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湯峠
 
とうげ
 
大きな災害からカムバックした林道の峠道
 
湯峠 (撮影 2001. 7.29)
長野県北安曇郡小谷(おたり)村
奥が乙見山峠へと続く土中(なかつち)側
手前が姫川温泉のある北小谷側
道は林道姫川小谷線
 
 非常に残念なことながら、この湯峠の道は長い間通行止だった。小谷村を襲った集中豪雨による大規模な災害の為、峠の北小谷側で道が大きく寸断されてしまったのだ。なかなか復旧工事も進まず、長年通ることができなかった。その湯峠の道が、やっと去年(2001年)になって開通し、通れるようになったのだ。
 
 右の写真は県道114号から右に乙見山峠への道が分岐する地点。路上高く掲げられた道路標識には次の様にある。
 ↑鎌池・雨飾山
   姫川温泉
  →妙高高原
 
 「姫川温泉」の文字が、小さく遠慮がちだ。
 
 左脇の看板には次の様にある。
 雨飾高原キャンプ場
直進 3K

鎌池 4K

食事みやげ
鎌池ぶな林亭
9じ〜17じ


中土側のT字路で湯峠方向を望む
右に山荘が建つ
 
 2001年の7月、長野県の妙高高原町側から登って乙見山峠を小谷村側に下り、県道114号・川尻小谷糸魚川線に突き当たった。そのT字路の脇に車を停め、ホッと一息付いた。T字路に隣接して比較的大きな山荘が1軒建つ。道路脇の駐車場には7、8台の車が置かれ、付近を散策する人影もあった。それ程多くの人が居る訳ではないが、乙見山峠の未舗装林道の寂しい道に比べれば、何となく華やいだ感じがした。
 
 さて問題は、この先の湯峠を越える道が通り抜けられるかどうかである。湯峠方向の道を眺めたが、道路標識に「鎌池・雨飾、姫川温泉」と空々しく出ているだけで、通れるとも通行止ともない。去年、姫川温泉方面よりアクセスし、通行止にあった苦い経験があるので、安易に行けるとは判断できないのだ。しかし、県道を下っても詰まらない。とにかく湯峠方向に進むこととした。
 

雨飾高原キャンプ場への道
看板にはキャンプ場まで「0.6K」とある
 道は県道の続きとあって、ずっと変わらぬ舗装路だった。途中、道路の右脇に「明才堰」の石碑が建っていた。何でもこの地に、ほとんど人力に頼って造られた灌漑用水があったそうな。「中谷川支流大海川大淵より源八沢まで約16Km」に及ぶ難工事で、横川才蔵という人が指導者となり、用水が完成した明治の「明」と才蔵の「才」をとって「明才堰」と名付けられたとのこと。石碑は新旧2つ並ぶが、古い方は明治26年4月の建立。碑文は漢文調でほとんど読めない。
 
 「明才堰」の石碑を過ぎて間もなく、右に直角に雨飾(あまかざり)高原キャンプ場への道が分岐する。入口に立つキャンプ場の案内板には、キャンプ場まで0.6Kとある。
 

湯峠を前に、左手に深い谷が広がる
 湯峠への沿道には、その先、左に「ぶな林亭」なる休憩所があったりするが、キャンプ場への分岐を過ぎた頃からか、周囲が一段と寂しくなったような気がする。元々、乙見山峠への分岐からこの方、一台の車とも行き違っていないので、寂しい道であることに変わりはないのだが、特に周囲の雰囲気とでもいうものから、ひと気が感じられなくなってくるのだ。
 
 道はいよいよ峠を目指して登っていく。ただし、急勾配があったりヘアピンが連続するような険しい登りではない。暫くすると左手に大きく谷が広がった。高度感が肌に伝わってくる。
 
 湯峠は手前から望むこともなく、不意にやって来た。結局、現在はもう中土側から峠まで道の舗装が完了していて、ダート区間は全くなかった。
 峠の中土側には車が何台か停められるスペースがあり、丁度一台の車が停まっていた。ドライバーが一人、煙草を吸いながら休んでいた。
 
 峠にはゲートが閉じられるようになっているが、今は開いている。どうもこの様子なら姫川温泉の方まで抜けられそうな感じである。
 
 先客の車が中土側に立ち去ると、入れ替わりにパジェロ・ミニが反対側から登って来て停まった。やはりドライバーが一人降りて来て、煙草を吸い始める。念の為、その男に近付いて、そちら側は抜けられるかと北小谷側を指差した。男は、道が悪い所があるが、それさえ越せられれば抜けられると返答。そっちの車がパジェロ・ミニなら、こっちの車もジムニーである。悪路走破性ならピカ一だ。越せられない訳がないのであった。

湯峠
中土側より見る
 

峠より中土側を見る
 この湯峠という峠は、乙見山峠などと比べるとほとんど目立たない峠で、ツーリングマップ(ル)などでは峠の名前が記されていない。また、道路地図などからは峠が存在することさえもなかなか読み取れ難い。それはこの峠が小谷村内に位置し、どことの町村境にもなっていないことや、土中側から峠までの標高差が少なく、あまり峠を越えるようには見えないからかもしれない。
 
 でも、湯峠の道は、北に新潟県との県境の峰々を控え、なかなか雄大である。その県境に一段と高くそびえるのが明峰雨飾山1,963mだ。トロイデ型の死火山とのことで、その山容が独特だ。また、峠の南西約1.5Kmには大渚山1,566mがあり、峠より登山道が延びている。湯峠はこれらの山を目当てにした登山者の間では、お馴染みの峠なのかもしれない。

 「湯峠」の名前のいわれは分からないが、西に姫川温泉があり、東に小谷温泉があることから、単純に温泉の「湯」から来ているのだろうと想像する。

 
 峠のゲートを抜けた先に、何本かの標柱が立っている。その中の一つに「林道横川鎌池線」とあった。「横川」とは湯峠の北小谷側にある川である。また、「鎌池」とは勿論峠に登る途中にあったあの鎌池を指すのであろう。この林道は「姫川小谷線」と言うものだと思っていたが、この「横川鎌池線」が頭を悩ませる。姫川小谷線と呼ばれる前の古い呼び名なのであろうか。
 
 また、峠の中土側はどこまでが県道で、どこからが林道かも分からない。「県道川尻小谷糸魚川線」の「川尻」がどこかが分かれば謎が解けるだろうか。
 
 
 峠を北小谷側に進むと、それまでのアスファルト舗装と打って変わって、険しそうな未舗装林道が下っていた。峠直後はやや勾配がきつい感じがする。それに、また左手に深い谷が広がり、なかなか恐怖感をそそる。ガードレールもほとんどない。でも、道自体はしっかりしていて、のんびり走ればそれ程不安は感じない。

北小谷側の道
左手に谷が広がり、なかなか険しい感じ
ガードレールも朽ちていた
 

路面がちょっと荒れた道 (撮影 2001. 7.30)
 怖そうな谷が視界から消えたなと思うと、道は林の中を走り、間もなく右に雨飾山への登山口が出て来た。そこに立つ案内板によると、雨飾山から東の天狗原山にかけての地域は、我が国有数の豪雪地帯だそうで、一帯は植物群落保護林となっているとのこと。
 
 その先で、路面が少し荒れた。轍に沿って水が流れている箇所さえもある。ここがパジェロ・ミニのドライバーが言っていた所らしい。しかし、路面の凹凸はそれほどでもなく、我がジムニーならどうと言うこともない。
 
 暫くは林の中を行く。右にも左にも谷を見下ろすことはない。その後、ちょっとした平坦な台地を進むようになる。前方には1軒の山小屋が見えた。何となく穏やかな雰囲気である。
 
 しかしその直後、右手に大きく谷が切れ落ちた。崖の斜面は大規模な復旧工事の跡が生々しい。そこがこの林道を長い間閉ざしていた災害箇所であった。
 
 道の復旧箇所のほぼ真中に立ち、横川の谷を見下ろすと、不謹慎な話しだが、その眺めは壮観である。土砂崩で木々がなぎ倒された跡に法面工事が施され、視界を遮るものがなく、その一帯が見渡せるのだ。自然の威力は絶大だが、またそれを復旧させてしまう人間の力も凄い。

災害からの復旧箇所
かなり大規模なものだ
 

治山工事手前にあるゲート
以前はここで一般車行き止り
一応「通行止 関係者以外立入禁止」の看板がある
 復旧箇所を過ぎると、その先でゲートがある。今は開いているが、これまでの長期に渡ってここで一般車は通行止であった。
 一応、ゲートの横にはまだ「関係者以外通行止」の看板が出ていたが、工事期間は平成13念11月21日までとなっていたので、通っても問題ないのではなかろうか。
 
 ゲートを過ぎると路面はアスファルト舗装になる。よって現在のところ、この湯峠の道で未舗装として残っている区間は、峠以西の10Kmに満たない距離ということになる。今回道路が復旧して、今後ますます舗装が延びるのではないかと気がもめる。
 
 舗装路を走りながら右手を見下ろすと、横川の深い谷が口を開けている。右後方を振り返って眺めると、谷を挟んで雨飾山がそそり立つ。
 
 途中右に、横川の谷へと一気に降りる道が分岐する。九十九折りの見るからに面白そうな道だ。2000年にゲートで通行止にあい、しぶしぶ引き返す折り、せめてこの道でも走ってやろうかと思ったが、こちらも常時通行止で通れなかった。
 
 道は、開けた横川の谷沿いから離れると、次は暫く林の中を行くようになる。途中逆Y字に右に分岐がある。姫川温泉の方から峠を目指す場合、このY字路に悩まされることになる。どちらが本線とも区別がつかない分かれ道に、何の標識も立っていのだ。北小谷側から峠に向かう時は、分からぬY字路に出たら、右へ進めばいい。

道の横には大きな谷が広がる
車は峠方面を向く (撮影 2000. 6. 3)
 
 
 笹野集落への分岐を過ぎ、また暫し林の中を走ると、大網の開けた大きな集落へ出る。道路脇に「塩の道 案内図」などと書かれた看板などが立つ。この附近には昔牛を引いて塩を運んだ古い道が残っているらしい。地蔵峠や三坂峠などと呼ばれる峠もいろいろあるようだ。
 
 大網を過ぎて姫川温泉方面へひと下りすると、姫川や大糸線が見えてくる。姫川を渡り平岩駅近くで県道375号・旧国道148号に入り、右へ進めば間もなく国道だ。
 
<制作 2002. 3.14>

県道148号を平岩駅方面に見る (撮影 2000. 6. 3)
 
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