ホームページ★峠と旅
笹ノ折峠
 
ささのおれ とうげ
 
名前は県道でもみすぼらしい林道の様な峠道
 
笹ノ折峠 (撮影 1999.12.29)
奥が山口県錦町大原、手前が同県本郷(ほんごう)村本谷(ほんだに)
道は県道59号・岩国錦線
残念ながら錦町側は「全面通行止」だった
 
 本郷村の南に隣接する美川町より県道59号を走って村内に入ると、間もなく商工会青年部による本郷村観光ガイドの看板を道路脇に見付けた。しげしげ眺めても、村には神社や寺があるばかりといった感じである。ただし、その看板の右半分以上を使って「らかん高原憩いの広場」が大々的に紹介されていた。これが村きっての観光地らしいのだ。
 

県道59号を行く
本郷村程原附近
道路の左には本谷川の渓谷を望む
 県道を先へ進むと、程なくして村の中心地である村役場の前を過ぎる。その先、右に本郷川沿いの県道134号を分ければ、後は本谷地区へと入っていくばかりだ。進行方向左手には本谷川の谷間を望むようになる。だんだん寂しい、いい雰囲気になってきた。
 
 まだまだここは峠道と言うには早いのだが、、こんなステージも楽しい。沿道に目をやれば、素朴な集落が点在するのどかな山里だ。道も閑散として、町中の様に後続車に急き立てられることもない。景色を堪能しながらのんびり車を流すことができる。
 
 自宅を遥々遠くに離れ、見知らぬ土地を一人で旅していると、いろいろ不安なことも多い。でも、こんな自然豊かな中にいると、心が休まる思いだ。大げさに言えば、旅情をしみじみ感じる一時である。 
 
 道を進むにつれ、徐々に谷間は狭くなり、前方の峰々が迫ってきた。だんだんワクワクしてくる。峠道が近いのだ。どんな峠が待っていてくれるのだろうかと、期待も膨らむ。
 
 突然、ちょっと迷わせるY字路に出くわした。ただただ県道を真っ直ぐ走っていればいいと思っていたので、不意を付かれてしまった。しっかり確認もせずに咄嗟に左に入った。川に近い道を選べば間違いないだろうとの判断からだった。
 
 道は民家やその周囲に石垣を積んで築いた田畑の中を縫って通る、狭い道へと変わった。傍らには今では小さな用水路のようになった本谷川が流れている。県道にしてはちょっとおかしいなとも思ったが、方向的には間違いなさそうである。のんびり先へと進んだ。

後で分かった、県道ではない本谷川沿いの道
(下流方向を望む)
 
 谷間の緩斜面に築かれた段々畑の中をほぼ登り詰めると、小さな十字路に出た。道路標識は見当たらない。交わる道の両方とも狭さを競っている様な道で、どちらが本線とも言い難い。これは迷う。
 
 交差する道の方が僅かながらも立派である気もするが、道の進む方向がちょっと違う。峠があると思われる峰は、ここまで登って来た道の正面にそびえている筈だ。その道に直角に交差していては、いくら良さそうな道といえども進む気にならない。来た道の続きをそのまま真っ直ぐ進むこととした。
 
 ところが人家がまばらになり、傍らの川は細くなり、道は峰への急登へと変わった。間もなく路面がアスファルト舗装からコンクリートとなり、その道路脇に林道標識が現れた。「林道茅原小杉線」とあった
 

茅原の十字路を過ぎ、山腹を南西へと進む
道の傍らの棚田は、もう使われていないのか?
 先ほどの十字路まで引き返す。後でよく調べると、ここは茅原というところで、ここより本線である県道は、峠のある北方向ではなく、大きく西へと迂回を始めていた。
 そもそもの間違いは、茅原の十字路より1Kmほど下のY字路で、県道を外してしまっていたのだった。県道は本谷川より僅かに東側を通り、茅原で本谷川を交差し、山腹を水平に南西へと進んで行く。
 
 茅原の十字路を過ぎると、左手に谷間の開けた景色を望む。道の脇にも斜面に築かれた田んぼがあるが、その様子は荒れていた。もう耕作されることはないのであろうか。
 
 間もなく県道周辺には民家も田畑も全くなくなる。道筋は林の中の暗がりへと入って行った。残すは峠までの一本道があるばかりである。
 
 路面状態が急に悪くなる。どうやらアスファルト舗装はされているのだが、その上に枯葉が溜まり、さながら林道の様相だ。ほとんど使われることがない道としか思えない。峠を越えて錦町へ出る、またはその逆に錦から本郷に来る用がある者は、少ないのであろうか。
 
 何にしろ、運転には慎重を期す。もう、旅の「旅情」などを感じている場合ではない。目の前の道は安全であろうか、路肩が弱くなっている所はないだろうかと、目を凝らし気を引き締めなければならない。

舗装だか未舗装だか分からない道
 

峠 (錦町側より見る)
 暗い林の中で道が二手に分かれている所に出た。左の道には柵が置かれ、「全面通行止」の看板が立て掛けてある。柵の先は雪が残る狭く寂しい切り通しとなっていた。間違いなく峠である。傍らには大きく「錦町」と書かれた看板も立っていた。
 
 峠手前を右に分岐する道は、ツーリングマップルには記されていない。小さな道路標識が立ち、「8Km大原、9Km羅漢山」とある。「大原」とはどこだろうか。「羅漢山」経由でどこかに抜けられるのだろうか。
 
 取り敢えず、峠の写真を撮ったり、峠に立っていた「須川休猟区区域図」の看板をのぞいたりしながら、そのまま峠を立ち去るかどうか迷っていた。峠から錦町を少し歩いて下ってみても、一応林道の様な道は続いている。それに、峠の柵はちょっとずらせば車も通れる簡単なものだ。全面通行止の理由も分からないで引き返すのもしゃくである。思いきって車で錦町側に下ることにした。
 
 錦町の道も舗装はされているが、やはり枯葉が路面をびっしり覆い、その上本郷村側よりも暗い林の中を行く。もう林道以外の何物でもない道だ。通行止を無視して入り込んだ手前もあり、運転は益々慎重にする。
 
 本当はこんな怖い思いなどしたくはないのである。峠で「全面通行止」の看板を見た時には、これで引き返すいい言い訳ができたとも思ったのだ。
 でも、道があれがその先は一体どうなっているのだろうかという、素朴な好奇心も一方にはある。峠を越えた先はどこに出るのだろうか。そこはどんな所なんだろうか。それが峠の旅をする原点のような気もする。

錦町側の道 こちらも暗い林の中
 

錦町の路肩決壊箇所
引き返すのが無難
 数100mも行かない所で、路肩が1/3ほど決壊している箇所に出た。残った道幅でジムニーならどうにか通れそうだが、アスファルトの下の土はえぐれて、崩れやすくなっている。
 通行止の理由も分かったし、ここらが潮時のようだ。これ以上の危険は避けて、おとなしく引き返すこととした。
 
 峠の本郷村側で東に分岐する道は、後で調べてみると、らかん高原への道に合流しているようだ。また「大原」とは錦町側の地名であった。路面凍結さえなければ、県道59号の錦側をバイパスして、錦町に出られる道のようだ。
 
 結局、笹ノ折峠の旅は、本郷村の役場近くまで戻る羽目になった。帰りはずっと県道を走った。途中、らかん高原への分岐を過ぎる。後で考えてみると、らかん高原にも立ち寄ればよかった。どんな観光地だがこの目で見ておけばよかった。それに、うまくすれば錦町にも出られたかもしれない。
 
 らかん高原は村が力を入れている観光地である。また、そこを経由して錦町に出られるとなっては、笹ノ折峠を越える県道59号は、省みられなくなる可能性がある。あの道路決壊箇所の修復も、後回しにされるのではないかと心配な笹ノ折峠であった。
 
<制作 2002. 2.11>

峠から県道を戻る途中
左は「錦町、茅原」、右は「らかん高原」へ
 

峠と旅        峠リスト