旅と宿  No.010

夕食抜きで格安の宿に宿泊
新潟県新潟市/岩室温泉・ゆもとや
(掲載 2023.11.19)

   

 前回(湯村温泉・寿荘)の話で、私たち夫婦には夕食抜きの宿泊プランが適っていると記したが、それに関連して印象深い宿を思い出した。 ただ、どこの宿だったか、いつの旅の事だったかさっぱり覚えていない。そこで、妻とも一緒になってあれこれ調べてみると、新潟県の岩室(いわむろ)温泉に泊まった時のことだった。
 
 その旅は慌ただしく始まった。注文したPCの宅配が来るか来ないか分からず、出発当日まで出掛けるかどうか迷った末、2時間でその日に泊まる宿の予約と旅行支度を整えて出発したのだった。
 
 今回の旅のコンセプトは「雪見風呂と雪道走行」とした。ここ暫くパジェロ・ミニで雪道を走っていないので、少し慣れておこうという積りだ。 宿は初日のみ越後湯沢温泉のホテル双葉を予約したが、2日目以降は行く先も泊まる宿も全く決めていない。宿に泊まった夜にその次の日の旅程や宿泊先を計画するという、いわゆる「自転車操業」の旅である。 幸いホテル双葉ではフリーWiFiが使えたので、夕食後、部屋でタブレットにて宿などを検索する。
 
 ちなみに私たち夫婦は当時スマホを持っていなかった。最近になって間もなくガラ携が廃止されるというので、やっと昨年(2022年)スマホへ乗り換えたばかりだ。 スマホは画面が小さくて表示できる情報量が少ないし、老眼もあって今でもタブレットの方が利用頻度は高い。
 
 タブレットを使ってどこかいい宿はないかと探していると、夕食なし朝食のみのプランで税別一人6,000円という格安の旅館を見付けた。新潟市の南西端にある岩室温泉にある。 この温泉の名はこの時初めて知った。どんな温泉地だろうかという関心もあり、観光がてら泊まってみることとした。

   

 岩室温泉は日本海沿いに近いが、弥彦山地(やひこさんち)一つ隔てた東の内陸側にある。日本海側は何度も走っているのだが、岩室温泉付近はほとんど旅したことがない。 ずっと以前、弥彦山スカイラインを走ったことがあるので、その時近くを通ったことがあるかもしれないが、全く記憶になかった。

   

今晩の宿の様子
右手は旧北国街道だが、一方通行で車は進入禁止
(撮影 2015. 2.26)

   

 弥彦山地の東縁に沿っては北国(ほっこく)街道という古い街道が通じ、岩室温泉はその宿場町であったそうだ。今回の宿はその宿場の街並みが尽きる北の端に位置し、岩室温泉の中心地からは少し外れている。 その為か宿の敷地は広々と余裕があり、駐車場もゆったりしていた。
 
 車を敷地内に乗り入れると、早くも女性の従業員が出迎えに来て、駐車の誘導してくれた。いつもビジネスホテルや安価な旅館に泊まっているので、こうして丁重な出迎えを受けることはとても稀なことなのだ。 私たち夫婦揃って恐縮してしまう。その後も館内への案内にと車の脇に待機してくれていたが、宿に入る為にはいろいろ荷物の整理に手間取る。そのことを告げてお断りした。 こうした接客は宿のサービスの一つなのだろうが、私たち夫婦はどうも人相手が苦手である。手厚い接客を受ければ受ける程、かえって有難迷惑になりかねないのであった。

   

宿の方がわざわざ出迎えに出て来てくれたが
館内への案内はご遠慮申し上げた
(撮影 2015. 2.26)

   

 両手に大荷物を持って宿に向かうと、フロントでのチェックインにちょっと困った事態が生じた。通常、泊り客が夕食を摂っている間に係りの者が部屋にやって来て布団を敷いてくれることが多い。 今回の宿もそうだった。ところが私たちにはその夕食がない。
 
 その代わり、宿に来る途中でコンビニに寄って助六寿司を買ってある。他にもカップ麺やペットボトルの飲物、菓子類などなど、家から出る時に沢山の食料・食器を車に積んで来ている。 最近の旅館は部屋に電気ポットが備え付けていることが多い。熱湯が使えるのでアイデア次第で飲食のバリエーションは多彩になる。こうした準備を怠らないことで、宿の一晩が楽しく過ごするのだ。 宿に入る前に車で荷物の整理に手間取ったのは、部屋に持ち込む食料などを用意していたからだ。こんな様子は宿の関係者には見せられたものではない。

   

部屋の様子
とても広い
(撮影 2015. 2.26)

   

 そうとは知らない宿のフロント係は、はなから夕食を外で摂るものと決めてかかっていて、外出中に布団を敷きましょうかと提案してきた。 今日は生憎の雨模様でこんな日の外出は億劫だ。日の暮れた不案内な土地で飲食店を探して車を走らせたくはない。それに何より、両手に抱える大きなバックの中に豊富な食料がに入っている。 返答にシドロモドロになりながらも、いつ外出するか分からないので布団は自分たちで敷きますと、やっとフロント係を納得させるのだった。

   

部屋の様子
布団もフカフカ
(撮影 2015. 2.26)

   

 夕食なしの安価なコースと言えど、出迎えなどの宿のサービスに何ら変わりはなく、勿論部屋の質が落ちる訳でもない。 案内された部屋は広々とした和室だった。広縁もあり勿論トイレも付属している。夕食後に敷いた布団もフカフカだった。

   

部屋の窓らの景色
遠くに雪を頂いた越後山脈を望む
(撮影 2015. 2.26)

   

 部屋番号は415号で、確か最上階の4階だったと思う。部屋は東に面し、窓からの眺めもいい。目の前に広々とした越後平野が広がり、その先に雪を頂いた越後山脈が連なる。 一方、宿の西側は直ぐそこに弥彦山地が迫って来ていて、眺めはない。

   

宿の背後の様子
弥彦山に続く弥彦山地が迫っている
(撮影 2015. 2.27)

   

 部屋に落ち着いて一服した後は、いつものように夕食前に風呂に入る。他の客が食堂に出ている間を狙って風呂場に行けば、混雑もなくゆったり温泉を楽しめる。これも自前の食事を用意したメリットの一つだ。 風呂から戻ると助六寿司のセット一つとカップ麺一つを夫婦二人で分け、テレビを見ながらのんびり夕食を摂った。せわしく外食に出るより、粗末な食事でもこうして部屋でくつろぎながら食べる方がよっぽどいい。 食後にはインスタントコーヒーを飲んだり、菓子をつまんだりしながら明日の旅程を計画する。これが私たち夫婦の旅のスタイルになっている。

   

 ただ、朝食だけはなるべく宿の食事を利用することにしている。朝風呂に行ったりして朝の時間は忙しい。食事の支度や後片付けであまりバタバタしたくはない。 それに、食堂に出て他の客の様子などを見学することで、この宿の雰囲気なども知ることができる。部屋に閉じこもっているばかりでは面白くない。 今回の宿の朝食はバイキング形式だった。食堂に充てられていたのは畳の大広間なのだが、テーブルと椅子を並べて洋式としている。この方が利用し易くていい。 他の客の人間観察をしつつ、私たちも好きな料理を取って回る。ただ小食なので、残さないようにと皿に盛る量は多くはない。その点バイキング形式は何となく損をした気分である。

   

朝食の様子
バイキング形式
(撮影 2015. 2.27)

   

 食べる量は少ないのだが、食事に掛ける時間は長い。他の泊り客がそそくさと席を立ち、出立の準備へと急ぐ中、私たち夫婦はいつまでものんびりしている。 皿の上がきれいになくなれば、コーヒーを小さなカップに注いで来て、砂糖とクリームをたっぷり入れる。その甘いコーヒーをちびちび飲みながら、相変わらず人間ウォッチングや外の景色を眺めてたりしている。 今日の旅の予定は昨晩大まかに決めてはあるが、時間刻みで細かなスケジュールを組んでいる訳ではない。まずは宿のチェックアウト期限までに出発すればいい。 一人で野宿旅などしていた時は、とにかく一日になるべく多くの場所を訪れたかったので、朝は早かった。それが結婚をして更に会社を辞めてからは、夫婦でのんびり旅をするスタイルに変わってきた。 時間に余裕ができたのと、体調にも気を付けたいからだ。

   

 朝食から戻り荷物をまとめ、フロントでチェックアウトする。 それにしても、宿代の領収書を眺めると改めてその安さに驚く。夕食を抜いただけで宿泊料金が半額になっている計算になる。それでいてサービスや部屋の質に何ら変わりはない。 何てリーズナブルなんだろうと思う。申し訳ないくらいである。

   

領収書
消費税はまだ8%の時
(撮影 2023. 9.22)

   

 生憎今日も朝から雨模様だ。時折雪も吹き付けて来る。手荷物が多いので、旅館の玄関先に設けられている屋根のある車寄せまでパジェロミニを移動する。ただ、丁度先客がいたので少し待った。

   

出発風景
パジェロミニを車寄せへ (撮影 2015. 2.27)

   

<温泉街見学(余談)>  初めて訪れた岩室温泉なので、折角だから温泉街を見学することとする。ただ、どこをどう回ればいい分からない。 とりあえず町の中心を通る旧北国街道を南へと向かう。現代の車道としては狭い道だ。一部に一方通行路もあり、なかなか気を遣う。

   

北国街道の様子
生憎の雨
(撮影 2015. 2.27)

   

北国街道の様子
(撮影 2015. 2.27)

   

 どうすればいいか分からないまま車を進めていると、温泉街を通り過ぎ、家並みも途切れ、昨夜泊まった旅館とは反対側の南の端まで来てしまった。 これでは仕方ないと途中で見掛けた観光案内所に戻る。

   

岩室温泉の観光・名所案内所
(撮影 2015. 2.27)

   

 駐車場に車を停め、観光案内の看板を眺めた。それでもどこに寄ったらいいかポイントがつかめない。結局、温泉地なのだから源泉でも見てきたらいいだろうと話は決まった。

   

岩室温泉観光案内
(撮影 2015. 2.27)

   

 源泉は昨夜泊まった宿の直ぐ裏手にあった。もと来た道を戻る。源泉公園などを見学した後は今夜の宿がある妙高高原方面に向け、三度岩倉温泉の中を走るのだった。

   

左手が夜泣き地蔵
正面奥(車の先)が源泉公園
右手奥が今回の宿
(撮影 2015. 2.27)

   

 ちょっとネットで調べてみると、今回の宿はまだ同額の格安朝食付きプランを提供しているようだった(消費税は別途10%)。昨今の物価高や高級志向を反映してか、かなり高額なプランも多い中、目を引く安さだ。 庶民の味方と言ったところであろうか。

   

2015年2月26日(木)
岩室温泉・ゆもとや泊

   
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