くから続く歩道を少し歩くと、あっさり源流があった。

源流近くの駐車場 (撮影 2013.11.11)
   

舗装された歩道の終点 (撮影 2013.11.11)

源流の石碑 (撮影 2013.11.11)
   
<源流>
 源流は「ハイここが源流です」と分り易いように整えられている。 3本のパイプから水がチョロチョロと流れ出ていて、歩道を横切り、山の下へと流れ下っている。
   

矢作川源流 (撮影 2013.11.11)

源流を下流方向に見る (撮影 2013.11.11)
   
石碑の説明看板 (撮影 2013.11.11)
(上の画像をクリックすると拡大画像が表示されます)
 矢作川の源流は大川入山との説もあるようだが、こうしてこの茶臼山の北東麓に源流の碑が立っているので、茶臼山が源流と思っておく。
 
(余談)
 以前、多摩川に程近い所に住んでいたこともあって、多摩川の源流である笠取山の「水干」(ミズヒ)に登ったことがある。 テレビ番組で信濃川(千曲川)や富士川などの源流を訪ねる様子が放映された時、興味深く視聴したこともあった。 どれも源流は山深い険しい地にある。 ところが、この矢作川の源流は、車を降り、舗装済みの歩道を歩いて1分である。 こんなお手軽な「源流」は初めてだ。 矢作川の源流の碑を見た翌日、今度は矢作川の河口へ行こうと思ったが、車で河口に近付く方が、よっぽど大変だった。
   
根羽村の名所(余談)
   
 源流の駐車場からは、根羽村側に流れ下る矢作川の谷を越え、その先に雄大な山並みが望めた。 駐車場の片隅に「南信州山岳 展望」と書かれた看板が立ち、それによると北岳を主峰とする南アルプスも望めるようだ。 また治部坂峠も見えるようで、ここではその標高は1187mとある。
 
 看板には根羽村の名所が4箇所示されている。 その一つに「小戸名渓谷」(おどなけいこく)があり、「南信州随一の紅葉の名所」と解説が書かれていた。

駐車場からの眺め (撮影 2013.11.11)
   

根羽村の案内看板 (撮影 2013.11.11)

名所の一つ「小戸名渓谷」 (撮影 2013.11.11)
   
 小戸名(おどな)とは根羽村側の地名であり、矢作川の上流部を小戸名川と呼ぶようなこともあるようだ。 この名所は寄ってみたい。
   
根羽村側を下る
   

道の様子 (撮影 2013.11.11)
 峠を根羽村側に下り始めた最初の内は、道はやや険しい様相を示す。 この売木峠の道の中では、最も峠道らしい峠道だ。 ヘアピンカーブが何度か続き、勾配もきつい。 周遊道路を分けた後は、暫くセンターラインも消え、道幅もやや狭いる。
   
 県道標識には「根羽村小戸名」と地名がある。 カーブ番号を示した看板も少し見掛けた。 下るに従い数字は増えていった様な気がするが、あまり目立つ看板ではなく、全てのカーブに看板が立っていた訳ではなさそうだ。
 
 峠から1km程も下ると、前方に視界が広がる。 矢作川が流れる谷を左手に望むようになる。

カーブ番号 (撮影 2013.11.11)
   
視界が広がる (撮影 2013.11.11)
左下が矢作川の谷
   
 その先で一段と鋭いヘアピンカーブが待っている。 この辺りはさすがに峠道の醍醐味を感じる。
   
この先ヘアピンカーブ (撮影 2013.11.11)
   

峠方向を見て下る (撮影 2013.11.11)
 ヘアピンカーブの後は、一転して道は峠方向を向く。 矢作川の上流部に向かって谷底へと下って行く。 それに従い視界が狭まっていく。
   
矢作川沿い
   
 確か43のカーブ番号の看板が立つカーブを曲がると、ほぼ矢作川の右岸沿いの道になる。 木々に囲まれ、川の様子などは全くうかがえないが、安定した感じの道となる。
   
道の様子 (撮影 2013.11.11)
矢作川の右岸に通じる道
   
 道はこのまま暫くは矢作川に沿って下る。 僅かな蛇行はあるが、もうヘアピンカーブがある様な山岳道路ではない。 間もなくセンターラインが再び現れ、道幅も回復する。 擁壁工事の跡が所々に見られ、改修後まだあまり日が経っていない様に思われた。 道に描かれた白線もまだ新しそうだった。
   

道の様子 (撮影 2013.11.11)

センターラインが出て来た (撮影 2013.11.11)
   
右岸沿いを進む
   
 道は快適である。 交通量も少なく、移動ははかどる。 沿道には高い杉林などは少なく、低い雑木が多い。 落葉樹も混じり、少しは紅葉も楽しめる。 ただ、周囲に広がる景色はなく、走りは単調になるきらいはある。
   
道の様子 (撮影 2013.11.11)
   
道の様子 (撮影 2013.11.11)
   
道の様子 (撮影 2013.11.11)
   
集落へ
   
<集落>
 道に大きな変化を与えるのは、集落が出て来た時だ。 集落が形成されるだけあって、この部分は矢作川の谷底は広い。 沿道には、人家が点在する開けた景色が展開される。
   
集落が現れる (撮影 2013.11.11)
   
<大代>
 地図には「大代」という集落名が見られる。 峠を根羽村に下ると、この大代が最初の集落となるのだろう。
   
大代の集落内 (撮影 2013.11.11)
   
 静かな集落内を広い県道46号が貫通している。 路肩に野菜の無人販売所などが見られる。 集落は数100m程続き、道はまた林の中だ。
   
道の様子 (撮影 2013.11.11)
また暫し林の中
   
集落以降
   
 それでも、徐々に矢作川の谷は広がりを増していき、対岸(左岸)の山肌も望めるようになる。 沿道の景色は変化に富むようになり、のんびり走っていても楽しい道となる。
   
矢作川対岸を見る (撮影 2013.11.11)
   
 大代集落以降は、時折沿道に僅かな人家が集まった小さな集落が現れては過ぎる。
 
 峠からずっと右岸側に通じていた道が、一時期左岸を通る。 その左岸に渡った所には、それまでと違い、ちょっと洒落た家屋が並んでいた。 別荘の様であった。 茶臼山高原にも近いし、周囲に自然も多い。 ちょうど、その別荘風の家が点在する所を過ぎる時、野生の猿が県道を横断していた。

また前方に人家が見えてきた (撮影 2013.11.11)
ここで矢作川の左岸に渡る
   

別荘風の家屋 (撮影 2013.11.11)

別荘風の家屋 (撮影 2013.11.11)
   
暫く矢作川の左岸沿いの道を行く (撮影 2013.11.11)
猿が横切った(前方の路面の黒い点)
   
看板など
   
 500m程でまた矢作川の右岸に戻り、快適だが単調な道が続く。 人家がポツリポツリと現れるが、集落と呼べる程の数はない。 沿道にまた野菜直売所を見掛ける。 付近の人家が経営しているようだ。
   

左手に野菜直売所 (撮影 2013.11.11)
その向こうに道路看板

道路看板 (撮影 2013.11.11)
   
 道路看板やら県道標識を確認しながら進む。 行先に「飯田」と「稲武」(いなぶ)と示す看板があった(上の写真)。 この県道の先は、根羽村の市街地で国道153号・三州街道(飯田街道)に接続する。 その国道を北へ上れば飯田で、南に下れば稲武である。 それを示しているようだ。
 
<下小戸名>
 県道標識に示された住所に「下小戸名」とあった(下の写真)。 売木峠を根羽村側に下った直後は「小戸名」であった。 根羽村側の広い範囲を「小戸名」と呼び、その中に「大代」などの集落名があるものと解釈していた。 更に、その広い意味での「小戸名」の中に、小さな「小戸名」や「下小戸名」があるのかと思っていたが、そうでないかもしれない。 根羽村は大字を編成していないので、よく分らない。
   

左手に県道標識 (撮影 2013.11.11)

県道標識 (撮影 2013.11.11)
住所は「下小戸名」とある
   
萸野トンネル
   

左手に矢作川の渓谷を臨む (撮影 2013.11.11)
<紅葉>
 別荘が立っていた辺りなど、県道沿いにもそれなりに紅葉が見られたが、 根羽村の案内看板にあった「南信州随一の紅葉の名所」とある「小戸名渓谷」は、県道を走ってるだけではなかなか見られない。 今の改修された県道はあまり川の近くを走らないのだ。 それでも僅かに川沿いを行く所が出て来て、やっと矢作川の川面がしっかりと眺められた。
   
<萸野トンネル>
 具体的にその「小戸名渓谷」とはこの矢作川のどの辺りだろうかと思って地図を調べると、愛知県の県別マップルに載っていた。 この先、萸野(ぐみの)トンネルというトンネルがあるが、そのトンネルが開通する前の旧道が残っていて、その旧道沿いに「小戸名渓谷」と書かれていた。
 
 早速、そのトンネルが現れた。 扁額に「ぐみのトンネル」とある。 近くに「萸野」(ぐみの)という集落があり、その名を採ったようだ。 「萸野」と漢字で書かれては読める人は少ないと思ったのか、ひらがなで「ぐみの」とある。 (反対の坑口に掛かる扁額には漢字で書いてあるようだが)
 
<グミの実(余談)>
 遠い昔、グミの実を採って食べた記憶がある。 父の実家は古い農家で、その家の周辺にグミの木があった。 小さな子供でも簡単にその赤い実に手が届く低い木だった。 どんな形の実だったか、どんな様子の木だったかは、もう全く覚えていないが、実の甘さだけはほのかに脳裏に残る。 お菓子などあまりない時代に、子供にとっては桑の実などと供に、好んで食べた野生のおやつだった。 ただ、グミの木には毛虫が多く、閉口したことの方が記憶に強く残る。 立派な草葺だった父の実家は、後に大改築され、同時にグミの木も桑の木もなくなってしまったのは残念だ。
   

萸野トンネル (撮影 2013.11.11)
坑口の手前左に旧道分岐

トンネルの扁額 (撮影 2013.11.11)
「ぐみの」とは「萸野」のこと
   
<旧道分岐>
 トンネルの坑口の直前で左手に道が分かれる。 それが元の県道46号である。 古いツーリングマップ(1988年5月発行 昭文社)には、まだ萸野トンネルはなく、この主要地方道は川に沿って蛇行していた。
   
萸野トンネルを迂回する旧道へ
   
<旧道へ>
 現在の県道46号は正直言ってあまり面白いものではない。 阿南町と売木村の一部を除き、ほとんど快適な道が続くばかりで、やや飽きがくる。 その中にあって、萸野トンネルを迂回する旧道は価値が高い。 昔の静かな道が残っている。しかも紅葉の名所ときている。 寄り道するには絶好な場所だ。
 
 旧道は蛇行する矢作川にピッタリ寄り添って屈曲する。 道は程よく寂れ、落ち着いた雰囲気だ。 この旧道区間の前半は矢作川の谷は終始狭く、渓谷と呼ぶにふさわしい。 道幅が狭い分、紅葉も間近に見られる。

旧道の様子 (撮影 2013.11.11)
   
<林道分岐>
 旧道に入って500m程で、左に川を渡る道が分岐する。 この付近は道幅が広く、車を停めておける路肩もあるので、ちょっと車を降りて小戸名渓谷を見学するのに適している。
   

分岐を浅間林道方向に見る (撮影 2013.11.11)

萸野集落側から分岐を見る (撮影 2013.11.11)
   
<分岐付近の看板>
 分岐付近の旧県道沿いには、かつての名残を示す看板が多い。 県道標識も立ち、「茶臼山高原9KM」と観光案内の看板も残る。 また、分岐する道は「林道浅間線」とある。
   

分岐近くの看板 (撮影 2013.11.11)
分岐の前から峠方向に見る
この道が旧県道46号

案内看板など (撮影 2013.11.11)
   

橋より上流方向を見る (撮影 2013.11.11)
古い橋桁のような物が川の中に残る
<橋からの眺め>
 林道に架かる橋の上からは、矢作川が間近に眺められ、さしずめ小戸名渓谷のビューポイントといったところか。 川はあまり深くないが、岩を食んで清流が流れる様子が眺められる。
   
橋上より矢作川を下流方向に見る (撮影 2013.11.11)
   
沿道の紅葉の様子 (撮影 2013.11.11)
萸野集落方向に見る
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浅間林道入口
   
<浅間林道>
 橋の上でうろうろしていたら、林道方向から軽トラが一台やって来て、狭い橋の上のことで慌てた。 浅間林道は立派に使われている道らしい。 南の愛知県との県境付近から流れ下る矢作川の支流・浅間川に沿って通じる林道で、愛知県設楽町(したらちょう)へと抜けられるようだ。
   

橋を渡った先 (撮影 2013.11.11)
右手に何かの小屋
左手に通行禁止の看板

一般車通行禁止の看板 (撮影 2013.11.11)
   
 こうした枝道にはついつい関心が向く。 小さいながら峠もあることだろう。 橋を渡った先には何かの小屋が立つ。 橋を渡って眺めていると、近くに看板が立ち、読んでみると「一般車の通行を禁止します」とある。 ゲートなど大仰な物はないが、通行は遠慮しなければならないようだ。
 
 橋を渡ったついでに橋の欄干などを眺めてみる(下の写真)。 昭和34年2月の竣工とある。橋の名前は浅間橋(せんげんばし)。 この橋の直ぐ上流側の川中に、古い橋桁の様な石積みが残っていた。 そちらに古い橋が架かっていたのかもしれない。

林道側から橋を見る (撮影 2013.11.11)
   

昭和三十四年二月竣工 (撮影 2013.11.11)

「せんげんばし」とある (撮影 2013.11.11)
   
旧道の続き
   

左手に矢作川を臨む (撮影 2013.11.11)
<浅間橋下流>
 浅間橋を後に、旧県道の続きを進む。 浅間橋直後に浅間川が本流の矢作川に合流していて、川幅は広がった。 道の右手の崖は高くそそり立ち、左手には矢作川が大岩の段差を勢いよく下っている。 やや険しい様相だ。周囲の山肌には赤や黄色の紅葉が眺められる。小戸名渓谷を堪能する。
   

道の様子 (撮影 2013.11.11)

道の様子 (撮影 2013.11.11)
   
<新道の橋をくぐる>
 行く手の頭上に大きなアーチ状の橋が見えてきた。萸野トンネルを越えた新道が、続いて矢作川を渡る橋である。 旧道とはこんなに高度差ができてしまったのかと思う程に高い。
 
 橋は水神橋(すいじんばし)と呼ぶらしい。 橋上はそれこそ小戸名渓谷の絶景スポットになっていることだろう。 浅間橋とは雲泥の差だ。 しかし、水神橋からは浅間川合流点付近までは見通せない筈だ。 小戸名渓谷を間近に肌で感じるならやはり旧道だと、負け惜しみである。

新道の橋をくぐる (撮影 2013.11.11)
   

対岸に新道を望む (撮影 2013.11.11)
 萸野トンネルや水神橋を迂回する旧道区間は約1.5kmで、水神橋をくぐると既に後半である。 道は一段と狭くなった様な気がする。 矢作川の対岸を望むと、擁壁工事が行われた崖の上の方に、白いガードレールが一筋見え、新道が通じているのが分かる。
   
萸野集落へ
   
<萸野集落>
 谷が狭まった渓谷部分を過ぎると、道幅が広がり、周囲に平地も多くなる。 間もなく人家が現れた。 新道は小戸名渓谷だけでなく、この萸野(ぐみの)と呼ばれるちょっと変わった名の集落も迂回している。
   
人家が出てきた (撮影 2013.11.11)
   
 萸野集落は、北から流れ下る矢作川の支流・萸野川沿いに形成されている。 主に萸野川を挟んで南に面した緩傾斜地に人家が点在し、棚田が開墾されている。 見ると大きく立派な人家が多い。
   
萸野の集落 (撮影 2013.11.11)
立派な家屋が多い
   
<萸野川を渡る>
 県道の旧道は集落内で萸野川を渡る。 その先また少し道幅が狭い。 この道筋が元は主要地方道でもあったとは、ちょっと不思議に思えるくらいだ。

萸野側を渡る (撮影 2013.11.11)
   

矢作川を渡り、その先で本線に合流 (撮影 2013.11.11)
<本線へ>
 道は狭いまま矢作川を渡ってその左岸に出る。 そこで左から伸びてきた新道に接続する。 直線的に通じる現在のその県道から、「萸野」の看板により旧道が細々と分岐している様子は、やや寂しいものがある。 茶臼山高原などへの観光客の車なら、何も気に留めずに通り過ぎることだろう。 それだからこそ尚更、この残された旧道部分は、価値あるものに思われる。
   

新道に出た所 (撮影 2013.11.11)

分岐に立つ「萸野」の看板 (撮影 2013.11.11)
   
萸野以降
   
 左岸に通じる県道は、昔の様子を留めず、快適な二車線路に生まれ変わっている。

左岸を行く県道46号 (撮影 2013.11.11)
   

前方の橋で右岸に戻る (撮影 2013.11.11)
 間もなくまた右岸に戻る。この橋なども新しい物のようだ。 この付近から周辺に人家が多くなり、学校らしい大きな建物も見えだす。
 
 しかし、不思議なことに県道沿いに人家は並んでいない。 右手の山裾の方に建屋が林立するのが見える。 どうやら、そちらに元々の県道が通じていたらしい。 こちらのひと気のない殺風景な二車線路は、その集落をバイパス様に新しく開削された道のようだ。
   
山裾の方に人家が並ぶ (撮影 2013.11.11)
現在の県道沿いには人家が見られない
   
県道46号の終点へ
   
<根羽村の市街地へ>
 そのバイパス路沿いにも人家が並ぶようになると根羽村の中心地は近い。 前方に道路看板が見えてきた。 県道10号・設楽根羽線(伊那街道)に接続するようだ。

根羽村の市街地へ (撮影 2013.11.11)
   

県道10号へと接続 (撮影 2013.11.11)

道路看板 (撮影 2013.11.11)
   
<県道終点>
 道路看板が掛かる支柱を良く見ると、途中に「終点」の文字があった。 国道や県道は重複区間が多くあり、別の番号の道に合流したとしても、必ずしも終点であるとは限らないが、 こうして「終点」とあると、安心して「終点だ」と言い切れる。
   

県道終点の看板 (撮影 2013.11.11)

県道10号との接続部 (撮影 2013.11.11)
峠方向に見る
左が県道46号の旧道を峠方向へ
真ん中が新しい県道46号
右が矢作川を渡って県道10号を設楽町方面へ
   
国道153号に接続
   

県道10号から国道153号へ (撮影 2013.11.11)
<国道153号に接続>
 県道46号は終っても、今度は県道10号が代わって矢作川沿いに続く。 しかし、それも数100mで、今度は国道153号にバトンタッチである。 矢作川源流の地にある売木峠の峠道は、どこまで続ければようのだろうか。
 
<小戸名川と根羽川>
 古いツーリングマップには、矢作川の上流部は「小戸名川」と書かれている。
   
 北から国道153号沿いに下って来た小川川と、南から県道10号沿いに下って来た桧原川(檜原川)が、国道との接続付近で本流の矢作川に注いでいる。 文献には、「北から小川川、東から小戸名川、南から檜原川が合流して矢作川になる」とある。 すなわち、ここより上流の矢作川本流を「小戸名川」と呼んでいたようだ。 また、文献の別の項では、根羽村の中央を流れる川は「根羽川」で、小川川、萸野川、檜原川、浅間川などの支流があるとなっている。 それが現在の地形図などでは、茶臼山近くの源流部まで全て「矢作川」と示されている。

国道との接続を示す看板 (撮影 2013.11.11)
   
<峠道の終点>
 国道153号との接続部付近から上流側は、矢作川も別名で呼ばれていたこともあり、売木峠の峠道もここで終点とする。 接続する相手が主要地方道より格上の国道ということもある。 県道46号の様に明確な終点ではないが、まさか三河湾の河口まで辿る訳にもいかない。
   
  
   
 売木峠の道では、阿南町と売木村との境付近が未経験である。 それでも阿南町側を途中まで走ったところ、なかなか魅力的な道であった。 肝心な峠前後に通じる快適な道より、小戸名渓谷沿いに残る旧道や、阿南・売木の町村境付近の険しい道の方が、 よっぽど楽しいのではないかと思う、売木峠であった。
   
   
   
<走行日>
・年月日不明 峠付近のみ走行 ジムニーにて
・2013.11.10 売木村側より峠まで(休暇村茶臼高原宿泊) パジェロ・ミニにて
・2013.11.11 峠から根羽村へ
  
<参考資料>
・角川日本地名大辞典 20 長野県 平成 3年 9月 1日発行 角川書店
・角川日本地名大辞典 23 愛知県  1989年 3月 8日発行 角川書店
・県別マップル道路地図 20 長野県 2004年 4月 2版 7刷発行 昭文社
・県別マップル道路地図 23 愛知県 2013年 3版12刷発行 昭文社
その他、一般の道路地図など
 (本サイト作成に当たって参考にしている資料全般については、こちらを参照 ⇒ 資料
 
<1997〜2014 Copyright 蓑上誠一>
   
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