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二之瀬越(え)
 
にのせ ごえ
 
養老山地のど真ん中を越える

 
二之瀬越 (撮影 2001. 5. 3)
奧が岐阜県南濃(なんのう)町庭田(にわだ)、手前が三重県北勢(ほくせい)町二之瀬
道は県道25号・南濃北勢線
 
 旅先で分県地図の岐阜県版を買った。自宅がある東京や隣県である神奈川の詳細な道路地図は、以前からずっと持っているのだが、その他の府県ともなるとあまりにも沢山あるので、そうそう買い揃えることなどできはしない。でも、岐阜県内を走っている途中で、どうしてもっと詳しく道を知りたい場所があった。それに、岐阜県には好きな峠が多いから無駄にはなるまいと、特別扱いの大奮発である。選んだのは、ツーリングマップルと同じ昭文社の県別マップルだ。これさえあれば鬼に金棒。
 それと、地図の購入にはもう一つ魂胆があった。いつも使っているツーリングマップル(中部偏)より詳しいから、まだ行ったことのない峠を探し出せるかもしれない。探し出すと言うより、ツーリングマップルだと小さくて詰まらなそうな峠でも、県別マップルなら大きく出ていて、面白そうに見えるに違いないのだ。それほど最近どこへ行っていいか分からないのである。
 
名神高速の岐阜羽島インター付近を神戸方向に向けて走る
左手前方に養老山地が見えてきた
 
大垣インターで高速を降り、国道258号で南へ向かう
養老山地はもう目の前だ
 

峠へ続く県道25号の入り口
 県別マップルを買った翌朝は、名神高速を神戸方向に向けて走っていた。岐阜羽島インターを通過する頃になると、左手前方に山並みが望めた。
 今日は久しぶりに石榑峠を越える積りである。その前に、早速真新しい県別マップルで調べた二之瀬越を、行き掛けの駄賃とばかりに越える予定なのだ。二之瀬越は、岐阜県と三重県が接する付近にそびえる養老山地のど真ん中を抜けている。高速道路を走りながら見えてきた山並みが、その養老山地のようである。

 大垣インターで降りて、国道258号を南へ向かう。いよいよ養老山地が目の前に迫ってくる。二之瀬越はどのあたりを越えているのだろうか。山並にははっきりした鞍部も見られないので、峠の見当が付かない。

 国道258号からは一旦県道(56号?)に右折し、更に県道25号に左折しなければならない。この辺は県別マップルが詳しく、威力発揮である。

 

暫くは庭田の集落内を通る

人家が途切れた
 
 峠へ続く県道25号の入り口には、「庭田〜二之瀬 通行注意」と道路情報の看板にあった。「庭田」とはこちらの岐阜県南濃町の地名であり、二之瀬は峠の向こうの三重県北勢町の地名である。庭田〜二之瀬区間の8.6kmは、異常気象時に通行規制が行われる。

 道はセンターラインのある走りやすい道だ。暫くは庭田の集落内を通る。周囲に人家がぽつぽつ点在する。しかし、それも数分でいよいよ山の中へと分け入って行く。ただ、道は相変わらず2車線のいい道だ。
 よく、集落がある所までは、道幅も十分ないい道で、集落を過ぎると手を返したように狭い悪い道になることがある。しかし、ここはそうではない。峠が使われている証拠である。


いよいよ山の中に分け入る
 

少し上ると、谷の切れ目から平野がのぞいた
 道は養老山地に差し掛かっても、なかなか高度を上げようとしない。山並みに深く切れ込んだ谷を選んで、その谷底をクネクネ曲がりながら、奥へ奧へと進んで行く。間もなく周囲は山で囲まれてしまった。

 雰囲気が良くなってきたので、時々停まって景色を眺めたり写真を撮っていると、側らを過ぎる車が時々ある。多くはないが、まあまあの通行量だ。ほとんどが私と同じ南濃町から北勢町へと向かっている。
 車だけでなく自転車も上ってきた。1、2台かと思いきや、後ろを振り向くとまた1台、また1台と次から次へとやってくる。この峠は自転車のメッカなのだろうか。単なる今日だけの偶然だろうか。

 時々車を停めていると、一旦抜いた自転車にまた追い越されてしまう。苦しそうにフラフラ走る自転車を抜くにはなかなか難しい。なるべく抜き返したくないので、自転車が近付いてくると、慌てて車をスタートさせる。なかなか落ち着いて上れない峠道である。

 
 後日調べたところによると、養老山地は「傾動地塊」山地なのであった。と言っても何のことだか分からない。とにかく、北勢町側は穏やかな地形だが、南濃町側は断層崖となっているそうな。すなわち、南濃町側が面白いのだ。

 その通りに、暫くクネクネと坂を上って行くと、その先でポッカリ大きな谷が広がっていた。その谷をぐるっと回り込む様にして道は上って行く。谷全体が一望である。この谷間の眺めがなかなかのものなのだ。
 下の写真がそれである。苦労して繋げたパノラマ写真だ。28mmの広角レンズでも、1枚では収まり切れない景色なのであった。上から眺めていると、峠道をぽつりポツリと車や自転車が走っているのが見えた。まるでおもちゃの様である。
 「傾動地塊」が一体何であるか分からないが、この景色そのものが「傾動地塊」だと理解した。


更に上ると視界が広がる
 
南濃町側の壮観な峠道の景色
 
 大きな谷のクライマックスを過ぎると、間もなく峠である。岐阜と三重の県境で、それを示す看板も立っている。しかし、峠の部分はセンターラインのないやや狭い道だ。その周囲には展望はなく、峠自身はあまり味わいも面白みもない。
 
 代わりに、峠に隣接して庭田山頂公園(庭田園地)がある。駐車場とトイレ、その奧に花見広場や多目的広場が広がる。のぞいてみると、何をするのか、以外に多くの人が集まっていた。これからバーベキューでもするのか、それとも養老山地のハイキングだろうか。
 自転車で次々と喘ぎながら上ってきた者たちも、ここで一息入れている。

二之瀬越
奧が三重県北勢町、手前が岐阜県南濃町
左は庭田山頂公園へ
 

庭田山頂公園の入り口
入って左手に駐車場とトイレがある
正面奧が広場
 公園の案内看板には次のようにある。

 「ここ庭田山頂公園は、濃尾平野の西部を南北に走る養老山地の中、岐阜県南濃町と三重県北勢町の県境に位置し、豊かな動植物と優れた自然の景観に恵まれています。
 公園内では四季折々の自然が実感でき、展望広場からは木曽川、長良川、揖斐川の木曽三川をはじめとする濃尾平野の雄大な景色を一望できます。
 道を挟み公園北側には、養老山の山頂へと続く登山道の入り口があります。

 
 この養老山地を越える峠には幾つかあるようで、北から川原越(東海自然歩道)、二之瀬越、小原越、田代越とのこと。尚、「何々越」と書いたり、「何々越え」と「え」を付けたり、いろいろあるようだが、ここでは「え」を省かせていただく。
 
 その「何々越」の中でも、二之瀬越は古くから最もよく使われたらしく、近年道路拡幅が行われ、現在車が通れるのも、この峠だけのようである。

 峠の名前は北勢町側にある二之瀬の地名によるものだろう。南濃町側からすれば、確かに二之瀬へ向かって越える二之瀬越だろうが、北勢町側からすれば庭田に通じる庭田峠となる。実際、「庭田峠」の呼び名も一部にあるような、ないような・・・。


峠より北に向かって養老山への登山道が伸びる
 

峠の上の造成地
 公園の案内看板にもあったように、この峠で特筆すべきは、濃尾平野の展望である。峠から少し岐阜県側に下った道路上からや、公園内にある展望所からも眺められる。

 しかし、そこをもう一工夫して、特等席を見付けた。峠を少し三重県側に下った左から鋭角に分岐する林道に入る。すると直ぐに急な登り坂が分かれている。4輪駆動車なら車ごと登れる。
 登った先には平坦な造成地が広がっていた。側らにショベルカーが置かれ、造成の真っ最中のようである。その造成地の端からは、直ぐ下に公園広場が丸見えで、その奧に濃尾平野の雄大な景色が広がっている。ここが誰も居ない特等席であった。

 
 この峠については、以前メールを送って頂いた方から紹介されたことがある。何でも、峠からの夜景がいいとのことだった。

 残念ながら峠越えはいつも昼間と決めているので、これからも夜景を見ることはない。しかし、この二之瀬越からの夜景は、きっとすばらしいことだろう。


造成地より養老山方面を望む
 
造成地から眺めた庭田山頂公園とその奧の濃尾平野
 
 峠を三重県北勢町側に下る。「傾動地塊」の穏やかな方なので、走っていても別段面白い道ではない。南濃町側のあの雄大さに比べ、チマチマした道で視界もないのだ。峠を駆け下る標高差も少ないようである。

 途中、採石場の脇を通る。その付近でやや視界が広い程度だ。見るものと言えば、その採石場の大きな機械の様子くらいなものだろうか。


北勢町側の道
 

採石場

採石場の機械
 

山肌を切り取られた様子
 道も岐阜県側に比べ、終始センターラインのない狭い道だ。周囲には採石により切り崩された山肌が、あらわな様子をのぞかせている。

 あっと言う間に平地に下り、2車線の直線的な道となった。二之瀬の集落を抜け、その先で県道5号にぶつかる。その付近がややこしいが、岐阜県の県別マップルは三重県に入ってしまったので、もう役には立たない。あれあれと言う間に、県道5号を突っ切り、「あげき」の駅前を通り過ぎた。
 そこまで来てやっと車を止め、ツーリングマップルで道を確認して態勢を立て直し、次なる石榑峠へと向かった。

 
 今回、二之瀬越をホームページに掲載するに当たり、新しく買った岐阜県の分県地図以外にも、念のため以前から持っている古いツーリングマップ(中部偏)を開いてみた。
 すると、なんと9年前にも一度この二之瀬越をちゃんと越えているではないか。旅をしている最中には、全く身に覚えがなかったのだが、滋賀県側から石榑峠を越え、続けて二之瀬越を通ったように矢印が書かれている。今回とほとんど逆のコースを辿っているのだ。
 北勢町側の県道5号との分岐付近では、「お墓の中の道を通る」とか、峠では「公園あり、トイレきたない、とっとと先へ急ぐ」とかの書き込みもあった。通った日付からアルバムも調べてみたが、残念ながら写真は一枚も撮っておかなかったようだ。あの南濃町側の景色についても何も記していない。

 新しい地図も必要だが、これまでのいろいろな旅の記録を残した古い地図も貴重である。でも、そうして地図が増えると、あっちの地図こっちの地図と旅の最中にあれこれ見て確認しなければならないので、旅もなかなか厄介なものになる。
 折角新品の県別マップルで見つけたと思った二之瀬越を、以前にも越えたことがあったとはショックだが、旅の記録などは自分の頭の中だけに残したほうがいいのかもしれない。思い出という荷物などまだ少ない旅を始めた頃のように、何のこだわりもなく、もっと気楽に旅をするのがいいのだろう。

<制作 2001. 9.3>

二之瀬の集落付近
ここは比較的新しい道のようで、
左に旧道らしきものが見える
 
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