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入山峠  (後編)

 

八王子市側より峠に着いた
舗装が途切れる
 林道は峰の僅かな鞍部を、法面をコンクリートで固めた切り通しで抜ける。その先はT字路の様になっているが、峠道の本線はほとんどUターンするかのように峰の反対側に回り込む様に続く。
 
 T字路の正面には峠よりあきる野市側に下る金堀沢の谷間が広がる。人工物が見えない山の中のすがすがしい雰囲気がある。峠部分はまだ舗装されてなく、土が露出していてちょっとした険しさも感じる。初めて訪れると、ここも東京都なんだなと驚かされる。
 
 T字路付近は道幅が広くなっていて、路肩に車を何台か置いても邪魔にならない程度の広さがある。この道端でシートを広げ、コンロでお湯を沸かし、景色を楽しみながらカップラーメンの昼食をとったこともある。だが、時折車がやって来るので、体裁はあまり良くないのであった。
 
 入山峠からは稜線方向にそれぞれ登山道が始まっている。一方の道はトッキリ場を通って市道山へと続く。しかし、この道は片道2時間20分を要し、峠からちょっと市道山まで往復という気軽な訳にはいかない。
 
 もう一方は刈寄山へと続く登山道だ。こちらは片道15〜20分なので、少し時間に余裕があれば気軽にちょっとした登山気分を味わえる。
 
 刈寄山へは、峠に立つ「戸倉三山コース」と書かれた登山案内看板の前を行く登山道を行ってもよいが、道が悪く稜線のアップダウンがあるので歩きづらい。代わりに、T字路を右に行く車道を少し(100m程)歩くと、右斜め上に登って行く山道がある。それを登ると稜線で本来の登山道と合流している。こちらがお勧めだ。

峠の切り通しをあきる野市側より見る
 

峠から分岐する作業道は通行止に
 この峠に関して最近残念なことがある。前述の峠から分岐する車道が通行止になってしまったのだ。横たえた鉄骨にガードレールが取り付けられたゲートが立ちはだかり、車の進入は全くできなくなった。
 
 看板によると「盆掘間伐作業道」というその道は、短い行き止まりの未舗装路で、非常に狭い上にほとんど待避所もなく、片側は切り落ちた崖で、走っていて楽しいというものではない。それどころか、初めて入り込んだ時はヒヤヒヤものだった。こんな所で対向車に出合ったら、どうしたものかと思ってしまうほど狭い。しかも、行止り部分には車を回転するだけのスペースがなく、長いバックを余儀なくされるのだ。
 
 それでも、その道に入り込む価値があった。峠から数100mほど行った所に見晴らしのいい広場があるのだ。焚き火の後なども残っていたりするので、以前からキャンプする者がいるらしかった。谷間を望む落ち着いたロケーションなので、自宅が近い私でさえも一度野宿してみようかと思っていたくらいだ。キャンプとまではいかなくとも、昼食をとるなら峠よりこっちの方が断然いい。それに、ある時その道を帰って来ると、前方を大きな雄ザルが悠然と歩いているのに出くわしたこともある。ちょっと険しい道だが、それがまた、単に峠道の本線を通過するだけでない、有意義な寄り道となっていた。
 
 その寄り道ももうできないと思うと残念だ。歩いて広場まで行っみたが、そこをカセットコンロや水やカップめんを持って歩くのは面倒である。その上ガスボンベでも忘れようもんなら、目も当てられやしない。やはり車が入れないと厄介である。
 広場まで歩いた時、峠に戻ってみると謎の男が一人、怪しい車でやって来た。そのひげをはやした男は、普通の登山者とは思えず、ましてや一般人が休日のドライブを楽しんでいる様にも見えない。一見、あの野宿ライダー山崎勉風で、ただ者ではないという雰囲気である。また、その怪しい車は軽トラックの荷台を大きな荷室に改造した様な車で、中にはバイクも入るらしく、生半可な改造車ではないのだ。
 男は車のドアに何かメモ書きを残し、作業道の方へと歩いていった。暫くして今度は別の車で男が二人やって来ると、やはり峠に車を駐車させ、例のメモを読んでいる。その後、野宿道具らしい多くの荷物を持って、男の後を追って行った。多分、今夜は例の広場で男三人の野宿の宴を開くのではないかと思う。ガスボンベを忘れていなければよいが。
 
 峠のあきる野市側直下が、道としては一番荒れている区間だ。勾配がややきつい上に、舗装がまだここまでは到達していないので、ちょっとした険しさを味わう。
 
 以前、まだ買ったばかりのスタッドレスタイヤを履いて来たら、鋭く尖った石がゴロゴロしている。慎重にゆっくり走りながらも、これはまずいかなと思っていたら、途中より車体がやや傾きハンドルも取られるようになった。案の定、タイヤ側面に大きな亀裂が入ったパンクであった。これでは修復はきかない。泣く泣くまたスタッドレスを一本新調する羽目になった。
 
 また、この場所は峠の北側に位置するので、冬期などは路面に雪が多く残っている場合がある。八王子側には全く雪がなくても、峠まで登ってきてあきる野市側に下ろうとすると、積雪がひどくて通り抜けができないなんて時もままある。

峠直下の未舗装部分
冬季は積雪も
 

比較的新しい舗装路
 今年(2002年)の2月初旬に来た時も積雪があった。勾配も考えて滑らないようにやや慎重に下る。しかし、最近下の方から舗装がかなり延びてきている。峠から数100mもしないで雪はなくなり、代わりに真新しい舗装路面となった。この未舗装の悪路区間も間もなくなくなる運命にあるのだろう。
 
 舗装になると確かに走り易く、パンクの心配も減る。しかし、今度は路面凍結によるスリップが怖い。かえって未舗装路の方が、冬季には通り易いということもある。アスファルト舗装になったからといって、安全な道になったとは限らないので、これからも注意が必要だ。
 
 道は一気に高度を下げ、盆堀川の上流部へと出る。そうなると、沢沿いの暗く閉塞された感じを受ける道となる。高い崖などによる危険性はなくなるが、あまり走っていて気分がいいものでもない。その点八王子側の道の方が、終始開放的でいい。
 
 でも、夏などは日陰が多く涼しい道となる。下流に行くほど傍らを流れる川の水量も増し、その川面を間近に見て走る。それも、夏などは涼しげでいい。ちょっと川遊びをしていこうかという気にさせる淵もある。

谷を一気に下る
 

川沿いを下る
 盆掘林道のあきる野市側には途中で2、3の枝道林道が分岐する。通行止もあるが、入れるものもある。しかし、どれも行止りだろうから、入ったことがない。それに、路面の荒れ方がひどかったりするので、私のバイクの技量ではちょっと心もとないのだ。また、車では引き返して来るのが大変だろう。峠から分岐していた作業道に比べたら、わざわざ苦労する価値がありそうには思えない。
 
 川沿いの比較的平坦な道になってから、また未舗装区間が現れる。この部分は小石の混ざった固く締まった地面で、以前は穴が多く、車で通るとピョンピョン跳ねて非常に走り難かった。梅雨時などは深い水溜りがそこここにいつまでも残り、いくらコースを工夫しても泥水が盛大に跳ね上がった。ほんの僅かな距離なのだが、そこを通ると車のボディーは泥だらけである。まるでどこかのスーパー林道でも走破して来たかのような格好で、街中を走って帰ることになった。
 
 でも、最近は路面がかなり補修されて、穴はめっきり少なくなった。穏やかなダートである。ここもその内、舗装だろうか。

未舗装を残す
 
 右手に砕石所を過ぎると、間もなく人家が現れる。道は狭くなったり広くなったりしながら、盆掘の集落を過ぎていく。秋川に合流する直前の盆掘川を新久保河原橋で渡る。橋の手前を右に刈寄林道が分岐する。そのY字路に登山の注意書きがある。なんでも戸倉三山は一日で簡単に回れる山ではないので、注意しろとのことである。
 
 私も最初は奥多摩の高水三山と同様、一日で簡単に行ってこられるコースかと思っていた。ところが歩程を調べてみると、これが随分と長い時間がかかるのだ。そこで、別々に三山を制覇することとした。刈寄は入山峠から簡単であった。臼杵(うすき)は盆掘集落の途中の路肩に車を停め、荷田子峠経由で往復した。問題は市道である。何とか簡単に制覇できる手立てはないものかと現在思案中である。
 
 新久保河原橋を渡ると、一旦県道33号・上野原五日市線の旧道に出る。近くにバス停沢戸橋がある。バス路線はわざわざ旧道を迂回しているのだった。旧道をどっちに行っても直ぐに信号で県道に出る。
 

峠道の最大の難関とは?
 この入山峠の道の一番の難所はと言えば、峠からあきる野市側に下りる部分の未舗装区間などではない。かえってもっと県道に近いた盆堀集落付近に降りて来た時なのである。人家の脇を通る道は非常に狭い。そこを砕石場と県道の間を行き来する大型のダンプが目一杯に通るのだ。通行はかなり頻繁なので遭遇する確立は高い。かち合ったら最後、こちらがバックする羽目になる。待避所も不十分だ。
 
 多分、初めて訪れた時から、そのダンプの災いに襲われたのだろうと思う。運悪く何台ものダンプが次々とやって来て、進んでは戻り進んでは戻りを繰り返した記憶がある。それ以来、いつ出掛けて行っても気が重いのである。まるで強迫観念のようになってしまった。県道と砕石場との間は鬼門なのである。
 
 入山峠は近場なので、ほとんど写真を撮ったことがない。旅ではないからカメラを持って行くことに気が回らないのである。今年の2月に訪れた時は刈寄山に登るのが目的でカメラ持参となり、それで峠道の写真も撮ることができたのだった。それでも、もっと過去に少なくとも数枚は峠道を写真に納めたような気がする。今回アルバムの中をいろいろ調べたが、1998年に上恩方側の林道入り口を写したものが2枚見つかっただけだった。どうも腑に落ちない。その内ひょっこり懐かしい写真が出てくるといいなと思う入山峠であった。
<制作 2002. 7.17>
 
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