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厚雲峠
 
あつぐも とうげ (峠名は仮称、峠は厚雲隧道)
 
もう通れないかと思うと、通りたくなってくる峠道
 
厚雲隧道 (撮影 1992. 7.20)
北海道檜山支庁厚沢部(あっさぶ)町本町(清水)側の坑口
隧道の反対側は渡島(おしま)支庁八雲(やくも)町落部(おとしべ)(上ノ湯)
道は主要道道67号八雲厚沢部線(通称八厚やまぶきライン)の旧道(旧道道458号)
 
 「厚雲峠」とは勝手に付けた仮称である。峠は厚雲隧道というトンネルで抜けている。

 この峠は昔に一度だけ越えたことがある。トンネル前後は未舗装で、林道のような道であった。でも、それ以外特に記憶に残るほどの峠道でもなかった。人から言われればそういう峠も通ったなと思い出すが、また越えてみたいとは思っていなかった。
 
 そんな峠でも、通れなくなると思うと別である。何でも話に聞くところによれば、新道が開通したそうな。旧道となった厚雲隧道はまだ通れるのだろうか。峠道の写真もほとんど撮っていなかったので、是非また訪れてみたいと思うようになっていた。そこにちょうど機会が巡ってきたのだが・・・。

 

八雲町より道道67号に入る (撮影 2000. 8.19)
江差55Km、厚沢部42Km、上の湯温泉9Km
 2000年の夏、8年前と同様、八雲町から峠に向かった。国道5号から落部の交差点より道道67号に入る。直ぐに函館本線の踏み切りをせわしなく渡ると、その先には北海道らしい広い直線路が待っていた。掲げてある道路標識には「厚沢部42Km」と出ている。渡島半島をほぼ横断する距離だから、なかなかのものだ。
 
 峠前後は新道で生まれ変わったそうだが、まだこの付近は以前と変わりはないと思う。しかし、全然記憶にない。最初にここを旅した時は、どんなことを思いながら峠に向かったのだったろうか。
 
 道道67号は、行けども行けども、真っ直ぐな2車線路であった。これといって目を引くポイントがない。ただただ目の前が開けていた。道の沿線には点在する僅かな集落と、その他は畑と牧草地が広がっているばかりである。これではあまり記憶に残らなかったのも無理はないかもしれない。時々写真を撮ってみたのだが、後から見ると、道が伸びているだけで、何だか分からない写真であった。
 
  銀婚湯温泉・上の湯温泉を過ぎた頃から、人気のない道となる。人の暮しの営みが感じられるものがなくなる。左に釜別川に沿う釜別林道を分けた。未舗装の荒涼とした感じを受ける道だった。

行けども行けども・・・
 

さくらんぼトンネル
 進む道の先には遮る物がなかったが、それでもやっと目先が変わってきた。目の前に山が迫ってくる。奇妙な岩肌が望める谷間に入り込んで来た。いよいよ峠道である。でも、道幅は相変わらず広い2車線路だ。どこまでが昔通ったことがある道で、どこからが新しい道なのかよく分からない。
 
 間もなくトンネルが現れた。「さくらんぼトンネル」とある。ここが新しい峠なのだろうか。それでは旧道の分岐はどこへ行ったのか。釜別林道の分岐点まで戻ったが、旧道跡など見当たらない。結局、半信半疑でさくらんぼトンネルの先へと進むことにした。
 
 その後も緩い坂道が続いていた。勿論旧道分岐には十分注意したが、それらしいものは全くなかった。そのまま次のトンネルが見えてきた。
 
 トンネル手前に看板があった。この道は新しく「八厚やまぶきライン」と呼ぶらしい。「八厚」には「はっこう」とルビが符ってあった。
 
 目の前のトンネルが八雲と厚沢部の境のトンネルであった。ならばトンネルの名前も「はっこうトンネル」かと思うとそうではない。山蕗トンネルだそうだ。「山蕗」は「やまぶき」と読むらしい。ここに峠の名前を付けるとすると、「八厚峠」か「山蕗峠」か迷うところである。

山蕗トンネル(八雲町側)
 

山蕗トンネル手前から旧道が分岐する
 新しいトンネルの名前などどうでもいいが、肝心の旧道がはっきりしない。あの厚雲隧道への道は一体どこへ行ってしまったのか。
 トンネル手前より左に荒れた道が分かれていた。「道」と言っていいかも分からない惨状の未舗装路だ。新トンネル工事用の作業道かなにかであろうか。しかし、その道に付けられていたガードレールは古いものだった。
 これが旧道の名残とでもいうのか。恐る恐る車を乗り入れた。しかし、新トンネルの坑口脇を過ぎた直ぐ先で、その道はゲートによる通行止となった。
 
 やはりこれが旧道と思うしかなかった。それにしても、こんなにひどいジャリ道だったのか。ゲートの先を見ると、路面に草が生い茂り、廃道化が進んでいる。旧道がゲートで通れないのも残念であるが、もう二度と道として機能することがないのではないかと心配になった。
 
 厚雲隧道は渡島半島の尾根を越える峠である。北にある雲石峠や姫待峠などと同類と考えてよさそうだ。厚雲隧道の開通がいつ頃かは分からない。隧道まで行ければ、竣工日などの手掛かりがあるかもしれないが、今となっては叶いそうもないことである。
 
 一方、山蕗トンネルを通る新道は1998年3月に開通したそうだ。それまで峠付近は、厚雲隧道を抜ける未舗装の峠道だったという訳である。つい4年ほど前までのことで、驚くばかりだ。
 
 八雲町側にあるさくらんぼトンネルの竣工日は1990年とあった。さくらんぼトンネルから山蕗トンネルまで約8年もの歳月を要している。最初に訪れた時は、もう既にさくらんぼトンネルはあったことになるが、全く記憶にない。

厚沢部町側の八厚やまぶきライン
 

旧道に続いているかもしれない道
ジムニーなら入ってみるのだが・・・
 山蕗トンネルを厚沢部町側に抜けると、こちらにも立派な「八厚やまぶきライン」がずっと続いていた。八雲町から厚沢部町に至るまで、これといって急なカーブもなく、意識する程の登りも下りもない。
 道が極めて快適ということは一般的にいい事なのだろうが、峠を旅する者の価値観はまた違ってくる。「八厚やまぶきライン」は、峠道としてはちょっと物足りない気がする道なのであった。
 
 トンネルを出て直ぐ左に、厚沢部町の観光マップが立っている。それによると、道道67号の途中には俄虫(がむし)温泉があり、その先で国道227号に入れば「道の駅あっさぶ」がある。それと、道道67号を下る途中の右にも、なにやら車が停められる休憩場所の様な所があったと記憶する。車で旅をする上では、トイレなどの点で便利である。
 
 厚沢部町側からの旧道分岐を探したところ、トンネルから数100m程下った辺りで、左に直角に細い砂利道が下っているのを見付けた。何の標識もなく、道はそぐ先で林の中に入ってしまっていて、全く様子が分からない。
 旧道に続いているかもしれないが、八雲側が通行止だった様に、こちらにもゲートがある可能性が高い。乗っている車がいつものジムニーでないこともあり、入り込むことは控えておくことにした。
 
 北海道は気候が厳しく、使われなくなり補修されなくなった道の衰退は加速度的に進むものと思う。姫待峠の道もひどいものだと聞く。厚雲隧道の旧道は、新トンネルの前後を繋ぐ僅かな距離である。利用価値もほとんどないことだろう。そうなれば、あの厚雲隧道はもう二度と一般の人の目に触れることはないのかもしれない。行かれないと思うと、無性に行きたくなる厚雲峠であった。
<制作 2002. 2.13>

厚雲隧道の厚沢部側 (撮影 1992. 7.20)
道路標識には道道458号とある
 

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