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雷峠
 
いかづ(ず)ち とうげ
 
倒れた石碑のある、何とも寂しい峠

 
雷峠
雷峠 (撮影 2001. 8.12)
奥が山形県温海(あつみ)町関川、手前が新潟県山北(さんぽく)町雷(いかずち)
道は県道52(51?)号・山北関川線
 

峠より新潟県山北町側を見る
木に隠れて見えにくいが、
上の方に新潟県を示す標識がある
 「雷峠」は「かみなりとうげ」ではなく、「いかづちとうげ」と読むらしい。
 カミナリのことをいかづちとも呼ぶことは知っていたが、「雷」の文字を見て「いかづち」の読みはなかなか思い浮かばない。図書館の地名辞典で調べるときに苦労した。ほとんど諦めかけたとき、はっと気付いて探してみると、「いかづちとうげ」が載っていた。
 
 辞典に書かれた「雷」の地名の由来はというと、「カミナリが鳴ることが多く、山々に響いて大きく聞こえることから」とある。全く期待通りの解説であった。
 ついでに「いかづ(ず)ち」を国語辞典で調べてみると、「いかつ」は「厳つ」であり、「ち」とは「霊」のことらしい。すなわち「厳つい霊」ということになる。何となく納得してしまった。
 
 日本海に面した新潟県と山形県の県境付近には、反対の太平洋側方面へ直接抜ける道がない。内陸に向かうどの道も、結局東へは抜けられず、また日本海側に戻って来るしかないのだ。

 典型的なのが今回のこの雷峠の道である。新潟県山北町の海岸沿いを走る国道7号より分かれて、県道を東へ東へと進む。すると雷峠を越えて山形県に入るが、もうそれ以上東へは進めない。あとちょっとで新潟県の朝日村と山形県のやはり朝日村をつなぐ、朝日スーパー林道が通っているのだが、そこへはどうしても出られない。


峠を山北町側から見る
山形県の標識が立つ
 

国道345号平沢 (撮影 1996.12.29)
この先積雪のため通行止
 雷峠を越えて山形県に入った先で、間もなく国道345号に突き当たる。そこを左に行けば、山北町から5Kmと離れていない温海町鼠ケ関に舞い戻って来てしまう。また右へ行っても、いくつもの峠を越えて北上し、やはり日本海に面した鶴岡市へ出るしかない。地図を眺めていても、何ともむなしい峠道なのである。

 こんな雷峠を越える者は、地元の人以外はよほどの物好きだろう。しかも、冬期閉鎖となるので時期を誤ると、とんだ通行止にあってしまうのであった。
 

 (左の写真は1996年(平成8年)の国道345号平沢〜関川間の通行止。期間は12月1日から翌年3月31日までとあった。)

 

峠から温海町側を見る
大型車通行不可の看板が立っている
 それに、峠前後の道がなかなか狭い。特に山形県側の関川から鼠ケ関方面に下る道は、雷峠の道の続きと言っていいか判らないが、国道のくせにやたらと狭いのだ。その証拠に雷峠にも、次の様な内容の標識が立っている。
大型車通行不可
平沢〜関川間 道路幅員
狭少のため大型車の通行
は出来ません   山形県

 但し、峠自体はなかなか広い。さすがに県境の峠だ・・・と言うほどではないが、路肩に車が何台か置けるスペースがある。それによく見ると、「雷峠」と書かれた石碑が立っている・・・というより、寝ているのだ。周囲には草が生え、石碑自体も苔むしていて、一瞬何だか判らないが、きっと以前は垂直に立っていたと思われる、峠を示す石碑なのである。まさか雷に打たれて倒れた訳ではなかろうが、どうしたことか。

 

倒れた峠の石碑
まさか雷に打たれたのではないだろうが

倒れた峠の石碑(全景)
ちょっと見たのでは、何だか判らない
 
 峠の名前は、新潟県側の「雷」の地名からきたものだが、山形県側の関川の地名をとって、「関川峠」とも呼ばれるそうな。

 峠は古くより越後と出羽を結ぶ交通の要路で、小国(おぐに)街道(現在の国道113号)の脇街道として、雷や関川には口留番所も置かれた。戊辰戦争の折には、雷峠から進入した新政府軍と庄内藩との間で、関川にて激戦が行われたとのこと。

 標高305mの峠の東には、標高1,020mの摩耶(まや)山がそびえ、峠は昔より摩耶権現信仰者の登山口でもあった。


温海町側の下り
 

温海町側より峠方面を望む

温海町関川で国道345号に出た
左は鼠ケ関へ、右は木野俣へ
新関川橋を渡る
 

鬼坂峠の旧道の閉ざされたトンネル
 ところで、雷峠から北へ続く国道上には、関川峠、一本木峠、楠峠、鬼坂峠などの峠が連なっている。しかし今はどの峠も新道が完成し、味わい深い峠は一つも残っていない。鬼坂峠の旧道もトンネルが塞がれていて、荒れ放題である。
 それらに比べれば、やっぱり雷峠は一番だ。県境のくせに他の峠より交通量は少なく、最も寂しい峠となっている。
 

 日本海沿いから距離にして15〜16km程、山の中に入り込んだところに、ぽつんと佇む雷峠。関川や雷の集落に住む者や登山で使われる以外に、どう考えても通る必然性のない峠道。いつまでも変わらずに残っていてもらいたい。
 

<制作 2001. 9.26>
 

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