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小峰峠
 
こみね とうげ
 
姿を消していく身近な峠道
 
小峰峠 (撮影 2002. 2. 9)
見えているのは小峰隧道の東京都八王子市上川町側の坑口
トンネルの反対側は東京都あきる野市(旧五日市町)留原(とどはら)
道は都道32号・秋川街道
 
 小峰峠は東京都の八王子市と旧五日市町との境にあり、秋川の南側に沿って東西に延びる加住(かすみ)丘陵の西端を、南北に越える峠である。旧五日市町は今では秋川(あきがわ)市と合併して「あきる野市」と名を変えているが、どちらかというと五日市の呼び名の方が馴染みが深い。
 峠は小峰隧道というトンネルになっているが、その上には山道の小峰峠があるそうだ。しかし、よっぽどの地元民で無い限り、わざわざ行くことはないだろう。
 
 ちょっと離れた地元民としては、八王子方面から小峰隧道を抜けて五日市に出て、更に北の青梅や、または西の檜原村、その更に西の奥多摩へと向かうには、非常に利用価値の高い峠道である。峠の東約5Kmには国道411号が通るが、その渋滞の迂回路として使うことも多い。休日の一日を奥多摩などの自然の中で遊んだ後は、夕方の帰宅ラッシュを避けて小峰隧道を抜けて帰ってくるのだ。
 
 しかし、ちょっと厄介な峠道でもある。まず、五日市側からの入り口が複雑だ。都道33号・上野原五日市線より分岐するのだが、そこが複雑な立体交差となっているのだ。また、青梅方面から来た場合と、檜原方面から来た場合で異なる入り口があるのも混乱させる。立体交差の道は狭く急カーブで一方通行路もあり、その事態を把握するのに時間が掛かる。特に、昔のツーリングマップルからは立体交差であることが読み取れず、最初に訪れた時は随分と苦労させられた。
 
 立体交差を無事に抜けると、直ぐに秋川を秋川橋で渡る。右手には河川敷を利用した公園が見え、都道上野原五日市線の喧騒を離れて、のどかで落ち着いた雰囲気となる。暫くは峠に向けて穏やかな道が続く。道幅もセンターラインのある十分な道で、それでいて交通量もグンと少ない。
 
 しかし、右手に小峰公園(小さいが駐車場あり)を見て、左手に木材が積まれたりしている小峰工業団地を過ぎると、その先で左急カーブの坂道が始まる。ここからはだんだんと緊張が高まっていくのだ。ただ、最近このカーブを曲がらず直進する方向に、新しいトンネルの工事が始まっていた。このトンネルが完成すると、確かに随分と楽になるだろう。
 
 何度となく越えた小峰峠ではあるが、五日市側より峠を越える時は何だか特に緊張する。それには訳があった。あれは新品のジムニーを買って、まだ間もない時であった。それまでにも小峰峠はバイクで越えたことがあり、道については十分理解していたが、車の運転にはまだ慣れていなかった。
 
 日はとっくに暮れ、暗い夜道である。沿道には「レッカー」と書かれた看板が立つ。道を踏み外す車も多いのだろう。隧道が近くなるとセンターラインもなくなり、道幅が一段と狭くなった。注意しなければと思っていると、前方より道幅一杯に巨大な物体が迫ってきた来た。運の悪いことにバスだった。こちらは左カーブで、咄嗟に目一杯左に寄せた。その時、ジムニーの左脇からゴリッと音がした。アッと思ったが、ただそのまま止まってバスや後続の車が通り過ぎるのを待つしかなかった。
 
 車のダメージの具合を調べたいが、こんな狭い道に留まっている訳にはいかない。仕方なしに、そのまま峠を越え、広い道路に出てから街灯の側に車を停めた。見ると左のドアの下が数10cmに渡ってへこんで傷がついている。運転席から見えなかったが、カーブ途中にガードレールがあり、それにぶつけてしまったらしい。その時はそれほど目立たないなと思っていたが、翌日太陽の下で見れば、新車のジムニーに目を背けたくなるような跡がくっきり残っていた。
 
 数日間はさすがに落胆していたが、それで踏ん切りがついた。もう、木や岩に擦ろうが、石が跳ね飛ぼうが、動きさえすれば車の外観などどうでもよくなった。未舗装林道だろうが廃道だろうが、気兼ねなく行ける。勿論、洗車やワックス掛けなどという面倒なこととも生涯無縁なジムニーとなった。今ではあの時の傷など、他の傷にまぎれて判別がつかない。
 
 ところが、あの時のいやな記憶が残っているらしく、小峰峠が近付くにつれて今でもちょっと緊張するのだ。道が狭くなるのが異常に気になり、対向車が来ないことを切に祈る。しかし、これが八王子側に下る時は何でもないのだ。また、八王子側から五日市側に越える時も平気である。おかしなものだ。
 

小峰峠
小峰隧道のあきる野市側
 2002年2月9日。五日市の戸倉三山の一つ刈寄山に登った帰り、1〜2年ぶりに小峰峠を越えて帰ることにした。目があまり良くないこともあり、秋川街道への分岐を一本早まって、狭い路地に入り込み、とんだ道草をした。分岐には小さいながらもちゃんと「秋川街道」の標識があるのだが、苦手意識が判断を狂わすらしい。
 
 峠の手前の新しいトンネルの工事は、もう坑口もしっかり完成していた。新道建設については既に知っていたが、いよいよ現実の物になるという実感があった。
 峠への上りは以前と比べ何となく道幅が広くなっているような気がした。どうしてこれまであんなに苦手だったのだろうかと思うほどすんなり峠に着いた。
 
 小峰隧道の手前では早々とヘッドライトを点けることにしている。時にはハイビームで。トンネルが狭くて交互通行なので、対向車との駆け引きがあるのだ。先を争う訳ではないが、進むなら進むでこちらの意志をライトではっきり示す必要がある。その方が相手も分かり易い。
 
 隧道の入り口に、何やら看板が立て掛けてあった。そこにはトンネルの絵が描かれ、新トンネルに関しての看板であることは一目で分かった。読んで見ると、何と二日後の11日より開通とのこと。しかも、それに合わせてこの小峰隧道の道は通行止になるとある。
 
 ここ10年くらいの間に、小峰峠の西10数Kmに甲武トンネルが開通している。それにより檜原村へのアクセスルートが増え、非常に便利になった。また、その後峠の直ぐ東には綱代トンネルが開通した。この影響は更に大きいと思われる。大半の車は綱代トンネルに流れるようになったのではないだろうか。
 
 今度新しいトンネルが小峰峠に完成し、また車の流れが戻ってくるかもしれない。しかし、小峰隧道が通れなくなるのは残念である。新道開通に伴って旧道が消えていくのを各地で目にしているが、こんな身近な峠道がそんな目に遭うとは思ってもみなかった。
 
 通行止直前に通れたのも何かの縁である。こうなっては、峠を写真に撮らない訳にはいかない。いままで幾度となく越えた峠であったが、わざわざ立ち止まって写真を撮ることなど、ほとんどしたことは無い。時々行き交う車に気兼ねをしつつ、路肩に車を停めて写真を撮った。
 
 小峰隧道は大正2年の竣工だそうだ。現代の車社会にとっては高さ制限3.2mの小さなトンネル。伊豆の天城峠のトンネルと坑口の様子などが似ている気がする。でも、あちらはまだ現役で通れるが、こちらはこれで役目を終える。
 
 隧道を八王子市側に抜けると、そちらの坑口にも同じ看板が立て掛けてあった。隧道の先では道路の上に掲げられた「小峰峠(komine pass)」と書かれた看板がいつも目にとまる。その看板に小さな鳥の絵が描かれているのだ。
 
 動植物には詳しくないので、何の鳥だか分からないし、また小峰峠とその鳥との関係も不明である。ただ、八王子市の市の鳥が「オオルリ」だそうだから、その絵の鳥がそうである可能性は高い。八王子市のホームページを調べると、「高尾や陣馬の山々の渓流沿いなどで、夏になると見られる渡り鳥です。オスの体色は鮮やかな青色で、声も美しく響きます。」とある。載っていた写真と見比べても、よく似ている。
 しかし、オオルリが八王子市の市制75周年を記念して市の鳥に選ばれたのが、平成3年(1991年)のことだそうで、そうすると、それまで峠の看板は無かったことになる。どうも、もっと前からあったような気がするが。

峠の八王子市側
「小峰峠」と書かれた看板が掲げられている
 
 峠から八王子側に下る道もなかなか厳しい。昼でも暗く、やはり対向車が厄介だ。トンネルで点けたライトはそのままで下るといい。対向車からの視認性が上がる。カーブミラーも有効に使い、対向車が見えたら無理に進まない方がいい。
 
 こちらでも何度かバスとすれ違ったことがあるが、どういう訳かこちらの道は得意である。対向車があれば率先して道を譲る。もともと軽自動車なのだから、狭い道は他の車に比べて取り回しが楽なのだ。
 でもある時、狭い区間ももう少しで終わりという所でカーブを曲がり始めると、対向車が1台あったので、わざわざバックして道を譲った。その後、進もうとすると、またちょうど対向車が来るので仕方なくバックした。そして、また進もうとするとまた対向車で、またバック。さすがにこの時は頭に来た。それ以来やや強引に走ることにしている。こちらが強引だと向こうが避けてくれる。しかし、所詮バスには勝てないのであった。
 
 そんな道も、ここ数年で道幅が随分広くなったような気がする。新トンネルの工事が進んでいるのに、旧道となる道の改修も行われたのだろうか。普通乗用車同士の離合なら、わざわざバックすることもほとんどなさそうだ。以前は離合に手を焼いているドライバーを良く見掛けたものだ。自分の車に慣れてないと確かに大変だが、それにしても手間取るドライバーが以外に多かった。周囲の道とはちょっと勝手が違う小峰峠であった。
 

糀谷山入林道
(車内より撮ったので、
フロントガラスの写り込みがあります)
 狭い坂道を下り切ると広い通りに出る。後はセンターラインのある普通の都道となる。広い道に出た所を右に進むと、以前は行止りで、どこにも出られなかった。新トンネルはそちらに繋がるようだ。

 小峰峠は渋滞回避の意味があり、当初いろいろな抜け道を探していた。小峰峠を八王子側に下り切り、広い道を500mほど走ると右に直角に分岐する道がある。近くに福寿寺だか何だかのバス停がある。道は直ぐに川口川を渡り、住宅街の路地をやや戻る様に進む。出てきた分岐は左へと入ると、やがて狭く暗くじめじめした未舗装林道となる。最近見掛けた林道標識には「糀谷山入線」と出ていた。
 
 この林道は小さな峠を越えて上川町から同じ八王子市の美山町へと抜けている。美山町で山入川沿いの道に繋がっている。本来は秋川街道から分岐する戸沢峠を越えて美山町に出るのだが、そこまで行かなくても済む迂回路なのだ。しかし、もともと戸沢峠の道は渋滞する訳ではないので、折角見付けた抜け道なのだが、あまり役に立っている様な気はしないのであった。

 
 最後に小峰峠を越えてから1ヶ月以上経つが、旧道はやっぱり予告通り通行止になったのだろうか。新トンネルの走り心地はどうだろうか。今度、奥多摩の山でも登った帰りに、寄ってみようと思う。
 
<制作 2002.3.31>
 
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