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粟柄峠  変化に富んだ峠道


粟柄峠
峠? 舗装が途切れる

 福井県美浜町から県境を越えて、滋賀県今津町三谷へ粟柄河内谷線という林道が通じている。しかしその県境の峠の名が不明である。ここでは勝手に粟柄(あわがら)峠と呼んでしまった。調べてみると、美浜町内の林道途中から東に分かれて、やはり県境を越え滋賀県マキノ町白谷に通じる古い山道があり、その峠を粟柄峠と呼んだらしい。しかし今ではほとんど廃道と化しているそうで、そこでその名を拝借したしだいだ。
 峠の名前がはっきりしないだけでなく、この峠道には複数の峠があり、実態も何が何だかはっきりしないのだ。。

 粟柄河内谷林道に入るには美浜町からの方が分かり易い。国道27号より河原市(かわらいち)の信号のあるT字路から「新庄」の標識に従って入ればよい。入った道は県道213号松屋河原市線である。松屋とは福井県側最後の集落である。

 道はほぼ真っ直ぐ南下している。ここから既に峠道に入っていると言ってもよい。この先、粟柄河内谷林道を通って滋賀県に抜ける以外、他に抜ける所は何処にもないのだ。

河原市の分岐
河原市の交差点

松屋河原市線
県道を南下 町中を抜けて視界が広がった

 県道の町中は短く、あっと言う間に通り越して、視界の広がった耳川沿いののどかな道となる。行く手前方に山並みが見渡せる。途中県道が通行止で一旦耳川を挟んで反対側の農道を走り、また県道に戻る。新庄の狭い集落内の道を過ぎると右手に嶺南変電所の異様な姿が現われた。
 そこに「新庄屏風ケ滝案内図」というのがり、変電所の裏手の方、1.5Kmにその滝がある様に記してある。

 それに騙された。案内図ではまるで車道がその滝の近くまで通じている様に見れる。1.5Kmは車なら訳もない。行ってみることとした。途中道を間違えて変電所を一周ぐるりと元の所まで回り、引き返してやっと滝への入口を見つけたら、そこの案内図に今度は950mとある。見ると完全な山道で車など入り込めない。雨も降っている。県道脇の案内図に徒歩950mとあれば、脇目も振らずさっさと先に進んだのだが、どうもしゃくにさわる。こうなったら意地だ。傘をかぶり滝までの山道を1時間近く掛けて往復した。そこまでして見てきた屏風ケ滝なるものがどんな滝だったかここで話す訳にも、写真を載せる訳にもいかない。知りたい人は自分の足でどうぞ。

 県道は福井県側最後の集落松屋で終わり、左折して粟柄谷沿いの林道粟柄河内谷線が始まる。林道といっても舗装済みで道幅もあり、下手な山岳国道よりずっとましだ。それならつまらない道かというと、そうではない。最初の谷を詰めてから道が思いもかけないコースを通る。谷が複雑でどこをどう走るのか予想がつかない。先の方に道筋が見えても、そこまでどのように繋がっているのか分からない。ふと見ると谷を挟んだ反対側にさっき通った道が眺められたりする。そこが楽しい。

林道の上り
林道の上り 舗装

 道も単純な上りではなく、時々下ったりする。それが単なる一時的な下りならよいのだが、へたをすると峠を見過ごしてしまう可能性がある。道は楽しいのだが、どうも油断がならない。ここは怪しいと車を止めて暫く辺りの様子をうかがった峠もどきの場所も1、2ヶ所ある。

東屋
県境手前の東屋
この先直ぐに県境

 半信半疑でいると道の右脇に東屋が建っていた。比較的新しい物らしく、まだきれいである。ほとんど誰も来ないのに、こんな立派な道とこんな東屋があるとは。
 その直ぐ先から道が下りだした。これまでの中で最も怪しいと思っていると、少し下った所で舗装が途切れた(一番上の写真)。そこには通交注意の看板などがあるが、県境を示す証拠は見当たらない。戻って最高所の部分をうろついたが、やはり何もない。しかしこれまでの舗装路が、ここから先は知りませんよと言わんばかりの荒れたダートである。間違いなく県境の峠だ。

 それにしても滋賀県はほったらかしである。部分的に路面の荒れはひどい。だからと言って不満がある訳ではない。喜んでいるのだ。道の両脇は草木が生い茂る。黒い物が横切る。たぬきか?

 道は1Kmもしないでまた上り始めた。実は正確には粟柄河内谷林道は県境を越えて一旦滋賀県のマキノ町に入り、次いで町堺を越えて今津町を行く。これから上るのはその町堺の峠である。

荒れた林道
滋賀県側の林道

町堺の峠
町境の峠
以前雪で通行止を食らう

 程なく次の峠に着いた。ここは因縁の峠である。
 ある年の4月終わりに今津町より峠に向かった。何の通行止等の標識も出てなく、最初の内は快調であった。しかし登るに従い道の脇に残雪が目立ち始める。場所によっては軽自動車でもやっと通る有様だ。スタッドレスではなく、チェーンも持ち合わせていない。途中で断念せざるをえないかと思いつつも、峠まで来れてしまった。ところが峠の切り通しは氷の様な固い雪の固まりで完全に埋まっていた。歩いて反対側に行ってみると、その先にはまた路面に雪はない。峠さえ越えられればよい。しかしその僅か20mくらいの距離を通ることができない。車なんて情けないしろ物だ。すごすごと引き返した覚えがある。

 町境の峠からの下りはきつい。勾配が急で、休みなしだ。急坂がずっと続いて、エンジンブレーキだけでは間に合わず、フットブレーキもゆるめる暇がない。それに加えて背が高く伸びた夏草が道を塞いでしまって先が見えない。狭く閉ざされた曲りくねった溝の中を地獄の底へ落ちて行く様だ。
 やっと小さな橋を渡って河内谷沿いの道になると急坂からは開放される。しかし相変わらず草は道を侵食していて、歩いたとしても体を草に触らずに通れない程の所もある。

 生憎の雨と草に覆われた道でややうんざりしていたところに追い討ちが来た。道端に置かれた小さな手書きの「現場案内及び付近の交通規制状況」という看板にふと目がいった。胸騒ぎがして降りてしげしげと見ると、この先町に下る道全てにバッテンがついているではないか。出られないとなると、またこの道を延々引き返す羽目になるのだ。青くなる。
 間もなく親水広場と呼ばれる所に出る。そこから舗装路である。右に石田川ダムの脇を通って国道303号に出る角川林道が分岐しているが、そこには絶対通しませんよと丸太で通せんぼしてある。以前来た時もそうだった。

親水広場
親水広場に出たところ

 仕方なく粟柄河内谷林道をそのまま直進する。1Km程で二股に出る。右は粟柄河内谷林道の続き、左は淡海湖(又の名を処女湖、むむ…)や家族旅行村ピラテスト今津を通って日置神社の脇に出る酒波谷林道。そのどちらも「通行止、通り抜け出来ません」。心配が現実のものとなった。八方塞がりだ。車から降りてその通行止の看板の前で雨に濡れながら呆然とする。
 通行止の看板は出ているがゲートがある訳ではない。いちかばちかどちらかの林道に進もう。酒波谷林道は以前来た時も処女湖から奥が通行止で通れなかった。ならば粟柄河内谷林道だ、とその時酒波谷林道から1台の乗用車が現われ、走り去って行った。あっけに取られる。急きょ酒波谷林道に変更する。

今津町林道起点
粟柄河内谷林道の今津側起点

 暫く行くとこの雨の中を工事している人がいる。「通り抜けられますか」と聞くとあっさり一言「抜けられるよ」との返事。助かった。
 確かに酒波谷林道は途中崖崩れの様な跡があったが、大方工事は片付いており、難なく通ることができ、無事生還したのだった。


 峠道状況(1997年9月)
 美浜町河原市から今津町三谷(粟柄河内谷林道の起点)まで非常に変化に富んで楽しい峠道だ。しかし峠から滋賀県側の親水広場までが未舗装で、部分的に荒れている為やはり4WDは必至である。問題は本文に挙げた親水広場までの3本の林道である。ルートが3本も有りながらどれも通れない可能性がある。滋賀県側よりアプローチしてまず親水広場までのルートが確保できるかを見極めるのが先決だ。


 

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