CD-ROM★峠と旅
葛葉峠  くずば とうげ
 
ボッカと牛が塩を運んだ峠道 
 

 初掲載 2000.10. 4 「今月の峠 2000年10月」として


 
葛葉峠
葛葉峠 (撮影 2000. 6. 3)
峠は新潟県糸魚川市にあるが、長野県との県境に近い
手前が長野県小谷(おたり)村方面へ続く・・・筈が、現在は通行止
峠に見えている民宿「アルプス」は開店休業?
 
 長野県の北の端の、もうその先は新潟県という所に小谷(おたり)という村がある。何年か前に土石流災害に見舞われた村として、記憶されている方もいることだろう。
 その小谷村といえば、東隣りの新潟県妙高高原町との間の乙見山峠ということになるが(何でそうなるんだ)、今回は「今月の峠」ということで、北隣りの新潟県糸魚川市との間の葛葉峠ということになった(訳が分からん)。
 正確には葛葉峠は県境ではなく、わずかに糸魚川市側に入った所にあるのだが、そういう細かいことは気にしない。
 尚、乙見山峠に続く妙高小谷林道は、例の災害の影響らしく、平岩側より入って7、8kmで通行止だった(2000. 6. 3現在)。通行止のゲートまで通行止を示す何の看板もなく、不親切きわまりない林道なのだった。

 小谷村から日本海側の糸魚川市には、一本の国道148号・糸魚川街道(松本街道)が通じている。その県境付近は、フォッサマグナの姫川が流れる渓谷に沿い、国道と言えどもなかなか楽しい道となっている。
 特に冬期の積雪期は、雪をかぶった山々に周囲を囲まれ、姫川渓谷は独特な雰囲気がある。道路はスノーシェードに覆われる区間も多く、運転には慎重を期さなければならない。国道なので交通量はそれなりにあり、あまりのんびり雪景色を眺めながら走るという訳にはいかないのが残念だ。
 その点、鉄道はいい。やはり姫川に沿って大糸線が走っているが、この車窓からの眺めが楽しいのだ。仕事の関係で石川県の金沢に出張に行くことが時たまあるが、帰りに飛行機を使わず、わざわざ大糸線経由で帰ってくることもある。鉄道なら何も気にせずのんびり景色を堪能できる。しかし、大糸線の便は少ないし、時間は掛かるしで、金沢から東京までは、すごい長旅になってしまうのが難点だ。

冬の姫川
大糸線の車窓より冬景色の姫川を眺める
(撮影 1999. 3.28)
長野県小谷村付近(正確には分からない)
  
国境橋
国界橋(こっかいばし)
手前が新潟県、奥が長野県
この付近はスノーシェードの連続である
 葛葉峠はそんな国道148号上にある。ただし、現在はトンネルを抜ける新道が完成していて、峠を越える旧国道は県道375号と改名されている。
 それでも10年くらい前までは、葛葉峠を越える道が、小谷村方面から糸魚川市の日本海側に抜ける唯一の車道として活躍していた。私も何度かお世話になった筈である。しかし、峠は国道の一通過点に過ぎず、ほとんど記憶がない。それより周囲の景色に見とれていたのだった。
 今回は旧道となった葛葉峠がどうなっているかと、訪れてみたということである。

 普通、県境の峠というと県境をなす高い山並みを越える峠を想像するが、この葛葉峠はちょっと違う。まず、長野県と新潟県の県境は、姫川の支流である蒲原沢と名の沢である。その沢を渡るのが左の写真の国界橋(こっかいがし)である。長野県側の現在の新国道より旧道に入り、ちょっと登れば直ぐのところにある。

 橋から沢の下流をのぞくと、大きな砂防ダムの先に現在の国道が渡る橋が見える。沢の上流を見上げると、切れ込んだ急な谷を、濁った水が流れ落ちている。非常に怖そうな沢である。数年前の土石流では13名ほどの犠牲者が出たそうだ。

 道路のこの付近はスノーシェードが連続し、如何にも雪の地方の厳しさを物語っている。しかも現在は旧道となってしまった道は、ほとんど使われている様子がない。錆びかかった鉄骨の柱が並ぶスノーシェードの中は、ガランとしてどこか不気味な感じを受ける。以前はここを車がひっきりなしに流れていたのかと、旧道の運命を目の当たりに見る思いである。

  
蒲原沢下流
国界橋より蒲原沢の下流を眺める
 
 国界橋を渡って新潟県側に入りしばらく行くと、右に新道へ下りる道を分岐する。その先の旧道は侵入禁止のようである。しかし築かれたバリケードは簡単なもので、しかも道の半分しか塞いでいない。難なく入れるので行ってみることにした。

 路面には雑草が目立ち、荒れ方が増す。またスノーシェードが出てきた。暗いスノーシェードの中を進んでいると、突然足がすくむ光景が目の前に現れた。シェードの切れ目から先に、道がないのだ。慎重に運転していた積もりだが、こういう事態を想像していなかった。思わず後ずさりせずにはいられない。車を十分安全な所にまでバックさせ、歩いて崩落個所をのぞいてみた。道路は跡形もなく崩れ落ちていた。足がすくむ。

 不用意にスピードを出していたらかなり危険な状態である。崩落個所の直前に、車止めでも設けた方が良さそうだ。何の予告もなく道がなくなるというのは、やっぱり怖い。

崩落個所
崩落個所
スノーシェードの切れ目の先には道がなかった
 
道路標識 旧国道は今は県道
道路標識には「当分の間通行止
 
新潟県側より峠を望む
新潟県側より峠方向を眺める (撮影 2000. 6. 3)
車を止めてある道は県道375号
国道が右上に並走する
正面に見える山の肩の部分に峠がある
写真では確認しにくいが、
峠の少し下に白色の白馬大仏がある
 今度は新潟県側より峠を目指す。一旦新道に下り、大所トンネルを抜け、その先で平岩駅の近くを通る旧道に入る。直ぐに「白馬温泉の先 当分の間通行止」と、しっかりした道路標識がでかでかと出ている。あのほったらかしの崩落現場をみれば、これはかなり当分の間だなと思わずにはいられない。
 途中右に「蓮華温泉」、左に「姫川温泉」の十字路を過ぎて、尚も姫川沿いに進む。前方に白い大きな白馬大仏が、山の中腹に見えてくる。峠はその左上の、ちょっと林が途切れたところにある。

 葛葉峠は、姫川沿いの険しい谷を避け、山側を越えたためにできた峠である。そこが普通の県境の峠とちょっと違うところである。国界橋の方より、その車道も鉄道も通さない屈曲した険しい谷間の部分が望める。山の斜面は地面が露出し、荒々しい姿を見せ付けていた。
 
 旧道は、白馬温泉を過ぎた付近から登りとなり、S字のカーブをいくつか曲がると、直ぐにも峠である。今は通る車はほとんどないと言えども、さすがに元国道である。2車線の幅がある、険しくも何でもない道であった。
 
 長野県と新潟県の境になっている蒲原沢にちなんで、この峠を蒲原峠とも呼んだそうだ。峠の周辺は「クズ」の群生地であり、そこから葛葉峠の名がついた。また、天然記念物の「ヒメギフチョウ」も生息しているとのこと。
 古くは葛葉峠は「塩の道」の難所であり、峠の平岩側には、塩を運んだボッカや牛が木陰で休んだと伝えられるトチの大木があるそうだ。国道148号としての最盛期には、日本海への海水浴客の往来も多く、峠のドライブインを兼ねた民宿は盛況だったとのこと。

 峠から先は路上にコンクリートブロックが並べられ、こちらは車が入るスキはない。
 復旧される様子もないこの峠道で、あの民宿の営業が成り立つのか、人事ながら心配に思った。もはやドライブインの役目は果たせないが、でも宿泊するには、とっても静かで案外いいのかもしれない。

    
葛葉峠   コンクリートブロック
葛葉峠
コンクリートブロックで北小谷側は通行止
    
姫川の谷間
葛葉峠でバイパスされている姫川の険しい谷間
北小谷側の旧道より眺める
 
    
峠と旅