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南葉山峠  (仮称)
 
なんばさん とうげ
 
廃道への道をまっしぐらに進む峠道
 
南葉山峠 (撮影 2001. 7.29)
奥が新潟県西頸城郡名立(なだち)町東飛山(ひがしひやま)
手前が同県新井市西野谷(にしのや)
道は大幹線林道・南葉山線
 
 「南葉山峠」とは仮称である。道の名が南葉山林道なので、そう呼ぶことにした。この林道は新潟県の新井市から峠を越えて、日本海に面する名立町に通じている峠道だ。

 南葉山林道の新井市側の起点は、西野谷というところだ。県道西野谷二本木線の終点である。西野谷の集落を過ぎ、県道をそのまま北へ真っ直ぐ行くと、キャンプ場のような所に出る。万内(ばんない)川砂防公園だ。親水広場などがあり、休日には子供連れの家族で賑わっている。以前からあった公園だが、ますます設備が整ってきて、賑わいが増したように思える。

 その公園まで行くと、行き過ぎである。県道を来て、万内川を渡る手前の右手に公園の駐車場があるが、その反対側、左手にひっそり分岐する道がある。それが目的の南葉山林道だ。その分岐点には小さいながらもちゃんと林道標識がある.。しかし、ほとんど目立たないので、あまり役に立っていそうにない。直進の公園がある道には重倉林道とあり、南葉山林道の方はと見ると、標識が草に埋もれていた。草をどかしてやっと写真を撮る始末なのだ。

 

県道を来ると、左に南葉山林道が分岐
直進の重倉林道の標識は見えるが、
南葉山林道の標識は草に埋もれていた
 初めて来た時は、この分岐をうっかり見落として、先へ進んでしまった。持っていた道路地図には、まだ重倉林道の記載が全くなかったのだ。県道を行くとそのまま南葉山林道になると思い込んでいた。
 
 公園を通り過ぎ、どうも方向がおかしいんじゃないかと思いつつも、どんどん進んでしまった。途中で右手に新井市からその先の高田平野全体が見渡せた。これは明らかに変だ。眺めはいいし、路面も舗装で走り易い。旅をするにも悪くない道なのだが、目的の峠道ではなかったのだ。これは一体どういうことかと、少々頭に来る。
 
 結局、そのまま日本海沿岸に出て、その足で名立町側から峠を越えて遥々戻って来た。どこで道を間違えたのか、はっきりさせなければ気が済まないのである。そして、問題となる分岐を探すと、草むらの中に「南葉山林道」の標識が立っていた。それを見て地団駄を踏んだのだった。因縁のある分岐なのである。
 
 公園の賑わいを尻目に、今回は迷うことなく訳知り顔で南葉山林道に曲がる。一気にひと気が失せる。勿論沿道に人家などはない。暫く緩い起伏の平坦地を行く。路面はアスファルト舗装だったり、深砂利の未舗装だったりする。

 少し登ると視界が開けてきた。振り返ると山の切れ目から新井市のある平地が見下ろせる。
 
 また少し行くと、前方には早くも峠が望める。見上げる頂上の稜線上に、斜面が僅かに剥げ落ち土が露出している箇所がある。その直ぐ脇の稜線がV字形の切れ目になっている。そこが峠である。
 その後も峠は何度か前方に見え隠れする。道は全般的に空が開け、走っていても気分がいい。

 幾つかの急坂のヘアピンを曲がって、一気に高度を上げた。このあたりは山岳林道的な迫力がある箇所だ。路面も適度に荒れている。峠に向かって登っているという実感が持て、峠道らしい醍醐味を感じる。


一息急坂を登り、高度を上げる
 

よもしろうの滝
 一息登り切ると、今度は道が急に良くなった。比較的新しいアスファルト路面で、この部分は道幅も充分ある。その先の左手に新井市の名所の一つである「よもしろうの滝」があった。
 
 滝は道からも眺められる至近距離に位置し、道路脇にも「よもしろうの滝」と書かれた立て札がある。余程のことがない限り見逃すことはない。
 
 滝の名前の由来などは分からないが、「滝の白と周囲の緑とのコントラストが美しい」との触れ込みである。しかし、訪れた時はあまり水量がないのか、流れ落ちる水には迫力が欠けていた。
 
 滝の前の車道脇に車が一台停まっていた。滝見物ではない。滝の下流で釣りをやっているようだ。
 
 道は滝の前だけ取って付けたようなアスファルト路面で、そこを過ぎるとちゃっかり未舗装路に戻る。
 
 その後は左に大きく谷を望みながら、林道らしい林道にガタガタ体を揺らされながら、小気味よく登って行く。時々見える峠が着実に近付いてきているのが分かる。
 
 そのうち稜線に近い広々とした所に出る。すると間もなく直進はゲートで通行止であった。峠へはそこで右に急カーブする道を行き、最後の急登を開始することになる。

林道らしい林道を行く
ここでも峠の切り通しが望める
 

直進はゲートで工事通行止
右の上りが峠へ
 ゲートの工事看板によると、通行止の道の先で新井スキー場が開発されているようだ。期間は平成13年11月30日までとある。その間終日通行止になっている。
 ゲートは遮断機式で、多分工事関係者なら通れるのだろう。工事後は一般に開放してくれるのだろうか。
 
 工事看板に示された地図では、スキー場まで山麓からゴンドラが通っている。付近一帯を「新井マウンテン&スノーパーク」と呼ばせるらしい。
 今回通行止の道は別ルートで山麓まで続いていた。すなわち、南葉山林道以外に峠近くへ出る道があるということだ。でも、スキー客はゴンドラを利用するか、またはその新しい道を使うかであり、南葉山林道が使われる心配はないのだろう。 
 
 それまで登りの最中に見えていた峠は、そこに立つと周囲は草木に視界が遮られ、新井市側は何の見晴らしもない峠である。大毛無山への登山道の案内看板がポツンと立っているだけだった。大毛無山頂まで2.4KM、約1時間30分の距離とある。先ほどの工事通行止の道は、大毛無林道というらしい。

 峠は遠くから見えていた通り、V字に切れた切り通しである。しかし道は稜線を斜め方向に横切っているので、峠の切り通しの前後できついS字カーブを描いている。


峠の切り通しを新井市側から名立町側へ入る
 

峠からの名立町側の景色
峠から名立側には神葉沢が流れ下る
 切り通しを抜け名立町側に入ると、右手前方に大きく深い谷の景色が広がる。道は直ぐに下ることなく、左手の稜線近くを暫く水平に伸び、その先の尾根を回り込んだ角から見えなくなっている。山深く険しい風景である。

 この峠は南の大毛無山(1,429m)から北の粟立山(1,194m)に続く稜線上にある。峠のある所は、山と山の鞍部という形ではなく、壁の様に切り立ったほぼ水平に伸びる稜線の一部を、ちょっと切り欠いたといった切り通しである。名立町側から見ると、その様子がよく分かる。
 
 林道の名前である「南葉山」とは、上越市高田と新井市の西方にある南葉山地からきている。南葉山とはひとつの山ではなく、いくつかあるようだ。北の青田難波山(949.9m)、南の籠町南葉山(909.1m)、その中間の南葉山(901m)。それ以外にも更に南に猪野山南葉山(789m)というのもあるらしい。
 山地全体がブナ帯の樹木に覆われているが、低い所ではスギ中心の植林地に変わっていっている。最高峰の青田難波山へは登山道が整備され、一般者にも登れるらしい。但し、藪に囲まれた頂上からの眺めはなく、最近展望台を建てる計画があるそうだ。

 
 峠直前から名立側へは、アスファルトやコンクリートによる舗装がしてあるが、その路面に名立側で鉄骨製の車止めが取り付けてあった。コンクリートで強固に固められており、かなり恒久的な物である。施工以来かなりの時間が経過しているらしく、老朽化も激しい。その車止めに立て掛けられたベコベコに曲がった看板には、「このより8Km先にて 道路崩壊の為 名立方面へは 通り抜けできません。名立町役場」とある。

 これには愕然とせざるを得ない。単なる一時的な通行止などではないのだ。車止めの先を眺めると、まさしく廃道の道をまっしぐらに突き進んでいるとしか思えない状況だ。

 
 車止めに脇を通って進んでみたが、1Kmも行かない箇所で、沢からの大きな崩落に遭った。車を下りて暫く考えていたが、これ以上進んでも無意味である。遂に断念して引き返すことにした。
 
 来た道を戻りながら、前方の峠を望んだ。今回は名立側を通り抜けることはできなかったが、こうして名立側からの峠の眺めが得られたのは、せめてもであった。

 それにしても、崖にへばりつくように築かれた細いコンクリート道路である。今のように廃道化されていなくても、その険しさは一級品だ。ここがこの峠道の一番の難所ではないかと思わされる。ここを1993年に通った時も、きっと怖い思いをしたのだろう。


名立町側より眺める
古ぼけたコンクリート路面の先に峠の切り通し
 

名立町側の林道南葉山線の起点 (撮影 1993.10.10)
 今回は名立側から登ってないので、県道245号・東飛山名立線から南葉山林道と続き、どの様になっていてどこまで行っているのかは分からない。林道もどの程度未舗装を残していることやら。
 
 以前この峠道を越えた時に、ほとんど写真を撮っていなかったのも悔やまれる。そのうち機会を見つけてまた越えればいいと思っていたのが甘かった。峠道はいつまでも変わらずに、待っていてはくれないのだった。
 
 
<制作 2002. 1.21>
 
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