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御霊櫃峠  伝説の峠
ごれいびつとうげ


<掲載 1998/10/25>

御霊櫃峠
御霊櫃峠 876m
前方右に逢瀬町に下る道が伸びる 手前は湖南町へ下る
さっきまで晴れ間も出ていたのに、峠はどしゃ降りの雨

県道29号からの分岐点
峠道起点
県道29号より左に一般市道多田野1号線が分岐
郡山市逢瀬(おうせ)町多田野

 「ゴレイビツ」・・・。一回でも聞くと耳に残る名前である。如何にもいわくがありそうだ。この御霊櫃峠の峠道は、さほど長い距離ではないし、地図を眺めていても、あまり目立つ存在ではない。しかしある者からこの峠のことを聞いてから、どうも気になってしょうがない。地図をよく見ると、「御霊櫃伝説」とか、「眺望抜群」とか記されている。それに僅かだが未舗装区間も残っているようだ。実際に訪れて、峠名の由来でも知しりたいものだと思っていた。その御霊櫃峠を訪れる機会が今回やっと巡ってきた。

 福島県郡山市の市街地から真西に猪苗代湖方面に向かう途中の、奥羽山脈の分水嶺にこの御霊櫃峠は位置する。峠道の起点は郡山市逢瀬町多田野の県道29号からの分岐で、そこより一般市道多田野1号線が始まっている。市道はしばしセンターラインのある2車線路が続き、左右の平坦地には田畑が気持ちよく広がる。

 空を見上げると雲は多いが、日差しも時折差し込み、まあまあの天候である。どうせ訪れるなら、やはり天気には恵まれたいものだ。峠からの眺望も期待したい。

一般市道多田野1号線
道路標識
一般市道 多田野1号線 郡山市
↑堀口
多田野北別所

大滝渓谷分岐点
左に大滝渓谷への道が分岐する
左:大滝渓谷3.3k
右:高篠山森林公園0.9k
水とふれあう名所10選

 市道の途中、左に大滝渓谷への道が分岐している。よく見れば右が本線と分かるのだが、Y字に近い分岐で、一応止まって確認する。Y字の左側には「大滝渓谷 ここより3.3km」とあり、右側には「ごれいびつ荘」とでかでか温泉マークが書かれた看板が立っている。市道の起点にも「ごれいびつ荘 北の湯」なる看板があった。

 その温泉は大滝渓谷分岐から1kmほどである。釣り堀などもやっているようで、その周辺だけはひと気が多い。小さな子供達のはしゃぐ声がする。アトピーの名湯とも銘打っていた。

 橋を渡って直ぐを左に、ごれいびつ荘の前を通っても峠への道に出られるが、峠を越える御霊櫃林道の正規の起点はもう少し市道を進んだ先にある。途中、右に「高篠山森林公園」なる大きな看板が出てくる。キャンプ場やバンガロー、アスレチックなどの施設が書かれているが、でもまだこの公園は完成していないようだ。この看板だけ眺めて帰って行く車もあった。

 昭和44年に逢瀬町多田野より草倉沢を経て湖南町浜路に通じる林道として、御霊櫃線は築かれたとのこと。5月下旬から6月中旬までは全山ツツジの花に覆われ、ハイキングコースとしての意味合いもあるようだ。2車線の市道から分岐した林道は狭く感じる。入口にある林道標識には「幅員4.0m、総延長13,492m」とある。これから先の交通量は極端に少い。写真を撮っていると、傍らを原付バイクが市道を直進し大久保方面に向かって行った。乗っているのはおばさんで、畑仕事風のいでたちである。大久保方面には人家があるのだろうが、御霊櫃峠方面にはもう人家はない。ここより本格的な峠道となる。

御霊櫃林道分岐
御霊櫃林道が左に分岐する
直進:大久保
左:湖南町 御霊櫃峠
おばさんの原付バイクが大久保方面に
向かって追い越して行った

御霊櫃林道途中
御霊櫃林道途中

 林道になってからは徐々に上り坂となる。道は狭いが舗装が新しく、道の両脇の白線も白く際立っている。高度を上げるに従い、谷間の景色が広がる。カーブを曲がるごとに新しい眺望が開ける。気分が晴れ晴れしてくる。

 その内、前方に立ちはだかる峰の一画に小さく鉄塔が見えてきた。多分そこが峠であろう。道は峠の左の方から峰を回り込んでいくようだ。ところで道は相変わらず出来立ての舗装路のままである。時々道路脇に林道開設(改築)事業の標柱が現れる。年度を見ていくと平成5年、7年、8年、9年と徐々に峠に近づいている。やっと未舗装路に出たと思ったら、間もなく峠であった。舗装の魔の手はもう峠の直前まで来ていたのだった。

峠を望む
峠を望む 中央の鞍部
上の画像では見えないが、鉄塔がある

林道開設標柱
林道開設標柱
平成五年度 林道開設(改築)事業
場所 郡山市逢瀬町多田野

未舗装路
やっと未舗装が現れた
でもこの先直ぐに峠

峠からの眺め
峠から猪苗代湖方面を眺める
猪苗代湖が明るく光っている

 着いた峠はどしゃ降りであった。さっきまでは晴れ間ものぞいていたというのに、今は傘なしでは少しの間でも車を出られない始末だ。そんな大雨で霞んだ峠に先客の車が3台もいた。どの車もじっと佇み、動かない。ちょっと異様な光景である。その内の1台には若い女性が一人だけで乗っていた。女性でも一人で峠の旅をしたいと思うような、私と同じ人種がいるのだろうか。ちょっと声でも掛けたいが、この大雨ではそれどころではない。

 全く何の眺望も期待できないと思ったが、ふと見ると峠にある鉄塔の脇より猪苗代湖方面の一部が明るく光っている。どうやら猪苗代湖の湖面に日光が差し、それで光っているようだ。幻想的な光景である。

 ところで峠の伝説とか由来について分からないかと、雨の中をうろついて、やっと峠の案内板を見つけた。その場で読んでいる訳にはいかないので、撮り逃すまいと看板の写真を念入りに3枚も写した。案内板の文面を下記に示す。

 御霊櫃峠(標高876m)
 地名の由来は、前九年の役で源義家の東征に従った鎌倉権五郎景政が、近くの賊徒を平定し、御霊の宮を造営し、鎮護を祈ったが、災害が相ついだため、山中の霊石に神霊をうつして五穀豊穣を祈願したことに始まり、里人らが、その石を御霊櫃と呼びならわしたことから名付けられたと言われる。頂上一帯は、山ツツジが群生し、5月下旬から6月上旬の開花期には真赤な花が、さながら火のように山を染める。頂上からは、猪苗代湖や郡山の市街地が一望でき、さらには遠く吾妻、阿武隈、那須、日光の連山が一大パノラマを展開している。また、この峠は戊辰戦争の古戦場で頂上付近には保塁の跡が生々しく残り、当時の面影を伝えている。       郡山市観光協会

 今読むと、やたらに眺めがよさそうなことが書かれているが、その時は何の視界も得られなかったのが残念である。保塁の跡など探している余裕もなかった。でも峠を湖南町側に下る途中、白く光る猪苗代湖の湖面はきれいであった。

猪苗代湖
猪苗代湖を望む

 峠より湖南町側は未舗装路が続いている。折角残っている貴重なダートで、待ち望んでいた林道らしい林道なのだが、生憎の雨で路面は水浸しである。素直に喜べない複雑な気持ちで、湖南町側に降り立った。平地になると道はまた舗装路となり雨も途切れて、さっきまでとは打って変って穏やかな風景に包まれる。荒々しいダートを下って来たので、尚更落ち着いた気持ちにさせてくれる、静かな山里の雰囲気である。

湖南町側の林道
湖南町側の林道は未舗装
生憎の雨で荒々しい道となっていた

湖南町に下りた
湖南町側に降り立った
舗装路に変わり雨も途切れ、穏やかな風景が広がる

湖南町側入口
湖南町側入口
手前が県道9号猪苗代湖南線
湖南町浜路

峠の看板
入口にある古ぼけた峠の看板
「御霊櫃峠 入口 これより7km 郡山観光協会」

 道は県道9号猪苗代湖南線にT字路で突き当たる。そこに郡山観光協会による古ぼけた峠の看板が立っている。「御霊櫃峠」と大書された字は、もうかすれてしまってわびしいかぎりだ。車を止めて写真に納めていると、そこに一台のワゴン車が県道より曲がってきた。中には家族連れが乗っている。隣に止まるとこの道は舗装路かと聞く。未舗装だと答えると、そうかとあっさりまた県道に戻り、南に走って行った。御霊櫃峠の南に位置する三森峠の三森トンネルでも抜ける積もりなのだろう。観光協会が宣伝する御霊櫃峠ではあるが、未舗装と聞いて敬遠する人がいる。知らずに入り込めば、ぬかるんだ泥道に難儀する羽目になる。しかし現在舗装化は着実に進んでいるようだ。いつまでも甘くない観光地であって欲しいものだが。


 峠の案内板には御霊櫃伝説らしい記述は見受けられなかった。他にこの峠に関するいわれでもあるなら、知りたいものである。


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