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白巣峠
 
しらす とうげ
 
王滝村に唯一残された車で登れる峠
 
白巣峠 (撮影 2001. 4.30)
奥が長野県王滝村滝越(たきごし)
手前が岐阜県加子母(かしも)村
標高は1,380m(峠に立つ標柱より)
道は白川付知(つけち)林道
 
<王滝村三大峠>
 
 木祖の御嶽山の南面に広がる深い森林の村・王滝は、林道と峠の宝庫であった。村の南西方面を区切っている岐阜県との県境上に、鞍掛・白巣・真弓の三峠があり、そこを未舗装林道が越えている。どれも標高1,400m前後と高い峠である。
 
 残念ながら10年ほど前に王滝村を訪れた時点で、既にどの峠にも頂上にガッチリとゲートが設けられ、岐阜県側には抜けられないようになっていた。また、岐阜県側には麓の林道入り口にもうゲートがあり、全く林道が走れない状況だった。
 
 その中で唯一、鞍掛峠は岐阜県側のゲートが施錠されておらず、行こうと思えば岐阜県側からも峠に到達できた。峠のゲートは抜けられないが、峠道の全線を両側から挟んで走ることができたのだ。しかし、基本的には王滝村側の林道にも一般車両通行禁止の看板が立ち、あまり大っぴらに「鞍掛峠に行ってきました」などとは吹聴できないのであった。
 
<王滝村再訪へ>
 
 個人的には王滝村三大峠の内、実は白巣峠にはまだ立ったことがないのであった。10年程前に使っていた古いツーリングマップ(昭文社 中部 1988年5月発行)にはまだ白巣峠の記述がなかったのだ。地図上の道も県境で繋がっておらず、峠の存在そのものを知らなかった。
 
 また、真弓峠については、行ったことには行ったのだが、鞍掛峠に引き続き峠の無粋なゲートを見て、写真1枚撮ることもなく、さっさと引き返してしまった。どんな峠だったかの記憶も全然ない。
 
 それで、いつかまた王滝村には行こうと思っていた。旅をするには王滝村はいい所である。そんな折、鞍掛峠の王滝村側に新しいゲートが設けられ、また岐阜県側のゲートも閉ざされ、もう鞍掛峠には車やバイクでは行けなくなったという便りをもらった。知らぬ間にどうも大変なことになっているようだ。何やら不吉な予感もするので、これは早めに王滝村を再訪しておいた方が良さそうである。鞍掛峠はもうダメかもしれないが、白巣峠と真弓峠は是非訪れておきたい。
 
 そこで、去年(2001年)の4月、10年ぶりに王滝村の探訪に出掛けたのだったが・・・。
 
<王滝村へ>
 
 王滝村に入るには、岐阜県との県境が越えられないからには、東に接する三岳村より王滝川に沿う県道256号を行くしかないとばかり思っていた。ところが偶然別ルートを見つけることができた。上松(あげまつ)町と三岳村を南北に結ぶ県道473号・才児上松線の途中、上松町才児付近より「林道春山線」と言う道が分岐している。それが御岳湖の南岸を通る道に通じていたのだ。
 
 春山線は林道と言っても全線舗装で走りやすく、はっきりした峠はないがちょっとした丘陵を越えていく。なだらかな山間をゆったり縫うように走り、静かで落ち着いた道であった。交通量も皆無である。
 また、御岳湖側に下りだす辺りに、「おうたき310記念林」と書かれた記念碑が立つ広場が道路脇にある。そこからは眼下に御岳湖が眺められ、ちょっと得をした気分である。誰一人来る心配もなく、のんびり休むこととした。これだから王滝村の旅は楽しい。

林道春山線途中より御岳湖を望む
こうして御岳湖を見下ろせる場所は
他にはちょっとない
 
 御岳湖岸に出て上流に進む。湖が終わる付近に王滝村の中心地が広がる。村内は道が入り組んでいて分かり難いのが難点だ。御嶽山の中腹まで伸びている黒石林道へと続く県道は、比較的標識が出ていて分かるのだが、溝口林道やら御岳御廐野林道へ進もうとすると、いろいろ迷ってしまう。
 
<滝越へ>
 
 目指す白巣峠や真弓峠へ行くには、村の中心より更に奧に位置する滝越地区へと向かわなくてはならない。滝越へは湖の上流の王滝川に沿う村道を行く。川に沿った道なので、これなら発見しやすい。特に春山林道経由で来れば、訳の分からない村の中心部を通ることなく、そのまま川沿いを進めばいいのだ。
 
 川沿いの村道は、集落を離れると途端に険しい様相を示す。この先に人が住む集落が本当にあるのかと思わせる程だ。しかし、間違いなくこの道が滝越へ通じるメインルートであり、一般者にとってはほとんど唯一の経路である。北側の山の中腹に御岳御廐野林道が平行して通じているが、後で分かったことだが、その林道はゲートで通行止である。
 
 滝越へ向かう途中、氷ヶ瀬という地区を通過する。集落はないが、そこより左に真弓峠へ続く「林道氷ヶ瀬小俣線」が分岐する。10年前は真弓峠よりその林道を氷ヶ瀬まで下って来たのだった。
 ところが現在は王滝川を渡る橋の前にゲートのバーが下ろされ、通行止となっていた。ゲートの先には車があったので、林業関係者は通行している様子である。こういう事態はある程度予想していたものの、もうこの時点でほぼ真弓峠は諦めなければならいないようである。現実は厳しいのであった。
 

御岳湖より更に王滝川の上流を遡る
なかなか険しい道だ
<濁川と天然湖>
 
 尚も王滝川沿いの険しい道を行くと、右手より王滝川の支流・濁(沢)川が流れ込んで来ている。濁川橋より眺める濁川は荒々しい様相だ。
 
 それもその筈、この川は、上流に御嶽山の中腹より流れ下る白川・赤川・伝上川を支流に持ち、長野県西部地震では大規模な土石流がこの付近に流れ下ったのだ。昭和59年(1984年)9月14日、8時48分、そのM6.8の大地震は発生した。それにより王滝村は多大な被害を被った。既に復旧工事は進んでいるが、その被害の爪あとは、今でも垣間見ることができる。
 
 濁川を過ぎるとその先で一段と荒涼とした景色が広がる。王滝川に流れ込んだ土石流が堰き止めて造った天然湖である。天然にできた湖という意味ではなく、名前を「天然湖」というらしい。水に没した木が墓標の様に並んで立ち枯れており、ちょっと不気味な感じを受ける。でも、釣り人がのんびり釣りを楽しんでいた。
 

濁(沢)川

天然湖
 
<滝越の集落>
 
 そこまでの道の様相とは打って変わって、滝越は山里ののどかな集落に見える。王滝川ダムに堰き止められた小さなダム湖の周辺に、ポツリポツリと人家が点在する。集落の入り口に案内看板が掲げられており、それで集落の全貌が分かる。
 
 滝越には「水公園」と呼ばれる公園やキャンプ場の設備などもあり、一般的な行楽からアウトドア、釣りなどと、訪れる者にとっても、楽しめる所となっている。

滝越集落入り口にある看板
 

白巣峠へと滝越橋を渡る
<白巣峠へ>
 
 さて、真弓峠はダメそうなので、とにかく白巣峠を目指すことにする。滝越集落のほぼ真中を南へと向かう道を進む。水公園の側らを過ぎると、王滝川ダムの上流部を滝越橋で渡る。
 橋の手前に看板が立っている。
 
お知らせ
この道路は現在白巣峠までの通行となっており、岐阜県への通り抜けはできません。
又、砂利道であり、巾員も狭く急カーブの連続であります。
通行の際はスピード等に充分注意して通行して下さい。
王滝村長 
 
 どうやら白巣峠だけは公認で行ってもいいことになっているらしい。王滝村三大峠の中で唯一の生き残りである。
 
<白川林道を行く>
 
 この峠道は白川付知林道と言うらしい。岐阜県加子母村側が付知林道で、こちらの王滝村側が白川林道である。王滝川の支流・白川にほぼ沿って進む林道だ。
 
 滝越橋を渡って間もなく、林道起点らしき所を過ぎる。「山火事用心」の赤旗がたなびいている。道の側らには2つの林道標識が立っていた。新しい方には「白川付知併用林道」とあり、また、古い方には「白川林道」とあった。古いものは白川・付知2つの林道が峠で繋がる前、新しいのは繋がった後のものだろうか?

林道起点
道の側らに林道標識が2本立つ
 

舗装路は続く
 道は滝越からほぼ一直線に南へと向かっている。最初のうちは沿線に「森きちオートキャンプ場」などがある。しかし、その後はただただ狭い道が続いているばかりだ。
 
 ツーリングマップルには白川林道を指して「ロングダート」と書かれていたが、今は出来立てのホカホカといったアスファルト路面がいつまでも途切れない。滝越から白巣峠へ向け、現在進行形で舗装化が進んでいるようだ。
 

右に行止り林道分岐

でも、ゲート通行止
 
<分岐の林道はみな通行止>
 
 途中、右に鋭角に林道が分岐する。地図を見る限りでは行止りの道のようだ。どちらにしろ、入り口はゲートで通行止である。
 
 その直後に今度は左に分ける林道がある。氷ヶ瀬から真弓峠へ続く氷ヶ瀬小俣林道に連絡している。しかしこちらも、林道に入って直ぐにある橋の袂にゲートが設けられ、入り込むことはできない。橋を封鎖してしまえば、ゲートの脇を抜けることもできず、うまい手である。これで真弓峠は打つ手なしである。
 

左への分岐
ここが通れれば真弓峠へ行けるのだが・・・

でもやっぱり、こちらもゲート
 

氷ヶ瀬小俣林道 (撮影 1992.10. 8)
白川林道への分岐点
手前が真弓峠方向、先が氷ヶ瀬方向
<10年前の後悔>
 
 10年前に来た時は、今回と同様滝越から来て、この左への分岐林道に入り、氷ヶ瀬小俣林道に出て真弓峠へと向かった。まさか、そのまま白川林道を進めば白巣峠という峠があるなどとは、思ってもみなかったのだ。
 
 また、左の写真は10年前に白川林道から別れて氷ヶ瀬小俣林道に入るところ。この後真弓峠に行った筈だが、肝心な峠の写真がない。こんな分岐を撮るより何で峠を撮らなかったのかと、悔やむことしきりなのである。
 
 しかし、この時はやや焦っていた。前日に御岳御廐野林道脇で野宿し、その日も朝から王滝村内をさまよっていた。食事といえば持ち合わせのラーメンなどの即席物ばかりが続いていた。何とかまともな食事をしたい。その為には王滝村を岐阜県に抜け出さなければならないのだ。真弓峠のゲートを見て、鞍掛峠に続きここもダメかとがっかりし、写真を撮るゆとりもなく、さっさと峠を引き返してしまったのだった。
 
<未舗装となる>
 
 2つの通れない林道の分岐を過ぎると、峠道はその先でやっと未舗装路となった。滝越から峠までの7、80%といった所である。そこよりやや埃っぽいダートがそのまま峠まで続いている。しかし、峠までの完全舗装も時間の問題といった感じである。
 
 全般的に地形が穏やかな為か、それ程急な坂や、きついカーブなどは少なく、道は穏やかに峠へと登って行く。路面も安定しており、走りやすい林道である。
 
 峠に近付くとさすがにちょっと険しさを感じる。道の側らの谷が深くなるのだ。同時に空も開け、展望が良くなる。これが峠道のいいところである。

やっと未舗装路
 

峠に向けて走りやすいダート

峠直前
 

王滝村側から峠を見る
<峠に到着>
 
 白巣峠は思ったより味があった。やはり、土や砂利に覆われているのがいいようである。これが、アスファルトべたべたの峠では、この味わいはなかったと思う。10年前には来れなかったが、多分、今と様子はほとんど変わりはないのだろう。舗装工事が着々と進む中、間一髪であった。
 
 峠には「白巣峠」と書かれた看板が立ち、そこからだと無粋なゲートも見えない。看板によると標高1,380mである。王滝村三大峠の中では一番低い。
 
 王滝村側から登ってくると、峠より左手に一本の林道が分岐し、県境の稜線直下に伸びていた。林道標識には「白川支線林道」とあった。
 
 峠より王滝村側を望むと、あまり景色はよくない。穏やかな地形が禍している。また、丁度天候が良くなく、本来なら御嶽山が望めたのかもしれないが、遠くの山並みはぼんやり霞んでいるだけだった。
 
 ゲートに阻まれ他に出られる所がないせいか、この白巣峠まで探訪にやって来る者は以外に多いようだ。道も一部未舗装だが、普通乗用車で走れないことはない。峠に居た僅かな間にも、車や特にバイクがポツリポツリとやって来ていた。

峠から王滝村側を望む
 

峠から分岐する林道
この先に旧白巣峠?
<本来の白巣峠>
 
 ところで、国土地理院の地形図をよく見ると、「白巣峠」という文字が現在の林道が通る峠ではなく、別の所に書いてあるのだ。そこは林道の峠より東に数100mほど離れた小さな鞍部である。これはどうしたことか。
 
 どうも、そここそが本来の白巣峠らしい。昔の山道はその鞍部を越えていたものと思われる。現在の峠から分岐する林道の途中から、旧白巣峠に登れるかもしれない。以前、加子母村で見た看板に、白巣峠の標高が1,430mと書かれていた。それは多分旧峠のことだったのだろう。
 
<峠の加子母村側>
 
 「白巣峠」と書かれた看板の立つ位置からは、加子母村側は何も見えない。そこより土が露出した狭い切り通しを抜けなければならないのだ。切り通しの先がカーブして見通しが利かず、進むのがちょっと躊躇われる。どうせゲートがあるのだろうが、車が回転できないような所に設けられていると困ると思うのだ。
 
 切り通しを抜けると、直ぐに大きく「通行止」の看板が出てきた。そして、数10m程下った所にゲートはあった。ゲートの前にはどうにか車が転回できるスペースがあり、ホッとした。

加子母村側から峠を見る
 

峠の加子母村側
 ゲートの側らに立って加子母村側を望むと、これがなかなか壮観な眺めである。遠くには幾つもの山が連なり、近くに目を落とすと険しい谷が切れ落ちている。その谷間を縫って、未舗装林道が下っていくのが見える。その道が通れたらなと思うことしきりである。
 
 その付知林道は峠をちょっと下った所で分岐していた。枝道は東の稜線方向に延びている。もしかしたらその道の途中からも旧峠に行けるかもしれない。しかし今はゲートの前からただ指をくわえてそれらの林道を眺めるだけである。
 
白巣峠から加子母村側を望む
林道の分岐が見える
 
<峠のゲート>
 
 峠のゲートはそれまで見かけた横棒一本のゲートと違って、下もすり抜けられない鉄格子のゲートだ。ちょうどバイクの若い男の二人連れがやってきて、どうにか抜けようと、さかんにゲート周辺を探っている。ここが通れても下にもゲートがあるよと教えると、一人は直ぐに諦めたようだったが、もう一人はまだゲート脇が通れないかと執拗に嗅ぎ回っている。その男が何だか動物の様に思えた。
 
 王滝村に多くのゲートが設けられ、執拗に一般者を林道から締め出したのは、ひとつにはオートバイが無謀な走りをしたためだと聞いたことがある。林業関係者の車が往来する中、オフロードバイクが乱暴な走りをすれば、こういうことになるのも無理からぬことと思う。

加子母村側のゲート
二人組みのバイクがやって来た
 
 まあ、あまり人の事はとやかく言える立場ではない。ゲートがなければ「通行止」と出ていても入り込んでしまうこともしばしばだ。でも、そんな時は普段よりいっそう安全には気をつけるようにしている。林業関係車両は最優先と心得る。注意されれば謝って引き返す。ゲートを突破するような無理をする「旅」ではないし、そんな無理をすればもう「旅」ではなくなってしまうような気がする。
 
<ゲートの嵐>
 
 白巣峠から滝越に戻った後も、いろいろと王滝村の中を探訪することにした。まず滝越より王滝川に沿って上流の発電所方面に続く「滝越三浦林道」を行くが、発電所手前でゲートであった。その道の途中、北側の山腹を越えて三浦ダムに通じる「上黒沢林道」も、分岐して暫く快調にダートを行くが、やっぱりどこにも出られずゲートである。
 
 滝越を経由せず、御岳御廐野林道から直接三浦貯水池に抜ける林道は、10年前に来た時、既に廃道状態であった。よって、これでもう三浦貯水池や更にその先にある、あの鞍掛峠に行くルートは壊滅であることが確実となった。もう鞍掛峠に立てないと思うと、それが一番残念である。
 
 最後に、滝越から御岳御廐野林道に連絡する林道(名前は王滝林道か上黒沢併用林道か滝越併用林道かよく分からない)を行くも、思わせぶりにかなりまで進めるが、やっぱりゲートで通行止。
 
 結局、滝越から先はほとんどどこにも進めないのである。唯一この白巣峠の白川林道が、岐阜県との境まで進める最長の道であった。
 
 10年前には御岳御廐野林道途中で野宿したことがある。とっても寂しくていい野宿だった。滝越にはオートキャンプ場があるが、キャンプ場でない所でいい野宿地を見つけるのは、もう王滝村では難しいことだろう。
 
<制作 2002. 9.19>

御岳御廐野林道の濁川上流部 (撮影 1992.10. 8)
荒涼とした風景が広がっていた
 
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