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峠の所在など |
長野県の北東端、群馬や新潟との県境に近い山間部に志賀高原がある。ス
キーの経験がないので冬場の様子はあまり分らないが、夏場などには華やいだ観光地である。峠としても群馬との境にあの渋峠(しぶとうげ)が存在する。標高が2,
152mと格段に
高く、国道第一の栄誉に輝く(標高三大峠を参照)。 正確な志賀高原の範囲を知らないが、渋峠から長野県の山ノ内町側に下って来た国道292号線の沿線に広がっているようだ。また、山ノ内町か らその南に隣接する高山村にまでに及ぶ範囲を南志賀とも呼ぶらしい。今回の笠ヶ岳峠はその南志賀のシンボル的存在ともなる笠ヶ岳の直ぐ脇を越える峠であ る。 |
笠ヶ岳峠という名は、仮称と考えたほうが良さそうだ。明確に笠ヶ岳峠と書か
れている地図などは見たことがない。ただ、峠には笠ヶ岳への登山客などの為の茶店が立ち、その店の看板に「笠ヶ岳峠の茶屋」とある。これなら一般の道路地図にも掲載さ
れてい
る。しかし、このことから峠の名は「笠ヶ岳峠」
だと判断するのは性急であろう。「笠ヶ岳峠の茶屋」とは、「笠ヶ岳峠」の「茶屋」ではなく、「笠ヶ岳」の山の近くに立つ「峠の茶屋」という意味かもしれないのである。とは言え、他に適
当な名前があるではなく、笠ヶ岳峠とは極めて無難な名称とも思える。一応仮称と心得つつも、ここでは笠ヶ岳峠と呼ばれてもらうこととした。 尚、笠ヶ岳は地元では単純に笠岳(かさだけ)とも呼ぶとのこと。それにつられて峠名も笠岳峠(かさだけとうげ)ともなる。些細なことだが。 |
笠ヶ岳と峠を望む |
笠ヶ岳(2,075.7m)は、渋峠の近くの群馬・長野の県境にある横手山
(2,304.9m)から西に派生する尾根上に位置し、周囲から突出した釣鐘型の山容が目を引く。笠ヶ岳がある尾根は、概ね山ノ内町と高山村
の町村境を形成
し、笠ヶ岳峠は笠ヶ岳の直ぐ西側でその尾根を越えている。笠ヶ岳が見えれば、その西側の肩の部分が峠だと思えば良い。 2004年8月、高山村側から登って毛無峠(けなしとうげ)に寄り、その後万座温泉を抜けて国道292号に入り、渋峠を 越えて山ノ内町へと旅したことがあった。その折は、あちこちでその釣鐘の山が望めた。 |
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笠ヶ岳の南麓(高山村側)には、1,500m以上の高地に山田牧場がある。
山腹の緩傾斜地に広がる緑の牧草地の眺めは壮観であった。峠を高山村に越えた道はその山田牧場の中を下る。何にしろ、
1,800m前後の標高がある道から眺める南志賀は、雄大そのものだ。 |
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渋峠を山ノ内町に下る国道の途中からは、西に笠ヶ岳が望める(下の写真)。
随分と近くに笠ヶ岳がそびえている。 こうして周囲から笠ヶ岳は眺められ、その山の近くを越えている笠ヶ岳峠も、峠そのものは見えずとも、その所在はある程度確認できる。このような峠 も珍しい。多くの峠は山奥に隠れ、なかなかその姿は見えないものだ。 |
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山ノ内町より峠を目指す |
国道292号の直ぐ脇 |
渋峠から山ノ内町に下る屈曲した坂道もほぼ終り、安定した国道292号に
なってから、
道の近くで噴煙が上がっているのが見える。ほたる温泉・平床大噴泉とある。この近くには、当時松代藩の山役人だった佐久間像山が発見したといわれる熊の湯
などもあり、如何にも観光地の雰囲気だ。その直ぐ先に看板があり、峠への県道(主要地方道)66号が左に分岐する。
国道からの分岐 付近は、人家などなく閑散とし、殺風景そのものだ。道幅は広いがセンターラインなどない、粗雑な県道が数100m続く。 |
そして道は狭い橋に差し掛かる(下の写真)。夜間瀬川(よませがわ、千曲川
水系)の支流・角間川(かどまがわ)に架かる橋だ。その橋の袂には、縦書きに「大型車通行不能」と大きく看板
が出ている。笠ヶ岳峠への道は、ここが入口のようにいつも感じている。橋から先の道の狭さからも、ちょっと立ち止まらずにはいられない地点だ。
橋の手前には他にも看板が立ち、「笠岳スキー場入口 welcome 笠岳ホテル」とあった。川を越えた先にそのホテルの建物が見える。「笠岳」と書かれたバス停も並んで立っているのだが、本当にバス が来るのだろうかと心配になるようなバス停だ。 |
分岐付近は殺風景 |
この時はまだ「この川は角間川です」の標柱が立つ |
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橋を渡ると道は笠岳ホテルの前を通り過ぎる。このホテルに宿泊したことはな いが、隣接するキャンプ場を利用したことがあった。確か建物の南側の奥にキャンプサイトがあったと記憶する。ホテルのフロントが キャンプの受付も行っていた。サイトは車輌立入禁止で、駐車場からキャンプ道具を運ぶのが骨だった。8月の夏休み真っ最中とあって、木立の中には多くのテ ントが並んだ。 |
この時、ホテルではなく、隣接するキャンプ場に泊まった |
看板が壊れている |
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この時のキャンプには苦い思い出がある。いつもテント内の明かりとして使う
ローソクを、うっかり消し忘れてそのまま寝込んでしまった。夜半、異変に気付いて飛び起きると、枕元のローソク立てとしていた空き缶から、大きな炎が立ち
上っているではないか。長年使って缶の底に溜まっていたロウの塊に、火が燃え移ったのだった。慌ててテントを破り、その空き缶を外に放り出した。
幸い、テントの底に缶の大きさで丸い穴が空いただけで、テントが炎に包まれることはなかったが、焼けた空き缶を外に出す時、指に軽い火傷を負った。それ が一晩中痛んだ。 |
入口が破れ、底に穴が空いたテントはその後も補修しながら使い続けた。その
無残な補修跡を見るたび、くれぐれも火の元には気を付けようと思うのだった。
2010年の5月に訪れた時は、ホテルの前のゲレンデにはまだ雪が残り、スキーの季節にはもう遅く、さりとてキャンプの季節にはまだ早いといった具合 で、人気がなかった。そもそも、笠岳ホテルは営業している様子がない。建物の上の方に掲げてあった看板も壊れたままだった。 |
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ゲート箇所以降 |
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笠岳ホテルを過ぎ、狭い坂道をちょっと曲がると、そこにゲート箇所がある。
2010年5月の時は、ゲートが閉じられ、その先に除雪車が立ちはだかっていた。ゲートに取り付けられた通行止の看板には、「冬期閉鎖 11月17日AM10:00〜5月28日PM3:00」
とあった。笠ヶ岳峠より標高の高い渋峠が、5月の連休には開通しているのと対照的である。国道と県道との差以上の落差を感じる。実は笠ヶ岳峠を越えたのは
過去に一度だけである。その原因の一つは、この長い冬期閉鎖である。
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ホテル近くに立つ看板には、「山田牧場 9K、五色・七味 12K、山田温泉 18K」と
あった。山田牧場は峠を越えた高山村側にある。峠までは5〜6Km程度か。
峠に至る山ノ内町側の道は、それ程面白くない。距離も短く、その間はほとんど林の中だ。1.5車線幅か、それよりやや狭い舗装路が続く。 笠ヶ岳峠の標高は1,900m強で、なかなか高いが、そもそも県道が角間川を渡った地点で標高が既に1,640m近くある。その差は260m。実際に走ってみても、グ ングン登って行くという感じはあまりしない。 |
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道は一度渡った角間川の支流・本沢の源頭部を回り込みながら稜線の笠ヶ岳方
向へと登って行く。周辺からはあれだけ良く見えていた笠ヶ岳は、もうどこにも見えない。道の両側は木々が立ち並ぶばかりだ。ほとんど遠望もない。
それでも道が稜線に近付くと開けた雰囲気となる。左手に笠ヶ岳を見ながら稜線上へ絡めて登って行く。 |
峠 |
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峠の山ノ内町側は車を止める十分なスペースもないが、高山村側には駐車場が
あり、峠の茶屋が立つ。その脇を笠ヶ岳への登山道が始まっている。駐車場から見上げる笠ヶ岳山頂は、もう手の届きそうな近さだ。しかし、登ればそれなりに
大変なのだろう。ちょ
うど夏休み期間とあってか、峠には何台も車が停まり、峠の茶店も賑わっていた。折しも、夫婦連れと思われる中年の男女が、笠ヶ岳へと続く階段を登って行っ
た。
峠から眺める高山村は、また一段と山深い(下の写真)。万座峠や万座山などがある群馬県との県境の峰々を望む。 |
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高山村側に下る |
峠の駐車場に車を停める者は、大多数が笠ヶ岳への登山者だろうが、中にはド
ライブがてらに景色でも見に訪れる者もいることだろう。高山村の山田牧場へ遊びに来たついでに、峠まで足を伸ばすのはちょうど良い寄り道かもしれない。 高山村側から峠道を登って来ると、峠の手前で真正面に笠ヶ岳を仰ぎ見ることになる(右の写真)。 |
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高山村側の道は楽しい。山ノ内町側とは対照的に、視界が開けている。峠から
1Km程も行くと、急な崖の淵に出る。そこは峠よりも眺めが良い。眼下に山田牧場の緑の草地が広がる。一部はスキー場にもなっているようだ。また、牧場の
右手の方に目を移すと、これから下る道筋が眺められる。豪快な九十九折りが待っていた。
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山田牧場 |
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九十九折りを少し下ると、早くも牧場に入る。ゲートなどはなく、ただ看板に
次のようにある。
これより山田牧場 放牧牛馬に充分注意して 通行及び駐車して下さい この牧場は観光牧場の色合いが強い。だから、通行するだけでなく、駐車も考慮されている訳である。 |
牧場の敷地の上の方は、確かに放牧地となっていて牛が放牧されているのを見
掛けたが、下るに従い沿道には人の方が多くなってきた。キャンプ場やハイキングコースがあり、家族連れなどが多く訪れるようだ。県道沿いにはあまり見られ
なかったが、大学などのロッジや山荘もこの周辺に多いそうだ。
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七味温泉への分岐 |
山田牧場を過ぎた後、左方向へ逆Y字に分岐がある。角に木柱が立ち、「歓迎 七味温泉」とある。高山村の中心を東西に流れる松川にもう近い
辺りだ。松川は、東の渋峠付近から流れ下り、西の千曲川に注いでいる。七味温泉は県道からの分岐より少し上流の松川沿い出た所にある。
笠ヶ岳峠の峠道とは関係ないが、ちょっと七味温泉方向に寄り道したい。何故ならその方向に万座峠の道が続いている筈なのだ。 |
左が峠へ、右が七味温泉へ |
分岐に立つ看板 (撮影 2004. 8.11) (上の画像をクリックすると、拡大画像が表示されます) |
分岐に立つ控えめな温泉看板の横に、「復旧治山事業施行地」と題した看板が立つ(左の写真)。それに
よると、県道の分岐から温泉までが「村道七味温泉線」、
その先松川の右岸を上流方向に進む道は「村道山田入線」
とある。その道(林道山田入線)が万座峠へと続く。
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七味温泉付近 |
県道から分かれて七味温泉方向に進むと、400m程で松川沿いに出る。そこは
十字路になっ
ていて、松川右岸を下流に進む道、右岸を上流に進む道、川を渡って左岸に出る道が分かれる。 七味温泉は、松川を渡った左岸にあるようだ。橋を渡る手前に温泉の案内看板が立つ。こじんまりした温泉地である。 |
松川の上流方向に見る 右の橋を渡る と七味温泉 車は村道山田入線の方向を向く |
松川の下流方向に見る 左は橋を渡って七味温泉へ、真ん中は右岸を下流方向へ 右に上がる道が県道へ |
左手に万座街道の石碑が立つ |
分岐から右岸の上流方向は、村道山田入線だが、その道の左手に大きな石碑が
立つ。表には「万座街道の碑」と大書されている。万
座峠を越える道の碑であった。裏の碑文には昭和34年に林道が竣工されたとある。しかし、昭和56年、57年と大きな災害に見舞われ、通行不能となった
が、それも復旧したとある。碑文の日付は昭和58年10月吉日であった。
石碑の脇を進むと直ぐに小さな橋の前に通行止の看板が出てきた。「林道山 田入線 全線通行止」とある。期間は「当分の間」 であった。大規模な災害から復活して石碑まで立てた山田入林道ではあったが、またしても通行不能の憂き目に遭ったようだ。通行止看板の少し先まで進んだ が、松川沿いに険しそうな未舗装林道が細々と続いていた。しかし、それ以上先に進まなかった。林道終点の万座峠側には、通行止のチェーンが張られているの を知っていたからである(下の写真)。 |
通行止の看板が立つ |
チェーンが張られている |
五色温泉以降 |
県道に戻って松川の下流、高山村の市街地方向へと進む。間もなく県道沿いに
は五色温泉がある。高山村の奥地にある五色・七味の両温泉は、以前はランプを使っていたそうで、昭和36年になって
やっと電灯が灯ったとのこと。 県道脇に駐車場があり、何やら人で賑わっていた。松川の支流に掛かる滝が見物できるようだ。県道から少し入った所に展望塔が立っている。そこから松川の 対岸の山肌を流れ下る滝が見渡せた。幾つもの段になって流れ、その段数が八段あることから八滝(やたき)と呼ばれているそうだ。 |
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展望台より見る 向こうに県道が通る |
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高山村奥山田は、高山村の山林地域だが、村域の東の大半を占めるようだ。県
道に沿って山田温泉、荻久保、天神原、蕨平、宮村、関場の6集落を過ぎる。その頃には、もう役場がある村の中心地は近い。
その後、県道66号は千曲川右岸を通る国道403号に出る。県道に並んで流れてきた松川も、この直ぐ先で千曲川に合する。ここにはもう山深い南志賀の雰 囲 気はない。平らな農耕地が広がるばかりだ。 七味温泉以西の松川沿いは、笠ヶ岳峠の道と言うより、元々は旧草津街道(山田峠?)や万座街道(万座峠)の道である。県道が七味温泉への分岐を過ぎ、松川沿いを離れて峠へと登り始めてからが、 笠ヶ岳峠の峠道と言うべきだった。 |
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それにしても、高山村の東部にある毛無峠や万座峠、笠ヶ岳峠はどれも 1,800mを越える高い峠ばかりだ。標高で国道第一位を誇る渋峠も、直接は道が高山村に通じていないが、高山村と山ノ内町との境に位置する。それに何し ろ、南志賀のあの高原の景色は素晴しい。県道112号などは空を駆けるような高度感がある。旧草津街道や万座街道など、歴史探訪の面白さもありそうだ。高 山村には峠を訪ねて是非また行きたいと思う、そんな笠ヶ岳峠であった。 |
<走行日> ・2004. 8.11:山ノ内町→高山村 キャミにて <参考資料> ・角川日本地名大辞典 20 長野県 平成 3年 9月 1日発行 角川書店 ・その他、一般の道路地図など (本サイト作成に当たって参考にしている資料全般については、こちらを参照 ⇒ 資料) <1997〜2012
Copyright 蓑上誠一>
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