**********************************************************
<宿探し>
今となってはどういう経緯で大間々に泊まったか、あまりはっきりしない。峠越え以外に大間々には何の縁もゆかりもない。
また、普段の旅では関東平野の只中で宿泊することは珍しい。ちょっと頑張れば東京の自宅まで帰れるので、わざわざお金を出して宿に泊まる理由がないのだ。
調べてみると、大間々に泊まったのは東北を6日間旅した初日であった。東北を目指すならさっさと東北自動車道を使えばいいのだが、それでは何だか味気ないと思ったようだ。
自宅を出てから直ぐにも旅気分を味わいたいので、青梅市・名栗村・飯能市・横瀬町・東秩父村・寄居町などをちょこちょこ走り回り、吹上峠・小沢峠・天目指峠・正丸峠・虚空蔵峠・刈場坂峠・大野峠・白石峠などの峠を越えた。
こんなことをしていてはいつまでも関東平野から抜け出せる訳がなかった。気が付くともう夕暮れ時だ。こんな市街地ばかりの土地で野宿などできず、どこかに宿を求めなければならない。
明日からは本格的に東北を旅するのだから、できるだけ関東平野の北東の端に泊まるべきだろう。しかし、その辺の土地勘が全くない。どんな市町村があるのかも全く知らないのだ。
ツーリングマップを眺めて思案する内、何となく「大間々」という文字が目に留まった。現在は群馬県みどり市の一部になっているが、当時は大間々町(おおまままち)であった。
何だか舌を噛みそうな名である。本州最北端の地に大間町(おおままち)があるが、ちょっと似ているのも親しみが湧いた。大間崎にはそれまで4度程訪れたことがあり、旅先として気に入っている土地であった。
ホテルや旅館を探すなら、大間々町の直ぐ隣にある桐生市などの方が豊富だろう。しかし、そうした大きな市街地を有する都市では、宿に辿り着くのが大変なのだ。
今ならカーナビがあり、電話番号を入力すれば宿までの道順を示してくれる。しかし、当時は縮尺14,000分の1のツーリングマップだけが頼りである。
詳しい市街地の地図でもあればいいが、全国各地の都市についてそうした詳細地図を用意できる訳がない。当然、宿の者から所在地や道順を聞くのだが、電話だけのやり取りではなかなか分からないことが多い。
その点、大間々町はこじんまりした町のようである。市街地の規模も小さそうだ。これなら宿を見付け易い。ただ、手頃な宿があるかどうかである。
早速、宿泊情報(東日本編、1992年春〜夏号、日本交通公社)で大間々町の項を調べてみると、宿の掲載が辛うじて一軒だけあった。ホテル豊田という。シングルの料金が示されていて、4,200〜4,600円となっていた。
なかなか手頃な値段だ。またシングルベッドの部屋があるのだから、一人でも泊まり易いビジネスホテルの類かとも思った。電話してみると、8月初旬の夏休み期間でそれも土曜日だったが、あっさり部屋が取れた。
そうとなれば上越新幹線や関越自動車道が通じる大都市部には用はない。関東平野を横断し、一目散に大間々町を目指したのだった。
|